ferretをご覧いただいている皆さん、こんにちは。株式会社マルケトにて アカウント・エグゼクティブを務める弘中丈巳(ひろなか たけみ)と申します。

本記事をご覧いただいている皆さんの多くは、マーケティングオートメーション(MA)に興味を持っている、仕事で関わり始めている、あるいはすでにかかわっていて現在勉強しているという方がほとんどなのではないでしょうか。

そんな方を対象に、今回も前回同様、参加型のオンライン動画学習サービスSchooで行ったオンライン授業「エンゲージメント時代のMA(マーケティングオートメーション)活用法実践」の内容をご紹介します。

この授業では、株式会社お金のデザイン(以下、お金のデザイン)カスタマーエクスペリエンスデザイナーの森山裕之 様をお招きして、お金のデザインがMAを導入した経緯や、実際にどのように活用されているのかについてお聞きしました。

これからMAを導入しようと考えている方やMAをもっと活用したいと思っている方に役立つヒントがたくさんあるはずですので、ぜひ参考にしてください。
  

プロフィール

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弘中 丈巳(ひろなか たけみ)
株式会社マルケト / Account Executive
2014年に株式会社マルケト設立のタイミングで参画し、1人目の営業担当として、インサイドセールス部門の立ち上げ、営業〜カスタマーサポートを行う。 前職は株式会社セールスフォース・ドットコムにて CRM領域に、また マーケティングオートメーションが日本で広がり始めた初期よりマルケトに参画し、 マーケティング(Marketing Automation)の世界に没頭している。現在は営業活動の他にSMB向けの マーケティングコミュニティやSMB ユーザー会の企画から実施も担当。急成長企業やスタートアップ企業での導入経験が豊富。

  

株式会社お金のデザインのビジネス概要

まずは、お金のデザインのビジネスの概要について説明します。

同社は、個人のお客様向けにデータと最新テクノロジーを活用した金融投資運用サービスを提供している会社です。具体的には、個人投資家の年齢や金融資産額などに応じて、ロボットが最適な資産運用方針(ポートフォリオ)を設定し、ETF(上場投資信託)を自動運用するTHEO(テオ)という投資運用一任サービスを提供しておられます。

投資で成果を上げるには、それなりの知識や経験が必要ですが、THEOを使えば知識や経験が全くない人でも、ロボットに全て「おまかせ」することができます。

参考:
「ユーザーの声に耳を傾け、身近にいる普通の人の問題解決をしたい」株式会社お金のデザイン 取締役兼 COO 北澤氏にインタビュー|ferret
  

カスタマーエクスペリエンスデザイナーの仕事とは

次に、森山様が同社で担当しておられるカスタマーエクスペリエンスデザイナーという仕事について説明します。

この仕事の目的は、ひと言で言うと「顧客志向、顧客思考でサービスの仕組み・組織・文化を最適化する」ことです。同社には、営業やカスタマーサポートのほか、広告などを担当するマーケティングチーム、Webサイトアプリをつくるプロダクトチーム、バックオフィスなどの部門があり、お客様との直接の接点である営業やカスタマーサポートだけではなく、全ての部門が何らかの形でお客様とかかわっています。

しかし、かつては各部門がそれぞれサービスを提供しており、お客様に1つの会社として顧客体験を提供できる体制が十分には整っていませんでした。

そこでお客様に対する理解をよりいっそう深めながら、会社が提供するサービスの全てを最適化する役割として、2015年にカスタマーエクスペリエンスデザイナーという職務を設けられました。

ちなみに、この職務が誕生したのは、この年に入社した森山様による提案がきっかけだったそうです。そして、森山様が自ら手を挙げて、この職務を担当することになりました。
  

お金のデザインの考えるエンゲージメントとは

お金のデザインが定義するエンゲージメントとは、次の3つを満たすことです。

1. 顧客を理解し、THEOを理解していただく
2. 顧客とTHEOとのよりよい関係性を構築する
3. 人とお金の新しい関係、価値を共に創る

お客様は何を求めているのか、THEOについてどれだけ理解しているのかといったことを様々な声やデータから分析し、お客様とのよりよい関係を築くために、何をどう伝えていったらいいのかを考えること。そして、将来的には現在のプロダクトだけではなく、今までにないサービスや価値をお客様と一緒に創り上げていくことが、同社が考えるエンゲージメントなのです。

エンゲージメントを構築するため、お金のデザインは下の図のような3つの取り組みを行っています。

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画像引用元:マルケト提供(お金のデザインが考えるエンゲージメントとは)

上図内にある「LISTEN」とは、お客様の声に耳を傾けることです。毎日届くメールやカスタマーサポートへの電話による生の声、各種サーベイの分析結果、ユーザーミートアップによるお客様との直接の対話など、オンライン・オフラインの両方を活用しながら定性情報を収集しています。

続いて「LEARN」は、MAによるお客様の行動情報分析です。THEOをどう活用しているのか、THEOの口座を開設したお客様は、Webサイトのどの画面を見て申し込んだのかといった行動を定量的なデータと顧客の声による定性的なデータに基づいて詳細に分析します。

そして最後の「INSPIRE」は、「LISTEN」「LEARN」で収集された情報に基づき、お客様ごとに、何を、どのタイミングで、どう伝えるのかを考える作業です。

この3つを回しながらエンゲージメントを高め、コンバージョンを上げていく取り組みを実践しています。

オンラインとオフラインの情報、定性情報と定量情報をバランスよく組み合わせながらエンゲージメント強化に取り組んでおられるのが印象的です。
  

MA導入の背景

お金のデザインは、2016年9月にMAを導入しました。導入の狙いは、THEOの申し込みから運用開始に至るコンバージョンを上げることにありました。

下の図のように、THEOの申し込みから運用開始までには、申し込み不備の解消、郵便物の受け取り、マイナンバー登録、入金など、申し込んだお客様に対処していただかなければならない作業がいくつかあります。これら作業の“壁”に妨げられ、先に進めなくなるお客様を何とか減らしたいと考えたのだそうです。

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画像引用元:マルケト提供(MA導入時の課題)
  

MAの利用状況と運用体制

現在、MAを通じて約9万人の顧客データベースを管理しているというお金のデザインは、メールを44パターン用意し、「INSPIRE」に基づいて、お客様ごと、タイミングごとに最適化したメールを配信しています。直近1ヵ月のメール配信数は延べ27万通にも及んだそうです。

ちなみに、このメール配信作業をMA担当の森山様と、コンテンツ制作担当のわずか2名がほかの仕事と兼務で行っています。MAの活用と社内各部門の協力によって、少人数でも効率よく効果的なメール配信が実現できているとのことです。
  

MA導入後の成果

では、MA導入によって具体的にどのような成果が表れたのでしょうか。

課題だった申し込み(メールアドレス登録)から運用開始に至るコンバージョン率は、導入前から比べると70%も改善されました。さらに、解約率に関しても導入前から42%も下がりました。

また、MAを利用してニュースレターを送付するなど、お客様と定期的なコミュニケーションを取ることでサービスの解約率を下げることにも成功しています。接点が最も多いお客様と、全く接点のないお客様では解約率に9倍もの差があり、如何に緊密なコミュニケーションが大切であるかということを実感されたそうです。

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画像引用元:マルケト提供(MA導入後の成果)
  

MA活用の具体例

では、いよいよお金のデザインがMAをどのように活用されているのかについて、具体的に紹介しましょう。

まずは、郵便物受け取り時の「壁」を超えるための施策です。

THEOは金融サービスなので、お客様の口座開設に必要な郵便物は簡易書留で送らなければなりません。しかし、お客様には日中不在の方も多く、郵便局が預かったままの状態となったり、送り返されたりしてしまうことも少なくありません。

そこでMAを使って、書留を発送した日に「本日送りました」、2日目に「そろそろ届きます」、4日目には「不在票が投函されていませんか?」といったメールをきめ細かに送信するようにしたところ、受取率が90%から97%に向上しました。

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画像引用元:マルケト提供(効果のあった策|郵送受取編)

次にマイナンバー登録時の”壁”を超えるための施策です。

THEOの口座は証券口座なので、開設するためにはマイナンバーの登録が必要ですが、「マイナンバーカードを持っていない」とか、「以前通知が送られてきたけど、なくしてしまった」というお客様もいて、運用開始までたどり着かないケースが多々ありました。

これに対処するため、「カードがなくても、通知書類に書かれたマイナンバーで登録できます」「マイナンバーの代わりに住民票を提出してもらう方法もあります」といったメールを個別に送ってフォローアップするようにしたところ、マイナンバーに関する問い合わせが減って、コンバージョン率もアップしたそうです。

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画像引用元:マルケト提供(効果のあった策|マイナンバー編)

森山様はこのほか、少人数でも種類豊富なメールコンテンツを効率よく作成・配信するために、メールのヘッダーと本文・フッターを組み合わせで自動配信できるようにもしてきました。また、お客様のステージごとに「何かお困りですか?」といったフォローアップのアンケートを配信し、多くのお客様の声に耳を傾けています。ここで収集された結果をWebの改善などに活かせるようになったこともMAの導入効果の1つとして挙げています。
  

まとめ

以上となります。お金のデザインのMA活用に至るまでの動機、そして実際にどのような目的・方法で活用し、結果的にどのような成果を体感しているのか、というのを具体的にご紹介してきました。おそらく皆さんの中には「なるほど、このような活用方法があったのか」と感じていただけたのではないでしょうか。

きちんと顧客データを整理・管理して、お客様にどのような態度変容を起こして欲しいのか、というのをしっかりとイメージすることで、より効果的なシナリオ設計が可能となります。

今後、お金のデザインでは、MAを使って時間帯ごとのメール開封率の分析を進め、開封してもらいやすい時間帯を狙ってメール配信するというように、開封率向上を目的とした施策も検討しているそうです。

最後に森山様はMAの効果を最大化するため、PDCAを回す時に気を付けていることとして、下記の8つを挙げました。

1. 観るべきデータを定義し、測定できるようにする
2. 聴くべき声を定義し、把握できるようにする
3. データを見る、声を聴く、想像する
4. 仮説を立てる
5. 施策を設計する
6. 実装する(コンテンツ作成、ツール設定)
7. 実施する
8. 設計どおりの動作をしているか検証する

データを定量情報・定性情報組み合わせて少人数でクイックに回すことが、PDCAを回す際のポイントだと強調されていました。