現在、企業で活躍するマーケターとは、必ずしも新卒時からマーケティング領域でキャリアをスタートさせた人ばかりではありません。
営業をはじめ、さまざまなバックグラウンドを持つ人が活躍する世界です。
今回は、不動産情報サービス・業務ソリューションを展開する「アットホーム株式会社」のコンシューマコミュニケーショングループ グループ長城殿氏に、「マーケターの仕事観」をテーマにインタビューを行いました。

城殿氏は、マーケターとしてどのように自身のキャリアを切り拓いていったのでしょうか。また、日常生活の中で大事にしている視点・考え方、周囲とのコミュニケーションで大切にしていること、マーケティングという仕事をどのように捉えているかについてもお伺いしました。

広告代理店営業、そしてITベンダーを経て、BtoC領域のマーケターへと転身

ferret:
城殿さんのこれまでの経歴を教えてください。

_Q6A5348.JPG

城殿氏:
広告代理店に入社し、営業職として大手証券会社を7年間担当していました。
その後、IT系開発・デジタルベンダーに転職しました。ナショナルクライアントを担当しCRMやSFAなどデジタルの自社ソリューションを企画開発する営業とサービス開発の仕事を5年間行っていました。
その後、2018年7月にアットホーム株式会社に入社しました。現在はコンシューマー領域、つまりBtoC領域のメディア事業で、ポータルサイトアプリにおけるブランドコミュニケーション全般を担当しています。

ferret:
広告代理店に入りたいなと思ったのは、広告が好きだったからですか?

城殿氏:
今思い起こすと広告がどうこうというよりは、人にモノを伝える方法に関心があった、という感じです。コミュニケーションを取っていく方法として、広告というのはすごく有効だなと思ったんです。つまり、「伝えること」に興味があったので広告代理店に入ったという感覚です。

ferret:
そこからIT系に進まれるというのは何かきっかけがあったんですか。

城殿氏:
リーマンショックがあったタイミングの数年後に転職していて、広告業界が一気に成果主義に移った時代でした。なおかつ、デジタル広告がすごく発達をした時期でした。広告代理店では、デザインやオフラインの媒体をメインに扱っていたのですが、これからは「デジタルの知識を身に付けなければ」と思ったんです。それで、次の会社に移りました。

ferret:
そこでCRM・SFAなど、デジタルマーケティングをナショナルクライアント向けに展開されたということですね。業界が変わって、どんな感想を持たれました?

城殿氏:
端的に感じたことを言うと、オフライン系の仕事をしている人と、デジタル系の仕事をしている人とで、思考が明確に違っていると感じました。右脳で考える人、左脳で考える人が明確に分かれているなと思ったんです。デジタル系の開発・マーケティングに取り組んでいる人たちに対しては、雰囲気で物事を伝えると伝わらない。全てロジカルに数字で明文化して伝える必要があって。それが一番、入ったときに違うなと感じたことですね。曖昧なところが無いというか、会話そのものが方程式みたいな感じで。やっていくうちに、それにだんだんと慣れていきました。

ferret:
城殿さんご自身は、右脳派、左脳派、どちらだと思いましたか?

城殿氏:
私は「両方派」ですね。右脳で感じて、それを左脳に落とし込むんですよ。「綺麗だ」「おいしい」「良さそうだな」といった、直感的に「良いな」と思うことを感じたときに、「何故これがいいのか」「今、自分がどういう状態にいるから、これが良いと感じたのか」と因数分解していくんです。右脳でインプットして左脳でアウトプットする、という感じです。

領域を横断したコミュニケーションを考える仕事に挑戦したいと考え、アットホームへと転職

ferret:
アットホームに転職された経緯を教えてください。

城殿氏:
以前は「オフライン領域」「デジタル領域」と特定の領域に特化した仕事をしていました。横断的にコミュニケーションやマーケティングに取り組むということは、実はやったことがなかったんです。
ですが、領域を横断したコミュニケーションを考える仕事に挑戦し、自分の力を試したい、という思いがありました。ある特定の領域に閉じて仕事をしていると、思考がシュリンクしていくと思ったんです。全てを統合的に考えないと、会社の売上や、事業が拡張していかないなと思って。そういった仕事に取り組みたいと決めて転職活動をしていて。メディアを横断して取り組みができる環境に身を置かないといけないと思って、それを実現しようと思い出会ったのがアットホームでした。なぜか、自分の力が生かせる自信というか、何かやれる感がありそれを伝え、経験値の足りない自分に挑戦させてもらえる環境を提供してもらいました。ありがたい限りです。

マーケターの仕事とは、決して1人では成し遂げられないもの。ビジョンの可視化・共有化も大事

ferret:
アットホームで、一番印象に残っているお仕事は何ですか?

_Q6A5291.JPG

城殿氏:
社内の広告などのデータを整えた仕事が一番印象に残っています。入社間もない頃から、約9ヶ月かけて社内各部署に協力を仰ぎ、BIツールのダッシュボードを完成させました。

部署内で広告運用を行っているのですが、以前は広告パフォーマンスの数字だったり、過去の成果がどうだったかといった数字が共有されていませんでした。それを全て人・部署から吸い上げてまとめ、ビジュアル化・共有化する仕事に取り組みました。結構なパワーを注ぎ込んで取り組んだ仕事でした。

*なぜその取り組みに注力したかと言うと、マーケティングという仕事自体はやはり1人ではできないもの、と考えたからなんです。*例えば「データを1個ください」とメンバー宛に言うにしても、そのデータを出してもらうことで「何が起こるのか」「この先、どんな価値が生まれるのか」ということを、明文化して相手に伝えなければ動いてもらえません。

なぜその仕事が印象に残っているかと言うと、属人的だったデータを共有化することでその先に実現したいことがあったからです。皆が同じものを見て、同じ未来を描けるようになると。

例えば今打っている広告に対してクリックが1000件、2000件あった、といった数字を出してもそれほど意味がないと思っていて。それよりも、どんな推移で動いていって、その先にどんな未来が待っているかというのを可視化する必要があると思ったんです。*ただただ目先の作業に取り組んでいる状態になってしまうという危機感もあり、皆に広告に対する数字の推移を可視化・共有化して、その先のビジョンまで共有したかった。*必要だと思ったことを実現できたので、すごく印象に残った仕事でしたね。

ビジョンの可視化・共有化ができた後は、皆のコミュニケーションや、周りの人との関係性も変化していきました。データがすでに見えているから、その先を見ながら喋り始める。「交通広告がこういう状態だから、Web広告はこうしましょう」「今度はこれに取り組んでもいいですか?」「他部署のデータがこのように動いているから、この部署では、今度はこんな取り組みができますね」といった会話が生まれるようになりました。

データを取りまとめたというのは一つのファクトなんですけど、ビジョンを可視化・共有化することで社内のレベル感が変わってきました。その先の打ち手を各自が提案し始める状態を作り出すことにつながり、取り組んで良かったと思います。

インプットされる情報が増えれば、打ち手が明確になり、コミュニケーションの質が変わってくる。PDCAのスピードも精度も上がってくる。最終的には、プロモーションの質が変わってくると思います。

入社間もない時期に、部署を超えていろいろな人に協力を仰いでデータを共有化・可視化する過程では苦労もしましたが、社内の他部署の方々について、どんな役割でどんなミッションを持っている人か、ということについても結果的に理解が深まりました。

マーケターにとって大事なことは「高い意欲を持って行動する」こと

ferret:
優秀なマーケターになるためには、どのような力が必要だと思いますか?

城殿氏:
自分なりにいつもこういうことに気をつけている、という視点で言うと、大事なことは1点だけだと思っています。前述した話とも繋がるのですが*「高い意欲を持って行動する」*これだけだと。

マーケティングとは、1人きりでは仕事ができません。いろいろな方面に協力を仰いでこそできるものです。

だからこそ、高い意欲を持って明確なビジョン、自分がどんな未来を実現したいのかということを明確に周りに伝えていき、相手に動いてもらう。これが一番大事だと思っています。

メディアの最適配分だったり、クリエイティブをかっこよくつくったりすることや、SNSやPRが大事というのは、もちろん全部そうなんですが、それは方法の一つなんです。自分のビジョン、あるいは会社のビジョンを明確にし、それを実現するための手段として広告だったり、PRだったり、SNSが存在していると思っています。

「誰に何を感じて欲しいか」というのを、どれだけ熱意を持って周りに伝えていくか。

それをずっと言い続けていれば、周りの人が、「ではこういうことができますね」とか「こういう方法が良いのでは?」といった話が、コミュニケーションとして自動的に生まれてくる。

とにかく「ビジョンを明確にして行動する」が一番気をつけていることです。

もう一つ、気を付けていることは、*「人の3倍情報を仕入れて、人の3倍情報をアウトプットする」*ということを常に心がけています。

好き嫌いを持たずにフラットに情報を仕入れる、ということに日々取り組んでいるんです。人に薦められたコンテンツ、本や映画やコラムなど、人が良いと言ったものは、全く自分の毛色に合わないものであっても必ず見るようにしています。全く接点がなかったコンテンツでも、「良いよ!」「流行っているよ!」などと言われると、とにかく見るようにしています。あとは、世に出ている広告なども、ただ見るだけではなく「何故、今この会社がこの広告を打っているのか?」「どんなメッセージを伝えようとしているのか?」「何故このキャッチコピーにしているのか?」「何故いまこの芸能人を起用しているのか?」といったことを深く考察するのも癖にしています。

あと、少し違うかもしれませんが、定期券を買わないこと。いつも同じ通勤経路だと、情報量が凄く少なくなってしまうんですよ。ちょっと遠回りして行ったりとか、ちょっと時間がかかるけど違う電車で行ったりとか、今日はこんな経路で帰ろう、といったことを実践すると、目に触れる広告、街の雰囲気、人の会話に触れる情報が変わってくるので、情報を仕入れるタネになるんですよね。定期券を買う場合と比べて、ほんの数千円の違いで、映画を1本見るとか、本を何冊か買うのと変わらない。その投資を払ってでも、触れる情報を変えていくことの方がとても投資価値が思うので、ぜひ皆さんにおすすめしたいですね。

そんな細かいことを積み上げていって、人の3倍情報を仕入れるようにしています。

周りにいるみんなを幸せにするための方法がマーケティング

ferret:
城殿さんにとって、マーケティングの定義とは何ですか?

城殿氏:
「周りにいるみんなを幸せにするための方法」がマーケティングだと思っています。

弊社のビジネスで言えば、加盟店さんのもとへ多くの消費者が来店し、物件がたくさん売れて契約がなされている状態をアットホームが提供することが、加盟店さんにとっての幸せです。

加盟店さんが幸せな状態で、アットホームも成長し続けている。それが幸せな状態だと捉えています。

その状態を実現するために、今どういう世の中になっていて、アットホームは、加盟店さん宛に送客する消費者に対してどんなメッセージを伝えていくのがベストだろうか、と考えていく。それがみんなの利益につながる。そういったことを考え続け、行動し続けるというのが、マーケティングだと思っています。

あとは、個人的にマーケティングとはビジネスだけではなく、もう少し広義に捉えて普段の生活にも溶け込んでいくべきものだと思っています。

「みんなが幸せになっている状態」というのが、例えば人の感情など、経済では測れない部分に対してもマーケティングを取り入れていく、ということが私自身のマーケティング観でもあります。

ferret:
ありがとうございました。