経営において、判断材料になる情報をリアルタイムで知りたいが、部門・部署ごとにシステムが違うために、情報収集や分析に時間がかかってしまう…という悩みは、経営陣によくあるのではないでしょうか。現場の従業員たちにとっても、経営判断の度に情報提供を促されると、現場の作業に支障が出るうえ、その負担から疲弊してしまいかねません。

現場の負担を減らしつつ情報を迅速に収集するには、企業のあらゆる情報を一元化したシステムが必要です。そういった一元管理の考え方を実現したのが、「ERP」と呼ばれるシステムです。

この記事では、ERPとはどういうシステムなのか、そのメリットやデメリットはどんなものなのかなど、今さら聞けない基本に焦点を当ててまとめました。

目次

  1. ERPとは?
    1. 時代の流れに沿い、MRPからERPへ
    2. ERPには様々な形態や製品の種類がある
  2. ERPの機能と3つの種類
    1. ERPの機能
    2. ERPの3つの種類
  3. ERP導入のメリット
    1. データが一元管理できる
    2. 業務の効率化・プロセスの自動化
    3. 全体最適化を図れる
    4. 他企業の業務プロセスを応用できる
    5. コンプライアンスを遵守しやすい
    6. 経営陣の意思決定の迅速化
  4. ERP導入のデメリット
    1. 製品の種類が多く、選定に時間がかかる
    2. 準備段階から導入までにコストがかかる
    3. セキュリティ対策・システム更新が必要
    4. 社員への管理を徹底する必要がある
  5. まとめ

ERPとは?

「ERP」とは、「Enterprise Resources Planning(企業資源計画)」を略した用語です。広義の意味としては、企業経営に重要な要素となる情報や、生産部門・総務部門といった各部門の情報を一ヶ所に集約し、効率的な経営を行う手法のことです。また、まれにERPを実現するシステムそのものを意味することもあります。

時代の流れに沿い、MRPからERPへ

ERPの考え方のもとになったのは、生産管理の手法・システムであるMRP(Material Resource Planning:資材所用計画)です。MRPは主に製造業向けの概念で、製造途中の製品や部品・材料などを無駄なく必要な量だけ、適切な時期・場所に配分する手法・考え方です。広義には、資材だけでなく、人やコスト・設備なども含めた計画のことを指します。

そんなMRPを、企業の経営向けに発展させた概念が「ERP」です。時代が進むとともに、製造業をはじめとしたあらゆる企業は、生産管理だけでなく基幹業務・販売・物流などの様々な部門の情報を一元管理することが求められるようになってきました。ERPはそういった時代の流れに沿い、企業全体の経営効率化を大きな目的としたシステムです。

ERPには様々な形態や製品の種類がある

現在は、製造業に限らず多くの業種に向けたERPシステムが開発されています。かつてはERPのシステムを自社の業務に一括導入する「パッケージ型」が主でしたが、最近はシステムの刷新やパッケージのライセンス切れなどを機に、オンラインでシステムを利用できる「クラウド型」や、パッケージ型とクラウド型、クラウド型とクラウド型の組み合わせで構成される「ハイブリッド型」に乗り換える事例も見られるようになりました。

有名なERP製品としては、

  • 「SAP S/4HANA」(SAP社)
  • 「NetSuite」Oracle社
  • 「GRANDIT(グランディット)」(GRANDIT社)
  • 「Microsoft Dynamics 365 Business Central」(Microsoft社)
  • 「OBIC7」(オービック社)

などが挙げられます。

また、大企業向け・中小企業向け等、企業規模によって作り分けられている製品もあるなど、ERPには様々な種類の製品があり、それぞれの企業に合うよう細かく検討ができます。

ERPの機能と3つの種類

それでは、ERPの機能とシステムには、具体的にどのような種類があるのでしょうか。

ERPの機能

製造業を例に事業の運営に必要な業務を挙げてみると、生産管理、在庫管理、発注管理、購買管理などの現場で利用する機能に加え、バックヤードで主に利用する人事や会計管理などがあります。

ERPは基本的に、企業を構成するさまざまな部門に関する機能を備えています。例えば、ERP製品のひとつである「Microsoft Dynamics 365 Business Central」で提供している機能は下記の通りです。

  • 販売
  • 購買
  • 在庫/倉庫
  • 会計
  • 生産
  • サービス
  • プロジェクト管理
  • 生産
  • マーケティング

参考:
Pacific Business Consulting,Inc. Microsoft Dynamics 365 Business Central

上記は一例であり、他にも

  • 原価管理
  • 売上管理
  • 勤怠管理
  • 就業管理

などといったように、製品によって備わっている機能は異なります。

また、CRM(顧客管理システム)などの外部サービスとの連携を売りにしている製品もあります。特定の業種に特化した製品もあり、たとえばNTTデータ社の「JIPROS」は、独自のノウハウを活かし医薬品製造業に特化したERPとなっています。

ERPの3つの種類

ERPには、クラウドをベースとした「クラウド型」と、自社内のサーバーに構築する「オンプレミス型」、両者の特徴を備えた「ハイブリッド型」があります。下記で具体的にご紹介していきましょう。

クラウド型の特徴

自社にサーバーを置かず、インターネット環境を利用して既に完成済みのクラウドサービスを利用する形のERPです。クラウドサービスを運営する企業が保守・運用を行うため、導入する企業は自社にサーバーを持つ必要がなく、運用管理が不要になることから、初期コスト及び運用コストの削減を見込めます。また、導入までの期間の短縮も図れますます。

ただし、インターネット環境が必須であるため、「ネットワーク障害が起きると使えなくなる」など運用面で不安定な点もあります。また、社外に情報を保管する形になるため、情報漏洩の可能性もないとはいえません。

オンプレミス型の特徴

自社にサーバーを構えてシステムを構築し、社内で運用するERPです。自社の業務プロセスに合わせ、必要となった機能を随時追加開発するなど、柔軟な対応ができます

また、社内ネットワークを使用する分、クラウド型のような情報漏洩の可能性は少なくなるでしょう。一方で、社内にシステムを構築するため、導入までには時間がかかります。システム構築・運用の費用的・人的コストも上がる傾向にあります。

ハイブリッド(2 層構造 ERP)型

クラウド型とオンプレミス型の「良いところ取り」のERPです。

例えば、社内で保管しておきたい重要な情報を含む主要機能をオンプレミス型で導入し、主要機能以外についてはクラウド型の標準機能を利用する、といった形です。システム導入までの工数の削減や、運用コストの削減を見込めます。

このように、必要なサービスを選んで導入することを「SaaS(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)」といい、「SaaS型ERP」という呼び方をする製品もあります。

ERP導入のメリット

ERPの導入で得られるメリットは、次の通りです。

データが一元管理できる

従来の業務システムでは、総務・会計・人事など、企業の部門ごとにシステムが分かれ、データも部門ごとに管理されています。

それに対しERPでは、企業の部門ごとに散らばって存在しているデータを、一元管理することが可能です。そのため、「部門間でデータが異なる」「データに抜けがある」といったトラブルも起きにくくなります。

業務の効率化・プロセスの自動化

決算時期を例に挙げると、さまざまな部署からのデータを集計・整合性をチェックし、分析を行うといった一連の流れがあり、それぞれにかなりの手間がかかります。また、データが大きいほど入力ミスのリスクも大きくなります。

ERPを導入すれば、部署が違っても同じデータベース内に保管されたデータを使うので、データを部署別に入力する必要がなく、整合性チェックも不要です。また、集計・分析などの業務を自動化することで、効率化も図れます。

全体最適化を図れる

ERPではデータを一元管理するだけでなく、部門ごとのプロセスの見直しも図れます。部署・部門ごとに確立された業務プロセスは、それぞれの現場に合うよう効率化されていますが、経営の観点からは効果が見えにくいこともあります。

経営陣が業務の効率化を図ろうと業務プロセスの改善を提案しても、細かい点で現場からの反対意見が出たり、特定の人しかできない業務があったりと、改善を進めにくいこともあるでしょう。

ERPなら、各部門ごとの業務プロセスだけではなく、企業全体の業務プロセスを踏まえたソリューションの共有や改善を実施できます。

他企業の業務プロセスを応用できる

ERPは一からシステムを構築していくのではなく、すでに完成しているシステムを導入するものです。そのため、他社で成功している業務プロセスの一部を導入・参照し、取り入れる機会にもなります。

コンプライアンスを遵守しやすい

企業が信頼を得るために昨今重要視されている「コンプライアンス(法令遵守)」。法令や社会規範の違反をおかさないよう、社内でセキュリティーポリシーを統一する必要がありますが、部門ごとにシステムが分散しているとその運用ルールも異なり、セキュリティーポリシーの統一が難しいこともあります。

一元管理システムであるERPなら、ルールの統一を踏まえたセキュリティーポリシーの統一や、従業員の意識付けも含めた内部統制にも一役買います。

経営陣の意思決定の迅速化

経営において、日常業務の成果の把握から企業戦略の策定まで、あらゆる場面で迅速な意思決定は欠かせません。迅速な意思決定を行うにあたって、“経営判断に関するリアルタイムな情報”の把握はとても重要です。

ERPでは、企業の各部門の情報をリアルタイムに集約できます。資産情報や売上、利益、生産コストなど、企業活動に必要な情報が経営陣にわかりやすく提示できるようになります。

経営分析機能を備えたERPもあり、情報収集や分析といった手間やコストを省くことも可能。複数の拠点を持つ企業の在庫管理、拠点別や時系列での会計管理ができるERPもあり、経営判断に必要な情報が、早くわかりやすく把握できます。

ERP導入のデメリット

メリットも多い一方で、ERPにはデメリットもあります。
ERPのデメリットを具体的に見ていきましょう。

製品の種類が多く、選定に時間がかかる

ERPは製品の種類が多く、それぞれ特徴が違います。また、「人気はあるが海外製」というERPもあります。その場合は説明書や公式サイトが外国語で書かれている場合もあり、読み解くのに時間を要してしまうことも珍しくありません。

ERPを選ぶ際は、自社で行いたいことを明確にした上で、その目的を満たす製品を調査・選定しなければなりません。またパッケージの仕様が企業内の業務と完全に一致しているとは限らず、現場からの要望により追加機能の開発やカスタマイズが必要となる可能性があるため、相応の工数が必要となります。

準備段階から導入までにコストがかかる

導入前の調査段階でも、製品の検討・導入準備・追加機能開発・社内調整…といったように、ERPの導入には人的・時間的・費用的コストがかかります。加えて導入の際、検証テストを行った上でERPの適合可否を判定する企業もあるほどです。

一般的には、設備が必要なオンプレミス型より、インターネット経由でサービスを利用するクラウド型の方が各種コストの削減になるようです。

セキュリティ対策・システム更新が必要

クラウド型ERPの場合は、自社のデータを外部に保管することになるので、情報漏洩の可能性があります。クラウド型ERPのセキュリティ対策は基本的にベンダーが行いますが、サービスの内容が短期間でアップデートされることもあり、それに合わせ利用者側に迅速な対応が求められることも。

オンプレミス型ERPの場合も自社でセキュリティ対策を施す必要があり、ERPパッケージの更新についても作業が必要になることがあるため、その点に留意しておく必要があります。

社員への管理を徹底する必要がある

ERPの大きな特徴として「全体最適化」があります。これは、各部署の現場で慣れ親しんできた業務プロセス、つまり「個別最適化」がなされてきた仕事の方法を、変えていく可能性があるということでもあります。そういった点で、ERPの導入に際して現場からの反発が起こる可能性もあるといえるでしょう。

また、ERPの運用の基本となるのは、現場からの「入力情報」です。実働部隊となる各部署に、ERPでのデータ入力を徹底してもらう必要があります。同時に、データの持ち出しなどの社内コンプライアンスに抵触するような辞退も、避けなければなりません。

ERPの導入を成功させるには、導入前に「ERPで行うこと」についてのコンセプトや詳細な施策を策定しておき、情報部門だけでなくすべての部署に対して、コンセプトや施策を徹底周知しておくことが必要です。そのためには、経営陣から全部署に周知の指示を通達するなど、経営陣との協力が不可欠です。そうして浸透したERPにより作成されたデータを、最終的に経営陣が有効利用できてこそ、ERP導入の意義があります。

まとめ

この記事では、ERPの基本情報について紹介しました。導入目的に合った製品を選ぶことはもちろん必要ですが、ERP製品の種類は多いため、ベンダー(コンサルタント)の協力が欠かせません。

また、製品の選定から導入については、関わる人数がベンダー側・クライアント側ともに多くなりがちなので、綿密な工数見積もりも必要です。ERPを選ぶ際は製品だけでなく、コンサルティングやサポート体制にも注意するとよいでしょう。