TechCrunchによると、Appleの2016年のApple Watchの売り上げだけで約60億ドルの収益を上げたと予測されています。腕時計業界を牽引しているロレックスの2015年度の売り上げが約45億ドルだったことを考えれば、腕時計業界トップの座をApple Watchが奪ったことになります。

JawboneFitbitといったアクティビティトラッカーも、睡眠の深さを記録したり、食事や規則正しい生活のアドバイスをして生活改善をサポートする機能を搭載したりと攻勢を仕掛けようとはしていますが、Apple Watchの凄まじい普及率を前に苦戦を強いられている状況です。

上述のFitbitは競合のPebbleを買収したり、企業向けを強化しているものの、2017年第2四半期決算は売上を40%落とし、赤字に転落したことが伝えられています。
CNETの2016年の報道ではApple Watchよりも好調な気配が伝えられていましたが、Apple WatchがSeries 2・Series 3を続々と投入したことで、その攻勢が逆転したのです。

ではなぜ、Apple Watchだけがウェアラブル市場で「独り勝ち」しているのでしょうか?その理由を分析してみましょう。

参考:
Appleよ、ロレックスに勝つのは難しくない | TechCrunch Japan
FitbitのPebble買収により、Pebbleのサービスは縮小・停止へ | TechCrunch Japan

Apple Watchだけがウェアラブル市場で「独り勝ち」する5つの理由

1. App StoreとwatchOSによる「エコシステム」

Apple Watchの人気が現在でも続いている理由に、Apple Watchがさまざまなアプリケーションをインストールできる点にあります。

ウェアラブルデバイスの中でも、フィットネスバンドは睡眠計や歩数計など、運動や健康状態を管理するのに必要な機能は揃っています。
しかし、アプリで機能を追加することはできないので、機能をバージョンアップさせたかったり他の機能も使いたいということになれば、新しい機種への買い替えを迫られます。実際、フィットネスバンドの筆頭ともいえるFitbitは、AtraやAtra HR、Charge 2、BlazeやIonicなど、次々と新商品を出しています。

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https://www.fitbit.com/jp/home

一方、Apple WatchはApp Storeに対応しており、自分が使いたいアプリをインストールすることで自由に自分なりにカスタマイズすることができます。iOS 8.2からは、Watchアプリからもアプリをインストールすることができ、さらにはApple Watchに追加されたアプリはiPhone上にあるアプリとも同期します。Apple Watchユーザーは、文字通りiPhoneの「代わり」として、ポケットからiPhoneを取り出さなくともiOSにアクセスすることができるのです。

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https://www.apple.com/jp/watchos/

また、Apple WatchのOSであるwatchOSは頻繁に更新されており、2018年1月19日には4.2.2の最新ベータ版がリリースされており、正式版もまもなく発表される予定です。Apple WatchユーザーwatchOSを入れ替えるだけで買い替えをする必要はありません。今だに初代Apple Watchを使い続けていても、最新OSで問題なく作動します。

Apple Watchは長く生き続ければ生き続けるほど進化するというエコシステムによって、Appleは着々とその利用者を増やしています。サードパーティーの開発者がwatchOSにも対応したアプリを作りやすい環境にもなっているので、気がついたらApp StoreにwatchOS対応アプリがどんどん増えている、ということもユーザーエンゲージメントを上げる大きな要素となっています。

2. なんでもできる「多機能性」

Apple Watchには対応アプリが多いので、さまざまなアプリを入れることで、家計簿に買い物の記録をつけたり、乗り換え案内をすぐに確認したり、Siriに何かお願いをしたり、Bluetooth対応イヤホンに接続してiPhoneなしで音楽まで聞けるようになり、文字通り「なんでもできる」万能ウェアラブルデバイスとなりました。予定や天気を確認したり、ストップウォッチで時間を計ったり、仮眠をするためにタイマーをセットしたりするのは、アプリをインストールしなくとも利用することができます。

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https://www.apple.com/jp/watchos/

2018年1月現在、Apple Watchは発売から2年9ヶ月が経過しますが、次に登場するであろうメジャーアップデートのwatchOS 5では、さらなる進化が遂げられるのではないかとの噂も広まっています。

マット・ビーチラー氏によれば、Apple WatchのSiriにはサードパーティー製のアプリも対応されたり、睡眠追跡アプリを追跡できるようになる可能性もあります。Appleは2017年5月9日には睡眠トラッカーを販売するBedditを買収しており、その技術が応用されるのではないかと考えられています。次のwatchOSが発表されるのは6月に開催されるであろうWWDCですが、それまでにどんな機能が追加されるのかを想像してみるのもいいでしょう。

3. 一目で分かる「形」

スマートウォッチが世間を騒がし、Apple Watchに続いて他者が次々とディスプレイ付きの時計型デバイスを発表したとき、Apple Watchは「失敗するだろう」とさえ言われていました。私たちの固定観念で言えば、(とりわけ男性用腕時計については)「文字盤は丸いもの」であるという先入観があるのは否定できないでしょう。その意味で、他社の多くはApple Watchの独特な形を「模倣」するのではなく、むしろ追随せずに「丸型ウォッチフェイス」を「売り」にさえしたものです。

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https://www.motorola.co.jp/products/moto-360

当時、Apple Watchに対抗するダークホースとして見られていたのは、現在は中国パソコン大手のレノボの傘下にあるモトローラ・モビリティーが発売したMoto 360です。Android Wearを基幹OSとしており、ウォッチフェイスを自由自在に変えることもできますが、何よりの売りは「丸型」であることでしょう。

しかし、文字盤もあまりに精巧に作られており、スタイリッシュではありますが、スマートウォッチを着けているということに気づかれにくいのかもしれません。文字盤をユニークすぎるものにでもしない限りは、良くも悪くも、見た目は他の一般的な時計と「同じ」です。

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https://www.apple.com/jp/watch/

一方、Apple Watchは、その独特の形が功を奏しています。ユニークな形から、誰が見ても「Apple Watchを身に着けている」ことが明らかです。もしApple Watchが丸型だったら・・・こんなに売れてはいなかったかもしれません。

Appleは何でも特許を取得してしまうことで有名ですが、携帯総合研究所2014年10月には、当時「iWatch」として噂されていた時計型ガジェットの特許を取得しています。

The New Yorker紙の記事によれば、Appleのデザイン部門の最高責任者であるジョナサン・アイヴ氏と、同社のクリエイティブディレクターのアラン・ダイ氏が、Apple Watchのデザイン決定を機密事項として慎重にデザインしたということが伝えられています。Apple Watchで私たちが今後表示するデータは、例えば写真や地図のように、必ず四角いものである、ということにも注意を払ったといいます。しかし、基本的には四角い形状をしているにもかかわらず、エッジ部分はできる限り丸みを帯びている、というところはデザイナーとしての配慮が現れているところだと言えるでしょう。

4. さまざまなモノの「代用品」へ

Appleが2016年第4四半期にApple Watchの売上高が過去最高となった理由には、エントリーモデルの価格を低く設定したり、ユーザーインターフェイスを全面的に改良したことなどが挙げられます。

しかし、当時発売されたApple Watch Series 2には新たにGPSが搭載されたことで、ウェアラブル市場における存在感を見せつけることになりました。これによって、ユーザーはiPhoneを携帯していなくとも、地図アプリナビゲーションを実行することができるようになったのです。

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https://www.apple.com/jp/apple-pay/

また、日本においては、Suicaへの対応も注目です。まだまだにわかではありますが、キャッシュレスを好む人の間では、Apple Watchを使って改札を出入りしたり、少額の買い物をApple WatchにあるSuicaで済ませる人も増えてきました

続くApple Watch Series 3では、スマートフォンでもおなじみの高速通信技術LTEを内蔵したことで、単体でネット上のデータとのやりとりを実現できるようになりました。LTE上で音声の通話が可能になるVoLTEにも対応し、Apple Watchだけで通話もできるようになったのです。

Apple Watchは、シリーズ交代を行うたびに、単なる「スマートな時計」を脱して、次々に私たちの身の回りにあるものの「代用品」として、万能な存在になりつつあります。

5. Seriesが変わっても続く「普遍性」

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https://www.apple.com/jp/watchos/

Apple Watchの進化を確認する上で意外と見落としがちなのが、デザインがほとんど変わっていないことです。Series 2やSeries 3で次々と新しい機能が搭載されたり、さまざまな規格をサポートしているにもかかわらず、サイズや外観が変化していないことは、むしろ驚くべきことだと言えます。

Appleによれば、Apple Watch Series 3では、ディスプレイ全体がアンテナとして機能しています。そうすることで、他にスペースを確保してアンテナを埋め込むような必要は無くなりました。また、iPhoneで見られたような、ボディにアンテナラインを埋め込むといったデザイン上の変化も防ぐことができました。デジタルクラウン(竜頭)が赤いことを除けば、デザインやサイズは従来のものとほぼ同じです。

Appleが提出していた特許を振り返ると、実は過去の特許出願の際に、「曲がったエッジを持つディスプレイの電子製品」や「非長方形のウェアラブルデバイス」のような、従来のApple Watchとは違う形も検討していたことがわかります。

しかし、AppleがSeries 1から続くデザインを踏襲し続けているのは、紛れもなくその形こそがApple Watchのアイデンティティであり、安直に変えることができないからです。次のSeries 4以降で、例えば睡眠トラッカーやカメラバンド、ラジオへの対応などが取り入れられたとしても、思い切った大きな変化がない限りは形の「普遍性」はおそらく続いていくものでしょう。

まとめ

3年弱でこれほどまでに進化した、ウェアラブル市場を牽引する代表的なプロダクトであるApple Watch。売り上げが「不調」であると伝えられていた時期もありますが、現在はむしろ「好調」で、「ウェアラブルといえばApple Watch」という堂々たる地位を築きつつあります。

Fitbitの株価が2015年のピーク時に比べると5分の1に下がっていることから、ウェアラブルは「終わったもの」として捉えられやすいということもあります。しかし、Apple Watchを見る限りは、今後もどんどんと進化を続けていくことが予想されます。