昨年から、VRをとりまく市場が再び活気を見せ始めています。技術系の見本市からコンシューマー向けの新製品発表会まで、ハードやコンテンツの新製品が多数発表され、活況のようです。

また、昨年夏にリリースされ、社会現象にもなった大ヒット作「ポケモンGO」は、「AR」技術を広く世に知らしめ、一大ムーブメントを作り出しました。

ただ、「VR」「AR」は何気なく見聞きしているだけではなかなか区別がつきづらいのではないでしょうか。

今回は、VRとARに関するニュース振り返りながら、2つの違いを解説します。
  

「VR」と「AR」のこれまでを振り返る

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1-1. VR元年といわれた2016年!その歴史を振り返る

皆さんご存知のとおり、VRは「Virtual Reality」の略で、日本語では「仮想現実」と表現されています。
コンピュータ内に作られた仮想の空間にユーザーが入り込んだように感じさせる技術の事で、「コンピュータの中に入る」と表現されることもあります。

昨年は「VR元年」と言われていましたが、実は50年以上も前から存在していました。

1960年代には、すでに現在の様なモニタ付きゴーグルを着けて操作するコンセプトは考案されていて、そのスタイルは今も同様です。
視覚と聴覚のみで体感するデバイス以外にも、触覚や嗅覚、味覚も表現するデバイスも存在していますし、現在はゴーグル型ではなく、部屋の壁面全体をモニタ化して特別な機器を身に着けずに体験できるようなシステムも開発されています。

昨年だけではなく、これまで幾度となくVRが注目されることがありました。
ただし、機器自体の価格が高い、ゴーグルが重い、処理のレスポンスが悪い、太いケーブルが邪魔等という様々な理由から普及するには至りませんでした。しかし、2000年代に入って価格が下がり、軽量・高精細の液晶モニタが開発され、Bluetoothによるワイヤレス接続が普及、さらに本体端末も高性能化し、画像の描写力が格段にアップしたことでしたことで再び脚光を浴びることになりました。
  

1-2. 一般に普及するまでに至らなかったVRが抱えていた課題

ようやく普及期に突入してきた感のある入って来た感のあるVRですが、ここに至るまでは前述したとおり、ごく限られた分野を中心に利用されてきました。

エンタメ分野では早くから活用の動きがありました。しかし、デリケートな機器を不特定多数が使うような現場に導入するのは難しく、短期のイベント等で使われるに留まりました。工業分野では設計プロセスで形状の確認に、医療分野ではCTやMRIとの連携で患部の確認や手術のシミュレーションなどにも活用されてきました。また、建築や不動産販売の分野では、物件のシミュレーションや、客に物件を疑似体験してもらうサービスなどで古くから利用されていますが、一部のショールームでの運営に限定されるなど、どこででも体験できるようなものにはなりませんでした。
  

2-1. 現実を拡張するってどういうこと?ARの歴史

AR(Augmented Reality)は、日本語では「拡張現実」と表現されています。VRが"仮想空間"に入っていくものに対して、ARは目の前にある現実の景色に様々な情報を付加する技術です。

技術的なコンセプトは20世紀中盤には、すでに提唱されていて、実際に動作するシステムとしては1990年代にアメリカの軍事研究部門で開発された「Virtual Fixtures」が最初だと言われています。この種の研究開発は、しばらくの間軍事やその周辺の分野を中心に行われてきました。1994年には、東京大学で携帯端末とマーカーによるARの実証実験が成功しています。

参考:
「NAVICAM」(Ascii.jp:AR~拡張現実~人間の“現実感”を高めるテクノロジー)
  

2-2. 技術の進歩と安価になったことでARが身近な存在に

2000年代に入って携帯端末の性能が飛躍的にアップすると、この技術は一般向けの用途に応用されるようになりました。

その代表例が2008年に発表された「Wikitude」(豪・Wikitude GmbH社)です。これは、GPSや各種センサからの情報、あるいはカメラに映る景色やマーカーを画像認識させて、画面に映る現実の景色に様々な情報を付加するアプリを開発する環境を提供するものでした。さらに、翌2009年には日本からも「セカイカメラ」と呼ばれるサービスが開始され、一世を風靡しました。
※セカイカメラは2014年1月22日に全サービスが終了しております

参考:
Wikitude公式サイト|Wikitude GmbH社
  
カーナビの分野では、車載カメラで撮った映像に建物の情報や方向の指示などをオーバーレイ表示させるものまで現れました。また、画像認識技術を使った「トラッキング」と呼ばれる機能を活用して、実写画面にCGのキャラクターを登場させたり、人物の顔に化粧やアクセサリーをつけて遊ぶアプリなども人気を呼びました。こちらは、比較的安価で開発できるため、企業のノベルティとして無料で配布されるケースも見受けられます。
  

VRとARの最新事情

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次に、最近の状況と活用事例をいくつかご紹介しましょう。
  

VRの最新情報

VRは、先述のとおり、現在デバイスの普及期を迎えているといえます。PC用としては、米OculusVR社の製品が群を抜いた知名度を誇っていますが、2017年に入ってからは後発メーカーが続々と新製品を発表しています。価格や性能は様々で、百花繚乱といったところです。

参考:
Oculus|米OculusVR社の製品公式サイト
  
家庭用ゲーム機の分野では、何といってもSCE社のPlaystationVRです。2017年秋に発売が開始され、現在も品薄状態が続いています。SCEは正式に販売台数を発表していませんが、2017年2月現在で90万台を突破、現在も増える傾向にあると言われています。母体となるPS4でも、VR対応ソフトが2017年6月現在で74タイトルを数え、ゲームだけではなく景勝地の映像をVRで楽しめるようなものまでリリースされています。

また、忘れてはならないのが、スマートフォン装着型のゴーグルです。従来は本体端末の表示デバイスだったVRゴーグルですが、モニターと本体機能が一体化したスマートフォンならばオールインワンで済むという発想です。安価でVRを楽しめるとあって、こちらも侮れない人気ぶりです。PCやゲーム機用にはソフトウェアの制作費用が相応にかかりますが、スマートフォン用アプリならば、ある程度割り切ったスペックで作れるので、開発会社にとっても比較的低いハードルで参入できるメリットがあります。

参考:
スマートフォン用VRゴーグル|Amazon日本サイト
  

ポケモンGOで注目度が急上昇!ARの最新情報

一方のARついてですが、こちらのトピックは何といっても「ポケモンGO」です。この大ヒットを通じ、初めてARという言葉に触れた人も多いのではないでしょうか。全世界でのダウンロード数が6億5,000万回を突破したという(2017年3月現在)、空前の大ヒットです。

「ポケモンGO」には、原型ともいえる"Ingress(イングレス)"というプロジェクトが存在します。「現実の世界には、目に見えない秘密が隠されている」という設定で繰り広げられる、一種の陣取りゲームですが、ゲームのフィールドはGoogoleMapのデータを利用した現実の地形で、フィールド上にある「ポータル」と呼ばれるポイントは、実在の建物や景勝地を、参加者自らが登録しているのが特徴です。

実は、「ポケモンGO」で「ポケストップ」と呼ばれているチェックポイントの大半は「ポータル」が転用されています。それ以外の技術的なノウハウも"Ingress"の開発や運用で培われてきたものが使われています。「ポケモンGO」や「Ingress」では、コンビニやファストフード、銀行などのチェーン店とタイアップしています。ゲームのフィールド上に自社のロゴを表示させたり、リアル店舗で買い物をするとゲーム内で使えるアイテムが貰えるなど、マーケティングのツールとしても活用されています。

ゲームやエンタメ分野だけではありません。スマートフォンやタブレット端末用のアプリGoogle翻訳」には、カメラで撮影した映像に含まれる文字を読み取り、ほぼリアルタイムで翻訳、元の文字のある場所に置き換えて表示する機能が搭載されました。多少翻訳のおかしな部分はありますが、ブラッシュアップが進めば多言語コミュニケーションの大きな手助けになると期待されています。

参考:
ポケモンGO(公式サイト)

Ingress公式

Google翻訳(GooglePlayストア)
  

まとめ

VRは機器の低価格化や取り扱い易さが一段と進み、家庭だけではなく、教育機関や企業へ導入されていくと考えられています。

地学の分野では、現在蓄積されている各地の地形データを活用して、景観シミュレーションから災害予測まで、様々な形でVRのコンテンツが役立つと言われています。有名な景勝地や極地の景色を体感できるようなコンテンツも普及するでしょう。観光誘致のツールに留まらず、高齢者や運動機能障害のある人たちへのケアにも利用できるかもしれません。

他メディアとの連動コンテンツも色々と考えられます。例えば、テレビでは放送内容と連動し、実際に現地に行ったかのような映像を体験できるアプリを配信しています。通常のTV番組や雑誌・書籍等と連動したアプリが作られていくと考えられます。特に実写系のコンテンツは、360度撮影のできるカメラが非常に安価で手に入るようになったため、活用事例も増えていくでしょう。
  
一方のARの分野では、これまで以上にコミュニケーションの分野での活用が期待されます。
先にご紹介した「Google翻訳」のような映像ベースの翻訳ソフトや位置情報を利用した観光地でのナビゲーションは、予定されている2020年東京オリンピックに向けて拡充が進んでいくと考えられています。また、今後は位置情報と連動したものが加わっていくと考えられます。

例えば、特定の場所でカメラをかざすとクーポンが貰えたり、チェックポイントを回るとプレゼントを貰えるなど、ゲーム的要素のある広告手法も生まれてくるでしょう。
  
本記事を通じ、VRとARの違いや特色が改めてご理解頂けましたでしょうか。
どちらの技術も長年研究されてきたものが、ITの進歩によってようやく花咲いた感があります。すでに一般社会にも根付いたAR、そして機器の普及によってようやく根付き始めたVR、ますます双方の動向から目が離せなくなりそうです。