一周回って、口コミが効く時代に

飯髙:
ここまでさとなおさんのお話を伺ってきて思ったことがあります。いままで「ファンベース」という言葉はなかったけれど、その考え方自体は、昔からあったのかなという気がしてきました。

佐藤 氏:
そうですね。おっしゃるとおり、一周回って重要になってきた考え方なのだと思います。

今は、毎年、千葉市や仙台市といった100万人規模の都市がひとつずつ消滅しているような時代です。そんな時代に新規顧客を大量に獲得することは、ますます難しくなっていきます。高齢化社会もそれに拍車をかけています。

高齢化社会ではみんなが新しい商品に手を出さなくなっていきます。今まで使い慣れたものを使い続けたい人が増える。だからこそ、いま、せっかく既存のファンがいるならば、そのファンを大事にして売り上げを安定させ、そのファンたちに新規顧客を口説いてもらったほうがいい。「ファンベース」が、一周回って重要である理由がこれです。

飯髙:
とくに中小企業の担当者にとって「ファンベース」の考え方は、必須になると感じました。

佐藤 氏:
今まで予算の10割を新規顧客に振り分けていたものを、1割か2割でいいので、中長期的なファンベースに割いていく。ファンの下支えがあれば収益も安定します。

ファンベースを認知や話題化を目的としたキャンペーンと組み合わせれば、これまで一過性かつ瞬間風速的だった顧客が、継続型の顧客になっていきます。

企業にとっても、自社の商品に共感し愛着をもってくれる顧客とともに成長していくことは、売り上げだけではない価値を得られることでしょう。

まとめ

ファンの声を傾聴することで、自社の商品のなにが愛されているのか、その“価値”を知ることができます。企業自身が気づいていない価値に気づくことができるという点だけでも、「ファンベース」という考え方は大きなメリットがあると言えるでしょう。

「ファンを大切にする」という考え方は、時に「ファンへの迎合」と感じることもあるはず。しかし、佐藤 氏が提唱するファンベースは「優遇するのではなく、あくまで対等な仲間としての関係」と述べています。その企業の良さを本当に感じているファンを大切にすることが大切です。

一方で、「ファンベース」という考え方には中長期的な施策という弱点もあります。ただ、佐藤氏は短期的なキャンペーンと組み合わせることで相乗効果を見込むことができると言っています。短期的なキャンペーンが効きにくくなっているという声が増えている昨今、そこに課題を感じている企業にも、佐藤 氏の「ファンベース」という考え方は大きなヒントとなるでしょう。

Written & Interviewed by Yumi Sato
Photo by Hiroaki Yoda