インターネットの普及やSNSの広がりによって、企業と顧客の関係は大きく変わりました。以前は顧客が企業の広告を見て、気に入れば商品を購入するという一方的な関係のみでしたが、今は双方向のコミュニーションを経たうえで購入に繋がるという流れが主流になりつつあります。

コミュニケーションが重視され始めたのは、顧客が広告に対してシビアになってきているという背景もあります。一方的な売り込みやターゲットが不明確なプロモーションは、広告慣れした顧客には簡単に見破られてしまいます。

そんな中、サービスの機能だけでなく、使用したときの「経験」に重点を置いた「経験価値マーケティング(エクスペリエンシャルマーケティング」という手法が広がっています。実際にサービスを経験してもらうことで、顧客の共感を呼びエンゲージメントを高めるためのものです。

今回は、経験価値マーケティングの基本と活用例を解説します。

経験価値(エクスペリエンシャル)マーケティングとは

経験価値(エクスペリエンシャル)マーケティングとは、サービスを実際に経験できるイベントを通して、サービスやブランドへの認知度と好感度を高めるマーケティング手法です。コロンビア・ビジネススクールのバーンド・H・シュミットが提唱しました。

従来の直接的な広告手法以外での、顧客のエンゲージメントを生みだすマーケティング手法「ブランドアクティベーション」のひとつでもあります。

参考:
ブランドアクティベーションとは?顧客と関係を築く6つのマーケティング手法を解説|ferret[フェレット]

経験価値は、サービスそのものの価値とは異なります。サービスを利用した経験から得られる感動や満足感など、感覚的な価値を指します。

機能などの定量的な価値だけでなく、心理的な価値も提供することで、顧客のエンゲージメントを生み出してもらうことが狙いです。

経験価値の5つの要素

経験価値には、次の5つの要素が含まれています。

【1】SENSE(感覚的な経験価値) 
【2】FEEL(情緒的な経験価値) 
【3】THINK(創造的・認知的な経験価値) 
【4】ACT(肉体的な経験価値とライフスタイルに関わる価値) 
【5】RELATE(関わる集団や文化の中での交流) 

【1】SENSE(感覚的な経験価値) 

顧客の五感*「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」*に訴求します。その店のターゲットに最大限魅力を感じてもらうために、コンセプトに合わせた外装や内装、BGMなどにもこだわります。

【2】FEEL(情緒的な経験価値) 

斬新なアイディアやこれまでになかったサービスを展開することで、顧客の好奇心を喚起します。既存のサービスでも、新しい切り口での経験を提供することで顧客の満足度を高めます。

【3】THINK(創造的・認知的な経験価値) 

顧客がそのサービスを利用したときに感じるであろう、高揚感や感動を想起させます。「使ってみたい」と期待をもってもらうための経験です。

【4】ACT(身体的な経験価値とライフスタイルに関わる価値) 

顧客の身体的な変化や、実際のライフスタイルへ訴求します。美容系の体験で一瞬で自分の見た目に変化が起こると、より価値を実感しやすくなります。

【5】RELATE(関わる集団や文化の中での交流) 

同じサービスに関わった人同士のコミュニティの中で交流することにより、仲間意識を芽生えさせることです。人間の所属欲求に働きかけ、共感を波及させやすくします。

経験価値マーケティングの事例

ホテルで日本文化を体験

東京のシティホテルが、訪日外国人に向けて日本文化を体験できるサービスを提供しています。
京王プラザホテル東京は、茶道の体験イベントを開いています。
グランドプリンスホテル高輪では、和室の部屋を新しく開業し、生花体験ができる宿泊プランを用意しています。

参考:

「文化体験」で外国人誘致 サービス強化|毎日新聞
(2020年8月7日時点でページが存在しないためリンクを削除しました)

体験型スポーツショップ

新宿区のアディダスが、体験型の店舗としてリニューアルオープンしました。
実際にシューズを履いてボールを蹴って、使用感を確かめることができます。

アシックスでは、女性向けの体験型サービスとして、専門スタッフによる身体測定とトレーニング方法のアドバイスを受けることができます。

参考:
大型スポーツ店が相次ぎ開業 キーワードは「体験」|TV東京*(2020年8月7日時点でページが存在しないためリンクを削除しました)*

自社商品を使った料理を提供

家電メーカーのバルミューダは、東京の代官山に期間限定(2017年9月7日〜12日)で店舗をオープンしました。バルミューダの家電を使った料理を無料で提供し、自社商品の魅力を体験してもらうことで話題を集めました。

顧客と直接つながりを持ち、認知度だけでなく好感度も高めていくために、「体験型」店舗を展開する企業は増えています。
顧客がインスタグラムなどのSNSに投稿したくなるようなお洒落な内装にするなど、様々な工夫が施されています。

参考:
バルミューダが“初出店”、相次ぐメーカー店舗のなぜ|日経トレンディネット

小型電気自動車の走行体験

トヨタ自動車は、名古屋市内で小型電気自動車の走行体験ができる店舗をオープンしました。車離れが進んでいると言われている若者がターゲットで、実際に乗車する機会を増やすことが目的です。

最短1時間からのレンタルサービスもあり、気軽に体験できます。

参考:
トヨタ、名古屋に小型EV体験拠点 大学生利用促す|日本経済新聞

まとめ

近年、顧客の消費傾向は*「モノ(サービスや商品)」から「コト(経験)」へと変化*しています。企業努力によりサービスの機能の優劣に差が生まれにくくなっている分野では、今後いかに顧客に共感させ、周りに拡散したいと思ってもらえるかが重要になってくるでしょう。

顧客の目線に立ったサービス展開を進めるために、まずは小規模からでもイベントを企画してみてはいかがでしょうか。