STP分析は、多くの企業で広く用いられている市場分析のポピュラーなフレームワークであり、マーケターはその分析方法を習得しておくことが大切です。この記事では、マーケター必修のSTP分析のやり方や事例、成功するためのコツを解説します。

目次

  1. STP分析の目的
  2. STP分析方法と活用
  3. STP分析の事例
  4. 事例から学ぶSTP分析を成功させるコツ
  5. STP分析でニーズを把握し事業を成功に導こう

▼STP分析についてのよくわかる資料はこちら

マーケターなら必須の知識!STP分析とは?

マーケターなら必須の知識!STP分析とは?

本書は、STP分析の基礎から具体的な施策に落としこむところまで例を用いて解説していますので、ぜひご覧ください。

STP分析の目的

STP分析は、セグメーション(市場細分化)・ターゲティング(狙う市場の決定)・ポジショニング(自社の立ち位置の明確化)からの分析により、自社と競合他社との違いを見極め、ビジネスに生かすことが目的です。市場の流れやユーザーのニーズは常に変化をしており、一定ではありません。ゆえにマーケット状況を理解し、時流に則した内容を細かく業務に反映する必要があります。

図2_STP.png

STP分析の概要についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:STP(エスティーピー)分析とは?マーケティング初心者が押さえたいフレームワーク

STP分析方法と活用

STP分析は3つの角度から市場における自社の商品・サービスの立ち位置を理解し、販売促進につなげるための指標を割り出します。ここでは各分析方法と、活用例を示します。

【S】セグメンテーションの活用例

セグメンテーションでは、不特定多数の顧客層を特定の属性ごとのグループに分けます。顧客を細分化することで、自社商品・サービにとってより関連性の高い層を洗い出すことを目的としてします。具体的には、主に次のような軸に沿ってグループ分けを行います。

不特定多数の顧客をさまざまな切り口で分類し、特定の属性ごとにグループ(セグメント)を作ること

セグメント軸 内容
ジオグラフィック
(地理的変数)
気候・文化・宗教を含め、国、都道府県、市区町村など地理的要素で分類
ビヘイビアル
(行動変数)
購買頻度や使用用途、利用状況や購買サイクル、顧客の購買能力などで分類
サイコグラフィック
(心理的変数)
好き嫌いやライフスタイル、思想、価値観、性格など、購買方針や購買意欲に影響する心理的要因で分類
デモグラフィック
(人口統計的変数)
年齢や性別をはじめ、職業、学歴、未婚・既婚などの属性で分類

●江崎グリコ「オフィスグリコ」

セグメント軸 内容
デモグラフィック ビジネスパーソン
ジオグラフィック オフィス街
サイコグラフィック コンビニでお菓子を買うのを避ける

江崎グリコ株式会社では、セグメンテーションを活用した戦略である「オフィスグリコ」で成功を収めています。

オフィスグリコのデモグラフィックでは、「ビジネスパーソン」を設定の軸に据え、ジオグラフィックではオフィスパーソンの集まる「オフィス街」を、サイコグラフィックは「コンビニでお菓子を買うのを避ける」という行動意識を設定し、分析を行いました。
結果的に3つの軸から絞り込まれた、オフィスグリコにニーズの深い層がセグメントされました。

●ユニクロ

セグメンテーションの傾向として、ユーザーの年齢・性別といったデモグラフィックでセグメンテーションを行うことが多い中、ユニクロでは、「顧客のニーズセグメンテーションを行っています。

導き出した「安くても長く使用できる」「デザイン性も持ち合わせている」など多くの顧客が持っているニーズはユニクロ製品の特徴と近く、商業的に成功しているセグメンテーション事例として挙げられます。

【T】ターゲティングの活用例

ターゲティングはセグメンテーションで分類した顧客層を、より絞り込む際に使用する手法です。ターゲティングには次の3つのパターンで絞り込みます。

パターン 内容
無差別型ターゲティング セグメントに固執せずすべての層をターゲットとする
差別型ターゲティング 複数のセグメントに、それぞれに合った商材を提供する
集中型ターゲティング 限られた層のみに集中して商材を提供する

●マクドナルド

ターゲティングで成功した企業の一つに日本マクドナルド株式会社があります。日本マクドナルドでは、ターゲティングに30~40代のファミリー層を置いています。
もともと安さや提供スピードの早さなどのニーズには応えていたところ、コロナの影響を意識したデリバリーやテイクアウトでもファミリー層の利用顧客数を増やし、オーダー時の品数や単価もアップすることができました。

●資生堂「夏のボディケア商品」

株式会社資生堂では、海水浴に行かなくなった若者世代の行動変化から、夏のアウトドア用ボディケア商品の売り上げが伸び悩むように。
アウトドア用ボディケア商品の購買ターゲットを、海水浴に出かける若者から、プールなど学校での屋外活動に勤しむ高校生に絞り込みました。商品を利用するであろう層をシフトすることで、売り上げの大幅アップに寄与することができました。

【P】ポジショニングの活用例

ターゲティングで絞り込んだ市場を調査し、自社の商品・サービスの立ち位置を把握するのがポジショニングです。ポジショニングでは、顧客の使用感や意識が商品・サービスの位置に影響を与えます。そのため、ポジショニングの分析には、顧客の視点から分析する4C分析を用いるとよいでしょう。次の視点が分析の指標となります。

  • Communication(コミュニケーション)
  • Customer Value(顧客が感じる価値)
  • Convinience(利便性)
  • Customer Cost(顧客の負担)

●花王「ヘルシア緑茶」

花王株式会社では、ヘルシア緑茶でポジショニングの成功事例があります。これまでペットボトルのお茶のメインユーザーは若者でした。
ヘルシア緑茶の商品特性から、コアユーザーを肥満が気になる中高年にターゲットを移し市場のポジショニングを行ったところ、健康のためにお茶を飲みたいというポジションに空きを見つけ、「健康のためのお茶ペットボトル」の立ち位置を手に入れることができました。

●吉野家

競合に対し、「グループ客や家族連れも入りやすい牛丼チェーン」という企業ポジションを確立しています。

●リクルート「スタディサプリ」

オンラインで英語学習ができる株式会社リクルートのスタディサプリは、「リーズナブルな価格でハイレベルのレッスンを提供するオンラインの予備校」と「短い時間で集中的に勉強する」という2つのポジションを確立しています。

▼STP分析の具体的な施策への落とし込み方はこちらでチェック

マーケターなら必須の知識!STP分析とは?

マーケターなら必須の知識!STP分析とは?

本書は、STP分析の基礎から具体的な施策に落としこむところまで例を用いて解説していますので、ぜひご覧ください。

STP分析の事例

STP分析で成功している6社の事例を紹介します。

1. 細かいターゲティングでブランド確立のコカ・コーラ

日本コカ・コーラ株式会社ではさまざまな飲料の商品開発や販売を行っています。これまでも時代に合わせた進化でヒット商品を生み出している同社が行うSTP分析は以下のような内容です。

● S:セグメンテーション

コカ・コーラをはじめとする炭酸飲料やソフトドリンク、お茶などを提供していますが、ただ単に飲料水と分類するのではなく、「食事に合う商品」というセグメントに分けています。
さらに、「和食に合うお茶」「朝食に飲みたいドリンク」などユーザーの趣向やニーズに沿って細かくセグメントしています。

● T:ターゲティング

商品ごとにセグメンテーションした市場に合わせて商品を販売する「差別型マーケティング」と、市場に同じ商品を提供する戦略である「無差別型マーケティング」の両方を組み合わせて、ニーズのあるユーザーを取りこぼさないためのマーケティング展開をしています。

● P:ポジショニング

広く認知されているコカ・コーラの「昔からあるコーラの味」のロイヤルティ原点回帰で確立したポジションをキープしています。「〇〇〇といえば」という企業イメージを維持することで、古くからのユーザーと新たな挑戦によって獲得したユーザーの両者を取り込むことができます。

2. 市場のニーズに多角的に応えたマクドナルド

ファミリー層へのアプローチで売り上げを倍増させている同社のSTP分析は以下のような内容です。

● S:セグメンテーション

コロナ禍で多くの飲食業界が打撃を受ける前から、日本マクドナルド株式会社では「デリバリー」、DXに対応した「デジタル」、進化系店舗「未来型店舗体験」のセグメンテーションの柱を掲げ、これらがコロナ禍など時代のニーズと噛み合い、大きく飛躍するきっかけを生みました。時代や世情にすばやく対応することの重要性を示しています。

● T:ターゲティング

30〜40代のファミリー層ビジネスパーソンをターゲットとし、子供向けのグッズ、大人世代に懐かしいキャラクターや男性タレントの起用など、イメージ戦略も奏功しています。

● P:ポジショニング

「提供スピードの速さ」「お手頃メニュー(バリュー)」そして、非接触販売を想定したモバイルオーダー」「ドライブスルー」などで、独自のポジションを築いています。
こうした取り組みは、郊外や地方への出店の際の指標ともなり、独自ポジションの構築がさらなる飛躍を担う一面を示しています。

3. 限定しないセグメントで幅広いニーズに呼応するニトリ

生活雑貨やインテリア用品、キッチングッズなどを販売する株式会社ニトリでは、以下のようなSTP分析を行っています。

● S:セグメンテーション

セグメンテーション限定せず、あらゆる人々を対象にしています。広く一般的なニーズに呼応するマーケティング展開でセグメンテーションに幅を持たせています。セグメンテーションは、提供する商品の購買層をどこに置くかを決めるものですが、商品内容をセグメンテーションに合わせる事業戦略もあります。

● T:ターゲティング

全体的なユーザーは20代〜50代ぐらいと年齢幅は広くなっていますが、都市に展開する店のターゲティングは中価格帯の製品を中心に据え、20代〜30代の女性や若い夫婦を設定しています。販売する地域性に沿ったターゲティング展開です。多くの競合の中でポジションを確立するには、広告や宣伝など、認知度を高める施策の成功が求められます。

● P:ポジショニング

ニトリは「品質や機能性の高い製品リーズナブルな価格で提供する」というポジションを確立・広く認知されています。

4. 顧客のニーズをセグメンテーションに置くユニクロ

株式会社ユニクロでは安さを訴求して進化し、現在のファストファッションの地位を確立しました。これまで以下のようなSTP分析を行ってきています。

● S:セグメンテーション

一般的なセグメンテーションは顧客の年齢や性別などで行う場合が多いですが、ユニクロでは「安くても長く使用できる」「デザイン性も持ち合わせている」など、顧客のニーズでセグメンテーションを行っています。セグメントの幅を広くし、市場のニーズに合わせた商品作りは、成功の可能性が高いといえるでしょう。

● T:ターゲティング

ユニクロの商品の特徴である「カジュアルやベーシックなファッション」を好む顧客を、すべての年齢層の男女で設定しています。客層を特化せず、日常的な商品を展開する企業にとっては指標になるターゲティングです。

● P:ポジショニング

流行に左右されず日常を豊かにする「Life Wear(究極の普段着)」で、競合他社との差別化を意識しています。キーワードの宣伝効果により、独自ポジションを築くことに成功しています。

5. 高級車の差別化に年齢や所得をセグメントのトヨタ(レクサス)

トヨタ自動車株式会社のレクサスは、「ショートパンツで乗れる高級車」「先進的で高品質」という商品特徴で、差別化に成功。STP分析の内容は以下の通りです。

● S:セグメンテーション

アメリカや日本、ヨーロッパの市場で、年齢層消費者の所得セグメンテーションの軸に置いています。高級品はある一定のニーズのある層に限定される場合があります。そうした層に確実に届けるために、限定したセグメンテーションを行う好例です。

● T:ターゲティング

ターゲットは、スティーブン・スピルバーグのような「カジュアルな高級車を好む人」と定めています。高級車の中でもカジュアル性を求める個別のニーズに応えたことを訴求します。

● P:ポジショニング

数々の歴史ある競合高級車との差別化として、商品コンセプトである「先進的で高品質」のポジションを確立しています。セグメンテーションで購入層を、ターゲティングでニーズを絞り込んだ結果、顧客のニーズと商品イメージがマッチした結果です。

6. 地理的・人口統計要因で絞り込むスターバックス

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社は全国展開にあたり、その土地を調査、ニーズを抽出した上で出店を行っています。そのSTP分析を以下に示します。

● S:セグメンテーション

ユーザーの年齢グループ男女別職業の分類経済的な地位の高さ・低さ、都市の規模といった地理的要因でセグメントを行っています。最終的に不採算とならないよう、出店計画は多角的な分析結果から判断します。

● T:ターゲティング

大都市・主要都市の出店におけるターゲティングでは、スターバックスの主なユーザーである平均以上の収入を得ているオフィスワーカーがいる土地、職業はデザイン職や専門職を意識し、内装やサービスに投下しています。企業イメージを軸に、実際のユーザー分析を反映したターゲティングです。利用率の多い職業ユーザーが「足が向く」内装にもこだわり、引き込みを図ります。

● P:ポジショニング

同業他社の中でも「都会的なおしゃれな雰囲気の店で高くて美味しいコーヒーを提供する」という独自のポジションを誇っています。セグメンテーションによって出店を広げた結果、実際訪れたユーザーの支持を広く獲得。一定のイメージの構築に成功しました。

事例から学ぶSTP分析を成功させるコツ

STP分析で成功を収めた企業の事例からは、自社で立てたビジネスの業務コンセプトが適切かを判断するためのフレームワークとして学ぶことができます。その上で、次の3つのコツを押さえておきましょう。

戦略を明確にする

分析の結果、自社の商品・サービスが顧客のニーズに合っていたとしても、マーケティング戦略が適切でなければ思ったほどの効果を得られない可能性があります。STP分析で把握したユーザーのニーズや指向を深掘りして「顧客への適格なアピール方法」「どのように市場に参入していくか」といった、明確なマーケティング戦略を立てることが重要です。

需要の有無を確認

新規ビジネスを起こす場合は、特にSTP分析での結果を大いに生かすことができます。新たにビジネスを展開する際は、詳細なペルソナの設定が重要です。ペルソナの設定には、「どんな顧客がいて、どんなニーズを持っていて、競合他社はどれくらいいるのか」といった市場の現状を具体的に把握しておく必要があります。

STP分析では、そうした市場の現状分析が可能です。STP分析して得たデータで、新たな商品やサービスを成功に導くための重要な判断ができます。

競合との差別化

STP分析を行うと、ポジショニング分析などから競合他社について理解・知識が広がるのがメリットです。定めた市場で成功するには、他社との位置関係や優位性の有無などを正しく理解しておく必要があります。STP分析では自社の市場における立ち位置を明確にできるので、競合との差別化を図るための施策が組み立てられます。

STP分析でニーズを把握し事業を成功に導こう

STP分析はセグメンテーション、ターゲティング、そしてポジショニングと3つの角度から市場での立ち位置を理解・販売促進につなげるための指標を割り出す手法です。多くの企業がSTP分析で導いたデータを基に自社商品・サービスの販売戦略を立てますが、実際成功に収めた商品・サービスは、事例として自社のマーケティング施策の参考となります。

STP分析では自社と競合他社との違いを見極め、ビジネスに生かすことが目的です。常に変化する市場の流れやユーザーのニーズを把握し、内容を細かく業務に反映、成功に導いていきましょう。

▼STP分析についてもっと詳しく知りたい方はこちら

マーケターなら必須の知識!STP分析とは?

マーケターなら必須の知識!STP分析とは?

本書は、STP分析の基礎から具体的な施策に落としこむところまで例を用いて解説していますので、ぜひご覧ください。