近年、ほとんどの小売業では新たな販売戦略として「オムニチャネル」を活用しています。しかし、ほとんどの企業ではオムニチャネルと意識していないことがほとんどかもしれません。

そこで今回は、マルチチャネル・クロスチャネル・O2Oとの違いや効果、そしてオムニチャネルを取り入れている企業の事例をご紹介します。

オムニチャネルとは?

「チャネル」とは、流通経路を意味するマーケティング用語です。

そして「オムニ」には「あらゆる」「すべての」という意味があることから、「オムニチャネル」はあらゆる流通経路を駆使し、消費者にアプローチすること、またはその戦略のことを指します。

例えば、最近では店舗で販売されている商品は、インターネット通販やテレビ通販、SNSなどからも購入できますよね。こうしたデジタル・アナログの垣根を超えて様々なチャネルで購入できるというのが、オムニチャネルの強みです。

マルチチャネル、O2O、クロスチャネルとの違い

オムニチャネルと混同されやすい言葉として、「マルチチャネル」「クロスチャネル」「O2O」の3つがあります。それぞれの意味は次の通りです。

マルチチャネル

実店舗・インターネット・通販など複数のチャネルを使い分けながら消費者にアプローチすること。

クロスチャネル

マルチチャネルに対し在庫管理システムを導入し、複数チャネル間の在庫管理を一元化したもの。

O2O

「Online to Offline」の略で、ホームページや通販サイトなどの“オンライン”から実店舗の“オフライン”に消費者を送ること。

小売業者はマルチチャネルにすることで消費者との接点を増やせるという利点がありましたが、チャネルが異なれば在庫や顧客管理がバラバラになるという欠点もありました。そこに一元管理システムを導入し、消費者がどこで購入してもすぐに在庫に反映されるクロスチャネルへと進化したのです。

ではクロスチャネルとオムニチャネルの違いとは何か?それは、消費者が商品を購入するときに、チャネルを意識せず、ブランドのサービスの1つとして認識することにあります。

顧客のユーザーIDを統括し、どのチャネルも提供するサービスや価格、さらにロゴやスタッフ対応の仕方など企業イメージも統一。そうすることで顧客は「どのチャネルで買った」ではなく「どのブランドで買った」と認識するようになるのです。

参考:【図解】オムニチャネルとは?クロスチャネルとの違い・代表的な事例

オムニチャネルの効果

多くの企業が、マルチチャネルやクロスチャネルからオムニチャネルへの移行を進めています。オムニチャネルにすることで、具体的にどんな効果があるのでしょうか。

チャンスロスを減らす

消費者が、店舗に足を運んだり、または通販で商品を購入しようとした時に「在庫が無く、売り切れていた」。こうした販売のチャンスロスは、実は在庫管理を一元化できていないことから起きています。

最近は店舗に専用端末を置き、その店舗で在庫切れであっても他店舗の在庫を調べられるようにしている小売店が増えました。遠方で来店できなくても、通販からお取り寄せできるのもオムニチャネルの魅力です。

チャンスロスを減らすことで単に利益が増えるだけでなく、顧客満足度を高める効果もあります。

顧客の囲い込み

例えば、実店舗で1,000円で発売されているが、ECサイトなら900円で購入できる商品があるとします。するとECサイトが実店舗のライバルとなり、価格競争が起こりかねません。

オムニチャネルによって、実店舗もECサイトも価格を統一することで、他のチャネルに顧客が流れていくことを防げます。複数のチャネルを連携させることで、顧客を囲い込むことができ、安定した商売ができるというわけです。

各チャネルのデメリットを補い、メリットを引き出す

実店舗は「自分の目で見て触れられるが、来店の手間がかかる」、ECサイトは「来店の必要はないが、実物をイメージしにくい」、SNSは「口コミはわかるが、買い方がわからない」など、各チャネルにはそれぞれメリットやデメリットがあるもの。

ひとつのチャネルだけだとデメリットが目立つこともしばしばありますが、オムニチャネルにすることでそれぞれのデメリットを補い、最大限までメリットを引き出せます。

各チャネルが繋がっているからこそ、実店舗で商品の実物を見てから、SNSで口コミを確認し、ECサイトで購入する、という一連の流れが完成するのです。

オムニチャネルの企業の代表例

実際に、オムニチャネルを取り入れている企業をご紹介しましょう。

株式会社セブン&アイ・ホールディングス

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株式会社セブン&アイ・ホールディングスでは「オムニ7」というオムニチャネルを活用しています。

イトーヨーカドーやセブンネットショッピングなどのECサイトで購入した商品を、最寄りの店舗や自宅で受け取れる他、マイルを一元化することでどこのお店でも利用できるようにしているのです。

ただのECサイトと違うのは、従来は店舗に行かないと購入できなかったプライベートブランドの商品を購入できること。様々なシーンでマイルが貯まるため、お得感もあります。

参考:オムニ7|はじめての方へ

株式会社良品計画

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無印良品は「MUJI passport」というアプリを導入しています。いわゆるポイントカードの機能を持つアプリですが、実店舗の無印良品とネット通販のMUJINETの両方で利用できます。

在庫が一元管理されているため、顧客はアプリから各店舗の在庫状況を調べたり、貯まったマイルを店舗とネット通販の両方で使えたりと、コアなファンには大活躍のアプリとなっているのです。

参考:MUJI passport|無印良品

株式会社資生堂

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資生堂は、アナログとデジタルを駆使して消費者に、トータルビューティーのアドバイスをしています。

例えば「watashi+」は通販サイトやカタログとしての役割もありますが、美容に関する情報を幅広く発信しており、消費者へ美の提案をしています。中には資生堂の商品を紹介するコンテンツもあるものの、オウンドメディアや情報サイトのような感覚で閲覧可能です。

またWebサイトではビューティーコンサルタントを紹介し、店舗でコンサルティングを受けられるようにしているのも特徴です。販売だけにとらわれないオムニチャネルの事例です。

オムニチャネルの成功ポイント

上記の企業を中心に、様々な企業がオムニチャネルを導入していますが、ただチャネルをまとめて販売するだけでは意味がなく、クロスチャネルの域を出ません。

オムニチャネルを成功させるには、ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)の必要があるのです。

消費者のライフスタイルに合わせた提案により、消費者にその商品を使った明るいイメージを持たせること。そうすれば競合ブランドがより安い価格であっても、自分の理想のライフスタイルに合うと感じた顧客は、自社ブランドでの購入を選びます。

目先の利益を追求するだけでなく、顧客の生活に寄り添いブランド価値を高め、顧客体験を生み出すことが重要です。

オムニチャネルを戦略に活かす

こうしてオムニチャネルが広まっているのは、インターネットやスマホアプリなどの影響によるものが大きいでしょう。あらゆるものがインターネットを通してひとつに繋がる時代になったのです。

それぞれ独立したチャネルで販売していた頃とは異なり、オムニチャネルにすることで情報を一元管理できるようになりました。それと同時に、管理体制を徹底する必要もあります。

オムニチャネルでのアプローチを成功させるため、他社のオムニチャネルを参考にしつつ、企業独自の戦略をぜひ考えてみてください。