2020年に東京オリンピックを控えている今、インバウンド需要の増加向けて対策を始めている国内企業は少なくないでしょう。
海外ユーザーにも日本人と同じようにサービスを利用してもらうためには、多言語対応や文化の違いによる違和感を減らすなど、様々な面に配慮する必要があります。

インバウンド需要に向けて国を挙げて対策を進める中、特に急先鋒を担っている企業の1つが、タクシー業界最大手の日本交通株式会社です。
2005年に現会長である川鍋氏が代表取締役社長に就任して以降、国内で初めてタクシー配車アプリをリリースしたり、電気自動車を導入したりするなど、最大手ながら驚くようなフットワークの軽さで次々に最新テクノロジーを取り入れています。

先日、タクシーの初乗り料金値下げが発表されましたが、それもインバウンド対策の一環として行われました。

川鍋代表は日本交通のIT関連業務を請け負っている日交データサービスを2013年にJapanTaxi株式会社に商号変更し、エンジニアを増員して新たなテクノロジーの導入に注力しています。

東京オリンピックまで3年となった今、川鍋氏はどのようなインバウンド対策を進めているのでしょうか。

今回は、yenta主催の「日本のグローバル化について考える会」で行われた川鍋氏のセッションの様子と、直撃インタビューの内容をお届けします。
  

日本交通株式会社 代表取締役会長 川鍋一朗氏

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1993年慶應義塾大学経済学部卒業。1997年ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院MBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社を経て2000年に日本交通入社。2005年日本交通ならびにJapanTaxi代表取締役社長、2015年に日本交通代表取締役会長に就任。2013年に全国ハイヤー・タクシー協会副会長、2014年東京ハイヤー・タクシー協会会長に就任。
(http://make-japan-awesome-again-1.peatix.com/ より引用)

  

オリンピックはチャンス。できることは全部やっていく

配車アプリをリリースしたあと当時、総勢7名だったエンジニアを連れてシリコンバレーに行きました。
空港降りてすぐにUBERを使って、衝撃を受けました。

それまで10年以上、挨拶しろとか、ネクタイ曲がってるとか言って来たけど、そういうことじゃないなと。
ユーザー体験を良くするためにいろいろやらなきゃいけないなと感じました。

交通って、国やいろんなものがたくさん関わっているから、なかなか簡単に進めることができないんですよ。
でもオリンピックは最大の推進力なんです。
やれる玉は全部詰め込む勢いでやっていきます。
  

初乗り料金を値下げしたのは世界基準に合わせるため

まずは初乗りですね。
先進国の都市にいくと、初乗りが大体3~4ドル。
そこで日本に来て、いきなり730円だとまずいぞと。

海外は初乗り安いけど、すぐ上がるんですよ。
圧倒的に最初の見栄えが大事なんですよね。
なので初乗り料金を410円に下げて、見栄えをよくしました。
  
参考:
23区のタクシー初乗りが410円に - "ちょい乗り"は値下げ、長距離は値上げ | マイナビニュース
  
東京のタクシーって、アプリや電話で呼ぶのって100回のうち3回程度でほとんどないんですよ。
海外の方も同じで、とおりがかったタクシーを止めるんです。
そして、いざ乗ったタクシーで言語が通じなくて、日本円を持っていなくて決済に手間取る。
海外の方がタクシー利用するにあたって決済の面が大きなボトルネックになっていると気付きました。

なので、多言語タブレットを都内全車両(3万台)に設置して、タブレットで決済できるようになりました。
ALIpay・WechatPay、ORIGAMIに対応していて、弊社独自の「JAPAN TAXI WALLET」も実装しています。
  

都内タクシーの3台に1台(1万台)をユニバーサルデザイン車両に

海外の方は体格が大きい方が多いし、荷物も多いですよね。
日本のタクシーだと小さいんです。
そこで、TOYOTAが開発した最新のタクシー専用UD(ユニバーサルデザイン)車両を採用しました。

細かいところではあるんですが、窓が大きかったり、エアコンをお客様側で調整できたりします。
オリンピックまでに、東京都内の日本交通のタクシーの3台に1台(1万台)をこのUDタクシー(※)にします。
多分、皆様も1回は乗ることになると思いますよ。

※UDタクシー:荷物の多い方や車椅子、妊娠中など、身体的な制限に関係なく快適に利用できるタクシー車両。
  
参考:
教えて!UDタクシー| UDタクシー研究会
  

自動運転車両の導入も

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あとTOYOTAと協業して、4年後に自動運転を活用する計画を進めています。
将来的には、高速道路で自動運転レーンとかが設置されるでしょう。
タクシーはとにかく走りますから。タクシーから自動運転が導入されるでしょう。
皆さんが最初に乗る自動運転車両もタクシーになるかもしれないですね。
  

タクシーアプリだけでなく、Googleマップからも配車できるように

日本交通も配車アプリは多言語に対応していますが、UBERと違って世界共通アプリではないんですよね。
3日間だけ日本に来た海外観光客の方が、日本交通のアプリをダウンロードしてくれるかといったらちょっと厳しいなと。
そこで、Googleマップで目的地を検索すると、UBERと並んで日本交通の配車予約導線を設置しました。

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ネットとリアルをつなげて新しい価値の提供を

私は30歳に日本交通に入って、10年やって、正直飽きてきたなと。
10年同じ事やってる人ってあんまりいないですよね。
そこで始めたのが配車アプリが生まれて、新しい領域に切り込んでいきました。

今はどんどん人を採用していますが、日本だけだと人が足りないのでベトナムのオフショアを利用しています。

老舗の会社でも、新しい人たちとの出会いがあると、相当面白いことができるんです。
ネットとかテックの世界は、意外と狭いんですよ。

ネットだけでできることは意外と限られてて、大体やりつくされてきた。
これからはリアルの世界に、ITに長けた人たちをつなげて動かすと、世の中に大きなインパクトを生み出せるはずです。

我々は地域に合ったトランスポーテーションを意識しています。
  

川鍋氏インタビュー「新しい提案を通したいなら、小さくてもいいからわかりやすい成果を」

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新たなテクノロジーを導入しなければ時代に対応できないと焦っている企業は少なくないはずです。
しかし、新しいことを始めるには大きな労力が必要で様々な役職の人間を巻き込む必要もあるのでなかなか導入が進まないのが現実です。

組織規模が大きくなればなるほど、比例して新しいことを始める難易度も高くなっていくものです。
1945年に設立され、9,000人近い従業員(関連会社含む)を抱える日本交通株式会社において、どのように新技術の導入を推進しているのか、川鍋氏に伺いました。
  

ferret:
一般企業の場合、新たなテクノロジーを導入しようとしても社内を説得するために苦戦するケースが多いと思います。
導入を促すには何をすればいいのでしょう?

川鍋氏:
とにかく、施策の数をこなすことですね。狙いすました1撃ではなく、とにかく数を打って、なんでもいいから実績を作ることです。

例えば僕が新しい組織に入った時、一番初めに取り組むのはコスト削減です。
わかりやすく、短期的に成果が出やすいからです。

東京のタクシー協会の会長になった時、一番最初に伝票を1枚1枚確認しました。
無駄なコストを1つ1つ潰して、それを1ヶ月分やると大きなコスト削減につながるんです。
その場で何かしらの違いを起こして実績を残さないといけない。

次に取り掛かるのは部屋の模様替えですね。
大抵、普通のオフィスはコミュニケーション取りにくくなってますから。
無駄なスペースを省いて会話スペースを作ったり、少し環境を変えるだけで組織は大きく変わります。」
  
ferret:
新技術を導入してから、現場でしっかり活用されるようになるために工夫されていることはありますか?
  
川鍋氏:
JapanTaxi株式会社ではエンジニアに裁量をもたせて動いてもらっているんですが、やはり、ごく稀にユーザー体験から外れたUI設計をしてくるときがあるんですよね。
なので、エンジニアを半日ほどタクシーに乗るプログラムを組んでいたりします。
現場の様子を目の当たりにしてもらうんです。

エンジニア側はアプリが使いこなせないのは運転手が操作方法を理解していないだけだと考えがちなんですが、いざ現場で、運転手がお客様を待たせて重い沈黙が流れる空気を感じると、「これではまずい」と思うわけです。
エンジニアは頭だけで考えがちですが、タクシーの運転手は体を動していますからね。
お互いをリスペクトできて、お互いに良い影響が出るようになるための環境を作るようにはしていますね。