不要不急の外出自粛や企業各社の在宅勤務の推進などにより、コスメやファッション業界はその戦い方の変更を余儀なくされています。2019-2020年の冬が例年よりも暖かかった影響もあり、冬服の販売も伸び悩んでいたアパレル業界は、今年のコロナショックによりさらに危機的状況に陥っています。また、コスメ業界も百貨店やドラッグストアのコスメカウンターが緊急事態宣言下ではクローズとなるなど、巣ごもり消費による影響も少なくありません。そんな中、企業各社は巣ごもり消費下で顧客にどうアプローチしたのか。またこれからどんな販売戦略を見据えているのでしょうか? 一緒に見ていきましょう。

ファッション・コスメ業界の対策と今後の見通し

ZARAは改革スピードを加速

実際、東京商工リサーチの発表によれば、新型コロナ関連で経営破綻した企業は6月26日時点で285件。うち、アパレル関連企業は35件と、宿泊関連業に次いで多くなっています。
そんな中、ファストファッションのZARAを展開しているINDITEX社(本社・スペイン)では、6月10日に今後の戦略を発表しました。

「2021年までに1200店舗を大量閉鎖する」というキャッチーな戦略が大きく報じられたため、「コロナによる影響でついにZARAも経営を縮小するのか……」と受け止めた方も多いかもしれませんが、その内容をよく見てみると、INDITEX社の意図は少し違いそうです。むしろこれまで粛々と進めてきた改革を、さらに加速させているのではないかとも考えられます。

例えば、1200の小型店や不採算店などを閉じる一方で、反対に繁華街などには大型店の新規出店を予定。よりまた、実際に閉鎖されるのはZARA以外のブランドに属する店舗も多く含まれると発表されています。加えて、EC販売に経営資源を投下して、よりオンライン販売の強化と店舗・オンラインの在庫一元化に向けたプラットフォームの整備を進めていく方針です。

実際に、INDITEX社の売上を見てみると、オンライン売上高の増加率は、2020年4月だけでも95%増加。むしろ、同社が進めてきたEC販売の強化戦略が、コロナによりさらに後押しされているかたちとなっています。

東京商工リサーチ

INDITEX 公式サイト(英語)

日本経済新聞「ZARA1200店閉鎖、世界の2割弱 EC比率を25%に」

EC販売額が増加傾向に

もちろん、コロナによりEC販売の伸びを示しているのは、ZARAだけではありません。
国内業界大手のユナイテッドアローズは、5月の既存店ネット通販売上が、前年度比148.4%。4月も125.1%と前年度を上回っています。

一方で、実店舗の売上は外出自粛などの影響からか前年度比の20%近くと低水準。ネット通販の増加が全体をカバーしきれた訳ではありませんが、EC販売の重要性がますます高まっていることがわかります。

ユナイテッドアローズ「月次売上概況 5月度の現況」」

EC販売強化だけでいいのか?

もちろん、EC販売の強化はこれまでも大切と言われてきた分野。
コロナ流行によって、改めて対策が「待ったなし」の状況になったことは言うまでもありません。

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出典:株式会社オンワードホールディングス ニュースリリース(2020年5月14日)
※このWebページは2023年6月現在公開されていないためURL削除しました

例えば株式会社オンワードホールディングスは、#stayhomeではなく*#StayStylish*のメッセージとともに、プロジェクトを発足。「今、私たちは試着室の中にいる」というメッセージとともに、モデルらが自宅で自撮りした素材を編集したCMを制作。外出がなかなか思い切り楽しめないコロナ禍を”またみんなで思いっきりオシャレを楽しめるような明るい未来に向けての準備期間”と捉え、前向きなメッセージを発信しています。

こうした企業の姿勢を示すことは消費者のみならず、ファッション業界で働く人へのメッセージとしても有効でしょう。

株式会社オンワードホールディングス ニュースリリース(2020年5月14日)
※このWebページは2023年6月現在公開されていないためURL削除しました

コスメ業界では新たな流通への期待も

これまで百貨店のコスメカウンターでタッチアップなどを行ってきたいわゆるハイブランドのコスメブランドもコロナで苦境に立たされています。

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画像出典:Maison KOSÉ

いち早く、対策に動き出したのが、株式会社コーセーです。コスメカウンターで美容部員に直接相談できない消費者やECサイトでの購入を検討している消費者向けに、同社が運営している総合美容情報サイト「Maison KOSÉ(メゾンコーセー)」上で、現役美容部員による情報発信を強化。

メイク画像・動画の投稿や、スタッフレビューなどを発信しています。SNSや口コミと違って、メイクのプロである美容部員の発信は今まであまりなかったスタイル。
リアルの場である実店舗とオンラインがアフターコロナでも相乗的に作用させられるオムニチャネル化を進めているのです。

【化粧品業界初!】コーセーがSTAFF START導入。現役美容部員が自社通販サイト上でメイクアップ、スキンケアを紹介

アフターコロナだからこそ注目されたアイテムも

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画像出典:tamaki niime公式サイト

もちろん、コロナ流行は暗い話題ばかりではありません。全体の売上減少をカバーできるかどうかは別として、コロナが流行したことで改めて注目された商品も少なくありません。

例えば、マスクもその一つ。ユニクロのエアリズムマスクのように、アパレルブランドの強みを活かしたマスクは需要があるアイテムです。また、マスクを新たなファッションアイテムとして取り入れる消費者も増えています。
実際、おしゃれマスク専門のECサイトは人気に。シャトル機で織られた播州織のストールやウェアを販売していた「tamaki niime」(兵庫県)はコロナを受け、2020年4月に「ショール屋やめてマスク屋になります」と宣言。布マスクの生産に本格的にシフトするなど大胆な決断を下しています。

このように、アフターコロナに必要とされる商品は何かを先取りして考え、素早く行動に移すことも、市場が目まぐるしく変わるこれからのとは代、求められる企業体制なのかもしれません。

また、自宅で勤務することとなり、ワンマイルウェア(1マイルくらいのお出かけしかしない日に着る服)や、ルームウェアなどのニーズは高まっています。また、自宅勤務中のweb会議では程よくきちんと感が出せ、リラックスして過ごせるファッションアイテムも人気です。

同様にコスメ業界では、マスクをしている間の肌荒れや、マスクへのメイク移りを防ぐためのフィックスミストなどといったコスメアイテムも人気が高まっています。

<ショール屋やめてマスク屋になります>ものづくり集団の本気見せます。