SATORI株式会社が主催した「標 -しるべ-」のオンライン開催。マーケティングを組織に取り入れ成長し続ける企業で活躍するパネラー達が、自身の経験から、どのような立場から課題に向き合い、組織に影響を及ぼしたのか、部門間の連携方法とは?などを語りました。

登壇者

酒居 潤平 氏
株式会社ユーザベース 執行役員(B2B SaaS事業マーケティング&ブランディング担当)

慶應義塾大学経済学部を卒業後、三菱東京UFJ銀行(現 三菱UFJ銀行)入行。
その後、起業、Sansan株式会社勤務を経て、2017年に株式会社FORCASへ参画。マーケティング&インサイドセールスマネージャーとして部門の立ち上げに従事。2019年よりマーケティング&ブランディングマネージャーを担当。ABMの実践に取り組む。2020年1月より株式会社ユーザベースへ転籍し、執行役員(B2B SaaS事業マーケティング&ブランディング担当)に就任。


富家 翔平 氏
コニカミノルタジャパン株式会社 マーケティングサービス統括部 デジタルマーケティング営業部 プリセールスチーム

大手テレビ通販会社のマーケティング担当としてデジタル広告を中心としたマーケティング活動に従事。その後、大手総合代理店にてコンサルティングやディレクションに加え、運用型広告のオペレーションも担当。
2018年にコニカミノルタジャパンへ参画。マーケティング活動とプリセールスを兼務。SFA×MA×ISRを活用したマーケティング活動の推進に携わり、自社実践によって得た現場ノウハウを基に、顧客のデジタルマーケティング推進支援を行っている。


戸栗 頌平 氏
株式会社LEAPT 代表取締役社長

複数の企業と起業を経てB2B専業マーケティング代理店へ。
その後、HubSpot, Inc.の日本法人の立ち上げを1人で行う。HubSpot Japan株式会社の法人営業開始後、社員第1号かつマーケティング責任者として創業期を牽引。現在、プロのマーケターとして日系及び外資系B2B企業のマーケティングと営業の戦略立案と実行支援を行う。
株式会社LEAPT
Twitter


岩熊 勇斗 氏
弁護士ドットコム株式会社 クラウドサイン事業部 Head of Customer Success プロダクトマーケティングマネージャー アナリティクス事業責任者

株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)を経て、2016年にクラウドサインにジョイン。
創業期のトラクションチャネルの開拓、営業やマーケ、アライアンスなどビジネス側のあらゆる業務を経験。PMF後は、創業期より自身や事業部長が兼任していたカスタマーサクセスを専任チームとして立ち上げた。
現在はHead of Customer Successとしてチームを率い、顧客とパートナーの成功と事業の収益最大化を担う。

<アジェンダ>
■「マーケティング」は必要なのか?
■部門間の共通認識を持つために必要なものは?
■0→1 マーケティング組織をいかに作り出すのか
■組織間の壁をいかに突破するか

「マーケティング」は必要なのか?

「マーケティング=お客さまを理解する、お客さまの視点に立つ」と定義すると、必要

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**[primary]富家氏:[/primary]**マーケティングの定義は人によって異なると思っています。例えば、「マーケティング=お客さまを理解すること、お客さまの視点に立つこと」と定義した場合に、今BtoBにはマーケティングは必要です。BtoBにおいてもお客さまの購買行動はすごく変化していて、今回のようなオンライン配信も3年前なら考えにくいこと。

**[primary]酒居氏:[/primary]**10年、20年前の話ではなく、ここ数年の話ですよね。

**[primary]富家氏:[/primary]**どのようにコミュニケーションしていくか、企業のやり方をどう変えていくか、という時にお客さまの視点が欠けると、ツールドリブンになったり、施策ありきの議論になります。そのため、BtoBBtoC問わず、マーケティングの考え方やスキルは必要だと感じています。

自身で情報を調べる買い手に対して、最適なチャネルで情報を届けるためには必要

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**[primary]戸栗氏:[/primary]**10〜15年前までは、圧倒的に売り手(企業側)が情報を一方的に持っていましたが、売り手と買い手のバランスが、近年はインターネットソーシャルメディアが発達し、様子が随分変わってきました。今は買い手自身がどんどん情報を調べる時代になり、その流れに合わせていかないと、BtoBのどんなニッチな企業でも結果を出すことが非常に難しいです。その点で、マーケティングは必要。

**[primary]酒居氏:[/primary]**いわゆる「インバウンドマーケティング」をどんどん促進していく、ということですね。

**[primary]戸栗氏:[/primary]**アメリカのある著書の中で、いま57%がカスタマージャーニーを買い手自身で終わらせている、と言われています。買い手の傾向に合わせてBtoBの企業もマーケティングをしていき、お客さまが必要としている情報をきちんとしたチャネルで届けるのが非常に重要になります。

**[primary]酒居氏:[/primary]**これをやればいい、という方程式があるわけではなく、富家さんが仰った通り、お客さまを基軸にして、その方達に伝えるためには何が必要なのか?最初にWhatがあってHowの議論が始まる。だからこそ、ちゃんとお客さまから来てくださるようなマーケティングの形がどんどん出来てくる、ということですね。

顧客獲得、リードジェネレーション…マーケティングは何においても必要

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**[primary]岩熊氏:[/primary]**企業の企業活動において、「マーケティングという行為をすべきなのか」という点において、もちろん必要だと思います。最近ではBtoBBtoCでさまざまなプロダクトが出てきていますが、今担当している電子契約のドメインでも競合は米国等を含めるとたくさんあり、サービスもコモディティ化していくなかで、きちんと「お客さまに選ばれるためのファーストタッチを作ること」という意味でマーケティングは重要です。

さらに我々のサービスの特性として、日本で初めてクラウド型の電子契約のサービスをリリースしましたが、当時今ほどプレイヤーが存在せず、マーケットを作るフェーズを身にしみて経験し、その際にも時流に合わせたマーケティングはやはり必要だったと当時を振り返っても思います。

マーケティングの専門ではないので、今のマーケティングチームを見ていると、やっていることが、SATORIさんでいうところのMA(マーケティングオートメーション)やオフラインのマーケティングも含めて細分化されており、それぞれの細分化されたロールの中でのスキル性や専門性が求められているので、これは企業活動の中でのマーケティングというロールだけではなくて、きちんと専門性を発揮する部署部門を作り、そういった方々をアサインしていくというのが必要です。

**[primary]酒居氏:[/primary]**クラウドサインさんや、SaaSと言われるスタートアップ企業からすると、最初にプロダクトを作り営業中心に販売を進めることはあるかもしれないが、あるタイミングで、マーケティングの考え方を取り入れていくのは自然な流れだと思います。

逆にクラウドサインで、「(マーケティングの考えが)なかったら・・・?」というイメージはつきますか?取り組み自体が考えなしに進んだ場合に、今のクラウドサインさんの成長ぶりはどうなっていたのでしょうか。

**[primary]岩熊氏:[/primary]**意識的に「マーケティング活動をするぞ」と思っていなくても、マーケティングに近しいことはおそらく何かしら手をつけているはずです。我々SaaSというドメインで事業展開をしていて、リテンションビジネスにおけるモデルがありますが、どのように顧客獲得をしていくか、認知やその先のリードジェネレーションだったり、そこにはマーケティングが何かしら絡むため、やらないという想像がつきません。

部門間の共通認識を持つために必要なものは?

概念や言葉の統一のための工夫

**[primary]富家氏:[/primary]**マーケティング部と営業部が会話するときに、それぞれの言語と文化があり、会話が成り立たない場面があります。外国語を話しているような感覚に近く、その点で、難しさがある場合も。

**[primary]戸栗氏:[/primary]**仰る通りで、両者は使う言葉がそもそも違います。リードと呼ぶ人もいれば、見込み客と呼ぶ人もいる。営業部は比較的アナログな方が多く、マーケティング部はデジタルに強い印象です。

クライアント事例ですが、マーケティングを始めるときに、営業(特にインサイドセールス、マーケティングに近いポジションにいる営業)を集めて社内教育を行い、部署間の言葉の壁を乗り越えた話を聞いたことがあります。

例えば、マーケティング用語で、ペルソナ・カスタマージャーニー・マーケティングオートメーションという単語を、予め理解してもらわないと、部門間での軋轢が発生してしまうので、積極的に会社で毎日や週1度勉強会などの機会を設ける、という方法は効果があると思います。

**[primary]酒居氏:[/primary]**確かに富家さんが仰る通り、何かを始めようと思っても、その概念や言葉が統一されていないと、双方、理解し合えないまま、話が進みません。デジタルマーケティングとはいえ、共通認識をもつための努力は必須です。

**[primary]戸栗氏:[/primary]**理解してもらうためにも、わかりやすい例えは必要です。先ほど話したクライアントは、サッカーのポジションで例えてわかりやすく共通認識をもてるように工夫していました。自分たちの会社の立ち位置や、職責に合わせて、何をしているかを誰でも理解のできる言葉に落とし込む。そういった努力をされています。

**[primary]酒居氏:[/primary]**そういった細かな工夫の積み重ねで、部門間の認識は変わってきますね。

0→1 マーケティング組織をいかに作り出すのか

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「19のチャネル」を一通り実施し、効果検証を繰り返す

**[primary]岩熊氏:[/primary]**お客さまをどうやって獲得していくかと考えるなかで、自然発生的にマーケティング活動を開始しました。最初にやったことは、トラクションチャネルの開拓。

『TRACTION』は、スタートアップがお客さまを獲得するための19のチャネルが紹介されており、始めにプロダクトを売る時に、「どのチャネルが適切なのか」「どこに適したマーケティング組織を構築していくのか」というPMF(プロダクトマーケットフィット)の段階でするべき内容が書かれています。
弊社では、この書籍に書かれている19のチャネルを愚直に一通り行いました。粗くてもいいので、「このプロダクトはどうやって広めていくのが適切なんだろうか」という効果検証をしていったというのが、0→1でした。

主に手を動かしていたのは2人で、どちらもマーケティングのスペシャリストではありません。クラウドサインの当時の勝ち筋(顧客獲得はこうやって進めていく)までは素人が行っていました。そこから役割を分けて、専門の人をアサインし、進めていきました。まとめると、0→1は、マーケティングの素人が「19のチャネル」をしっかり効果検証していく、です。

**[primary]酒居氏:[/primary]**具体的にされたことは?

岩熊氏:「19のチャネル」の中には、

・オンライン、オフライン広告の配信
・展示会の実施
・紹介
・アフィリエイトプログラムをする

などさまざま記載されており、当時弊社では、オフライン施策や紹介による営業などが意外と効果がありました。例えば、当時上場した後だったため、証券会社経由でのお客さまの紹介は効果が高かったです。

今はフェーズが変わっていますが、当時は日本に電子契約市場がそもそも大きなものがなく、市場を作るにあたり、大手の法務の方と一件一件しっかりお話をすることで少しずつ認知してもらう、という泥臭い方法がとても効果的でした。

**[primary]酒居氏:[/primary]**今までにないものを市場創造型でやられるビジネスモデルだと、最初から顕在的なニーズがないなかで、オンラインだけで伝えたり、インバウンドから醸成するのは難しいです。あえて潜在的にニーズを持った人がいるであろうオフラインの場で、まずは展開してこられたんですね。

他社で、マーケティング担当者を最初からアサインできないケースは多いのでしょうか?

**[primary]戸栗氏:[/primary]**そうですね。大企業であれば、40〜50人の事業部であれば、1〜2人ようやくアサインできる、といったイメージです。基本的には日本の企業は営業の方が社内での声が大きく、マーケティングに力を入れていないケースが多い印象です。そういうお客さまに対しては、コンサルティングの立場から、部分的に仕事を切り出し外注することをオススメしています。

ただ、外に仕事を切り出すと、時間やコストがかかります。最終的には内製するために一時的に外注し、そのノウハウを社内に蓄積させていき、徐々に内製の幅を広げていくことを薦めるケースが多いです。

**[primary]酒居氏:[/primary]**一旦アウトソースすることで、そこでのノウハウを学び、社内に落とし込んで行くということでしょうか?

**[primary]戸栗氏:[/primary]**はい。その際には、なるべく早いタイミングで、フルタイムでマーケティングをできる人をアサインする必要があります。可能であれば、デジタルをやる場合は若手が良いです。

テーマ3.組織間(部門間)の壁をいかに突破するか

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役割分担や数値を明文化し、定期的なコミュニケーションの場を設ける

**[primary]戸栗氏:[/primary]**先ほどの話に繋がりますが、マーケティング部の方が企業の中で比較的力が弱く、結果的に壁ができている企業は多いです。

**[primary]酒居氏:[/primary]**なぜ、企業内においてマーケティング部が力関係で弱い、という構造になるんでしょうか?

**[primary]戸栗氏:[/primary]**感覚的ですが、売上に直結している営業部の方が当然声は大きくなります。もう一つは、組織の中で営業の人数が圧倒的に多いことです。

**[primary]酒居氏:[/primary]**そんななかで、どのようにその壁を壊して連携していけるのでしょうか?

**[primary]戸栗氏:[/primary]**前職では、マーケティング部と営業部のマネージャー層が週に1度または月に1度必ずミーティングを行っていました。お互いにパスし合うリード(見込み)の定義や役割分担を文書化し、数値で管理。当たり前ですが、これを徹底することで、メンバー間のハレーションが起きにくくなりました。

また、ランダムに決まった社内の相手と週1または月1でランチやコーヒーを飲みに行くという制度があり、そのような制度を通して人としての距離が近づきます。部門間で、お互いどんな仕事をしているか、どんな性格なのか、がわからない状況であったため、これらの社内制度は非常に有効でした。

部門間で話す場を固定で作り、新たなカルチャーを醸成

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**[primary]酒居氏:[/primary]**カスタマーサクセスとマーケティング部の連携という観点では、実際どのように連携されていますか?

**[primary]岩熊氏:[/primary]**事業や企業のフェーズによって、ぶち当たる壁ができては超えて、の繰り返しだと思います。部門といっても中にいるのは人なので、人同士の距離を近づけたり、双方の部門を尊重し合うようなカルチャーを作りましょう、というのはスタートアップの初期の段階で、中長期的にみても重要な施策です。

その次に実際に起きたことが、部門ごとの個別最適化された数値を追ってしまうことで、未達の要因を他部門のせいにしたり、他部門の数字に関して興味関心がない、獲得したお客さまに対して興味を持たない、といったことが発生しました。

**[primary]酒居氏:[/primary]**縦割りの組織で自分たちのKPIを追い始めると、どうしてもそれに注力しがちです。

**[primary]岩熊氏:[/primary]**そこで、取り組んでよかったことが、マーケティングとセールス、セールスとCS(カスタマーサクセス)、CSとマーケ、それぞれが会話したりフィードバックループを回す、隔週の定例を開催しました。部門間で話せる場を形から作ったということです。さらには、Slackのチャンネルも用意しました。

結果、相互の部門を尊重するようになり、前行程・後工程にちゃんと興味関心を持つように。「縦割りのなかで完結しない」というカルチャーが醸成されたと思っています。

**[primary]酒居氏:[/primary]**結局のところ、いかにコミュニケーションを取るか。相互理解をいかに深められるかに尽きます。これは、どのフェーズであっても起こりうることですね。

新しいチャレンジをするなら、なおさらです。社内で人としての信頼関係の構築しながら、
新しいことに対する不安もケアしつつ、「一緒に」やっていく姿勢が必要です。

強い組織作りには、相互のコミュニケーションが必須

部門間の垣根は、日頃のコミュニケーションの量に比例する、ということが、強い組織作りには必要不可欠です。積み重ねてきた信頼関係の元で、お互いを尊重する気持ちを忘れず、共通の目標に向かって突き進むことは、お話にもあった通り、どのフェーズにも必要なことであり、肝に銘じておくべきでしょう。

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