商品・サービスを消費者に直接販売するD2C(Direct to Consumer)はECサイトで完結できるのが強みですが、近年ECサイトなどオンラインのみでの顧客獲得が厳しくなり、実店舗展開に注目する企業が増えています。実店舗を出すことでさらに客単価や売上を向上させている事例も出てきました。実店舗は顧客体験・ブランディングに優れ、消費者の印象に残りやすいという強みがあり、リピーターとなるファンづくりに貢献します。今回は、米国と日本の事例を3つご紹介しながら、D2Cにおける実店舗のメリットを詳しく解説します。

徹底した世界観でブランディングを極めた店舗「Casper」

米国の寝具ブランド「Casper(キャスパー)」は、マットレスをはじめとした寝具をオンライン直販するD2Cビジネスを展開しています。寝心地の良さを訴求するマーケティングを行い、高級寝具メーカーよりもはるかにリーズナブルな価格帯ながら、体をしっかり支える高品質のマットレスが人気です。ミレニアル世代を中心に多くのファンを抱えているブランドに成長しました。

Casperはロサンゼルスにテスト店舗をオープンし、そこから順調に店舗拡大を続け、現在は北米に60店舗を構えています。寝具は商品を体験できる実店舗販売が一般的ですが、Casperの主力商品であるマットレスの買い替え周期は7年以上と言われており、実店舗の維持管理費を考えるとコストパフォーマンスが悪いのが懸念点でした。

ただ、D2Cビジネスを展開しているCasperは自社で顧客データを収集しています。リピートやアップセルの分析など徹底的なマーケティング活動により、実店舗でマットレス以外の寝具(枕、シーツ、羽毛布団など)も販売してアップセルを行い、着実な売上を生み出しました。開店から投資を回収するまでの期間は1年半から2年、2019年の平均単価は820ドルです。

実店舗のメリットは、ブランドの世界観を空間全体で表現しながら、複数の商品を提案できることです。生活シーンを想像できるディスプレイにすれば、使用イメージが伝わりセット販売しやすくなり、アップセルにつながります。Casperのように入念なマーケティングを行うことで、よく同時購入される商品を同じ場所に並べるなどの工夫ができます。

Casperの実店舗は圧倒的な世界観が魅力。主力商品であるベッド(マットレス)を中心に、それぞれ異なるテーマの部屋が設計されています。遊び心がある多彩なデザインがブランドの魅力を伝え、来店者の「試してみたい」という気持ちを刺激するのです。

さらに、1回45分25ドルで仮眠ルームを提供しており、まるで夜空のような装飾の部屋で快適な昼寝体験ができます。スリープオーディオからは心地いい音楽が流れ、時間になるとだんだん部屋が明るくなります。ここまで徹底した世界観を表現できる店舗があれば、多くのファン獲得を目指せるでしょう。

顧客データをリアルタイムで共有する体験型小売店舗「b8ta」

米国シリコンバレー発の「b8ta(ベータ)」は体験型小売店舗で、2020年夏に日本(新宿マルイ本館、有楽町電機ビル)にも出店予定です。新興企業が手掛けるD2Cブランドのデジタルガジェットを中心に販売しており、来店者は商品を手に取って試したり、商品ごとに用意されているタブレット端末から商品の詳細情報を確認したりできます。オンラインでチェックした新しい商品を店舗で体験できるのです。

来店者は新興企業の新しい商品を一度に試せるというベネフィットがあり、店舗側は出店しているブランドに来店者のデータを提供して対価を得ています。店内にカメラやセンサーを設置し、来店者の滞在時間、商品を手に取った回数、タブレットで情報検索した回数などをモニターし、リアルタイムでデータ共有するというもの。ブランド側はそのデータをもとにマーケティングを行い、商品の開発・改善に生かせます。

b8taに出店するブランドは1000を超え、店舗数は米国内で24店舗にまで増えています。D2Cブランドが実店舗展開をしつつあるのは、オンラインだけで新規顧客やリピーターを獲得するのが難しくなってきたからだと言われています。ECサイトのほうがコストパフォーマンスが高いとされていましたが、今後は実店舗と逆転するかもしれません。

ECサイトなどオンラインでの顧客獲得コストが高くなってきたら、実店舗展開も検討する時期。店舗の一部を間借りする形であれば、オリジナルの実店舗を構えるよりもローリスク・ローコストで展開できます。テストマーケティングの一環として取り入れるのもアリでしょう。