転職市場は人材の売り手優位と言われ、企業側からは「採用人数が足りない」「期待通りの人材が採用できない」といった声が聞かれます。これは従来通りの採用方法をとっていることに原因があるのではないでしょうか。

現在一般的な採用フローは、Web等の採用チャネルから一定の応募者を募り、面接を行い、社員を採用するという流れです。しかし、転職顕在層の母集団形成だけを重視する従来の採用フローでは、採用ターゲットである候補者一人ひとりへのきめ細かな対応に時間がかけられず、企業と候補者とのマッチングがうまくいきづらいことがあります。

そこで注目されているのが、採用をマーケティングの考え方にあわせた「採用マーケティング」です。導入の先進事例として挙げられるのが、2009年から会員制転職サイト「ビズリーチ」を運営し、他にも様々な採用プラットフォームを開発する株式会社ビズリーチです。

ビズリーチが考える採用マーケティングには、企業規模や業界業種に関係なく、より最適な採用戦略を導くためのヒントがありそうです。今回は、採用マーケティングの戦略立案や実践に活用できるHRMOS(ハーモス)採用管理の、事業部長を務める古野了大氏を訪問。採用戦略を巡る従来の問題点と、これからの時代にふさわしい採用のあり方について話を伺いました。

古野 了大氏プロフィール

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株式会社ビズリーチ キャリアカンパニー HRMOS採用管理事業部 事業部長
神戸大学工学部卒業後、大手教育関連企業にて、新規事業開発やデジタル領域の教育サービス開発に携わる。2015年にビズリーチ入社。即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」等のサービス開発責任者を経て、現在は「HRMOS(ハーモス)採用管理」の事業部長を務める。

採用担当者の悲鳴……従来の採用手法の問題点

従来型の採用フローに関わる問題点を整理すると、大別して3つの問題点が挙げられます。

1 .最適な母集団形成ができない

売り手市場の昨今、転職顕在層だけでなく、潜在層へのアプローチも求められる。従来の採用チャネルだけでは潜在層へのアプローチが難しく、採用ターゲットとなる候補者が集まらない。

2.業務が煩雑、膨大で採用戦略が練れない

採用担当者は、例えば、面接のためのセッティング(採用候補者と面接官の予定調整、部屋の確保)など、オペレーティブな業務だけに忙殺されてしまい、本来やるべき採用戦略の立案と実行に時間をかけられていない。

3.採用に関わるデータが一元管理されていない

候補者一人ひとりの情報が一元管理できず、採用担当者の裁量や、担当者ごとの判断、勘、経験に左右され、知見の蓄積やデータに基づいた意思決定ができていない。

また古野 氏は従来行われている採用手法は属人化が起きてしまう問題点を指摘しています。

「“この人は自社に合っている”といった直感は、“人事畑を歩んでウン十年”というプロの勘なら説得力はある一方で、属人的すぎる部分もあります。経験と勘に基づいた判断をしてきた採用担当者がいなくなったら、どうなるでしょうか?経験や勘を他者に継承するのは難しく、結果、採用ノウハウがたまらない問題だけが残ってしまいます」(古野 了大 氏、以下同)

「採用マーケティング」だと最適な理由

では、従来のフローが抱える問題の数々は、どうすれば乗り越えられるのでしょうか。その打開策に「採用マーケティング」があります。ビズリーチは、採用マーケティングにもとづく一連の工程をファネルに示しています。

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(HRMOS採用管理事業部が提供する、採用マーケティングファネルの図)
提供:株式会社ビズリーチ

「例えば、一般的な消費財を“マーケティング”の観点で考えてみると、該当商品を知らない潜在的な消費者にまず知ってもらい、興味を持ってもらう必要があります。さらに、購入した消費者は商品の評判をSNSなどを通して広げます。単に購入してもらって終わりではなく、購入後もいかにその商品を愛し続けてもらえるか、までを考えます。

この構造は採用も同様です。

売り手市場かつ獲得競争が激しい採用の世界こそ、採用をマーケティングとして捉える必要があります。そもそも、企業にとって必要な人材が、転職活動をしているとは限りません。今は転職活動をしていないという潜在層への接点づくりから始まり、徐々に転職意向を顕在化してもらい、採用決定後もきちんと会社の中での定着や従業員のエンゲージメントまで考える。ここまでの過程全体を“採用”と捉えるべきなのです」

ビズリーチはこうした知見を元に採用マーケティングを実践しやすくするプロダクトとして、「HRMOS採用管理」という採用管理システムを2016年にリリースしました。

採用管理システムを導入するメリットは?

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HRMOS採用管理は採用に関するあらゆるデータを一元管理することができるツールです。

一方で、ビズリーチが提唱する採用マーケティングで注目すべきなのはツールありきではないことです。採用マーケティングとして、採用の過程を「接点づくり」から「育成(ナーチャリング)」、「本採用(コンバージョン)」、「定着(エンゲージメントの醸成)」までと捉えた場合、データに基づいた戦略立案をより確実に実行できる選択肢(ツール)としてHRMOS採用管理を提供しています。

また古野 氏は、ツール導入のメリットには採用担当者の「時間」の捻出も挙げています。

「現場の採用担当者の悩みを徹底して分析すると、最も大きな声が“採用戦略に時間がかけられない”でした。例えば、採用候補一人ひとりのデータ入力を、Excelやスプレッドシートなどに依存していたのも、専用ツールなら入力負荷を軽減できます。

採用現場は1日に数十人の採用候補者と部署を横断した複数の面接官の日程を調整します。さらに面接時間を押さえて、社内の会議室も確保する必要があります。これらは業務の一部でしかなく、採用担当者のリソースは逼迫するばかりです。ツールによって業務管理の工数削減ができた時間で、戦略設計に専念してほしいのです

参考:
『HRMOS(ハーモス)採用管理』戦略的な採用で本当に欲しい人材と出会える採用管理システム

HRMOSは他社の採用管理システムと何が違う?

採用管理システム自体はいくつかありますが、HRMOS採用管理の特徴は採用マーケティングの実践を念頭に特化して開発された点と言えます。

「業務システムと紐づく立ち位置で開発されるBtoBツールではなくて、ビズリーチが長年コンシューマ向けサービス開発で貯めた知見を注ぎ込みながら、誰もが見やすいUI、使いやすいUXを意識して開発しています。一元管理して、蓄積したデータを使いこなし、次の打ち手が導けることにこそメリットを感じてほしいのです」

社員の紹介経由で採用へとつなげる「リファラル採用」を促す機能は、打ち手の一例です。社員全員がツール上でアカウントがもてることで、社員なら誰でも採用候補の人材を紹介できます。他にも、優秀な人材と接点を持ち続けるタレントプール(気になった人材をデータとして貯めること)にも対応します。

「一人ひとりの採用候補者には、タグやラベルが付与できるので、来年夏まで動けない事情あり、といったタグを設けて管理ができます。これまで優秀なリクルーターが個人の工夫で残していたメモのようなことを“機能”として実装しています。

他にも、候補Aは社員との交流パーティーに出席、Bは採用セミナーに参加経験あり、Cは社長が登壇する勉強会に出席、など出来事別でタグやラベルを使い分けておけば、ラベルごとでメールを出し分けるMAのような使い方にも応用できます。タレントプールの活用によって、最小の工数で効果的なアプローチが実現可能です」

データの可視化で、根本的な改善策が見えてくる

データの可視化や蓄積による効用は、候補側のデータだけに止まらず、企業側にも同様のことが言えます。例えば、面接官の評価や質に関してがそうです。

「HRMOS採用管理には、「面接官の評価傾向分析」機能も搭載します。面接官によって評価のあり方にばらつきがあると問題ですよね。面接官Aは二次面接への合格者と不合格者の数に偏りが見られないのに、面接官Bはほとんど不合格者しか出ていないとすれば、評価のばらつきを疑ってもよさそうです。「面接官の評価傾向分析」では各面接官の行動や評価をデータとして残せるので、これまで表面化しづらかったこともデータとして可視化されやすくなり、後から検証ができるわけです。

別指標の画面では、面接官Cの面接を受けた候補者は、内定後の入社率が100%なのに、面接官Dだと内定辞退者ばかりになるという結果が見えてきたとします。となると、内定後に入社を決めてほしいなら要所の面接官はCを起用しよう、Dは会社の魅力をきちんと伝えられていない可能性があるので面接官としてのトレーニングプログラムを受けてもらおう、といった打ち手や改善策が見えてきます。

マーケティングでもカスタマーエクスペリエンスの向上に取り組むように、採用候補者の体験をデータを基にして向上させていくことが大切なのです」

点でなく線、面の意識で採用戦略に取り組む

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古野氏に今後の展望を伺うと、採用担当者がもっと本質的に採用戦略に時間をかけられる状況づくりに注力したい、と話します。

私たちの事業を多くの企業にとって、採用マーケティング実現のハブとして機能させたいですね。私たちのゴールは、母集団形成や人材確保という“点”の解決ではありません。接点づくりから入社以降の定着までを“線”や“面”で捉え、様々な企業の中長期的なビジョンづくりに寄与することです」

同じHRMOSのブランドとして、ビズリーチは社員と企業(もしくは企業内のチーム)がエンゲージメントを深め、パフォーマンスを向上していくためのツール「HRMOS for TEAM」を開発。8月28日からトライアル版が提供開始中です。本採用(コンバージョン)以降、社員としての働き方(社員としての定着)まで見据える採用マーケティングの実践を徹底するのに、こうしたツールは今後の選択肢になってくるでしょう。開発を通じて選択肢を提供するビズリーチにも、引き続き注目です。

中長期的な視点で採用計画を立てよう

採用は中長期的なビジョンにもとづくはずが、日常的な業務に忙殺されて、ビジョンを思い描く時間が取れないとすれば、本末転倒です。現場は、短期的にKPIを達成しないといけない、採用人数(コンバージョン)を確保しないといけないという問題もあるでしょうが、並行して企業の将来を見据えた、中長期的なビジョンづくりに沿った採用計画に注力したいところです。両者に対応しやすい点では、採用管理システムの導入は今後さらに一般的になってくるでしょう。

採用マーケティングは、ファネルにもとづいて短期的な目標達成をしながら、中長期的な戦略を考えることができる点が特徴です。人事/採用担当者に加えて、デジタルマーケティングに精通する読者にも、多くの気づきや示唆を与えるアプローチではないでしょうか。