ドイツ発の産業革命「インダストリー4.0」とは?事例や企業が把握すべきポイントを解説
インダストリー4.0とは、官民一体となって取り組み、生産プロセスをデジタル化することによって大幅な業務改善を行う2011年にドイツにて立ち上がったプロジェクトです。インダストリー4.0の立ち上げから10年弱が経過して、具体的な開発や連携が進み、特にここ数年で世界的な通信機器企業となったファーウェイなどの中国企業が存在感を発揮しています。
今回は、インダストリー4.0について基礎知識から企業が把握すべきポイント・問題点まで、事例を交えながら解説していきます。
日本のGDPの約2割を占め、日本経済においてなくてはならない存在である「製造業」。インダストリー4.0は製造業はもちろんですが、そのほかの産業にも影響をあたえるものであり、ぜひこの機会にその概念を学んでみてはいかがでしょうか。
インダストリー4.0とは?
インダストリー4.0とは、2011年ハノーバー・メッセにてドイツ政府と民間企業が組んだプロジェクトから提唱された概念で、*「4.0」は「第四次の産業革命」*を示しています。
産業革命というと思い浮かべるのは、18世紀後半にイギリスから始まった手工業に変わる蒸気機関の登場ではないでしょうか。
第一次産業革命以後、畑仕事から運搬まで人力によって行われたものは蒸気機関にとって代わるようになりました。蒸気機関の登場は1.0、電力へのエネルギーの転換は2.0、コンピューターによる自動化は3.0と定義されています。人間でしか行えなかった数字を用いた計算も、現代では当たり前のようにコンピューターが行い、その電算能力は人間の処理速度を遥かに超えています。しかし、コンピューターは今までその処理能力を、コンピューター内でしか発揮することはありませんでした。
4.0は「考える」力を持つコンピューターの誕生を目指す
第四次の産業革命であるインダストリー4.0は、サイバー空間と現実世界の融合を指します。現実の端末とインターネットがつながるだけではなく、時には端末同士のネットワークがつながることによって、より高度な判断を行うコンピューターとなります。
例えば、ある商品をネットショップで注文したとします。その時に、ショップサイトから自動で商品倉庫に発注データを送ります。その後、倉庫内のコンピューターは商品の在庫データを確認してピックアップします。
インダストリー4.0の考える先は、そのように商品をただピックアップするだけではなく、在庫の減り具合によって自動でメーカーに発注作業を行う「考える」能力を持つコンピューターです。
今のは一例ですが、現実のものと現実のものが結び付くことで生まれる業務の変化は多岐にわたります。業種や製造過程によっては、大幅な人件費の削減や品質の向上につながるなど、さまざまな影響を及ぼすのです。
インダストリー4.0とIoTの違い
現実のものとインターネットが結び付くと言うと、IoT(モノのインターネット化)と混同しがちです。まずは、この機会にインダストリー4.0とIoTの違いを押さえておきましょう。
IoTとは
IoTは「Internet of Thing」の略で、従来の通信機器だけではなく、あらゆる「モノ」がインターネットに繋がる仕組みを指します。
例えば、防犯カメラがインターネットと結び付いて、あらゆる場所からカメラ映像を確かめられたり、体温計のデータが自動的に集積されて日々の体調をアプリでチェックできるようになったりと、様々な展開をしています。
参考:IoTが発展すると何ができる?デジタルマーケティングの活用事例まとめ|ferret
業務プロセスのIoT化がインダストリー4.0
IoTが進むと、モノとインターネットが結び付くだけではなく、あらゆる「モノ」が繋がるようになります。
先ほどの例で言うと、体温計が体温の変化を集積して対象者の熱が上がっていると判断すれば、部屋のエアコンへのデータを飛ばし、エアコンは部屋をいつもよりも強く温めます。モノ同士が結び付くことによって、製造業を中心とした産業の業務プロセスは多くが自動化するようになることが予想されます。
今までであれば、材料が少なくなって来たら機械がアラームで知らせて人間が追加の材料を発注していました。ですが、機械自体が発注システムへと発注依頼を行えば、発注処理はその場で完了し、材料が届きます。それはIoT技術により、人間が行っていたプロセスが1つ減ることを意味します。このような、業務プロセスのIoT化をインダストリー4.0は表しています。つまり、インダストリー4.0とはIoTの1つの形と言えるでしょう。
参考:「インダストリー4.0」と「IoT」を理解するための基礎|野村総合研究所株式会社
ビッグデータとの共通性
インダストリー4.0を進めていく上で、Iot等の技術を駆使し、データ情報を集めるビックデータ部分と従来のERPの部分とでプラットフォームをわけていてはいけません。
プラットフォームが1つでなければ、IoTからのフィードバックをスムーズにビジネスプロセスにすぐに反映させることができず、事業の効率化や自動化へ影響を与えてしまいます。
インダストリー4.0を進める際、ビックデータの活用は不可欠です。常に最新のビックデータ情報に対応しうるプラットフォームの基盤を作らなければならないということも、頭に入れておく必要があります。
参考:[インダストリー4.0は何の革命かビッグデータ、オープンデータの動きと軌を一にする社会システム革命の始まり|J-STAGE] (https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/59/3/59_147/_html/-char/ja/):blank
日本国内の動きと今後のビジネスへの影響
インダストリー4.0は、ドイツから発信され、世界へと広がりつつあります。日本でも2016年4月28日に、日本国経済産業省とドイツ経済エネルギー省との間で「IoT/インダストリー4.0協力に係る共同声明」への署名を行いました。
共同声明では、両国の企業による成功事例の共有や国際標準化・規格化への協力、研究機関間での今日どうプロジェクトの実施が項目として挙げられています。また、同年5月4日にドイツで行われた首脳会議では、安倍総理もこの共同声明を歓迎し、日独で協力して「第四次産業革命」を実現したいという声明を発表しました。
日本国は長年「ものづくり国家」と呼ばれてきたほど、製造業が国の経済の根幹を成しています。そのため、国全体がインダストリー4.0を推進していくことで、日本国内の製造業の発展にも寄与していくでしょう。
実際、周辺機器との接続能力を強化したインダストリー4.0対応型の工場機械が開発・製造されるなど、日本国内にもこの動きは広まりつつあります。そして、製造業各社もたインダストリー4.0対応型の工場機械を前提とした業務プロセスの構築に力を入れ始めています。
実際の事例
業務プロセスのIoT化が生む効果は様々です。人間が行っていたプロセスが減ることにより、必要な人員は減り、コストの削減へとつながるでしょう。
中東欧やアジア諸国に比べ、時間当たりの労働コストの絶対額が高いドイツから提唱されたのには、このようなコストの削減を狙う背景があったようです。また、コスト面だけではなく、業務が効率化することによってサービス品質の向上も見込めます。
今回はインダストリー4.0によって実現した業務プロセスのIoT化の事例を紹介します。
1. 株式会社フクル・オーダーメイドのドレスの個別大量生産
群馬県に所在する株式会社フクルでは、オーダーメイドドレスの縫製工場でインダストリー4.0を実現しています。従来、オーダーメイドのドレスはパターンによって取り扱う布の量が異なるだけではなく、顧客の望む色や質感に合わせて細かく発注を行う必要がありました。
ホームページから色やサイズ、生地などを選んで発注すると、注文をもとにシステムが複数の商社へ自動発注します。自動発注された生地は工場に届き、縫製を行います。今まで発注にかかっていた工数を減らすことで、アジア圏での安い人件費による大量生産に対抗しています。
2. ボッシュ・生産品ごとの組み立て指示により1つの生産ラインで多品目の製造
ドイツの自動車機器メーカーであるボッシュのドイツ南部にあるブライヒャッハ工場では、工場機器や電動工具をインターネットでつなぐことで、業務プロセスの自動化を図っています。
例えば、自動車用油圧バルブの生産ラインでは、品目ごとに異なる組み立て指示をしておくことで、たった1つの生産ラインながら300品目もの生産品を製造しています。また、電動工具をネットワークにつなぐことで、指示に応じて締め付けの力を自動で変更するといった作業の効率化も行っています。
将来的には、生産品自体が機械や工具に指示を出し、自動で製造工程を組み替えたり、製造から発送までの流通の状況をリアルタイムで記録したりといった展開を見込んでいます。
参考:【ボッシュ】インダストリー4.0に取り組むボッシュ 人を主役に工場の進化を目指す|日経ビジネスオンライン Special
3.Amazon・家庭内の消耗品をボタンひとつで発注
総合ネットショップAmazonでは、家庭内の商品をボタン1つで発注できる「Amazon Dash」というサービスを提供しています。
Amazon Dashは人間が目視で確認し、ボタンを押すと発注できるという仕組みにとどまりません。Amazonではほかの企業と提携し、Amazon Dashに対応した各種サービスや製品の開発に協力しています。実際に、プリンターのメーカーであるブラザーからは、インクの減り具合に応じてAmazonでインクを自動発注する機能を持つプリンターが販売されています。
このような機器の登場やセンサーシステムの発展に合わせて、冷蔵庫や照明などの家電が自分で足りないものを判断して発注する将来がくるかもしれません。
参考:備品を自動で発注してくれるAmazon Dash対応製品が登場|TechCrunch Japan
4.MAMORIO・失くすを無くすIoTシステム
MAMORIOは紛失や備品管理を行う法人向けの紛失管理システムです。
MAMORIOを付けた製品が手元から離れると専用のスマートフォンアプリに通知されます。お財布や鍵などの重要物や会社から貸与されているPC、社員証など無くしてはいけない物などにMAMORIOを装着しておけば、万が一、手元から離れた場合には、すぐに通知が来るので、失くしてすぐに紛失に気付けるため、大切な物の紛失防止に役立ちます。さらにMAMORIOは、見ず知らずのユーザーが使っているMAMORIO機器ともつながっているため、失くしてしまったMAMORIOと他のユーザーがすれ違った時にはその場所が通知されるので、ユーザー皆で、失くしてしまったMAMORIOを探しだすことができます。
IoT技術で国内のの紛失減少に大きく貢献してくれています。
参考:MAMORIO
インダストリー4.0の問題点
セキュリティ面
急速に普及していくインダストリー4.0の中で、1番の問題点はセキュリティ面にあると言えます。
あらゆる機器がネットワークにつながるということは、情報のやり取りがスムーズになる反面、何者かがネットワークに侵入するとネットワークにつながっているあらゆる機器が危険にさらされることを意味します。
2016年12月、IoTを利用した災害時などに水を供給するシステムに不備があり、全国の病院など170ヵ所で何者かによって機能を停止させられる事件が起こりました。やはり、インターネットを介して運転を監視しているためパスワードが破られてしまう可能性や、情報が流出してしまうリスクなどが存在します。サイバー攻撃などの標的になってしまうことを視野に入れたセキュリティの強化や体制を考えていく必要があります。
参考:IoT ネットで管理の水処理システムに不備 病院などで使用|NHK
人材教育面
インダストリー4.0を進めようとしても、そこに運用する人間の理解や技術力が付いていかないことには意味がありません。
これまでの、仕事のスキルにプラスして、データに基づく分析能力や対応力が必要となってきます。モノを作ること自体はITの技術に任せることは可能です。また、従来属人化されてきた「熟練の技」を如何に数値化するかも問題でしょう。熟練だけが気付く製品の不具合も数値化されなければデータとして機械に読み込ませることはできません。
こうした過去にデータ化されてこなかった部分をデータに変換する方法を考え出し、AIなどの機械に読み込ませれば、熟練でなくても商品に存在しているリスクを見付け出すことができます。そのため、単なる機器への投資だけではなく、それを扱う人の教育が求められてくるのです。
インダストリー4.0が一般化した後はその環境を活用できるかです。そして、そのキーポイントは人材です。いずれはネットワークエンジニアやインフラエンジニア、AIエンジニアへの投資、教育がポイントになってくるでしょう。
参考:製造業におけるビッグデータ活用の盲点と対策(1)|ダイヤモンド・オンライン
企業が把握しておくべきポイント
安倍政権では「IoTによる製造ビジネス変革WG」の中で、5つのポイントで取り組んでいくことを決めています。
企業にとっても参考になるので、しっかり確認しておきましょう。
参考:ロボット革命イニシアティブ協議会 IoTによる製造ビジネス変革WG中間とりまとめ|内閣府
1. 製造プロセスの標準化と企業内外の連携
インダストリー4.0においては、企業内外をまたいだ仕組みを構築することが重要になります。
例えば、工場の機械も1つだけがIoT化されているのでは、ネットに接続される意味はありません。機械同士が相互に連携し合えるように、機械を用いる事業者はもちろん、機械メーカー間での連携も求められるでしょう。また、企業間が連携することで今までになった革新的なサービスや製品が生まれる可能性もあります。
2. 標準化・セキュリティ
経済産業省では、インダストリー4.0を国際的に牽引していくために独自の委員会として「スマートマニュファクチャリング標準化推進委員会」を設置しています。
このような国際標準化の中で、データ通信の仕組みなどIoT関連の機器の規格が定まる可能性もあります。IoT機器のメーカーはもちろん、IoT機器を利用する企業にとっても注目しておきたい分野です。
経済産業省では、インダストリー4.0を国際的に牽引していくために独自の委員会として「スマートマニュファクチャリング標準化推進委員会」を設置しています。
このような国際標準化の動きの中で各国、各企業は主導権を握るためにしのぎを削っています。自動制御システムにおけるコントローラーとI/Oデバイス間のデータ通信ネットワークに関してはEtherCATの採用企業が増えています。トヨタ自動車はこの分野における企画としてEtherCATの全面的な採用を決めましたし、アルゴシステム、オムロン、山洋電気、日立産機システムなどもEtherCATを採用しています。
引用元:トヨタが全面採用を決めた「EtherCAT」とは何か
3. 中小企業のための基礎インフラの整備
政府は、大企業と中小企業でIoTの格差が生じないように、必要なツールや環境等の調査を行い、整備を行っていく考えを明らかにしています。
比較的安価に取り入れやすいクラウド環境の整備なども含まれ、今後政府の支援によって中小企業でも利用しやすいIoT機器の開発が進むかもしれません。
4. 日本の製造業の強みを維持・強化
政府では、製造プロセスに対して細かく分析を行うことでIoT時代においても、日本の製造業の強みを活かそうとしています。
企業においても、IoT機器があるからといって自社内で蓄積してきたノウハウを捨ててしまうのではなく、データに落とし込むことでIoT機器への活用が進むでしょう。
5. 実証とモデルケースの共有
政府は上記の取り組みに対し、予算を取った上で実証実験を必要に応じて行う予定です。さらに、製造業における今後のIoT活用のモデルケースとなる取組を発掘し、それを産業全体に展開して行こうとしています。
こうしたモデルケースの共有は、企業がインダストリー4.0の波に乗り遅れないためにも重要です。ぜひ政府から発信されるものを含め、IoT機器による業務の効率化を実現している事例から積極的に学んでいきましょう。
日本商工会議所はホームページでIoT活用事例の紹介を始めています。どのようにIoTを活用したか、だけでなく、活用後の効果まで紹介しているので、導入後のメリットがイメージしやすいです。ぜひ政府や団体から発信されるものを含め、IoT機器による業務の効率化を実現している事例から積極的に学んでいきましょう。
引用元:日本商工会議所HP(https://www.jcci.or.jp/it/iot.html)
インダストリー4.0はサービスを変えていく
インダストリー4.0は製造の現場だけではなく、サービスの性質も変えていく可能性があります。また、クラウド技術の発展や、ビックデータとAIの結び付きによって現在予想される姿を超えていくかもしれません。
企業もインダストリー4.0の可能性を期待しているからこそ、この新たな産業革命実現のために必要な設備や人材に多額の投資を始めています。一時期、AIエンジニアの高額報酬が話題になったようにインダストリー4.0を支える投資は今後も続くはずです。
変化が絶えない時代に、従来の製造方法やサービスが永遠に消費者に受け入れられることはないでしょう。産業現場から起こる変化の動きを掴み、自社はどのようにIT技術と向き合っていくかを考える必要があります。ぜひ普段から製造業のニュースにも目を向け、どういった変化が起きているのかを把握しておきましょう。
- インターネット
- インターネットとは、通信プロトコル(規約、手順)TCP/IPを用いて、全世界のネットワークを相互につなぎ、世界中の無数のコンピュータが接続した巨大なコンピュータネットワークです。インターネットの起源は、米国防総省が始めた分散型コンピュータネットワークの研究プロジェクトARPAnetです。現在、インターネット上で様々なサービスが利用できます。
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- アプリ
- アプリとは、アプリケーション・ソフトの略で、もとはパソコンの(エクセル・ワード等)作業に必要なソフトウェア全般を指す言葉でした。 スマートフォンの普及により、スマートフォン上に表示されているアイコン(メール・ゲーム・カレンダー等)のことをアプリと呼ぶことが主流になりました。
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- フォーム
- フォームとは、もともと「形」「書式」「伝票」などの意味を持つ英単語です。インターネットの分野では、パソコンの操作画面におけるユーザーからの入力を受け付ける部分を指します。企業のホームページでは、入力フォームが設置されていることが多いようです。
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- ビッグデータ
- ビッグデータとは、一般に、インターネットの普及とITの進化によって生まれた、事業に役立つ知見を導くためのデータのことを指します。「データの多量性」だけでなく、「多様性」があるデータを指します。
- ページ
- 印刷物のカタログやパンフレットは、通常複数のページから成り立っています。インターネットのホームページもまったく同じで、テーマや内容ごとにそれぞれの画面が作られています。この画面のことを、インターネットでも「ページ」と呼んでいます。ホームページは、多くの場合、複数ページから成り立っています。
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- デバイスとは「特定の機能を持つ道具」を表す語で、転じてパソコンを構成するさまざまな機器や装置、パーツを指すようになりました。基本的に、コンピューターの内部装置や周辺機器などは、すべて「デバイス」と呼ばれます。
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