Amazonや楽天市場などのネットショップ、FacebookやTwitter、InstgramなどのSNS。インターネットでは、次から次へと新しいプラットフォームが登場し、それらを活用したビジネスが生まれています。

多様化するプラットフォームの中で、自社を発信してユーザーに見つけてもらうのは難しい作業です。Webマーケティング担当者は、これらのプラットフォームをどのように活用していくべきなのでしょうか。

クラウドファンディング「CAMPFIRE」や、友人を対象とした少額支援フレンドファンディング「polca」などを提供する株式会社CAMPFIREの代表取締役社長を務める家入一真氏は、さらに少子高齢化が進み、経済が縮小する中で「小さな声が上げられるサービスが必要になってくる」と言います。次から次へと新しいプラットフォームが登場する現在は「個人」が始める「個人」のためのサービスが重要になるためです。

多くの事業を手がける家入氏にアイデアの源泉や情報発信の手法、プラットフォームの共通点、さらに現在考えている「人生定額化プラン」についてferret 創刊編集長 飯髙悠太が伺いました。

家入一真氏 プロフィール

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1978年生まれ、福岡県出身。 「ロリポップ」「minne」などを運営する株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を福岡で創業、2008年にJASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役社長に就任。他にも「BASE」「PAY.JP」を運営するBASE株式会社、数十社のスタートアップ投資・育成を行う株式会社partyfactory、スタートアップの再生を行う株式会社XIMERAなどの創業、現代の駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開なども。インターネットが趣味であり居場所で、Twitterのフォロワーは18万人を超える。

喜ばせたい人の顔を思い浮かべて手紙を書くようにサービスを作る

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飯髙
家入さんは今まで数々のサービスを手がけてきていますよね。そのアイデアの源泉はどこから生まれるのですか。

家入 氏
自分としては、アイデアが湧き出て止まらないタイプなどでは全然ないですね。むしろ、アイデアというもの自体に僕自身が価値を見出してはいないです。どちらかというと、作ろうとしているサービスやプラットフォーム、コミュニティの後ろにある物語や原体験を大事にしています。

僕は、喜ばせたい人の顔を思い浮かべて手紙を書くようにサービスを作るということを大切にしているんです。「これを作ったらあの人が喜んでくれそうだな」「あの人はこれに困ってそうだな」「こういうのものを作ったらあの人の役に立てそうだな」とか。そんな風に具体的な誰かを思い浮かべて、その人に向けて発信するようにサービスを作ります。

それが時には、自分の親だったり、兄弟だったり近い友人だったり、自分自身も含めですね。そういったところからサービスを作るので、アイデアありきで作ることはほとんどないです。「この人のためにこれを作ってあげたい」という課題を見つけてきて、その課題解決をどうするかというのが源泉になってくるのかな。

飯髙
確かに、Twitterでアイデアには意味がないとつぶやいてましたね。

家入 氏
そうですね。昔からそれは思っています。僕はよくエンジェル投資をやっているので、大学生や若い企業家志望の子に日々会います。その中にはアイデア帳にアイデアをたくさんメモしてる子が一定数います。でも、アイデアだけにはそんなに価値はなくて、なぜそれをやるのかという意義や、それを自分がやることで生まれる物語、そちらの方が大事です。

僕は今の時代にゼロベースのアイデアなんてないと思っているので。その人だからやる意味があることをやるべきです。

あと、アイデアはメモした時点で死んじゃうと思っています。アイデアはメモしないほうがよくて、思いついたことはバンバン呟いたほうがいい。「自分だけのアイデアだ」とメモに残して絶対誰にも見せたくない、みたいな人もいますけど、そういうアイデアはあまり面白くなかったりします。

そもそも、パクられるんだったらパクられるぐらいのものだったんだろうし。それを発信した後に、それをSNSで見た人が集まって手伝ってくれることもあります。
とりあえず思いついたことは発信したほうがいいです。

0円にすることで生まれる新しい価値観を見てみたい

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飯髙
家入さんが事業を始める時に、フリーミアムでスタートすることが多いのに理由はありますか。

家入 氏
そうですね。すべてがフリーミアムで始まっている訳ではないですが、小さく試すのはすごく大事だなと思っています。小さく立ち上げて、走りながら左右どちらに行くのか判断して行くので、自ずと、まずは無料で使ってもらおうといったところからスタートするのが多いのかな。

僕がやっていた「青空学区」という完全無料のプログラミングスクールがあります。これをなぜやったか説明すると、教育って受講する側がお金を払ってその受講料で運営するのが当たり前のようにされているじゃないですか。この授業料を0円にしたら何が生まれるのかを見てみたかったんです。

大きな話になりますが、学級崩壊やモンスターペアレンツの話って、お客様意識の肥大化ですよね。ようは、自分はお金を納めているからお客さんであり、先生は生徒に対してサービスをすべきであると。だったらこれを0円にしてみたら、また違う世界が見えるんじゃないかと思ったんですよね。

実体験ではないのですが、僕がよく話す好きな話があって。大阪でホームレスの方が5円玉を5円で売っているんですよ。5円出せば5円買えるんです。

「5円を出して5円を買うって意味あるのか」って思うじゃないですか。確かに意味はないんですけどね。でも、一見無意味なやり取りなのですが、実際には5円を出して5円を買う時にコミュニケーションが生まれているんですよね。売っている人に「なんで5円売ってるの?」って話もするだろうし、現に僕が色々な場所でこの話をしまくってますし。このコミュニケーションに5円以上の価値って生まれているはずなんですよ。これをフリーミアムっていうのかはよくわからないですけど。

無料とか、何も価値がないと思い込んでいるけれど、実はそんなことないっていうものは色々なところにあるんじゃないかなとよく思っていますね。

面白そうだけでは選ばれない時代

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飯髙
家入さんが色々な事業で「コミュニティ」や「共感」を大切にしているのはなぜですか。

家入 氏
うーん。大切にしてるのかな。

でもそうですよね、なんでだろう。

飯髙
(笑)

例えば、クラウドファンディングって基本的には「モノ」が軸じゃないですか。でもCAMPFIREを見ていると、人にフォーカスしているなってイメージがすごくあって。ここには共感とか、そこに集まるコアファンっていうものが、モノより集まりやすいのかなって思うんです。

ちょっと質問の仕方を変えると、なぜモノからヒトにフォーカスを変えたのかなって。

家入 氏
そうですね。最初に話した、後ろに物語があるかないかというのを大事にしています。実はモノだけ取り上げても、その裏にどういった作り手がいて、どのような思いや物語が込められているのかっていうところまでブレイクダウンしていくと必ずヒトに行き着きます。そういった意味でヒトにフォーカスが移っていったように見られるのかもしれません。

僕は「なぜこれをやる必要があるのか」を大事にしています。それがあるモノとないモノが明確に見透かされる時代なんだと思うんです。ただ面白そうだからやりましただけでは選ばれない時代になっています。その裏にどういった物語があるのか。それに共感するヒトたちがSNSで拡散してくれたり、モノを買ってくれたり、応援してくれたり、そういった消費につながっていくのだと思っています。

「モノ消費からコト消費」みたいな言い方もされたりしますけど、単純なモノだけとか値段、機能だけではなくて、その後ろにあるものを拾い集めていくような作業なのかな。それが本質的に大事だなと思います。

それこそ「身近な人を思い浮かべて手紙を書くようにサービスを作る」っていうのもまさにそこに行き着きます。この人に届けたい、というところからモノを作っていくと、世界中の人に使ってもらえるものじゃなくてもコアなファンがつくんです。薄く広くっていうよりは、狭く深いファンを作っていくような。そういうのって共感ベースで広がっていくものです。

飯髙
CAMPFIREのパンフレットにある「5,000万円のプロジェクトひとつより、50万円のプロジェクトを100個、5万円のプロジェクトを1000個立ち上げたい」に近いですね。
その本質には、お客さんが喜んでそこにお金を払ってくれるモノに価値があるということでしょうか。

家入 氏
それこそクラウドファンディングの本質です。強いていうなら、インターネットやテクノロジーの本質はそこにあると思います。従来だと一部の人にしか手が伸ばせなかったような手法とかモノとか利権とかを解体して一般の人でも使えるようにしていくのがテクノロジーによる民主化なのだとすれば、個人の小さなやりたいことに使ってもらえるクラウドファンディングが本質的に大事だと思っています。まだまだそこまで行き着けていないなって。「polca」はそれをさらにブレイクダウンしたものです。

自分自身がコミュニティの一員でいたい

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家入 氏
コミュニティを大事にしているのは、僕自身がそのコミュニティの中に入っていたい気持ちがあるからだと思います。僕はよく「居場所」という言葉を使うんですけど、僕自身もここにいていいんだと思える居場所をたくさん作りたいです。会社もそうですし、プラットフォームやサービスもそうですし、「リバ邸」っていう現代の駆け込み寺シェアハウスもそうです。

サービスの中で広がっていくコミュニティもそうなんですけど、僕の掌の上でって発想ではありません。きっかけとしては僕も関わったけれども、僕もまたその中のただの一員としてみんなと共に新しい世界を見ていきたい。そういう思いが常にあります。そのコミュニティの中で支えられて生きているからです。

なので共感やコミュニティっていうのは、僕自身がその中にいることで心地がいいから大切にしているだけなのかもしれません。

まずは発信すること。発信しないと見つけてもらえない

飯髙
プラットフォームデバイスってどんどん新しいものが出て多様化していますよね。その中で自分を見つけてもらうにはどうすれば良いと思いますか。

家入 氏
自分を知ってもらうにはってことですよね。

飯髙
そうですね。

家入 氏
常に与え続けることだと思います。そのために使えるものは使った方がいいです。

例えば、僕は今Twitterのフォロワーが18万人ほどいるので、新しいサービスを始める時にフォロワーが0人の人が発信するよりブーストがかかります。
僕のフォロワーも昨日まで0人で今日18万人になったのではないですよね。堀江さんみたいな有名人も同じです。あれだけすごい人だと生まれながらにして「ホリエモン」みたいなイメージを描かれがちですけど、そんなことはなくて。日々の小さな積み重ねで、今の堀江さんがいるんです。本でも書いてましたが、最初はみんなゼロなんです。そこを意識することがすごく大切です。

それでは何を積み重ねていけばいいのかっていうと、まずは発信することです。自分がやろうとしていることへの思いや、やっていることへの思いをとにかく発信し続ける。まずは発信しない限り、見つけてもらえないので。
とはいえ、いきなり無名の方が発信し始めてもいきなり見られることはなくて、その思いに共感する人が1人2人と増えていって少しずつ知ってもらえるようになっていくと思います。まずは発信して、見返りを求めず、与え続けるってことですね。

もうひとつは、とにかく動き続けることかな。例えば、僕がやっているリバ邸って活動は、僕自身に金銭的な見返りは一切ないです。むしろ持ち出してる。だけどこういう居場所が世の中になくて、必要だと思って立ち上げました。それが六本木、渋谷と広がって、リバ邸にきた子たちがさらに故郷にも広げていく。そうしたら、僕が「これをやりたい」って時に、「自分はこんなことができます」と声が返ってきます。

これって、リバ邸が普通のシェアハウスビジネスだったらなかったと思うんですね。こういう場所が必要だよねって自分から動いて、自分で場所を作っていくと、少しずつ賛同してくれる人たちって増えていきます。とにかく動き続けて与え続けることなんだろうなって思いますね。

短期的な見返りを求めると、そんなに大きなことはできません。中長期で必ず自分が社会や仲間や助けたいと思う人たちに与え続けると、それがいつか大きくなって帰ってくるって僕は信じてます。それに、目の前の短期的な利益を得ようとすると小さなことしか得られなくなります。見返りを求めず、与え続けることです。

どうやったら自分の発信をシェアしてもらえるかを考える

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家入 氏
今って何だってありますよね。FacebookやTwitter、noteやクラウドファンディング、YouTubeなど使えるものは何だって使った方がいいです。僕もTwitterでDMをもらって面白いなって思う子がいたら会いに行ったり、飲みに行ったりすることがあるんです。会って一緒に面白がって、手伝うよ、ってなることもあります。

僕に連絡してきた理由が明確に見えると、面白いし手伝ってみようかなって思えるので、「こういう人に使ってもらいたい」とか「この人だったら自分のこと面白いと思ってくれるかな」って方に連絡してみるのも一つの手かなって思います。

あとは、どうやったら自分の発信をシェアしてもらえるか考えるのは本当に大事です。例えば、友人からこれちょっとシェアしてって言われた時に、「シェアしたいな」と思うものと「ちょっと嫌だな」と思うものがあります。
自分がシェアする側に立った時に、どういう目線のメッセージを発信したら周りの人がリツイートするかなと考えるのがすごく大事です。

BASE(誰でもネットショップを開店できるサービス)を立ち上げたとき、代表の鶴岡裕太くんにBASEを作った背景をとにかく発信しろってアドバイスしたんです。BASEは鶴岡くんのお母さんが大分でブティックを経営していて、ネットショップをやりたいのにやり方がわからない。そういう人が簡単に無料で使えるサービスを作ろうってところからできました。最初に言ったように、身近な人のために手紙を書くようにサービスを作ったんですよね。

人は、どうしてBASEが生まれたか、という背景に対して共感し、その共感を他人におすそ分けしたくてSNSでシェアをするんです。当時無名の鶴岡くんが「こんなサービスを作ったよ」とだけ呟いても、それはシェアされないと思うんですよ。だけど、「故郷のお母さんに使ってもらえるショップサービスが欲しくて作ったよ」と呟くことでシェアされるんですよね。
どうやったら共感してもらえるのか。どうやったら物語を面白がってシェアしてもらえるのかを考えていくことが大切なんです。

すべては「小さく声をあげられるサービス」で繋がっている

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飯髙
家入さんがいま、CAMPFIREにこだわるのはなぜですか。今まで携わってきた事業との違いってありますか?

家入 氏
今までやってきた色んなことがすべてここに落とし込めるんですよね。最初でもお話ししましたが、僕が立ち上げるビジネスって僕だからやる意味があることなんです。CAMPFIREを立ち上げた理由も、僕のそれまで辿った人生の中で、自分がやるべきだと思ったから始めました。

なぜやるべきだと思ったかというと、もともとは自分が油絵で芸大に行きたかったってところから始まっていて。でも金銭的な理由で結局行けませんでした。その後レンタルサーバーのサービスを立ち上げたり、カフェをやったり、リバ邸っていう居場所作りをしたり、都知事選に出て落選したり色々やりました。

絵をやっていた時にみんなでグループ展をやったんですね。ギャラリーを借りるのって高くて学生だからお金もなくて。そのあとレンタルサーバーの「ロリポップ」を立ち上げたのは、「ホームページなら安くギャラリーを作れるじゃん」ってところから来てます。絵を発表したいと思った時に、それに共感・応援してくれる人がいて、1人から10万円の支援は難しいけど、1,000円を100人からだったら集められるんじゃないかなって思うんですね。

カフェの立ち上げにも資金が必要だから、クラウドファンディングで資金を集める飲食店も増えていくだろうし、居場所作りや選挙を通じて出会ったNPOや支援団体にもクラウドファンディングを通じて支援できる。今までの人生を振り返った時に、めちゃめちゃやるべきことだなと思いました。まさに僕がCAMPFIREをやることで、それまで作ってきた繋がりが全部落とし込めるんです。

もう1つは、僕自身がとても貧乏な家で育ったというのもありますが、お金が原因で学ぶ機会が奪われてしまうのはすごく残念だなと。それをテクノロジーでどう解決していくかってことが、僕のやるべきことかなと。これから少子高齢化が進み、経済的に小さくなっていく中で、声をあげたくてもあげられない人たちが増えていきます。その時に、「共感」や「コミュニティ」をベースにして、小さく声をあげられるサービスが大事になっていくのだと思います。

CAMPFIREと他の事業との違いはなくて、すべて一貫して繋がっているんです。基本的に個人に向けたサービスであり、個人が小さく立ち上げる。それが表現だったり、ショップだったり、レンタルサーバーだったり。小さく声をあげられるプラットフォームである点はずっと延長線であるという感じです。

この先に何が待っているのかは自分にもわからないです。CAMPFIREを頑張ります。

新たなプラットフォーム構想? 「人生定額化プラン」

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家入 氏
今までCAMPFIREやBASEなど、個人が共感をベースにお金を得るサービスを作って来たつもりです。でもこれからの小さくなる経済の中で、お金を得るというだけではダメで。もう1つ、リバ邸のような「生活費を下げる、生きるコストを下げる」っていう観点の居場所作りをライフワークにしていきたいなと思っています。

「人生定額化プラン」って言い方をしているのですが。クラウドソーシングなどもあり最近は月3〜5万ほどだったら稼ぎやすい世界になっていると思ってます。一方で、月3万円では生きていけません。例えば、リバ邸のように月3万円で生活できるシェアハウスが増えて行けば、月3万円だけ稼ぎながら生きていくことができるんですよね。そうすると、失敗してもまたここに戻って来ればいいやって思えるし、小さくチャレンジするってことがしやすくなる。

お金を得る仕組みを作る一方で、生活費を下げながら支え合って生きていくコミュニティをライフワークとしてやっていきたいです。それを僕は「人生定額化プラン」と呼んでいます。

まとめ

家入氏が今まで手がけてきたプラットフォーム。その共通点やサービスの誕生の裏にあるメッセージについて語っていただきました。

家入氏が手がけてきたサービスにはすべて「小さな声をあげられるプラットフォーム」という共通点があり、それが現在のCAMPFIREにも繋がっています。

プラットフォーム立ち上げの際には、身近な誰かをイメージし、その人のためにサービスを作る。それらのプラットフォームを活用し自己を発信するには、まず声を上げる。そして、相手の立場になって、「どうしたらシェアしてもらえるか」を考える。
これは、個人経営者や企業のWebマーケティング担当者にとっても大切なことなのではないでしょうか。

ユーザーの声に耳を傾け商品・サービスを開発し、ユーザーが共感したくなるような発信をする。家入氏の言葉には、プラットフォームを活用したWebマーケティングのヒントが溢れています。

Photo by 青木勇太