今、筆者の中で最もホットなキーワード、それが「EX(エンプロイー・エクスペリエンス)」です。デロイト・グローバル・ヒューマンキャピタルトレンド2017によると、「エンプロイー・エクスペリエンス」とは、経営活動、人事施策、職場環境のような、仕事の中で”人”に影響を及ぼす因子によって醸成されるものだと定義されており、「エンプロイー・エクスペリエンス」の最大化こそが、人事のミッションであると言っても過言ではありません。

なぜ今、「エンプロイー・エクスペリエンス」が注目されているのか、また「エンプロイー・エクスペリエンス」とどのように向き合っていけば良いのかについて、本稿を通じてお伝えできたらと考えております。ぜひ一読ください。
  

CX・UXならぬ「EX(エンプロイー・エクスペリエンス)」

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初めて「エンプロイー・エクスペリエンス」というキーワードを目にしたのは、およそ2年前。
当時、自社やクライアントのリファラル採用に取り組む中で、リファラル採用が成功している企業は、例外なく従業員のエンゲージメントが高いということが見えてきた中で"エンゲージメントが高い会社の共通点は何か?"について考えていました。

参考:
リファラル採用なくして採用戦略なし!今注目を集める採用手法を紐解く|ferret
  
人事施策を考える際、いつも必ず参考にしているのがマーケティングフレームワークです。
"顧客満足度"や"ユーザー満足度"が高い会社・サービスは例外なく、良質なカスタマーエクスペリエンス(CX)やユーザーエクスペリエンス(UX)を提供しています。そのマーケティングの原理原則に立てば、人材管理(HRM)においても同様に、CX・UXならぬEX、すなわち「エンプロイー・エクスペリエンス」という概念があるのではないか、という仮説を立てたのです。
  

Airbnbは人事部を「エンプロイー・エクスペリエンス部」と呼ぶ

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仮説を立ててすぐさまGoogleで「エンプロイー・エクスペリエンス」というキーワードで検索してみたところ、驚くべきことに「エンプロイー・エクスペリエンス」をそのまま部署名にしている会社があることに気付きました。それが「Airbnb(エアビーアンドビー)」です。

Airbnbは、2015年末にアメリカに拠点を置く企業の口コミサイト「グラスドア」の「社員が選ぶ企業ランキング」でGoogleを抜き世界一位になったことで話題になりました。

Airbnbのコーポレートサイトを見ると、部門名が「エンプロイー・エクスペリエンス」となっており、部署のミッションについて以下のように説明しています。

社員の面倒をいろいろと見る部署です。ヘルシーで美味しいおいしい社食の献立を組むのも仕事。最新テクノロジーを揃えてやるのも仕事。ベスト&ブライテスト(超一流)な人材を引き抜くのも仕事。社屋が最高の職場環境になるよう手配するのも仕事。社員エクスペリエンスチームはAirbnbの面倒をまるごと見る総務部です。会社の健康と幸せの向上のために日夜働いてるんですが、これが結構楽しいのです。

※引用元:人事 (エンプロイー・エクスペリエンス)部 | Airbnb求人情報

初めて見た時に、その内容に感動してEvernoteに丸々保存しているのでわかるのですが、上記の内容は一言一句、2年前から全く変わっていません。
それだけ、Airbnbの人事部門のミッションは揺るぎなく、一貫したものであることの証左でしょう。

好調のAirbnbと、スキャンダルが相次ぐUber。同じシェアリングエコノミーの騎手である両社の明暗をわけたのは、"エンプロイー・エクスペリエンスを追求していたかどうか"だったと言っても過言ではありません。
  

エンプロイー・エクスペリエンスは入社前から始まっている

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エンプロイー・エクスペリエンスを最大化するために、人事はどんなことに取り組めば良いのでしょうか。

カスタマー・エクスペリエンスは、顧客との初期接触からリアル店舗での接客や購買体験、商品の開封から使用開始後のアフターフォローに至るまで、カスタマージャーニーマップは多岐にわたります。
これはエンプロイー・エクスペリエンスにおいてもいえ、求人の閲覧や求人への応募、その後の面談・面接から、配属後の研修、OJTやワークスタイルに至るまで、従業員とのあらゆるタッチポイントが体験の良し悪しを左右する因子となります。

商品を購入した際、同じことを何度も何度も聞かれたり、何度改善要望を出しても改善がなされなかったりするとゲンナリしてしまいます。それと同様に、採用選考時に人事に伝えていたはずの情報がきちんと共有されておらず、何度も聞かれたり、会社をよりよくするための提案をしても耳を貸してもらえなかったり、ということが繰り返されると、エンプロイー・エクスペリエンスは当然低下します。

これまで、多くの日本企業では、効率性の観点から採用と教育・研修、人事と現場が完全に切り離されていましたが、従業員に対して一貫して良いエンプロイー・エクスペリエンスを提供する、という観点に立てば、これは適切ではありません。さらに言えば、総務や経理、情報システムなどの間接部門がエンプロイー・エクスペリエンスに与える影響も少なくありません。

もちろん、それぞれの担当領域がわかれていること自体は悪いことではありませんが、どうすればエンプロイー・エクスペリエンスを最大化できるのか、採用担当と教育・研修担当が、あるいは人事部と現場が、情報共有をきちんと行いながら、チームとしてエンプロイー・エクスペリエンスの最大化に向けた体制構築を進める必要があります。

例えば、クラウド会計ソフトを提供するfreee株式会社では、いわゆる総務部門のことを「メンバーサクセスチーム」と名付け、同社の従業員が仕事をしやすい環境づくりをすることをチームのミッションとして位置付けて、エンプロイー・エクスペリエンスを向上させる施策を次々と打ち出しています。

参考:
freee人事労務が取り組む「マジ価値人事業務」と「カルチャー浸透方法」とは?
  
Airbnbのようにエンプロイー・エクスペリエンス部を発足させることは難しくとも、部門横断プロジェクトとして、「エンプロイー・エクスペリエンスチーム」を立ち上げ、一貫したエンプロイー・エクスペリエンスを提供するために何ができるか?について、アイデアを出し合うところから始めてみても良いかもしれません。
  

まとめ - エンプロイー・エクスペリエンスの良し悪しを「見える化」しよう -

エンプロイー・エクスペリエンスの重要性がわかったところで、そもそも自社のエンプロイー・エクスペリエンスはいかほどのものなのか、何か対策を行ったとして、効果があったのか、なかったのか、きちんと見える化してPDCAサイクルが回せる状態をつくる必要があります。

エンプロイー・エクスペリエンスの定量化について、先述のグローバルヒューマンキャピタルトレンド2017では以下のとおり紹介がされています。

組織文化とエンゲージメントは、エンプロイー・エクスペリエンス にとって必要不可欠の要素です。先進企業では、ある人の(入社前の)ファーストコンタクトから退職以降までその焦点を拡げています。今日では、企業は 、従業員のジャーニーを観察し、社員のニーズを研究し、ネット・プロモーター・スコア(NPS)を使って、従業員のエクスペリエンスを理解しようとしています。職場環境の再設計、健康経営、そして生産性向上のシステムのすべてがHRの責任事項になってきているのです。

カスタマー・エクスペリエンスを定量化する手法として有名な調査手法「ネット・プロモーター・スコア(NPS)」の従業員版としてeNPSという調査・分析手法があり、eNPSを活用して定点的にエンゲージメント(従業員の推奨度)をチェックし、押し上げ要因、押し下げ要因を分析することで施策に活かすなど、エンプロイー・エクスペリエンス最大化に向けたPDCAサイクルを回すことが可能となります。

日本版ユニコーンとして注目を浴びるメルカリの躍進を見ればわかるように、エンプロイー・エクスペリエンスの最大化は、最も投資対効果の高い戦略と言えます。

皆さんの会社のエンプロイー・エクスペリエンスはいかがでしょうか。まずはeNPSなどの手法を用いてエンゲージメントを見える化するところからチャレンジしてみることをオススメします。