ferretをご覧の皆さん、初めまして。LINE株式会社の谷口マサトです。

私は普段、スマートフォンで見られるコンテンツ広告を制作しています。今回からスタートする連載では、1億総作り手時代に「子どもがクリエイターになる練習ドリル」と題し、子どもが簡単にクリエイティブを学べる方法を紹介したいと思います。

連載のきっかけとなったのは、仕事を美大生に手伝ってもらう中で「上手い人は多いのに、面白い物を作る人が少ないのはなぜだろう?」と不思議に思ったことです。

学生に聞くと、企画の立て方について習うことは少ないそうです。学生や子どもがコンセプトや企画を学べる教材がないか、探してみたのですが中々見付かりません。じゃあ試しに作ってみようというのが今回の連載です。子ども向けというより、子どもをもつ親向けに書いていきます。

第1回目のテーマは「教科書に落書きしよう!」です。
  

評価軸は「上手」「下手」ではなく「面白い」もあるべき!

スマートフォンで見られるクリエイティブを考えた場合、画面が小さいので「美しさ」を伝えることは、映画などの大画面に比べて難しくなっています。見た瞬間に驚きがある、企画やコンセプトが面白い方が有利になりつつあります。

一部の学生は飛び抜けて斬新な表現で活躍しているのですが、多くの学生を見ていると「学校で面白いかどうかで評価されてないのではないか?」と感じます。

自分は美大卒ではなく、横浜国立大学で建築を学んだのですが、小学校から高校までの美術の授業を思い出してみても、「上手いかどうか」で評価されており、「面白いか?」という視点で評価してくれる先生は稀でした。

私には4歳の娘がいますが、この子が大きくなって美術を習いだすと、かえって面白くなくなるのではないか?と心配になります。「上手いかどうか」という訓練と評価の中では、下手すれば面白みは邪道として排除されるからです。

だからこそ、ferretで連載を始めるにあたり、1億総作り手時代に「子どもがクリエイターになる練習ドリル」というテーマでスタートすることにしました。

小学生の「将来なりたい職業」にYouTuberやゲームクリエイターが挙がっているそうですが、インターネットによって誰でも作り手や表現者になれる環境が揃ってきました。

親としては、まず「将来食いっぱぐれて欲しくない、そしてできるなら好きなことをして欲しい」と願うはずです。単純な知的労働がAIに置き換わっていくこれからの世界で、子どもをクリエイターにしたいと願う親は増えていくのではないでしょうか。
  

コンテンツは作り手と視聴者の勝負!

「なぜこの連載を始めるか」という理由は以上のとおりですが、実際にどうやるかをこれから紹介します。

そもそもここまで読んで頂いて、「じゃあ面白いってなんだよ」「上手いって何を指しているの?」と思う方もいるはずです。

私はコンテンツを大量に作るために、コンテンツを「作り方のパターン」で分類しています。これは自分の企画だけではなく、映画やドラマを見ても、作者側から見て「こういうコンセプトで作っているな」「このパターンを使っているな」という風にみる癖がついています。これはもちろん私だけではなく、作り手側であれば多かれ少なかれそういう視点で作品を見ています。

コンテンツは作り手と視聴者の勝負だと思います。作り手はなんとかコンテンツを見てもらいたいと工夫します。一方で視聴者は固く自分をガードしており、できるだけつまらない物をブロックして、面白いものだけを見たいと思っています。
  

「情報量を多くする」上で押さえておきたい2つのポイント

"勝負"と考えた場合、戦争でも何でも「情報が多い方が勝つ」という原理があります。

戦国時代の武将たちも、できるだけ相手より高い場所に陣取ろうとしました。その方が相手より情報量が多くなるからです。

「情報量を多くする」というのはコンテンツの世界も同じで、ジブリの作品も最初に驚かれたのは、その情報量の多さです。昔のアニメの作画は現在に比べて情報量が少ない、荒っぽいものでした。例えば、初代「ガンダム」の作画は、現代で見ると荒っぽさが目立ちますが、当時はそれが普通でした。

その中でナウシカやラピュタなど、背景やメカが綿密に書き込まれ、動作のディテールに凝ったジブリのアニメは、1秒あたりの情報量がまるで違っており、非常にインパクトが大きかったのです。視聴者は情報が多い方を好むのです。

この「情報量を多くする」がコンテンツの最上位の原理だと思います。そして、この原理は「どう情報を多くするか?」という2つの原理に分解できます。
  

ポイント1 上手くすること

1つ目は「上手くする」で、1つの面積の書き込み量を増やすことです。これは年々増えています。アニメよりもゲームの世界の方が顕著です。例えば、ゲームの初代「バーチャファイター」はカクカクしたポリゴンの集まりでした。

コンテンツにおける「ムーアの法則(半導体の集積率は18か月で2倍になる)」のように、どのコンテンツでも年々「上手く」「美しく」なっていきます。

ただ、これは美術の授業で普通に習うことで、「もっと色をたくさん使いなさい」などと言われた経験があるはずです。教材もたくさんでているので、この連載ではスッパリと扱いません。
  

ポイント2 面白くすること

もう1つは「面白くする」で、1つの情報を2倍以上にすることで情報量を多くする方法です。例えば、マツコデラックスは、男なのか女なのかよくわからないという意味で、普通の男女より2倍の情報になっています。

まとめると、「情報量を多くする」ために「1つの面積に詰めこめる情報を多くする」のが上手で、「1つの情報に2つ以上の意味を与える」のが面白い、という定義です。なぜ面白いかというと、意識は1度に1つのことしか処理できないため、意味が2つ以上になると混乱するからです。

目的は同じく「情報量を多くする」ことですが、前者が直線的に情報を並べていう方法なのに対し、後者はできるだけ並列的に情報を構成する方法です。直線と並列、いってみればこの2つしか情報を増やす方法はないのです。
  

「1つの情報に2つ以上の意味を与える」とは?

そう考えると、複雑そうに見えるクリエイティブが整理されていきます。

「1つの情報に2つ以上の意味を与える」ってどういうこと?という方が多いと思いますが、表現としては「知っているものを見たことがない形にする」という方法がよく使われます。

例えば、フランシスコ・ザビエルは、誰もが教科書で知っています。知っているものが落書きによって別人になることで、1つの情報が2つに増えています。

多くの企画は、この原理を使って情報量を増やしているだけです。例えば、日清はCMで「高校生のサザエさん」を流して話題になりましたが、これも「みんなが知っているサザエさんの、見たことがない姿を写す」という効果によって情報量が2倍になっています。

単なる落書きと異なるのは、コンテンツの多くはチームで制作するため、企画書を作って言葉にしていく作業が必要になります。この場合、「ザビエルの落書き企画書」は次のようになります。

● ザビエルの落書き企画書
ザビエルの特性を活かした落書きをします。

1. ザビエルの性質を逆にする
 1-1. 増毛する
 1-2. 俗物化する
 1-3. 極悪にする
 1-4. 性転換する
2. ザビエルの性質を極端にする
3. ザビエルを現代風にする(ズラす)

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これまでを振り返ると、次の5つの手順で落書きしています。

1. 「情報量を多くする」ために、
2. 「1つの情報を2つに増やす」原理を使い、
3. 「知っているものを見たことがない形にする」という表現で、
4. 「ザビエルを題材にして落書きする方法」を企画し、
5. 「落書きする」

「何も考えずに落書きすればいいじゃん」と思うかもしれませんが、そうするとスキルが体系化できず、落書きがいつまでたっても面白くなりません。

子どもが教科書に落書きすれば、普通は親が怒ると思いますが、私なら「どうせならみんなが注目するくらいの落書きをしなさい」と言って、子どもとチームになってどうしたら良い落書きをできるかブレストしたいです。ちなみに下ネタと炎上芸は、違った練習になるので厳禁です。

まずは企画書で列挙したような、描いた落書きはどのような方法を使っているかを子どもに尋ねて、子どもがクリエイティブをできるだけ言語化できるように手伝いたいです。落書きは無意識で描きますが、その一連の無意識を特定して名前を付けることで、意識的に無意識を呼び出して使えるようになります。クリエイティブの練習はその繰り返しで、自分の無意識の活動を観測して名前を付け、呼び出せるスキルセットを増やしていきます。

もちろん、全ては言語化できないのですが、言語で体系化したクリエイティブスキルは、創作するときの土台となって多いに助けてくれます。

原理やパターンというと、ワンパターンになってしまって逆にクリエイティブじゃなくなるのでないか?と思う方もいると思います。その心配は不要で、原理は共通でもどう表現するか?という方法で個性がハッキリ出てきます。

例えば、歴史が好きな人だったら「歴史上の偉人を現代風にしてみた」といった時代をズラす方法を好んだり、その人の興味によって表現方法はいずれ偏っていって、その人の必殺技になっていきます。

私の場合はストーリーを重視したコンテンツをよく作っていますが、これは面白系では先行していたサイト「デイリーポータルZ」がドキュメンタリー的であることと、もう一つの面白サイト「オモコロ」はおそらく「デイリーポータルZ」への配慮から妄想系を得意としていたため、ストーリーが空いていたからです。
  

さいごに

芸人でも「今どのポジションが空いているか?」を考えて芸を練っていきますが、クリエイティブにこそマーケット感覚が求められます。

子どもにも、「この落書きはよくあるやつじゃない?」「まだ書かれたことがない落書きってどんなもの?」などと質問を投げかけ、マーケット感覚を養う訓練をしていくことも大切でしょう。

最後に「できた落書きをどう評価するのか?」というタスクですが、シンプルにSNSに投稿し、反応の大きければ褒めてあげれば良いでしょう。改めて、下ネタと炎上を狙う路線は別の練習になるので厳禁です。

繰り返しになりますが改めて手順をまとめます。

1. 「情報量を多くする」ために、
2. 「1つの情報を2つに増やす」原理を使い、
3. 「知っているものを見たことがない形にする」という表現で、
4. 「教科書の落書き」でまだ書かれてない分野を探して企画し、
5. 「落書き」をSNSに投稿して反応を見て採点しましょう。

SNSは何でもよいですが、Twitterかインスタグラムか、友だちに限定するならLINEのタイムラインへの投稿から初めてみても良いと思います。全ての落書きを怒るのではなく、面白くない落書きを怒ってあげてください。親の指導によって落書きが上達すれば、尊敬してくれるかもしれません。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

もしSNSに投稿して「教科書に落書きするな!」とツッコマれた場合は、「落書きしたことがない者がまず石をなげうて」と返しておいてください。