これからのデジタル世界で特に大切なコンセプトは「顧客体験」

司会:
ネットイヤーは今後、顧客を理解するために、また企業の成長を支えていくために、どのようなサポートを行っていこうと考えていますか。

石黒氏:
お客様である企業を成長させるためには、企業の先にいる顧客の体験を最高にすることがまず大切だと思っています。
カスタマー・エクスペリエンスつまり「顧客体験」という考え方を欧米の企業のトップはとても重要視しています。私も*「顧客体験を作る会社になるんだ」*という考え方が、これからのデジタル世界で特に大切なコンセプトになると思っています。

伊坂社長から「自分たちはお客様のことを知らない」という謙虚な言葉がありましたが、実際にお客様の方が先に進んでしまっているんですね。
例えば、スマートフォンを利用されているお客様だと「好きなブランドの情報の好きな商品の情報が通知で送られてきたらいいのに」と思ってるんです。ただ、好きな商品の情報をお知らせするためには、企業自身が「その方がどんな方であるか」という情報を持っていないとできません。また、そのためのシステムがないとできない。
このような顧客体験を考え、実現することが企業にとってのミッションになると私は思っています。

我々からのアプローチとしては、典型的なお客様を「ペルソナ」として設計することに取り組んでいます。
それは「30代男性」といった単純な話ではなく、「女性で30代、子供がいない夫婦で、共働きで…」といったより深いイメージ像を組み立てています。その人たちが1日をどのように過ごしていて、スーパーにきた時に何を考えて、何を買うのかと言った点まで考えます。
その際には購買情報のようなデータをCRMのとして利用する必要がありますよね?
私たちとしてはお客様のためにデータを集め、ペルソナとして設定した典型的なお客様のイメージに合わせて、カスタマージャーニーを描くのをお手伝いしていきたいなと思っています。

「おもてなし」は個別での最適化に過ぎない 日本に本当に必要なデザイン設計とは

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司会:
カスタマー・エクスペリエンスという言葉が欧米で流行っているというお話でしたが、アメリカ人の言う「ユーザーエクスペリアンス」と日本での「カスタマー・エクスペリエンス」という言葉では捉え方が異なっているかと思います。

*例えば、日本では「おもてなし」という言葉がありますが、システム全体を理解してないとどんなに気配りをしても、顧客のニーズに対応できないのではないでしょうか。*実際、私自身が成田空港を利用した際もとても丁寧に対応していただきましたが、顧客体験としては到底満足できるものではありませんでした。
日本では、システム全体の情報を把握してない場合が多いと思うのですが、いかがでしょうか。

石黒氏:
確かにそうですね。日本のサービスがすごくいいなと感じることとしては、旅館やデパートで大変丁寧に接してくれる。でも、それは*個別での最適化に過ぎません。*現在の企業においては、そこに焦点が置かれてしまっていると思います。

欧米では「顧客体験を最高にする」ということに重きが置かれています。例えば、先ほどの成田空港の例をあげると、成田空港という事業自体が商品です。優れた商品に仕上げ、販売するためのマーケティングを考えなくてはいけません。ですが、商品を販売するための全体設計がまだ不足している。
それは企業が部署ごとの縦割りになってしまっていることが影響しています。
本当はカスタマーからマーケティング、商品開発まであらゆる部署が顧客1人に向き合わなくてはいけません。
「リアルの購買情報もオンラインの動きも全ての情報がデータセンターに集約されていて、その情報がいつでも取得できる」という状態が、現状の日本企業には欠けているのだと思います。

ただ日本の方の気質は非常に細かくて勤勉なので、一度データを取り始めたら一生懸命向き合うでしょう。
QA活動のように品質を向上させるために、1人1人の顧客のことを考えて最適なシステムやサービスを考えるようになるかと。
そうすれば、日本でも優れたカスタマー・エクスペリエンスが実現できると思っています。

司会:
データは共有されていることだけでなく、そこから関係者がどのように頭を働かせるかが重要です。日本はものづくりの世界においてデザインが優れていると言われていますが、eコマースのようなオンラインにおいてもそのようなデザイン感覚は反映されているんでしょうか。

石黒氏:
反映されないのが現状です。*日本人にとってのデザインの感覚ってあくまでアートであり絵なんです。*デザインを機能的な設計として捉え、全体を考える発想が抜けていると思っています。例えば、Webでのデザインの場合、アーティスティックなコンテンツを出すことだけでなく、何万ページとあるWebの構造をいかにわかりやすく設計するかが重要となります。

ショッピングモールやオフィスビルでは、ユーザーの導線を考え、全体の利益を最大化する建築設計が必要です。これはお店1つ1つの商品の力ではできないことですよね。
建築の世界ではこのような設計ができていても、マーケティングではまだ多くの日本の企業ができていないと感じています。

しかし、データが共有できる環境づくりができるようになれば、データをあらかじめシナリオ設計に組みこみ、行ったことに対してユーザーがどのように動くかといった検証するということが可能となります。結果として、ユーザー1人1人が望んでいたことが見えてくる。
このようにサービス全体の顧客体験を設計するという段階まで行くのが理想ですね。