マーケティング業界の関係者の間で、今改めて関心が高まっているのが「ブランドセーフティ」です。特に動画広告はブランディング目的で活用されることが多いため、企業のWeb広告担当者や代理店担当者は、ブランド毀損を防ぐために、これまで以上に動画広告の配信先に注意を払うようになっています。

今回は、マーケティング担当者として押さえておきたいブランドセーフティの基礎知識や最新動向、対策方法などをご紹介していきます。

Web担当者や広告関連の業務に就かれている方はもちろん、それ以外の方も企業ブランドに関わる重要な内容だけに知識として学ぶだけでも十分です。ぜひ一読ください。
  

ブランドセーフティに関心が集まっている背景

7195_002.jpg

ポルノコンテンツや反社会的活動関連など、そこに広告を掲載することでクライアントのブランドイメージを大きく毀損してしまう可能性があるサイトやページがあります。そうしたページへの広告掲載をいかになくすかが、ブランドセーフティ(Brand safety)の考え方です。
引用元:デジタル広告の新常識「ビューアビリティ」「アドフラウド」「ブランドセーフティ」|電通報

昨年9月、abemaTV内に開設された特定の政治団体のチャンネルにユニリーバ・ジャパンの動画広告が配信され、視聴者からの指摘を受けて出稿を停止したというニュースを覚えているでしょうか? 同社はabemaTVに出稿したという認識はありませんでしたが、アドネットワークを通じて知らないうちに配信されていたようです。

広告業界関係者に限らず、日本国内で広く「ブランドセーフティ」という考え方に改めて関心が集まった出来事でした。

なぜこの数年で、このような問題が特に注目されるようになったのでしょうか。

まずはその背景を整理してみましょう。
  

広告はどこに配信されているのか?

従来、広告はテレビCMやYahoo!のバナーなど、特定の「枠」に対して出稿されていました。しかし、インターネットの進化の過程で、アドエクスチェンジやDSP(広告主向けの広告配信プラットフォーム)を活用した運用型広告(プログラマティック・バイイング)が登場したことで、「人」に向けた効率的な広告表示が実現しました。

これは、商品のターゲット層、あるいは関心の高い人に集中して広告を配信できるため、CPAやROASなどの広告効率を追求する上では確かに有効な仕組みです。ただ、運用型広告は様々なネットワークや入札を経て表示先が決まるため、広告が最終的に「どの枠」に配信されているのか、広告主が把握しにくいという弊害が顕在化してきました。
  

コンテンツの質の幅

インターネットの普及によるもう1つの変化が「コンテンツの質」です。

かつては、プロフェッショナルが制作した質の高いメディアやコンテンツに対して広告を出稿する形が主流でした。しかし、インターネットの普及により、素人もブログやSNS、YouTubeなどをとおして情報を自由に発信できるようになり、さらにそこに広告枠を設けられるようになりました。

つまり、素人が制作した質の低いコンテンツ、社会的に不適切とされるコンテンツ、あるいは悪意あるフェイクニュース(偽ニュース)にも企業の広告がつくようになったのです。

長年培ったブランドイメージを大切にする広告主にとって、自社の理念や社会的スタンスに反するコンテンツ内に広告が配信されると、ブランド毀損が起こるリスクがあります。上述したように、どのようなコンテンツ広告が配信されているのか完全には把握できないという状況にあるため、デジタル広告に対する不安が高まってきているのです。
  

国内外における最新動向

7195_001.jpg

冒頭で国内の事例をご紹介しましたが、海外ではもっと大規模な“事件”になっています。
  

YouTubeへの広告出稿を取りやめ

今年3月、英国政府機関や大手メディアの動画広告が、差別主義的な内容のYouTube動画に配信されていたことが明らかとなったことに端を発し、世界的なブランドや大手広告代理店の一部がYouTubeを含むGoogleへの広告出稿を取りやめる事態となっています。

Googleは表現の自由を守るため、コンテンツの削除は行わない一方で、不適切なコンテンツ広告が配信されないよう監視したり、広告主がより詳細に配信先をコントロールできる仕組みを提供していくとしています。

ブランドセーフティを意識したサービス開発が進む

日本では現時点で、広告出稿を止めるような目立った動きは見られていませんが、ブランドセーフティへの意識は確実に高まっており、アドテク関連企業はブランド毀損を防ぐための対策やサービス強化を進めています。

以下は、今年に入ってから各社から発表されたリリースの一部です。
  

・IAS、ブランドセーフティ・レポートでYouTubeと連携

7195_004.png
https://digitalpr.jp/r/21295
  

・電通、ウェブ広告の価値毀損測定で世界最大手のインテグラル・アド・サイエンス社から日本初のパートナーに認定7195_005.png

http://www.dentsu.co.jp/news/release/2017/0314-009192.html
  

・動画アドネットワーク「LODEO」、ブランドセーフティを強化 - ページ単位でコンテンツを読み込み、事前にブランド毀損の回避が可能に -

7195_006.png
https://www.cyberagent.co.jp/newsinfo/info/detail/id=13417
  

マーケティング担当者として知っておきたい5つの対策

7195_003.jpg

以上がブランドセーフティを取り巻く現在の状況です。

それでは最後に、Web広告の担当者が知っておきたい、ブランドを守るための対策を5つご紹介します。
  

1. YouTube動画広告の配信先は「プレースメント」で管理

多くの企業が利用する動画広告がTrueView等のYouTube動画広告でしょう。Google AdWordsでキャンペーン設定をする際に、「動画ターゲティング」タブの中の「プレースメント」タブで配信先を管理することができます。特定のYouTubeチャンネル、YouTube動画、Webサイト、モバイルアプリへの配信指定/除外指定が可能です。
  

2. プライベートマーケットプレイス(PMP)の利用

DSPを利用してオープンな入札取引(RTB)を行うと、どこに配信されるか把握しにくいという状況が生まれます。これを解消するために誕生したのが、プライベートマーケットプレイス(PMP)です。

PMPとは……
特定のプレミアムメディアと広告主のみが参加できる取引のことで、広告配信面のクオリティを担保しつつ、オーディエンスターゲティングを行える出稿方法です。

入札ではなく固定単価制がとられており、オープンなRTBよりも数倍の費用がかかるのが一般的ですが、純広告以外の形でプレミアムな媒体に出稿できるため、ブランドイメージを重視する企業からの関心が高まっています。
  

3. ホワイトリストとブラックリストの活用

誰でも参加できるオープンなRTB取引であっても、DSPによっては「ホワイトリスト」や「ブラックリスト」機能によって配信先をコントロールできる場合があります。

ホワイトリストとは、信頼できる配信先(SSPやドメイン等)のみを選定したリストのことで、ホワイトリストを活用すると確実に質の良いメディアに配信することができます。ただし、一部の優良メディアだけに配信先を限定すると、広告在庫の数が限られてしまうため、入札単価が高くなります。

反対にブラックリストとは、ヘイトスピーチやアダルトなどの不適切なコンテンツや、海外のサイト等への配信を避けるためのリストのことです。絶対に外したいメディアのみを除外指定することで、リスクを避けつつ配信規模や入札価格を担保することができます。
  

4. プレミアムメディアの予約型広告を活用

運用型広告ならではの様々な問題が表出してきたことで、最近改めてその価値が見直されているのが、予約型広告と言われる純広告や記事広告です。

優良な各種メディアは独自の編集方針に基づき、質の高いコンテンツの配信にこだわり、その世界観や優良読者を育ててきています。その力を借りて、自然な文脈の中で広告に接触してもらうことで広告効果、特にブランディング効果を高めようという考え方です。

運用型広告のような効率性を求める場合には不向きですが、ブランディング目的のマーケティング施策においては有効な手段のひとつとして検討してみると良いでしょう。
  

5. 枠だけでなく、表示回数にも注意

ここまで説明してきたように、広告枠を把握・コントロールすることのほかに、広告の配信回数(フリークエンシー)もブランド毀損を防ぐ上で配慮が必要です。

たとえ優良な広告枠の中であっても、何十回も同じ広告を見せられたら、ブランドに対するユーザーの印象が悪くなってしまうかもしれません。あるいは、すでにコンバージョンした人に広告を配信し続けることもマイナス要因になる可能性があります。商材や広告の内容にもよりますが、フリークエンシーもブランドを守る上できちんと考慮したいポイントです。

参考:
NY発GlassViewがコンバージョンユーザーへのリターゲティングを自動で防ぐ、動画広告業界初のソリューション“GlassView SmartLoop™”をローンチ
〜ブランドセーフティへの取り組みを強化〜
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000021475.html

  

まとめ

2016年、日本のインターネット広告費は初めて1兆円を突破し、今後もさらに成長すると見られています。米国市場では2017年についにインターネット広告費がテレビ広告費を上回るとの予想も出ています。

広告を活用する企業が、インターネット広告をまったく使わないということはもはや現実的ではありません。様々な問題を抱えていることは事実ですが、インターネット広告だからこその大きなメリットもあります。それらを正しく理解し、適切に活用できるようになることが、これからのマーケティング担当者に求められています。