社内のSNS運用において、コンテンツのインプレッション数やエンゲージメント数が上がると嬉しいものですが、「一体どういう状態になればコンテンツマーケティングとして成功なのかよくわからない」と疑問に感じる場面も多いのではないでしょうか。今回は、最近、世間の大きな話題をさらったTwitterで連載された日めくり4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』をコンテンツマーケティングの事例として取り上げます。その話題拡散数の推移に着目して、成功要因を解き明かしていきましょう。

『100日後に死ぬワニ』とは

Twitterで連載された日めくり漫画

『100日後に死ぬワニ』は、漫画家・イラストレーターのきくちゆうきさんによる日めくり4コマ漫画です。2019年12月12日から2020年3月20日までの100日間、きくちゆうきさんのTwitterアカウント上に毎日1話ずつ公開されました。

初日から、漫画の末尾には「死まであと○日」という記載が。読者は連載開始当初から、「主人公のワニは、100日後に死ぬことになるんだ」と大筋の結末を突きつけられているわけです。しかし、当の主人公はお笑い番組や映画を楽しんだり、通販で買い物をしたり、アルバイト先に通ったり、そこでの仲間との会話や、憧れの先輩ワニとの淡い恋が描かれたりと、何気ない日常が淡々と繰り広げられていきます。読者からすると「平穏な日々が続くように見えるけれど、ワニはどうなるんだろう…?」「どこかで何か、大事件は起こるの…?」「そもそも、ワニ自身は自分が100日後に死ぬことを自覚してるの…?」とヤキモキする日々が続いたのではないかと思われます。

クライマックス目前の99日目も、テレビで桜開花のニュースを目にして、週末のお花見を楽しみに満面の笑みを浮かべるワニの表情が。そして遂に迎えた最終回の100日目。ワニよりも先に、お花見会場に集まった仲間のひとりであるネズミは、バイクに乗ってワニを迎えに行こうとします。迎えに行ってみるとワニが病死していたとか、大怪我を追って命を落としていたといったような、あからさまな死の描写はありませんでした。「満開の桜の中、車道に飛び出した小鳥を救おうとしてワニは事故死したのだろうか…?」と読者に想像を委ねる、議論を生むような最終回で物語は幕を閉じています。

参考:きくちゆうき(@yuukikikuchi)

最終回後に、付随する企画を続々と発表

第100話の公開後、実はこの漫画に付随する大型企画が複数あることが、立て続けに明らかになりました。

まずは、単行本発売。そして、アーティストの「いきものがかり」が公式YouTubeアカウントにコラボムービーを公開しています。さらには映画化も発表され、作者のきくちゆうきさんのTwitterアカウントとは別に、『100日後に死ぬワニ』公式Twitterアカウントも始動しました。そちらでは、楽天やロフトのコラボグッズ企画情報なども連投されています。また、漫画本編の連載中には、LINEスタンプのリリースも行われていました。

参考:100日後に死ぬワニの「奇跡」から、あらためて考えるべき平凡な1日の重み

メディアミックス発表後に巻き起こった賛否両論

連載中は、Twitter上でワニの生死を見守り、固唾を飲んで結末を待っていた読者も多かったのではないでしょうか。ところが、最終回公開後の商業展開の派手さ、スピーディーさに反発を抱いた読者も多く、賛否両論が巻き起こり始めます。批判の多くは、「最初から大手広告代理店と提携して、メディアミックスを仕込んでいたのではないか?」「商業主義が目について、残念だ」といったような論調でした。

参考:「100日後に死ぬワニ」最終回が猛批判された訳

コンテンツマーケティングとしては成功したか

Twitterトレンドワード世界1位に

3月20日にTwitterでトレンドワード世界1位を記録しました。最終話のリツイート(以降、RT)数は73万、いいね数は218万を超えており、1ツイートで約290万ものエンゲージメント数を集めています。また、作者・きくちゆうきさんのTwitterフォロワー数は170万人を越えており、日本のクリエイター・漫画家のTwitterフォロワー数ではトップクラスです。

いきものがかりとのコラボYouTube動画の再生回数は600万回を達成しており、単行本は、漫画だけでなく子供向けの絵本も発売されています。さらに、新型コロナウイルス感染拡大のなか、呼びかけられている「STAY HOME週間」を支援する企業の取り組みにも参画。人気キャラクターのひとつとして子ども向けの塗り絵を提供しています。

「賛否両論」や「炎上」の話題が過ぎ去った今なお、『100日後に死ぬワニ』は知名度のあるキャラクターのひとつとして定着しつつあり、企業コラボやメディアミックスはさらに進行しています。この観点から、『100日後に死ぬワニ』はコンテンツマーケティングとして成功した、と言えるのではないでしょうか。
※リツイート数、いいね数、フォロワー数、再生回数は、2020年5月10日時点の数値です。

参考:【 STAY HOME週間を応援!】アソビル春のお絵かきまつり 無料提供中の塗り絵に「100日後に死ぬワニ」が参画!

エンゲージメント数から解き明かす爆発要因

『100日後に死ぬワニ』は実際のところ、連載開始からどれぐらいの人に読まれていて、どのタイミングで話題拡散し、最終的にトレンドワード世界1位にまで上り詰めたのでしょうか。ここからは、エンゲージメント数に注目してその要因を解き明かしていきます。

『100日後に死ぬワニ』のRT数・いいね数をもとに検証

Webサイトの閲覧数は通常、PVページビュー)数で計測します。しかしTwitterの場合は「インプレッション数=そのツイートが表示された数」でカウントします。この、「インプレッション数」はアカウント管理者が「ツイートアナリティクス」を使って自分発信のツイートについてのみ、追うことが可能です。

記事では、きくちゆうきさんのアカウントで連載された『100日後に死ぬワニ』のインプレッション数を検証したいわけですが、アカウント管理者ではないためインプレッション数を計測することができません。そこで、インプレッション数を推測するものとして「RT数」「いいね数」を参考値として検証に用いることにします。

誰かが「RT」あるいは「いいね」したツイートはタイムラインに表示され、自ずと人目に触れる回数が増えます。そこで「RT数・いいね数が多い→インプレッション数も多い」という仮説のもと、『100日後に死ぬワニ』のそれぞれの連載回がどれぐらいの人目に触れたか、という検証を行ってみます。

『100日後に死ぬワニ』各回の波及数

「100日後に死ぬワニ」各連載回 波及数の推移.png
筆者が全話のRT数、いいね数をカウントしExcelで作成したグラフ(2020年4月29日時点)

上記グラフは、『100日後に死ぬワニ』各連載回のツイートについて、RT数といいね数を積み上げ棒グラフで作成しました。「RT」または「いいね」をした人が多いツイートは、その分、タイムライン上でほかの人の目に触れる機会が増える(つまり、インプレッション数が増える)、という推測に基づいたグラフです。

「爆発」の境目は99日目

グラフを見ると、徐々に増えてはいますが、終盤の98日目ごろまでほぼ横ばいです。これは、きくちゆうきさんのフォロワー内で、ある程度の固定ファンによって「RT」「いいね」といったエンゲージメントに繋がっていたと推測します。

ところが、最終回前日の99日目に、棒グラフが突出します。最終話を前に、RTやいいねをする人が大幅に増え始めた、のです。99日目の波及数(RT数+いいね数)は突如として100万を超えています。このグラフの結果より、話題波及による「爆発」は99日目からと言えるでしょう。

口コミが口コミを呼ぶ心理効果

日頃からTwitterをよく見ている人や企業のSNS運用担当者であれば、『100日後に死ぬワニ』は連載序盤からややバズっているコンテンツとして「何となく知っていた」「一度は目にしたことがあった」という印象もあるかもしれません。しかし、エンゲージメント数という「数字」に着目して見ると、真に話題拡散し「爆発」したのは最終回前日だったのです。

これには、「口コミ口コミを呼ぶ心理」が働いていた、と考えられます。「ウインザー効果」という心理効果をご存知でしょうか?これは「第三者が発信する情報のほうが信頼しやすい」という考え方です。また、「バンドワゴン効果」という心理効果もあり、こちらは「多くの人が支持しているものに価値を感じる」というものです。
 
この2つの心理効果を共に考慮するとまさに「口コミ口コミを呼ぶ」、Twitterで言うならば「RTがRTを呼ぶ」「いいねがいいねを呼ぶ」という状態に当てはまります。『100日後に死ぬワニ』のTwitter連載では、99日目にRT数やいいね数が急激に増えました。これは、「最終回にワニはどうなってしまうのか」という読者の情緒的期待に加えて、「多くの人がTwitter上でRT・いいねをして支持を表明しているから、自分も価値を感じてエンゲージメントアクションを行う」という心理が相まって起きた現象だと言えるのではないでしょうか。

参考:ウィンザー効果とは? 信頼を得るための方程式
バンドワゴン効果とは? 販売成績を上げる3つのテクニック

「口コミが口コミを呼ぶ」好循環が生み出した拡散力

人間の心理には「口コミ口コミを呼ぶ」という働きが存在します。特にTwitterのように拡散性の高いプラットフォームでは、エンゲージメント率が高まれば「RTがRTを呼ぶ」「いいねがいいねを呼ぶ」という好循環を生み出すことが期待できます。

『100日後に死ぬワニ』のように「最後に、どんな結末が待っているのか?」「カウントダウンのその日を迎えたらどんな気持ちになるのか?」と気になって仕方が無い、情緒的なストーリーを盛り込むなど工夫を凝らすことで、話題爆発もあり得ます。
 
もし、あなたが企業のSNS運用担当者であるならば、エンゲージメント率を高められるようコンテンツ企画に工夫を凝らすことが「爆発」の近道です。「第三者のほめ言葉のほうが信頼しやすい」「多くの人が支持しているものに価値を感じる」といった心理効果も踏まえ、企画立案にトライしてみてはいかがでしょうか。

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