組合せ最適化を実現する「量子アニーリング」

そして、昨今の量子コンピュータ分野の報道でしばしば目にするのが、*「量子アニーリング」(量子焼きなまし法)*です。ここでも、「量子アニーリング」についてできるだけ単純化して解説していきます。

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現行の量子コンピュータは、大別して2種類の作り方があります。一つ目が*「量子回路方式」(ゲート方式)*と呼ばれるもので、どちらかといえば古典コンピュータに近いものになります。

暗号解読に使われるととんでもないことになる、と言われているのがこちらの方式で、複数の状態を重ね合わせする「量子ビット」もこのタイプで利用されます。しかし、研究が進みながらも、まだ実用レベルまで達していないのが現状です。

もう一つが、*「量子アニーリング方式」*と呼ばれるもので、1998年に東京工業大学の西森秀稔教授らが提唱した国産の手法です。

扱える変数は古典コンピュータよりも極めて低い2000個程度までしか扱えないため、用途も非常に限定的で、しかも超低温状態にしなければ作動しません。

しかし、できることが限られている反面シンプルで、組み合わせを最適化する問題に適していると言われています。

古典コンピュータやゲート式量子コンピュータでは、まずアルゴリズムを書いてやりたいことを実行させる必要がありますが、量子アニーリング方式ではパラメータを設定するだけです。

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D-Wave / MIT Tech Review

Webに慣れている人であれば、WebAPIを使うのに似た感覚だと言えば実感できるかもしれません。実のところ、2011年にカナダ・バンクーバーに突如現れて物議を醸した商用の量子コンピュータ*「D-Wave」*は、インターネット経由でAPIをコールする形で利用することができます。

IoT(モノのインターネット)が私たちの生活に浸透しつつある今、膨大な情報を高速で処理するのに一役買うだろうと期待されています。

結局のところ「量子アニーリング」は、何に役立つのでしょうか?*「組み合わせ最適化」*に特化しているということは、より分かりやすく言えば「たくさんの選択肢の中から最もよい選択肢を探し当てる」ことが得意です。

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組み合わせ最適化によって役立つ典型的な例として、*「巡回セールスマン問題」*というものがあります。

これは、セールスマンがたくさんの場所を訪問して営業する際に、移動時間や交通費といったコストを最小化した選択肢を導き出す方法です。量子アニーリングによって、営業マンは自分の「長年の勘」に頼らなくとも、ベストな訪問先をコンピュータが選んでくれることになります。