評価が変われば“良いマーケター”が生まれる

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飯髙:
次に、伺いたいのが「マーケターの評価」です。今後マーケターを育てるという意味合いで、どのように評価していけば良いでしょうか。

西井 氏:
評価には、まず定義が必要ですよね。マーケティングの手法が多様化しているので、まず、整理する必要があります。もしかしたら、過去の手法でもう通用しないものもあるだろうし……。

僕はコンサルティングの仕事の一環で、経営者の方から「Webマーケティングの責任者を採用したい」というお仕事をいただくことがあり、面接に参加する機会があります。

その際、どういった施策を行った経験があり、成果を出したのか深掘りして聞くようにしています。それをもとに、スキルセットを明らかにできるのですが、これは自身がマーケティングに携わっているからであって必ずしも正解というわけではありませんが……。

飯髙:
そういったスキルセットの判断ができる人っていうのは、どうやったら生まれるんですかね。

西井 氏:
一定の知見のある経験者であれば、スキルセットの判断自体はできると思います。例えば、高校で甲子園に行くくらい野球をしていた人であれば、フォームの良し悪しの判断はできると思うんです。

マーケターの領域には、そういった人が少ないから評価しづらいのかもしれません。デジタルマーケティングがそもそも新しい分野ということもあるため、僕が第一世代くらいなんですよね。なので、自分を含めそういった人たちが評価を行える状態を作らなければと思っています。

飯髙:
マーケターを目指してもらえる環境作りも今後大切になると思いませんか?例えば、「社長に憧れる」のように“社長”は憧れの対象になりますが、「あのマーケターに憧れる」はあまり聞かない気がします。

西井 氏:
社長になりたい人って結構いると思うんですよ。マーク・ザッカーバーグのように、わかりやすい憧れの対象がいますから。でも、「財務部長になりたい」とかはあまりないですよね。それと近いのかなと思います。

僕自身、あまり憧れるマーケターのような人はいなかった。あえて言うとすれば、前職(株式会社ドクターシーラボ)や現職(オイシックスドット大地株式会社)の社長です。彼らは、社長であり一流のマーケターなんです。

根本的な原因として、マーケターが評価されていないというのもありますし、評価が変われば良いマーケターが生まれると思っているんです。いずれ、「あのマーケターって憧れるよね」って言ってもらえるように僕ら世代も頑張らなくてはならない。

僕からすると、優れている会社はマーケティングが優れているイメージがあります。実は、経営とマーケティングってほぼイコールなのではと考えています。

「良い企業」は「良いマーケティング」を行っている

ユニクロやZOZOTOWN、Appleから学ぶ優れた体験重視のマーケティング施策

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飯髙:
たしかに、マーケティングが上手いなっていう会社は、商材の見せ方や売り方がとても上手いし、「憧れの企業」として世間から見られている気がします。余談なのですが、僕は冬場にユニクロのセーターをよく着るんですよ。カシミヤ素材の9,000円程度の商品なのですが、それでも幸せに感じるんですよね。*3万円くらいするセーターも着るのに、9,000円で嬉しいなと感じる。*これもユニクロのマーケティングの上手さですよね。

西井 氏:
そうですよね。良い企業は良いマーケティングを行っています。単にEC運営を行うだけでなく、オムニチャネルもしっかり行っていますし徹底していますね。

たぶん、今からパソコンメーカーを立ち上げて、「良い製品を作ろう!」とスペックやハードウェアにこだわったら、おそらく潰れるんですよ。テクノロジーの最先端で頑張ろうと思っても、きっと売れません。

そうではなく、特定の人にだけでも良いので「ユーザー体験をどう作るか」を考えることができたら結果が大きく変わると思います。

飯髙:
まさにAppleの凄さがユーザー体験ですよね。決してスペックが究極的に高いというわけではないじゃないですか。箱を開ける瞬間の体験にもこだわっていて、箱1つの原価600円掛けているんですよ。

箱と言えば、AppleだけでなくZOZOTOWNもこだわっていますよね。単なる段ボールではなく、デザイン性の高い箱で、しかも開けやすい。箱だけをリメイクしたり再利用しているユーザーもいるそうなんです。これもユーザー体験ですよね。

西井 氏:
他の企業だったら、化粧箱はコスト削減の対象になりますが、箱を開ける体験に着目したのは凄いですよね。そういう会社は、本当に凄いと思っていて、必然的に良いマーケターが集まってくると思いますよ。

参考:
異例の1個600円 iPhone「箱」に革命(下):日本経済新聞

普段の生活の中でユーザー視点を持つことが大切

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飯髙:
そういったユーザー視点のマーケティングを実現するには、普段から商材に触れたとき「なんで、こうなっているんだろう?」と考える人が増えれば良いだけなんですけどね。

西井 氏:
そうなんですよね。僕の友人に広告のクリエイティブを作っている方がいます。彼と車にのっていると、交通広告を見ながら「あの場所にあのクリエイティブは意味ないな」とか「すごく良い広告だ」とかつぶやくんですよ。すぐにメモを取っているし。普段の生活の中で、自身がユーザーとして刺さるものは何かを見ているだけで全然違いますし、その差は大きいと思いますね。

飯髙:
ぼくもWebだったら、「なんでこの広告を僕にターゲティングしているんだ?」とか「クリエイティブが凄く良いのに、LPOは全くだめだ」とか考えてしまいますね。

西井 氏:
そうそうそう!あと、Webの場合は、身近なので学びやすいことがメリットですよね。テレビCMの時代であれば、マーケターになりたくてもCMの裏側が一般人にはわからないじゃないですか。例えば、「この番組の買い付けはいくらでやってるんだろう」「GRP(CM1本毎の視聴率)はいくらだろう」のように。

でも、Webであれば自分でクリエイティブを作ることもできるし、出稿も簡単にできます。検索すれば、リスティング広告の出方もわかるし、それがキッカケで自然と購入した体験もストックされますからね。