ビジネスパーソン、特にマーケターなら今の市場のトレンドを知ってヒット要因を理解し、自社のビジネスのヒントにしたい、と考えている人も多いのではないでしょうか。今回は、現在大ヒット中のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」のヒット要因をさまざまなデータから読み解きます。

シリーズ過去作の累計販売本数を軽々と超える、空前の大ヒットに

2020年3月20日に発売されたNintendo Switchのゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」は、シリーズ過去最大の滑り出しとなりました。任天堂による「どうぶつの森」シリーズは過去に「おいでよ どうぶつの森」(2005年発売、Nintendo DS用ソフト)「とびだせ どうぶつの森」(2012年発売 Nintendo 3DS用ソフト)の2作品があります。

今回発売された最新作「あつまれ どうぶつの森」は、発売からわずか6週間で過去2作品の生涯累計販売本数を軽々と超えてしまったという、爆発的大ヒットを記録しているのです。発売から程なく、日本国内では新型コロナウィルス感染拡大防止のために、全都道府県を対象に「緊急事態宣言」が出され、世の中の人々は外出自粛期間に突入しました。発売から間もない「旬」の時期がちょうど「ステイホーム期間」と重なり、それが売上を加速させたとも言われています。

この記事では、「ヒット要因は、もしかしたらその他にもあるのではないか?」という仮説の下、詳しく読み解いていきます。

「あつまれ どうぶつの森」はそもそも、どんなゲーム?

「あつまれ どうぶつの森」は、アバターを使ったシミュレーションゲームです。ファミ通.comの作品紹介によれば、

現実と同じ時間が流れる無人島を舞台に、気ままな生活を楽しむ作品。島の自然から得た材料で必要なものを作って暮らしを充実させることで、島に仲間や施設が増えていく。

引用元:あつまれ どうぶつの森(Switch)

というゲームの世界観となっています。

参考:『どうぶつの森』記念映像でシリーズを振り返る。『あつ森』発売まであとちょっと!
参考:【業績】任天堂、巣ごもり需要で『あつ森』1177万本、『ポケモン』1737万本、Switch2103万台を販売

Nintendo Switch用ソフト全体の中でも、史上最多の売り上げに

[図1]
図1_売上本数.jpg
[図1]は、「あつまれ どうぶつの森」の週間売上本数と累計売上本数を示したグラフです。

参考:週間販売数

3月20日の発売から10日間で26万本を売り上げました。(※国内のみ、パッケージ版のみ)
その後、週別売上本数はほぼ横ばいですが、ゴールデンウィーク期間と重なる4/27~5/10にまた小さな山ができています。

累計販売本数は、4/20~4/26の週に38万本を突破。これにより、Nintendo Switch用ソフトで史上最多の売り上げ記録を達成しました。

また、ゲーム機本体である「Nintendo Switch」の販売台数も、3月中に日本国内のみならず、全世界で激増。今回の「あつまれ どうぶつの森」をきっかけにNintendo Switchを始めた人も多いことが伺えます。

参考:2020年3月にNintendo Switchの販売台数が激増、日本でも海外でも「あつまれ どうぶつの森」が大人気

発売以降、ずっと世間の関心を引き続けている

[図2]
図2_Googleトレンドと緊急事態宣言の関係.jpg
[図2]は、Googleトレンドで、検索ワード「あつもり」の推移を示したグラフです。

参考:Google トレンド

3月20日のソフト発売以降、検索数が急増しています。先に述べた通り、ソフトの週別販売数自体は、発売後10日間で最大の山を記録しました。

しかし、検索ボリューム自体は「緊急事態宣言(外出自粛期間)」中もほぼ同水準で続き、外出自粛期間が終わった後もそれほど低下していないことがわかります。これは、「既に買った人が遊び方について何らか検索を続けている」、それに加えて「世の中で『あつまれ どうぶつの森』が売れていることを知って、気になっている人が情報を検索する状態が継続している」の両方の要因が存在すると推測できます。

ソフト自体の週別販売数だけを見ていると、発売当初に大きな山を迎えて、その後は落ち着いた状態で横這い、というグラフに見えますが、「検索行動の継続(=人々の関心の継続)」という観点で見ると、発売から現在に至るまでずっと世の中で話題になっている様子が伺えます。

SNS上の口コミ数は右肩上がり

[図3]
図3_#あつ森 Instagramハッシュタグ投稿チャート.jpg
[図3]は、Instagram上のハッシュタグ「#あつ森」のボリューム推移を示したグラフです。

SNS上で広がっている口コミ数の推移を見てみましょう。上記のグラフは、Instagram上のハッシュタグボリュームを調べることができるツール「Instant Trends」を使って「#あつ森」投稿数のチャートを作成したものです。

データは期間5/30~6/11で生成していますが、ずっと右肩上がりの状態が続いており、その数は352,000件にも上ることがわかります。

Nintendo Switchには、ゲーム画面のスクリーンショットを取り、FacebookかTwitterと連携してSNSに投稿できる機能が搭載されています。そこで投稿した写真が、TwitterやFacebookのみならず、Instagram上でも数多く投稿されている様子が伺えます。
 
参考:“今”この瞬間のインスタグラムのトレンドをランキング!

[図4]
図4_「#あつ森マイデザイン」Instagramハッシュタグチャート.jpg
[図4]は、Instagram上でハッシュタグ「#あつ森マイデザイン」のボリューム推移を示したグラフです。こちらは、同じく「Instant Trends」を使って「#あつ森マイデザイン」というハッシュタグ投稿数のチャートを作成したものです。

「あつ森マイデザイン」とは、ゲーム内にてドット絵で自分だけのオリジナルデザインを作ることができる機能。作ったデザインは自分のアバターにフェイスペイント、服、帽子などにして着用させたり、部屋の家具などに実装可能です。ゲーム内で自分だけのおしゃれを楽しむことができる、というもの。

また、ゲーム内でのさまざまなアクティビティで「たぬきマイレージ」を貯めると、拡張機能を購入でき、デザインの幅がさらに広がっていきます。

こうした各自のゲーム内での創意工夫をSNSに投稿することにより「見て見て!こんなデザインを作ったよ!」「かわいいでしょ!」「オシャレでしょ!」といったプレイヤー同士のコミュニケーションが、Nintendo Switchの外であるSNSにもどんどん広がっているのです。

#あつ森マイデザイン Instagramハッシュタグ関連投稿.jpg
出典:#あつ森マイデザイン
参考:あつ森攻略|あつまれどうぶつの森

「あつ森」とSNSの親和性

ここまで見てきたデータから、「SNSと親和性が高いことも、爆発的大ヒットの一要因だったのではないか?」という仮説を提起できます。そもそも、「あつまれ どうぶつの森」の世界観とは、現実と同じ時間軸の下、ゲームの世界で人と交流できる「もう一つの現実」「バーチャルリアリティー」という設定です。その世界観、外出自粛で人との交流を制限される人々の欲求をバーチャルで満たしたために大ヒットを達成した、という点が挙げられます。

さらに、「そのバーチャルリアリティーの中でできること(デザインやゲーム、人との交流、インテリア作り、マイレージ集めなど)や、可愛らしい世界観そのものを、ユーザー自らがSNS上に投稿してばら撒いた」という事実が先述のデータから浮かび上がってきます。

その、ばら撒く動機は「世界観やゲームデザインがカラフルで可愛らしい、キャッチーだから、SNSに投稿しても映える」「ゲーム内でのファッションや住居、家具などのデザインについて、デフォルト時よりもっと自分なりに創意工夫を凝らすことができた達成感」といった側面ではないでしょうか。

つまるところ「承認欲求(いいね!をしてほしい、注目してほしい)」に集約でき、「あつまれ どうぶつの森」は見事なまでにSNSとの親和性を背景に秘めていて、その性質が人々の間で上手くワークしている、と言えるのではないでしょうか。

その結果、まだゲームを買っていないユーザーにとっても、日常的に眺めているSNS上で「あつまれ どうぶつの森」との接触機会がある状態が続きます。そうすると、自分もだんだんと気になって「あつまれ どうぶつの森」をネット検索したり、実際にソフトやNintendo Switchゲーム機本体を購入する行動に誘引されていく、という仮説を立てられるのではないでしょうか。

FacebookのHorizon構想

「SNSとバーチャルリアリティーゲーム」という切り口でいくと、Facebookの「Horizon」構想も発表されています。2019年9月、Facebook社が独自の仮想現実世界「Horizon」を構築中であると発表しました。ユーザーは、自分のアバターを作ってそこで友達と遊び、交流したり、探索したり、ゲームをしたりできるとのことです。これは正式リリース前なので現時点でまだ詳細はわかりませんが、「あつまれ どうぶつの森」にもよく似た世界観だと言えそうです。

また、2020年末に発売されるSONYの次世代ゲーム機「Play Station5」ではVR機能の搭載有無も注目され、話題に上っています。VR機能の実装が正式に発表されたら、「あつ森」や「Horizon」のような仮想現実交流ゲームタイトルの登場も想像に難くありません。
 
参考:FacebookのHorizonは巨大なVRマルチプレイヤーワールド
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「仮想現実での人との交流」と「SNSとの親和性」がヒットの一要因

ゲームの世界観にもさまざまなものがありますが、「あつまれ どうぶつの森」の爆発的大ヒットをベンチマークするゲームも今後出てくると仮定すると、「仮想現実での人との交流」そして「SNSとの親和性」というのは、ヒットの一要因となるかもしれません。

また、ゲームソフトに限らず、スマホアプリやWebサービスであっても「新規ユーザー獲得のために、SNS上にもサービスへの入り口を展開しておく」という戦略は、企業のWeb担当者としても参考にできそうです。

ヒットの要因を分析

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