ハフポストが語る『共感性の高いスポンサードコンテンツ』とは?
Webメディア運営において、どのように収益を出していくか頭を悩ませるメディア担当者も多いのではないでしょうか。メディア運用では収益化の柱として考えられるのが広告です。
その中でもネイティブアドはコンテンツを重視するメディアにとって重要な広告手法でしょう。しかし、その作成は簡単ではありません。
そこで良質なネイティブアドづくりで定評のある「ハフポスト日本版Partner Studio」のチーフ・クリエイティブ・ディレクター川口あい氏に話を伺いました。
ハフポストは、2018年2月、月間ユニークユーザー数(UU)が過去最高の2260万を達成。2017年1〜12月期の決算は2013年5月のローンチ以来、初めて黒字化を達成した人気のニュースメディアです。川口氏は、その広告記事を制作しているネイティブアド・チームの責任者。
黒字化の理由、共感されるネイティブアドの作り方など、これからのメディア運営について聞きました。
川口あい氏プロフィール
ハフポスト日本版Partner Studio チーフ・クリエイティブ・ディレクター。1985年、新潟県出身。昭和女子大学大学院文学研究科英米専攻修士課程修了。2018年1月ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン(株)入社。6月より現職。
読ませるスポンサードコンテンツを作るには
ferret:
ハフポストさんのネイティブアドは、ストーリー性があって、おもしろいものばかりです。そのような記事はどのように作っているのでしょうか。
川口氏:
最近の読者さんはリテラシーが高いですよね。皆さん広告記事とわかっていながら読んで、おもしろいかどうかで読み進めるか判断します。コメントも「これスポンサードだけどおもしろかった」と、いただくこともあります。
実際、ハフポストの場合、ネイティブアドは滞在時間が長く、読了率も高い傾向にあります。だからこそ、クオリティの高いものを提供できるように「媒体の独自性」と「読者視点」を大事にしています。
「媒体の独自性」というのは「ダイバーシティ」=多様性を大切にした、ハフポストらしさです。
私達は「LGBT」「女性のジェンダー支援」「家族のかたち」などの、ライフスタイル・カテゴリーに力を入れています。そのようなテイストは、企業のCSRと相性がいいんです。
他にも、ポジティブな経済ニュースなど様々なハフポストらしさがあります。ベースは「多様性を支援する」ですね。
もう一つの「読者視点」というのは、読者がどんなことに興味をもち、編集記事はどんなものが読まれているのか、しっかりとキャッチアップするということです。そうして、ハフポストらしくかつ多様な切り口を提案しています。
「媒体の独自性」と「読者視点」をベースに持っていれば、読者に嫌われるような広告記事にはならないと思います。実際、過去には、スポンサードコンテンツがその月に1番読まれたこともありました。ありがたいですね。
ferret:
読者視点を意識する際は読者の「ペルソナ」を設定しているのでしょうか。
川口氏:
あまり細かく設定していません。高収入で都心に住む、知的好奇心が旺盛な30~40代のビジネスパーソン。男女ともに働いていて、育児も男女共に取り組んでいる。そういったゆるやかなペルソナ設定はしています。
ハフポストは、ビジネス寄りからライフスタイル寄りまで、さまざまなテーマを扱っています。ビジネス寄りの案件と、ライフスタイル寄りの案件では、競合メディアも変わってきます。案件によって出すテイストもその都度変える必要があるわけです。なので、ペルソナはあまり細かく設定していませんね。
SNSなどで、社会的にも影響力がありそうな人にも多く読んでもらっているので、そういったインフルエンサーの方々に響くかといったことは意識していますね。
黒字化となった理由とは
ferret:
2017年に黒字化したとお伺いしました。その理由はどのようなところにあるのでしょうか。
川口氏:
以前、ハフポストのスポンサードコンテンツは、1社専売体制でした。その体制からいまは、いろいろな代理店さんに直接営業するようにしました。また、クライアントにも直接取引するようになり、自社でコントロールできる幅が広がったこともあるのではないでしょうか。
こうしてスポンサードコンテンツの数を増やし、単価も少し上げました。数をこなして間口を広げていったのです。また、編集記事のPV数と連動するアドネットワークでの収入も増え、その相乗効果で黒字化したという感じです。
今までスポンサードコンテンツの料金メニューは1つでしたが、先方の予算によってカスタマイズしたことで受注増にもつながりましたね。そこまで予算を出せないクライアントにも、広告誘導の期間を縮小するとか、想定PVを下げるとか柔軟に対応しています。
人気メディアを運営する上でのコミュニケーション
ferret:
ジャーナリズムを大切にする編集部と広告を販売するPartner Studioでは、メディアの方針として食い違うことはありませんか。
川口氏:
ハフポストでは、編集部の記者が社会的意義のある記事を書くほか、自分の興味のあることを取材して記事化します。それらの編集記事から生まれる、読者が日頃から親しんでいる「ハフポストらしさ」をPartner Studioで抽出し、企業の課題感に合わせて切り口を提示することを重要視しています。
また、フリーアドレスなので、編集部とも同じフロアにいます。なので、読者にアピールするホットトピックスなどを編集部からヒアリングして、切り口案の参考にすることもあります。
Partner Studioでは、提案型の営業から決定後のオリエン、執筆、代理店とのやり取りも、書く人間がやる場合があります。
また、クライアントも、ネイティブアドをやりなれている方ばかりではありません。
中にはスポンサードコンテンツでは表現しづらい要望を出される時もありますね。そういう時はコミュニケーションコストをかけてでも我々の経験値と手法をご説明し、信頼して任せてもらえるように対話します。
企業が伝えたいことに関しては、もちろん了承します。ただその伝え方の一番いい手法は、ハフポスト読者により近い私達が知っているので、そのバランスは「こちらのほうで調整させていただきたい」とお話ししますね。
ferret:
ただ、成果がでなかった場合に企業からのクレームを受けやすくなってしまいます。御社の作成物が効果がでるというのはどのような内容からくるものでしょうか。
川口氏:
過去にハフポスト以外の複数の媒体で1つの商品を広告記事出稿されているクライアントがいました。ハフポスト以外の媒体では、クライアントの意向通り、商品紹介の説明で終わっていました。
私たちの場合は、ハフポストの読者が興味を持ちそうなテーマを設定し、商品紹介ではなく、その商品によってどのような利点が生まれるかを、記事を通して知ってもらう流れにしました。もしかしたらクライアントは渋々納得されていたかもしれません。
しかし結果的には他媒体と比較して、ハフポストに掲載された広告記事が一番読まれたんです。クライアントは、やっぱり「ハフポストいいよね」と。
なので必ずしも、クライアント様の要望どおりがいいとは限らないわけです。この話は、以前にNews Picksさんとイベントをした際も話題になりました。「バズを狙ってバズって終わった記事」と「広告主のいうことだけをきいて書いた記事」のどちらも、スポンサードコンテンツとして価値はないよね、と。
つまりインプレッション数だけでは広告としての効果は測れません。企業様の伝えたいことを最大限こちらで理解して、それをハフポスト読者に伝える際に、一番いい手法を知っているのは私達であるということを、説得して納得してもらうことが大事です。
ferret:
ただ、小さなオウンドメディアをやっている担当者は、なかなかそこまで強く言い切れないのが現状かと思います。
川口氏:
そこが、すごく難しいところです。私達はスポンサードコンテンツを2013年からやっています。実績を作ってくれた先人たちのおかげで、ハフポストという媒体の認知も広まってきています。年月が経ってやっと言えるようになってきた部分もあります。
あと私達の場合は、編集部との連動が大きいと思います。編集部が作成した、多様性を重視したライフスタイル記事が話題になると同時に、企業のCSR訴求をテーマにしたスポンサードコンテンツの問い合わせも増えてきました。編集と広告の両軸で、メディアブランドとしてのハフポストはこういうところなんだ、こういうことができるんだとクライアントに認知されてきたように思います。
あとは、実際にコンバージョンにつながった例も多くなってきて、知見も溜まってきたので、経験値と実例で説明できるようになったのも一因かもしれません。
ハフポストのWeb戦略
ferret:
広告を販売する際のKPIはどのように置いているのでしょうか?
川口氏:
クライアントと最初に設定します。PVにするのか、UUにするのか、もしくはブランディングなのか。
弊社はSEOが強いのも特徴なので、それをスポンサードコンテンツでも売りにしています。SEOに強い記事は、定期的に検索されますよね。それで上位に出てくることでまた読まれていく。
ferret:
SEO対策を希望されるクライアントも多いのですね。
川口氏:
最近増えてきましたね。SEOで上位に出たいのでハフポストに出稿しますと。SEOが強いと、広告主が複数のチャネルを組み合わせた広告戦略が立てやすいというメリットがあります。
例えば、ある人気テレビ番組に出演される予定のクライアントがいました。クライアントの要望は「テレビ番組をみた読者が商品を検索して、上位に掲出された(自社ではない第3者である)ハフポストの記事を読んで内容を理解してもらう」というものでした。
テレビ放映される2〜3日前に記事を公開し、ちょうど放映日あたりに検索すると1位に掲出されていました。それをみて検索流入が増えてPVにつながって、理解やコンバージョンにもつながりました。
SEOが強いハフポストを使うことで、クライアントが理想的なカスタマージャーニーを描けるということは、私たちも提案時に力を入れて説明しています。
イベント企画で「自分ゴト化」し、コンバージョンを上げていく
ferret:
川口さんは6月からPartner Studioの責任者になっています。事業部の方針として力を入れている所はどのような点でしょうか。
川口氏:
前任者からベースは変わっていませんが、イベントを企画するということは意識しています。やはり手法を変えていかないと、クライアントの課題は解決できないと気づきはじめました。記事で露出を増やす一方、イベントなどでコミュニティ作り、確実な30人に届けてその反応をより広い読者に伝えることでコンバージョンを上げるようなプランを増やしています。
もちろん我々の強みである記事制作はイベントレポートという形で出しています。
また、イベントをやるとみんな「自分ゴト化」してくれるのが大きなポイントです。自主的にTwitterやFacebookに投稿してくれて、それが宣伝につながっている。効果は上がっていますね。
ferret:
「自分ゴト化」するのはマーケティングで重要ですよね。
川口氏:
Webは自由度があります。自分の興味を消化できる場所でもあるし、やりたいように引き寄せられる場所でもあります。発信する際は、記事で取り上げる人たちの気持ちを代弁するかたちでやっていく。それは読者視点と同じことで、周りの人たちがどう考えているか自分ごととして捉えつつ、間違っていないかと思って発信することが大事です。
スポンサードの記事は、広告主の意向もあるので、すごい規制があると思われるのですが、むしろ逆だと伝えたいですね。スポンサードは、文章のフォーマットは自由な面があります。小説形式のようなものや、「やってみた」系、「自分はこういうことがわからないから、プロに聞いてみた」と、一人称で書くものも。
標準的な報道記事のフォーマットを利用しないで書けるのは、書き手としても楽しいですね。
まとめ:読者視点で作るスポンサードコンテンツの可能性
川口氏のお話から、Webの持つ自由さをフル活用し、クライアントの問題解決に向かって真摯に取り組んでいる様子が伺えました。
記事の「自由さ」や、読者視点で作られた「おもしろさ」はスポンサードコンテンツならではです。こうした記事作成がクライアントに支持され、黒字化につながったとみることができるでしょう。スポンサードコンテンツをハフポスト社のようにバランス良く取り入れられれば、メディアの可能性も広がっていくのではないでしょうか。
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- 広告とは販売のための告知活動を指します。ただし、広告を掲載するための媒体、メッセージがあること、広告を出している広告主が明示されているなどの3要素を含む場合を指すことが多いようです。
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- コンテンツ(content)とは、日本語に直訳すると「中身」のことです。インターネットでは、ホームページ内の文章や画像、動画や音声などを指します。ホームページがメディアとして重要視されている現在、その内容やクオリティは非常に重要だと言えるでしょう。 なお、かつてはCD-ROMなどのディスクメディアに記録する内容をコンテンツと呼んでいました。
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- CSとはCustomer Satisfactionの略称で「顧客満足度」を意味します。顧客との関係維持、サービスの発展に関するマーケティング戦略に関わる用語です。
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