「認知」よりも「エンゲージメント」を高めるために

金濱 氏:
「良い商品」の定義も変わってきていて、今は、「スペックが良ければ売れる」という時代ではありませんよね。

中国や韓国製品のスペックも、今は日系企業の製品と大きく変わらないどころか、良いものが多いです。

そうした際に、ブランドの思想やビジョンを打ち出して、そこに共感してくれる人を集めないと、ファンが乗ってこないですよね。

たとえば、自動車ブランドのSUBARUは「スバコミュ」と呼ばれるコミュニティ形成を行なっていたり、「スバリスト」と呼ばれる人たちを巻き込んでイベントを開催することで、共感を集めたりしています。

弊社の顧問に、さとなおさん(佐藤尚之さん)という方がいるのですが、彼の提唱する*「ファンベース」といった考え方*が大切になると思います。

参考:
「ファンは“神様”ではない」佐藤尚之(さとなお)氏が語る“ファンベース”への取り組み方|ferret [フェレット]

ただ、マーケティングの一般的な考え方って、認知が起点になっているじゃないですか。より、見込み顧客の裾野を広げたくなるんですよね。

ファンベースではファンという量が少ない部分、マーケティングファネルにおけるボトムへ焦点を当てているので、マスマーケティングをずっとやって成功してきた方には理解してもらうことが難しい場面も多いです。

日本の人口は減っていく中、裾野が限られている認知拡大施策を行なったところで、結局広告費の勝負になる。その勝負は現場が疲弊する側面もあるので、ファン起点の施策も少しずつ増えてきたと思います。

福間 氏:
規模感は小さいのですが、僕の今被っているキャップは、友人が最近立ち上げたブランドの帽子なんですよね。

もともとキャップは全然被らなかったのですが、その友人の考えている商品への理念が良くて、ほぼ毎日被っている。

そうして自分を取り巻く友人も次第に被り始めるようになって、まさしくファンベース、ブランドの価値を体感したので、考え方に凄く共感します。

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これからのSNSマーケターに求められる価値観

福間 氏:
SNSを始めとしたトータルなマーケティング市場のなかで、人材価値を高めるために必要な考え方について質問がありましたが、いかがでしょうか。

金濱 氏:
SNSマーケティング支援の会社が儲けているところって、オペレーション支援であることが多いと思います。

施策に対する「設計」と「実行」があるとして、建築業界を例にすると、設計事務所はユーザーニーズをヒアリングすることを第一にして、そこから設計を行う。そして、上がってきた設計図を元に、施工会社は製作を行いますよね。

でも、マーケティング支援の多くの会社は、ほとんど一緒に行う場合が多い。だから提案する方が、儲かる設計をしてしまうケースもよくあると思います。

そのため、余分な制作物やオペレーションを施策に組み込んだ方が儲かりやすい。ただ、オペレーションは今後自動化されていきます。

そうした際に、マーケティング業界としては設計ができる人が必要となりますし、自分も*「クライアントにとって一番良い設計」ができる人*になりたいと思っています。

仕組みとしても、建築業界が「設計」と「施工」を分けているように、プランニング会社と制作会社を分けたりするなど改善の余地はあるのかなと。

大手広告代理店はワンストップで支援できる一方、すべて抱えていることによるデメリットもあると思っていています。

福間 氏:
インフルエンサーの台頭もあって「個の時代」の文脈で独立する人も増えてきていますが、事務所の価値が相対的に向上している側面もあると思います。

インフルエンサーの多くがビジネスナレッジに課題を抱えていて、案件を通して自身の存在価値を下げてしまう場合も少なくありません。

インフルエンサー当人の価値が下がってしまい、将来的に魅力的な案件を受けられなくなってしまう。

それに対し、自身の価値にこだわる人たち、たとえばゆうこす(菅本裕子)さんとかは、案件の精査もするし、自分がおすすめしない商品は紹介しないですよね。

自身の価値観に即して行動できる人の評価は高いですし、そういう選択が苦手な人に対しては、所属事務所がしっかりとタレント当人の価値を担保するためのマネジメントをしてあげる。

芸能事務所、インフルエンサーのキャスティング会社に関わらず、インフルエンサーのために「この案件は◯◯さんにお願いした方が互いにとっていいよね」と考えて提案なりアサインなりができる人は、間違いなく市場価値が上がっていくと思います。

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戸高 氏:
私たちは事務所側という立場ではありますが、企業が直接インフルエンサーとリレーションの取れる会社は魅力的に思えます

だからこそ、自分たち芸能事務所は介在価値を出していかないと意義がない

「芸能事務所は個人の時代には不要」と言われることも少なくありませんが、フリーのインフルエンサーが増えている現状では、企業さんには事務所に所属している子の方を逆に信用してもらえるケースも多々あります。

事務所は所属する子のタレント価値が上がるよう、マネジメントコストをかけています。ですので、たとえば事務所の手助けの結果、SNSだけでなくTVや雑誌などのマス媒体でも活動できるようになると、その点が企業さんから「インフルエンサーとして価値が高い」と思っていただけることが多いと思います。

PR案件に関しても、タレント価値を毀損するような案件は事務所側でまず精査して「受ける」or「受けない」の判断をしているので、たとえば、SNSユーザーの使い方に即していない投稿は、PR案件でも避けるようにしています

SNSのPR案件での具体的な例で言えば、日本語の長文ハッシュタグ、文調のハッシュタグなど普通の10〜20代女性が使わなそうな不自然なハッシュタグを指定される場合など。

イケてないハッシュタグを事業者サイドから提案されたとしても、受け手の立場を考えて採用しないケースも少なくありません

小東 氏:
「インスタ映え」しない商材のご相談をいただく場合もありますよね。

たとえば、某調味料メーカーがInstagramで施策をやりたいという相談をいただいたことがありました。「料理しない人が料理する人になるような態度変容を起こしてほしい」と。

ただ、インスタで綺麗な写真を撮ったからといって、普段料理をしない人みんなが料理するようになるかと言われると難しいなと。

だからこそ、先方の営業企画さんに対し、販売店のポップにアレンジを加えるなど、インスタを始めとしたSNSから飛び出た提案を提案することになりました。

「本質的ではない施策」であれば、このように方向転換を促すケースは過去にありましたね。

SNSマーケターであれば、広告運用の担当者、ブランドに実際従事している方と意見交換をして、いろんなマーケティング施策を俯瞰的に捉えることが大切だと思います。

そうした全体のマーケティング戦略を考えた中で、「SNSで施策をするなら◯◯という方法があるよね」というアドバイスできる人が、今後求められていくのかなって思っています。

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