広告出稿先の選択肢として、インターネット広告はもはや無視できない存在です。
電通が発表した2016年版「日本の広告費」では、インターネット広告費は前年比約110%と唯一二桁成長を記録し、既にテレビ広告費に次ぐ規模となっています。

参考:
電通報 - 「2015年 日本の広告費」解説―インターネット広告費がリードし4年連続でプラス成長を達成

インターネット広告の中でも、ある程度ユーザー属性が把握できるWebメディア媒体の広告は、属性が重なる企業にとっては魅力的です。

広告効果が期待できる大規模なWebメディアが続々と生まれる一方で、昨年はメディアに対する信頼性が問題視された1年でもありました。

昨今のメディア関連の報道を見て「ただPVが多いというだけでWebメディアを選ぶと、逆効果になってしまう可能性がある」そのように感じたマーケターは少なくないのではないでしょうか。

ではマーケターは、広告出稿先としてのWebメディアとどう向き合えばいいのでしょうか。

今回は、1月10日に開催された株式会社ユーザーローカル主催「Data Driven Marketing Conference」にて、東洋経済オンライン編集長山田氏、ザ・ハフィントンポスト日本版編集長竹下氏、株式会社エブリー代表取締役吉田氏を招いて行われた「マーケターが知っておくべきメディアエンゲージメントの深め方と活用の可能性」をテーマにしたトークセッションの様子をお届けします。
  

登壇者紹介

山田 俊浩氏 (株式会社東洋経済新報社 / 東洋経済オンライン 編集長 )


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早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者、名古屋支社記者等を経て2014年7月から東洋経済オンライン編集長。著書に『孫正義の将来』(東洋経済新報社)

竹下 隆一郎氏 (ザ・ハフィントンポスト日本版編集長 )

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1979年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。2002年に朝日新聞社に入社。経済部などで記者を経験した後、2013年からR&Dや新規事業を展開する「メディアラボ」に所属。2014年~15年、米スタンフォード大の客員研究員。2016年4月末に朝日新聞社を退職し、5月よりハフィントンポスト日本版の編集長に就任。 「議論やつぶやきでもなく、『会話が生まれる』メディア」を目指している。最近は、ネット時代にふさわしい「新しいリベラルのかたち」を考える記事や ネット上の話題をもとに対話を促す報道、日常的な話題を真剣に話し合う記事が話題を呼んでいる。

吉田 大成 (株式会社エブリー 代表取締役)

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2005年4月ヤフー株式会社に入社。2006年10月、グリー株式会社に入社後、事業責任者兼エンジニアとして、モバイル事業、ゲーム事業(「釣り★スタ」「探検ドリランド」等)、ゲームプラットフォーム事業の立ち上げに従事。2010年12月 同社執行役員、2012年9月 同社 取締役執行役員常務に就任し、日本事業全体を統括。2015年9月、株式会社エブリーを創業。

山田 真紗義氏 (モデレーター)

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株式会社ユーザーローカルにて、メディアサイトのデータ分析に特化した「Media Insight」事業立ち上げのほか、Twitter・Facebook・インスタグラムなどを活用したSNSマーケティングや、コンテンツマーケティング支援事業を担当。

(プロフィールはこちらから引用)

PVが伸びなくてもユーザーにとって価値があるものはコストをかけて作っていく

どのようなコンテンツであれ、作成にあたっては生産コストが発生しています。

質の良い、信頼性の高いコンテンツを作成するには、それなりの時間とコストをかける必要があります。しかし、コストをかければかけるほどユーザーに見られるコンテンツが生まれるとは限りません。

質とコストのバランスはWebメディア運営者にとって永遠の課題ですが、東洋経済オンラインの場合、どのようにバランスを取っているのでしょうか。

山田氏:
東洋経済オンラインは1日10〜15本ほどしか配信してないんですが、1本か2本でその日の8~9割のPVをとります。
今日だと貧困に関する記事が1日で200~300万PVいくんですよね。どこもそうだとは思うんですが、記事によってかなりPVに差がつきます。
それならあまり見られない記事を書いてもしょうがないのかなとなりがちなんですが、必要だと思うものはPVが少なかろうが作成しています。

コストがかかっている割にはPVが伸びない記事はやっぱりあるんですよね。でも、やっていきます。
それに公開した日に読まれなくても、その後、記事で取り上げた話題が何かのきっかけで注目されると再び読まれることもあるんです。

記事のバランスは難しいのですが、全体では利益が出る構造になっています。

コストと質のバランスについては、「編集部員一人ひとりがバランスを取るように心がけている」とのことで、数字を取ることだけに執着せず、自分たちが出すべき情報も大切にする姿勢が窺えます。

  

メディアの課金ポイントはどこにおくと良い?

山田氏(モデレーター):
紙媒体を持っている企業は特に、最終的にはユーザーの囲いこみというかブランディングの行き着く先として課金に持っていきたいはずです。
3,000万ユニークブラウザーという規模であれば、お金払ってくれる方も結構な数いらっしゃると思うんです。
マイクロペイメント的なものもできると思うんですが、課金そのものについてどう思われますか?

山田氏:
東洋経済オンラインは無料ですが、別で運営している週刊東洋経済プラスは有料です。
東洋経済オンラインのロイヤルカスタマーは、ぜひ週刊東洋経済も読んでいただきたいなと。

あとは、東洋経済オンライン上で弊社が出している出版物のプロモーションをやってるんですが、そこから書籍のヒットが出てきています。
東洋経済オンラインそのものでというより、別の場所で課金ポイントを作っていこうかなと。

SNS攻略の鍵は「ブランド化」

山田氏(モデレーター):
ハフィントンポストも、3年半ほどしか経ってないのに物凄く伸びていますよね。
伸びた要因について教えてください。

竹下氏:
SNSが強かったからですかね。SEOが強い状態から、SNS流入を強化する方向にシフトしました。
当初はメディア拡大に注力していましたが、SNSユーザーにも認知されるよう今はブランド強化も並行して行っています。
各プラットフォームに情報を発信してもハフィントンポストらしさを保つよう工夫したり、リアルイベントを強化したりしています。

ブランド強化に邁進するハフィントンポストは、広告においても一般的なWeb広告(バナー広告、記事広告等)とは異なるタイプのものを提供しています。

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http://www.huffingtonpost.jp/news/japan-diversityforlife/

広告主のユニクロと共同で「服について考える」ための専門カテゴリをハフィントンポスト内に設置し、ユニクロの紹介記事ではなく「服とは何か」を考えさせる記事コンテンツを更新しています。
あくまで「ユーザーにとって価値あるコンテンツ」の提供を優先しているこの広告コンテンツは、どのような経緯で作られたのでしょうか。

竹下氏:
まず、この広告を成立させるためにはクライアントの理解が必要でしたね。単にフリースやヒートテック紹介したいとかでは成り立たないので。
自分たちの会社がなぜ存在するのかをきちんと発信していかなければいけないような企業でないとダメでした。
なので相手は必然的にグローバル企業になります。

海外進出の際、海外ユーザーに向けて自社の存在理由や強みを理解してもらえなければ受け入れられることはないでしょう。
ユニクロの場合なら「ZARAと何が違うの?」という問いに対して明確な答えを持っていなければいけません。
「自分たちが何者で、何を実現しようとしているのかをどのように発信すればいいのか」という企業の課題に、ハフィントンポストは広告コンテンツをとおして1つの解を提供しました。

山田氏(モデレーター):
ユニクロさんは広告費が潤沢でテレビCMも多く発信していますし、Facebookのファン数も多い。一見、リーチには困ってなさそうですが、ハフポ(ハフィントンポスト)との取り組みには何を期待されていたのでしょうか。

竹下氏:
我々のネットワークの力というか、取材力が大きいですね。
例えば「服とは何か」を考える記事オーダーいただいた時、我々のネットワークを使って80歳のオシャレをしているおばあちゃんや、転職したことでドンドン服が変わっているような方のリストがあるので、そこに向けて取材できるんです。

競合他社の存在に左右されないためには「コンセプトを守る」こと

株式会社エブリーは、「[DELISH KITCHEN](https://www.delishkitchen.tv/)」をはじめとした複数の動画メディアを運営しています。
全てのメディアはホームページのように核となるような媒体を持たず、Facebook、インスタグラム、スマホアプリなど各プラットフォームにコンテンツを流す、いわゆる「分散型メディア」形式を取っています。

分散型メディアとは?:
変わりつつあるメディアの在り方。注目の集まる“分散型メディア”とは|ferret [フェレット]

2017年1月時点で、全メディアの総リーチ数は2,500万人を突破。2015年9月に会社設立されて以降、驚くほどの成長を続けています。
動画メディアは現在隆盛期であり、競合も多数参入しています。
その中で、エブリーの動画メディア群はなぜ急成長できているのでしょうか。

山田氏(モデレーター):
なぜこんなに急拡大できたんでしょうか。

吉田氏:
一番大きかったのは、動画が見られる環境が整ったのが一番大きかったのではないかなと。
インフラもありますし、各プラットフォームが動画を推していたのもあります。

その中で、最後まで見られるエンゲージの高いコンテンツを作り続けられるかどうかが大きかったかなと思います。
広告ではなくオーガニックで見ていただけることを重視して、できるだけ多くシェアされたりコメントされたりする動画にこだわって作り続けてきました。

山田氏(モデレーター):
ほかとはどう差別化していくんでしょうか?

吉田氏:
開始当初から他にも(競合は)出てくるな、とは思っていました。
ではどう差別化していけばいいのか考えた結果、メディアのコンセプトをしっかり作っていくことが重要かなと。

「実際に使えるレシピ」という軸はブラさないようにしました。

山田氏(モデレーター):
既存業界のどのあたりからライバル視されているのでしょうか。

吉田氏:
そうですね、例えば家事が終わった後の隙間時間とか、今までのメディアが接点がなかった新しい時間をもらえてるのかなと。
メディアの総接触時間自体は伸びているので、奪い合うというよりは新たな時間を創出できているのではないかなと思います。
  

2017年、メディアは「質」の時代に

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山田氏(モデレーター):
では最後に、皆様に今年の展望を語っていただきます。

山田氏:
パブリッシャーであると同時にプラットフォームとしても力を入れていきたいですね。
現在、1日5本ぐらいは他メディアの記事も配信しています。
何のためにやっているかというと、Yahoo!やスマニューの引力は非常に強いものがあります。
メディア同士でも、お互いの読者が何を求めているのかをキュレーションしあって、輪を広めていきたいですね。

吉田氏:
僕は昨年からメディアを運営して、質をとても大事にしていました。

これから先、質は絶対に問われます。
その分、コストは上がるけど、そういうメディアだけが伸びていく状態が望ましいなと。
SNSや各プラットフォームを使いながら、映像として伝えられることを極めていきたいなと思います。
テレビCMの代わりに、デジタルの領域でどういう風にしていけばブランディングしていけば良いのかを模索していきます。

竹下氏:
今後はやはりメディア同士で連携して質を上げていかないと、メディア全体が悪くなってしまう。

アメリカではフェイクニュースが大統領選に影響を与えてしまいました。
もはやビジネスの話ではなく、私たちはどんな社会がいいのか、嘘のニュースばかりが流れていていいのかと。
そういったことを考えると、ここは踏ん張りどころなのかなと。
  

広告主は「メディアのSNS運用状況を見た方が良い」(竹下氏)

トークセッション後、竹下氏に「企業のWeb担当者が出稿先としてのメディアを選定するときに持つべき判断基準」について伺いました。

竹下氏:
企業のWeb担当者は、メディアのPVだけではなくソーシャル上の威力を見た方が良いと思いますね。
PVではなく、ソーシャルのいいね数とか、全てを含めて判断した方がいいです。
PVが低くてもソーシャルで多くシェアされている場合もありますし、どれだけコンテンツが見られているかを計測する「CV(コンテンツビュー)」を判断軸にすると良いでしょう。

CVとは?:
PVだけを見る時代は終わり?新たな評価軸となる「CV(コンテンツビュー)」とは|ferret [フェレット]

竹下氏:
そういうところは媒体資料ではわからないので、Web担当者自身がユーザー目線を持って接するべきですね。
あとは、ソーシャル上でユーザーとどう会話をしているかもポイントになりますね。
ユーザーがメディア関連の情報をただ機械的にシェアしているのではなく、メディアのハッシュタグをつけて投稿しているのかも見た方がいい。
ハッシュタグを入力するのって結構面倒ですよね。その面倒な行為をわざわざしてくれるというのはかなりエンゲージメント高いですから。

あとは、メディア主催のイベントに行くのもオススメですね。
イベントの客層を見ると、普段どういうユーザーに読まれているのかがよくわかります。