小さな画面でもコンテンツはしっかり読んでもらえる

松尾氏
松尾氏:
ユーザーを分析する際には、何でもかんでも自分で考えた想像の中で定義していくのではなく、コンテンツをつくっている側が「実際にユーザーってこんなふうに動くよね」という客観的な観測が重要です。

例えば、「モバイルのユーザーはページを長く見てくれない」と断定している記事をたまに見かけます。あれはしっかりとコンテンツをつくっている側からすると全くの間違いです。なぜなら弊社が作成しているワインのサイトは滞在時間が16分、17分あって、モバイルのユーザーがとても多くいるからです。

確かに「モバイルの画面はすごく小さいし、スクロールに時間がかかるので、モバイルを使ってコンテンツを読む人って少ないのでは」みたいに思われるんですけど、実際に情報を探している人や本気度が高い人はスクロールして読み込みます。昔の携帯小説やガラケーの携帯小説が流行ったみたいに、面白ければ読むんです。

それこそガラケーのインターフェースは今思えば決して利便性の高いものではありませんでした。それにも関わらず「恋空」とか普通に数時間かけて読んでいたじゃないですか。つまり、ページが読まれない原因はコンテンツ側にあって、デバイスが問題ではないんです。むしろ、スマホの小さな画面は余計な画面情報が少ないので、集中して読み込みやすいのかもしれません。

「誤字脱字はあってもいい」人間臭いチェックツール

松尾氏
飯髙:
コンテンツの質といった時に文賢には誤字脱字の検出機能があります。Webメディアは誤字脱字が多いことがコンテンツの質を下げる要因になっているという意見もありますよね。この機能もそういったコンテンツの質を担保するために実装しているのですか?

松尾氏:
確かに文賢には誤字脱字の検出機能があり、この機能をしっかり強化したいと考えています。しかし僕個人としては「文章の中に誤字脱字はあっても構わない」と思っていますね。例えば、一生懸命書いている文章に対して、すべてが完璧だったらまるでテンプレートをコピーしたかのようで、むしろ書いている時の筆者の温度感が伝わりにくい。

文賢は顧客のサポート業務にも使われることを想定しているのですが、例えば、すごく怒っているお客さまのメールに返信するときに、その文章があまりに理路整然としていたら「本当に気持ちを込めて対応してくれているの?」と取られることもあるでしょう。

むしろ、誤字脱字を残しておいたほうが本気度が伝わるかもしれない、という視点を伝えるようなツールにもなれば面白い。より人間臭いチェックツールというか、完璧がいいだけではなく、重要なのはどのようにコミュニケーションするかです。

飯髙:
人間臭いチェックツール。いい言葉ですね。

松尾氏
松尾氏:
弊社が軸としていることがまさに、このコミュニケーションという言葉です。

文章は「相手に一方的に読んでもらうもの」という考え方がおかしいのです。僕はコンテンツを発信しているとき、読み手はコンテンツと対話している、と考えています。つまり、双方向のコミュニケーションが発生しているわけです。

なぜかと言うと、コンテンツを読んでいるユーザーは心の中で同意したり、ツッコミを入れたりしています。これはコンテンツと対話していると言えます。いいコンテンツというのは対話が成立するコンテンツなのです。このように考えると、相手が思考する時間を与えるための「行間」を空けたり、相手が理解しやすいような分かりやすい言葉を使ったりすることが大切だと気付きます。

例えば、行間を空けなければ何が起こるかというと、ユーザーが反芻する余白がなくなってしまい、解釈できません。解釈しようとしている間にさらに情報やコンテンツが入ってくると、畳みかけられるように情報が増えてしまい「結局、何かよくわからない」という感じになってしまいます。

だから、弊社でコンテンツをつくるときは、行間を空けることを常に意識していて、「ユーザーの理解スピードに合わせた適切な行間の空け方ってどれくらいだろう?」ということを考えています。

このようにコミュニケーションという軸で考えると全部わかってきます。「なぜ句点で改行するのか」「なぜこのフォントにするのか」「なぜこのフォントサイズにすべきなのか」とか。すべてコミュニケーションを成功させるためです。

例えば、ワインを紹介する記事があったとします。記事を読み進めてくれた人って、ある程度そのコンテンツに信頼をよせてくれていますよね。その記事が勧めるワインであればという気持ちになっているかもしれません。それなのにワインを買ってもらおうと思って商品リンクを目立たせるためにフォントサイズを極端に大きくしたり、目立つ色にするという行為はあまりよくありません。

なぜなら、記事を読んで信頼したのに、一方的にモノを売りつけられていると感じて、興ざめしてしまうからです。これは明らかにミスコミュニケーションなのですが、こういったことを考えられるコンテンツ作成者は残念ながら少ない。とにかく何でもかんでも目立たせようと、派手なバナー広告を突然挿入したり、前後の文脈を無視した文章を挿入したり、それは現実のコミュニケーションを考えるととてもありえないことをしているわけです。

例えば、このインタビュー中に僕がいきなり机の下から巨大な怪しい壺を取り出して「実は今日はこの壺をお見せしたくて...」と話し出したら、ここまで良い話をしてきたことが全部台無しになっちゃいますよね。コンテンツの現場では、そういうことが実際に行われているわけです。

コミュニケーションを取ることを意識しないまま「コンテンツを作ってもコンバージョンが伸びない」と言うのは、すごくおかしい。こうしたコミュニケーションをサポートする機能を文賢に入れていきたいですね。