マーケティングにおいて重要な役割をもつ「広告」。テレビや新聞、雑誌、インターネットなど、様々な媒体で各社創意工夫を重ねた広告を出稿していることでしょう。

無添加石けんにこだわった商品「シャボン玉浴用」を揃えるシャボン玉石けん株式会社では、2018年「香害」を訴える広告をはじめとした、メッセージ性の高い広告が話題を呼んでいます。

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引用:日本に新しい公害が生まれています。その名は「香害」 | シャボン玉石けん

広告では、商品のメリットやその使用イメージを直接伝えるような広告が一般的。しかしシャボン玉石けんでは、商品ビジュアルを全面的に押し出さず、メッセージ性の強い広告を打ち出しています。このような広告を出す理由はどこにあるのでしょうか?

本連載では千趣会や大塚製薬、JIMOSなど企業規模や業種・職種を超えて幅広く、EC&通販に携わる経験を蓄積し、現在は株式会社プランクトンR取締役を務める川部篤史さんが様々なメーカー企業のEC&通販担当者にインタビューし、その独特な勝ち筋や手法を聞いていきます。

今回の対談相手は、シャボン玉石けんの加藤友和氏。メッセージ性の強い広告を打ち出す理由はなぜか、「会社を好きになってもらう」ための取り組みとは何か、お話いただきます。

プロフィール

加藤 友和氏

1979年福岡県生まれ。通信販売部お客様相談室 室長。
大学卒業後、広告会社を経て、2007年シャボン玉石けんに入社。
入社後は国内・海外営業に従事。現在は通信販売部にて、CRM、カスタマーコミュニケーター、工場見学の3部門を統括。「健康な体ときれいな水を守る」という企業理念 
のもとに、無添加石けんの普及に努めている。全国各地で石けんと合成洗剤の違いなどに関する勉強会や講演も行っている。

川部 篤史氏

株式会社プランクトンR 取締役 通販支援事業部長。現歴以前は、株式会社JIMOSで通販支援事業部長及びホールセール事業部長(2014~2018)、他、大塚製薬株式会社 
(通販・EC部門)、株式会社千趣会(製品企画・開発・仕入/制作企画/EC等)にて活躍。ビジネスブレークスルー大学大学院経営管理修士(MBA)。EC/通販事業での事 
業構築&製品マーケティング戦略立案・実行を得意とし、AI/オートメーションの活用や、中国越境ECにも明るい。

メッセージ性の高い広告はなぜ生まれた?

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川部氏:
シャボン玉石けんの広告は、EC/通販企業の一般的広告とは一線を画した、啓発としての意見広告的な印象を受けます。

加藤氏:
そうですね。過去には合成洗剤を使ってる人たちへの質問状という形のクリエイティブを作ったこともありますし、ゴリゴリに商品買ってくださいというよりは、イメージ広告に近いものが多いと思います。

川部氏:
広告賞も多数受賞していますよね。その中でもターニングポイントといえる広告はありましたか?

加藤氏:
読売新聞に掲載した「無添加を疑え」というキャッチコピー広告です。製品の真実は裏側の品質表示に現れている、ということを伝えたくて、読売新聞さんとタイアップし、新聞の表裏ページをセットで出稿しました。当時は無添加という言葉がすごく流行ってる中で「無添加を疑え」と、無添加石けんメーカーがやるというのは、結構センセーショナルな広告だったのではないでしょうか?おかげさまでこの広告も賞を頂きました。

<表面>
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<裏面>
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川部氏:
この広告は出演しているのがシャボン玉石けんの森田隼人社長なんですよね。広告の出稿コストは惜しまないけど、キャスティングのコストは絞っている、というバランスがおもしろいですね。

加藤氏:
シャボン玉石けんの広告では、タレントは使わないようにしてるんです。とはいえ社長自ら出演してこのような広告を出すのは、やはりリスキーな部分もあります。

川部氏:
会社としての方針をバチッと逃げずに決めてしまうことになりますからね。利害が対立する企業や人々に真正面から攻められる可能性があります。この広告が2013年ぐらいで、2018年には「香害」の広告が話題になりましたよね。

加藤氏:
はい、2018年6月です。朝日新聞さんと毎日新聞さんの全国版で出稿し、こちらも賞を頂きました。

「香害」の広告は、SNSでの反響が特に大きかったですね。

SNSはFacebookとTwitter、Instagramを運用しているのですが、特にFacebookの反響が大きかったです。「よくぞ言ってくれた」「企業がこういうこと言うのは素晴らしい」など、たくさんの言葉を頂きました。また、この「香害」の広告を出稿してから、消費生活センターからの講演依頼が増えるようになりましたね。

川部氏:
シャボン玉石けんのメッセージに共感するお客様がたくさんいたということですね。

ここまでメッセージ性の高い広告を出すようになったのはなぜでしょうか?

加藤氏:
私たちもCS放送で120秒ほどのインフォマーシャル(一般的なCMよりも尺の長いCM)でいわゆる通販CM的なものも作ったことがあります。しかしその反面、こういった手法はシャボン玉石けんの商品に合うのか疑問を感じていました。

するとお客様からも結構お叱りの言葉を頂いたんですよね。これまでのイメージと違い過ぎると。とはいえ15秒枠の一般的なテレビCMの情報量では伝えられないし、30秒でもなかなか厳しい。それで結局今は、新聞や雑誌の記事広告にメッセージ性の高い広告を出稿しています。

私たちは商品そのものはもちろん、「会社のことを好きになってもらいたい」という思いが強いです。そのため、どういう思いで石けんを作ってるのかとか、この石けんはどういった製法で作っているのか、という背景を知っていただきたいと思っています。それを伝えられる手段として、新聞や雑誌の記事広告などを選び、出稿しています。

会社のファンになってもらうための「友の会」

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川部氏:
会社のことを好きになってもらうために、具体的にどのようなことをしているのでしょう?

加藤氏:
長く使っていただくためには会社のファンになっていただくのが重要です。そこで現場のスタッフのKPIは売上そのものではなく、「石けんと合成洗剤の違いをいかに伝えられるか」を重要視しています。また、店舗などを活用した勉強会も開催しています。実際に全国各地の店舗に行って、会員さんを集めて無添加石けんにこだわる経緯や「石けんと合成洗剤の違い」を会員さんにお話するなどの活動を力を入れてやっています。

私どもの通販には、「シャボン玉友の会」という会員制度があります。

友の会の会員は年会費が2,000円かかりますが、商品が10%オフで買えたりプレゼントが付いたりする他、会報誌「友の会だより」が付きます。一般的に通販会社さんでは、会報誌は基本的に購入したお客様にはすべて配ることが多いですよね。けれども私たちは、2,000円の会員費を支払っていただいたお客様にしか会報誌をお届けしていないんです。

その分会報誌では、普段聞けない話を載せて付加価値を提供しています。

年会費は2,000円。どのタイミングで入会されている?

川部氏:
2,000円の年会費となると、気安く入れるものとは言い切れません。友の会に入会する人たちは、どのようなタイミング・理由で入会しているのでしょうか?

加藤氏:
基本的にお客様は、「今までお店で商品を買っていて、もっとたくさん使いたい」「店頭で全商品を購入できないのですべて揃えたい」というタイミングで初めて通販から商品を購入されます。その初回購入の時に、実に約20%ものお客様が友の会に入会していただいてます。

弊社の石けんは1週間かけて熟練の職人たちが作ったもので、自信を持っています。しっかり情報を伝えて、理解していただければ、この価格に対しても適正と感じていただけると思っています。そこを理解いただけないまま使っていると、単に価格で安いほうを選ばれる方もいらっしゃると思います。

だからこそ、「商品の良さを伝える」ことが重要なんです。ただし友の会に入会している方は年間3万円以上商品を購入される方も多くいるので、結果として金銭的にもお得ですけどね。

「消費者にメッセージが伝わっているか」はどのように評価する?

川部氏:
KPIを「売上」ではなく「石けんと合成洗剤の違いをいかに伝えられるか」に置いているとおっしゃっていましたね。そこが伝わっているのかどうかはどのように判断しているのでしょうか?

加藤氏:
最終的には「会社全体の売上が伸びたかどうか」の判断になりますね。実際に私の部署では、部下に対して売上のノルマはつけていません。ノルマがあると電話の対応でも「1個でも多く売ろう」と必要のないものを売ろうとすることがあるじゃないですか。ですので個別に売上を追うのではなく、最終的に「会社全体の売上が伸びたかどうか」で判断すればよいと考えています。

その代わりに、「お客様が使っていない商品を提案できたか」に関してKPIを持たせています。一つでも使ってない商品を提案することで、生活の中でより多くの石けん製品を使っていただけることを目指しています。結果として売上も伸びているので、このやり方は成功してるんじゃないかと考えていますね。

会社のことを好きになってもらうため、石けんと合成洗剤の違いを発信し続けたい

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川部氏:
今回のお話で、広告でお客様に自社のメッセージを伝えていくことの重要性を再認識できました。今後はどのような形で消費者に伝えていくのでしょうか?

加藤氏:
無添加にこだわる理由を従業員にも共有し、理解してもらった上でお客様にも伝えていきたいです。

「石けんは天然油脂もしくは脂肪酸から作られ、合成洗剤は石油や天然油脂から作られている」という石けんと合成洗剤の違いは、シャボン玉石けんとしてすごく重要視している部分です。その特性や会社の取り組みなどを伝えるため、通販/ECの情報発信のほかに、リアル店舗での勉強会も充実させたいです。

弊社では一般的な卸・小売ルートの販売も手がけていますが、やみくもに販路拡大をしているわけではありません。店舗に置いて、情報啓発をはかることができる「勉強会」を開催できるかが、販路拡大を判断する大きなポイントにしています。

また、店舗の勉強会には、近隣の通販「友の会」会員にも告知して動員強化しています。そこで製品に触れて、より理解を深めてもらったならば、通販にこだわらずにその店舗で買ってもらうようにもしています。店舗とEC/通販で分断させずに、全社的に製品をより利用してもらえれば良いのです。

この好循環を強化するためにも、広告などでみなさまに発信し、少しでも多くの人が会社のことを好きになってくれれば嬉しいですね。

川部氏:
なるほど、昨今のO2O(Online to Offline)やOMO(Online Merges with Offline)の流れと通ずるものがありますね。

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