自動販売機(以降、自販機)における年間売上が世界一を誇るほど、自販機は日本の消費者の生活に根付いています。そんな自販機の販売チャネルとしての立ち位置が近年変化しているようです。

2013年に実施された、清涼飲料自販機協議会による意識調査によると、清涼飲料自販機に今後期待する機能として以下のようなものが挙げられています。

1位:太陽光などによる自家発電
2位:災害時の飲料提供
3位:犯罪通報システム
4位:災害時などの情報発信・中継機能
5位:空き缶・空ペットボトルつぶし、収納機能
6位:景観にあった色・デザイン
7位:携帯電話などによるキャッシュレス
8位:ニュース・天気予報などの情報提供機能
9位:近所案内などのナビゲーション機能
10位:外気温・温度表示

引用:[清涼飲料自販機 意識調査2013](http://www.jsvmc.jp/information/opinion%20poll_2013.pdf)

上記の調査から7年が経ち、そのニーズを満たすような自販機が数多く存在していることがわかりました。記事では、単に飲料や食品を購入するだけではない、さまざまな機能で新しい消費者との接点を持つ「自販機」について調べてみました。

さまざまな形で消費者との接点を持つ「自販機」

インバウンド対応型|多言語対応、駅構内や乗り換え案内情報発信

2020年1月に株式会社JR東日本ウォータービジネスが行った「中韓米の訪日外国人の自動販売機の利用に関する調査」によると、日本の自販機に対する満足度は高い一方で、自販機の「決済方法」や「操作方法」などをわかりやすくしてほしいなどの要望があることがわかりました。

JR東日本ウォータービジネスでは、2020年3月より「AIさくらさん」を搭載した「インバウンド向け多機能自販機」の実証実験を山手線の駅5ヶ所にて実施しています。「AIさくらさん」が、多言語で自販機の使い方やおすすめ商品案内を行い、マイク機能による口頭の質問にも対応。また、飲料を購入しなくても、訪日外国人にとってわかりづらい、駅構内や乗り換え案内情報など、ニーズに細やかに対応した機能を持ち合わせているのです。

AIさくらさんの衣装や髪型は、例えば、オリンピックなどのイベントに合わせたチアガールの衣装にする予定であるなど、設置場所によって異なります。自販機がイベントの盛り上がりの一助を担う存在になる日は近いのではないでしょうか。

参考:<中韓米の訪日外国人600人に聞いた自動販売機利用に関する意識調査> 日本の自販機に対する満足度は9割以上! 中国は決済方法がわかりにくい、アメリカは商品がイメージと違ったなど、異なる課題も明らかに!
アキュアが挑戦するビジネス創出--インバウンド向けAI搭載自販機のテストへ

社会貢献型|支援や寄付、災害時無償提供

自販機での売上の一部を、スポーツ団体などの活動資金として還元する「支援型」自販機や、災害時にライフラインの復旧や支援物資が届くまでの一時的な期間、無償で自販機内の飲料を提供し、インフラとしての役割を果たしている自販機があります。

このような「災害救援型」の自販機は、これまでも、コカ・コーラシステム社が2011年の東日本大震災時に約400台稼動、8万8000本以上の製品無償提供を行うなど、緊急時のライフラインとして欠かせない存在となっています。

参考:地域貢献型自動販売機
支援型自動販売機について

高機能IoT型|社会インフラからエンタメまで

株式会社ブイシンクが開発した自販機「スマートベンダー」は、大型のタッチパネル液晶、カメラセンサーなどを活用し、インバウンド対応、テロリストや犯罪者検知のための顔認証、震災や気象警報などの情報のリアルタイム表示など、高機能な「デジタルサイネージ自動販売機」です。

特筆すべき点としては、キャンペーンなどの宣伝に最適なディスプレイ内に広告配信スペースがあること。また、ARカメラを用いて、背景合成とキャラクター変身を行い、撮影をし、QRコードで写真データをスマートフォンで受け取ることも可能です。

次世代の自販機は、「飲料を買うためのもの」という枠を超えて、多機能化が進み、エンタメツールとしての役割も担っています。

参考:高機能IoT自販機「スマートベンダー」

スマホアプリ連動型|ポイント交換などお得なコンテンツ

スマートフォンアプリ(以降、スマホアプリ)を接続する自販機も近年のトレンドと言えます。日本コカ・コーラ株式会社の「Coke ON(コークオン)」は約1,700万ダウンロードを超える人気アプリで、1本につき「スタンプ」が1個貯まり、スタンプ15個で1本分のドリンクチケットと交換可能です。「Coke ON ウォーク」という、累計歩数に応じて無料ドリンクチケットと交換できる機能もあり、ユーザーが楽しみながら自販機を利用できるような仕組みになっています。

また、スマホをスワイプして購入情報を自販機に飛ばすことで商品を受け取れる、という自販機に触れずに購入可能という点は、これまでの自販機にはない特徴なので、新しい自販機体験と言えそうです。

他にも、キリンビバレッジ株式会社とLINE株式会社がコラボした自販機「Tappiness(タピネス)」では、LINEの画面をかざすとドリンクポイントが貯まり、ドリンクを無料でもらえる特典チケットがもらえ、LINEの友だちにもプレゼントできる、などの機能を持った自販機があります。

各社特徴が異なる自販機を設置しており、「たまたま近くにあった自販機」ではなく、ユーザーの好みに応じて「行きつけの自販機」を選ぶ時代がきているのかもしれません。

参考:「進化した自販機」はスマホとつなぐとお得! 使いたくなる仕掛けも満載
Tappiness(タピネス)

サブスクリプション型|都度買うものから定額に

株式会社JR東日本ウォータービジネスでは、2019年に自販機初のサブスクリプションサービスを始めたことで話題となりました。「everypass(エブリーパス)」は980円からの月額定額で、駅構内にある最新型「イノベーション自販機」に専用のスマートフォンアプリをかざすことで、毎日1本好きなドリンクが受け取れるサービス。同社がユーザーを500名限定で募集したところ、9000人超から応募が殺到しました。

サブスクリプション型自販機は、「自販機の飲料は買いたいと思った時に都度購入するもの」という固定観念を覆し、ユーザーとの接触機会を大きく変えたと言えるでしょう。

参考:everypass<エブリーパス>
駅ナカで始まる「サブスク自販機」、狙いと勝算を仕掛け人に聞く 「反対意見が出て当然。それでこそ知ってもらえる」 (1/3)

コンビニ型|コンシェルジュがニーズをキャッチ

自販機は、オフィス向けサービスとして、自販機の枠を超えた「無人コンビニ」としても急成長を遂げています。

600株式会社の「無人コンビニ600」は、オフィスやマンション内を中心に利用者が増えている2017年にスタートしたサービス。3000種類を超える商品のなかから、LINEやSlackなどから専任コンシェルジュに商品のリクエストができ、キャッシュレス決済が可能です。

利用者一人一人のニーズに柔軟に応えてくれるサービスは、顧客満足度にも大きく貢献するのではないでしょうか。

参考:オフィス向け無人コンビニ「600(ろっぴゃく)」 急拡大の秘密とは?
無人コンビニ600