21世紀に入ってからあと数年で20年が経過しようとしていますが、このわずかな時期だけをとって振り返ってみても、飛躍的な進歩がありました。

ところが、こうした大きな進歩は「技術的な」側面ばかりにフォーカスが当たります。
インターネットの速度やCPUの処理能力の改善など、確かに技術的な側面はイノベーションの後押しになっていることは間違いありません。

しかし、イノベーションのもう一つの鍵となる重要な要素として、*ユーザー体験(UX)*も忘れてはいけません。
単に技術的な改善で性能が向上したのではなく、これまでは常識だったユーザー体験が非常識的な手段で変わっていく、それがイノベーションの本質とも言えます。

中近世にかけて、天動説から地動説的な見方に変わったのも、本質的には同じことです。
確かに、望遠鏡の発達、数学や科学の発達によって惑星の運行状況の「発見」のように、技術的な側面によるブレークスルーもありました。
しかし、地動説が普及していったことで、人々の天空に対する意識(それはまさにユーザー体験)が変わったと言っても言い過ぎではないでしょう。

今回は、21世紀になってから、ユーザーの体験をがらりと変えた、UX上のブレークスルー7選をご紹介します。

UXのブレークスルーの歴史

1. iPod (2001年10月)

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「音楽を聴く」というユーザー体験の在り方は、21世紀のはじめに大きく変わったと言えます。

それまでも、Sonyのウォークマンやディスクマンなど音楽を持ち歩く商品は存在しました。
これらの商品は、たくさんのボタンがあり、ちょっぴり大きくて、カバンに入れて持ち歩くのが主流でした。
場合によってはディスクを持ち運ぶ必要がありました。

実際、iPadは5GBのストレージを持っているMP3プレイヤーという見方で言えば、あまり斬新だとは言い難いかもしれません。
しかし、当時スティーブが言ったこのセリフこそ、UXをガラリと変えたと言えます。

1000 Songs In Your Pocket. (1000曲が、あなたのポケットに。)

結果的にiPodはUSBタイプのプレイヤーの30倍以上も早くCDからiPodにダウンロードされたと言われています。
iPodによる革新は、技術的な革新というよりも、UX、ひいてはライフスタイルを変えたという見方もできます。

2. P2P共有 (2001年頃)

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これまでインターネットと言えば、サーバーとコンピュータによる2方向間によるやりとりが主流でした。
しかし、2001年にWinMXやWinnyと呼ばれるファイル共有ソフトが普及したり、Napsterのような音楽共有サービスが普及したおかげで、P2Pと呼ばれるアーキテクチャーによる多方向のファイル共有がやりとりされました。

P2P(ピアツーピア)とは、ネットワークに接続されたコンピューター同士が端末装置として対等の立場、機能で直接通信するもので、端末数が膨大になっても特定端末へのアクセス集中が発生しづらいという特徴があることからたくさんのファイル交換が行われました。

実際、日本ではウィルスの拡散や著作権の問題で幕を閉じ、Napsterも2003年には破綻申請手続きをするなど話題となったものですが、P2P共有の体験を通じて、人々は「もっと手軽にファイルを共有したい」「もっと気軽に音楽を聴きたい」というニーズが高まったとも言えます。

のちのUstreamのようなオンデマンド放送やブロードキャスト配信や、Spotifyのような音楽サービスの起点はここにあったと言っても過言ではないでしょう。

3. パーソナリぜーション (2003年頃)

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格安で気軽にホームページを作成することができるロリポップ!レンタルサーバーのサービスがスタートしたのは2001年。
そして、2003年8月にはMySpaceという音楽・エンターテイメントを中心としたSNSがスタートし、独自にカスタマイズしたページを気軽に持つことができるようになりました。

自分自身のプロフィールを掲載したりすることもでき、気軽にWebサイトを持てるようになったという点で、発信型のホームページになったとも言えます。
特にミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた人々)にとっては馴染みの深いものであるのではないでしょうか。

4. インタラクティブフィード (2004年頃)

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2004年以降、mixiやGREEなどのサービスも日本で広まり、パーソナリぜーションはますます加速することとなりました。
そして、日記にコメントをつけたり、いいねをつけるような機能も実装されるようになり、インタラクティブな機能が備わるようになります。

こうしたやりとりは、2004年にFacebookが設立されたことで、世界規模でも広がっていくことになります。
プロフィールのフィードやホームフィードが登場したことで、更新情報もすぐに確認することができるので、ますます発信型のインタラクションが加速していきました。

5. タッチスクリーン (2007年1月)

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残念ながら、2007年1月に登場したiPhoneは、世界で初めてのタッチスクリーンの携帯電話というわけではありませんでした。
しかしながら、iPhoneは専用のOSを持ち、アプリケーションやプログラムを開くことができるといった点で、革新的なタッチスクリーンの携帯電話だということができます。

iPhoneを持っている方なら、iPhoneで行う電話機能というのはほとんどわずかな時間であるということに気づいているはずです。
「スマートフォン」という言葉が現在では定着していますが、まさにiPhoneが登場した当時は、電話というよりも画期的な「ミニコンピューター」であると評価されました。

しかも、たったひとつのボタンとタッチスクリーンというシンプルなインターフェイス、非常に洗練されたデザイン、App Storeでの安全なダウンロードなど、当時としては非常に革新的であり、ユーザー体験を変えたと言えるでしょう。

6. モダンビデオストリーミング (2007年頃)

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YouTubeが2005年に登場しました。
YouTubeは2006年7月までに65,000本以上の新しいビデオがWebサイト上にアップされるようになり、日々10億もの視聴がなされるようになりました。

しかし、本当の意味でこんにちのような革新をもたらしたのは、2007年に入ってからです。
HTTPベースのストリーミング技術が発達し、Move WorksやUstreamといったリアルタイム動画配信が始まったのです。

ダウンロードしなければならないというユーザーのフラストレーションを取り除いたという点では、革新的なユーザー体験をもたらしたと言えます。
こんにちのNetflixやSpotifyなどのストリーミング技術は、10年前の出来事がたたき台となっているのです。

7. ハッシュタグや@メンション (2009年7月)

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Twitterが当初立ち上がった時は「@」をユーザー名の前につけて返答をするという画期的な機能とともにやってきましたが、当時はハッシュタグという昨日はありませんでした。
ハッシュタグは、前職にGoogleUXデザイナーを務めていたクリス・メッシーナが2007年に考案したと言われています。
Twitterがハイパーリンク付きのハッシュタグを導入したのは、2009年の7月です。

ハッシュタグを導入したことで、情報検索が劇的に向上しました。
Twitterの即時性とも重なって、ハッシュタグを用いればリアルタイムに必要な情報が検索できるようになったので、TwitterGoogleとは別の役割を担うようになったのです。

まとめ

歴史を振り返ってみても、イノベーションは、結果的にUXを大きく変えうる存在であると言えます。
人々がどのようにコミュニケーションをとり、エンターテインメントを楽しむかを観察してみると、それらのほとんどが2000年代前半に起こったイノベーションが起点になっていることがわかります。

果たして、次のイノベーションはどんなものなのでしょうか。
もしかしたら、UXの歴史を変えるのは、あなたかもしれません。