NPOの活動がメディアを通じて紹介されることは、決して多くはありませんでした。メディアに取り上げられなければ、活動の認知は広がらず、支援者を集めるのも一苦労です。

時代は変化し、インターネットやスマートフォン、ソーシャルメディアが登場しています。メディアに取り上げられずとも、自ら情報発信ができる時代になりました。

NPOも自ら情報を発信し、活動を広げて社会課題の解決をより進めやすくなっているはず。一方で、ツールやサービスを十全につかいこなせているNPOは多くはありません。

今回は、NPOが情報発信を行う上で、検討するべきツールや活用している団体の事例を紹介していきます。

ソーシャルメディアで専門性や活動の様子を発信する

NPOが情報発信を行う際、まず考えるべきは代表による発信です。団体のビジョンや思いを最も説得力ある言葉で語れるため共感されやすく、どんな人が運営しているのかも可視化できるため信頼も得やすくなります。

考えを伝えやすいのはテキストでのコミュニケーションを行う、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアです。これらのサービスは日本でもユーザー数が多く、発信を継続することで注目を集められる可能性があります。

活動の様子をこまめに発信したり、自らのNPOが取り組む社会課題に関する専門的な発信などを行うのがおすすめです。専門性やテーマのある情報発信は、フォロワーの獲得につながっていきます。

ソーシャルメディアの発信は、リアルタイム性が求められ、流れていってしまう「フロー」な情報発信です。活動の認知を高めていくためには、別の情報発信手段も用意しておいたほうがいいでしょう。

ブログでの発信は、取材や講演依頼にもつながる

そのために欠かせないツールがブログです。ブログの特徴は情報を「ストック」できるアーカイブ性にあります。

ソーシャルメディアなどで発信した情報も、もう少し文章に肉付けをしてブログに掲載しておくと、NPOの活動や代表に関心を持った人が現れた際にブログを訪れた際に読むことができます。ソーシャルメディアから過去の投稿を探すのは一苦労。どこかに蓄積しておくことを意識しましょう。

アーカイブされていると、活動が継続していること、どのような考えにもとづいて活動しているのかが伝わります。丁寧かつ継続的な発信は、「このNPOを支援するかどうか」を判断する上で、重要な材料になるでしょう。

多くのブログサービスは無料で利用でき、様々なテンプレートも用意されているため、手軽に始められます。

alt 工藤啓さんのブログ

たとえば、若年無業者(ニート)やひきこもり状態など、働きたいけれど働けずにいる若者の自立を目指した就労支援に取り組んでいる育て上げネット理事長の工藤啓さんも、ブログで発信をされています。

工藤さんは「アメーバブログ」上で、活動報告やオピニオン記事を発信。執筆した記事を「Yahoo!ニュース 個人」「ハフポスト日本版」「BLOGOS」にも配信しています。ブログを継続して注目されると、他のプラットフォームへと配信する機会が訪れることもあります。

多くの読者を持つプラットフォームに配信することは、団体の存在や対象とする社会課題の認知拡大に、効果的な方法といえるでしょう。ブログで継続的な発信を行うことで、団体の認知拡大につながり、活動に共感してくれる支援者が生まれる可能性が高くなります。

企業が取り組むオウンドメディアをNPOも

代表個人での情報発信の次は、団体としての情報発信について見ていきましょう。その前に、少し企業の情報発信のトレンドを紹介させてください。

近年、企業が自らメディアを立ち上げ、ブランディングをしたり、サービスや商品を紹介したり、ユーザーを獲得するために情報を発信するケースが増えています。こうした企業が運営するウェブマガジンやブログは「オウンドメディア」と呼ばれています。

NPOの中にも「オウンドメディア」の運営に取り組んでいる事例があり、その代表例が、「病児保育」「障害児保育」「小規模保育」「赤ちゃん縁組」などの課題に取り組むNPO法人フローレンスです。

フローレンスは、オウンドメディア「フローレンスNEWS」を立ち上げ、情報を発信しています。

たとえば、「アクション最前線」というコーナーでは、フローレンス代表の駒崎さんと識者による対談や、事業を始めた背景にある社会構造の問題について紹介しています。子どもの貧困問題を解決していくための事業「子ども宅食」に関する記事では、相対的貧困に関する現状がデータを活用しながら丁寧にまとめられており、非常に読み応えのある内容になっています。

alt 子ども宅食に関する記事

記事の文末にはフローレンスへの寄付や求人へのリンクが貼られているため、共感した人がそのままアクションを起こせるような設計がされています。

実施できれば効果が上がる可能性が高いオウンドメディアですが、課題は立ち上げや運営にかかるコストです。サイト設計やコンテンツ制作、データ分析など行うべき業務も多くあり、まとまった資金も必要となるため、立ち上げるためにはクラウドファンディング等を通じた資金集めも検討するべきでしょう。

資金獲得だけではないクラウドファンディング

では、最後は今話に出たクラウドファンディングについて紹介します。クラウドファンディングとは、インターネットを活用して不特定多数の支援者から資金を集めるサービスのことを指します。

海外から始まったクラウドファンディングは、国内でも複数の事業者がサービスを運営しています。「ジャパンギビング」や「Readyfor」、CAMPFIREの「GoodMorning」など、寄付として資金を受け取ることができる「寄付型」のサービスを提供している事業者も存在します。

NPOがクラウドファンディングを活用することで、資金が得られるだけでなく、クラウドファンディングのサービス上でページを開設すること自体がひとつのチャネルとなり、新しいファン層の獲得につながることでしょう。

クラウドファンディングへの挑戦自体が注目され、メディアに取材されることもあります。

通信制高校・定時制高校の高校生に特化し、独自のプログラム「クレッシェンド」やインターシップなどを展開しているNPO法人D×P(ディーピー)は、クラウドファンディングを上手く活用されています。

alt D×P理事長の今井紀明さんが挑戦したクラウドファンディング

D×P理事長の今井さんによるクラウドファンディングでは、直接的な団体の取り組みではなく、自身の挑戦と絡めてクラウドファンディングを行うことで、D×Pの認知度拡大につなげています。

これまでに今井さんは、250kmを走る「サハラ砂漠マラソン」と「アタカマ砂漠マラソン」に挑戦するため、CAMPFIRE上でクラウドファンディングを行いました。前者は520万円、後者は764万円の支援を獲得。プロジェクトページでは、個人の挑戦として取り組む意義だけでなく、事業を行う社会的な背景や具体的な取り組みも丁寧に説明されています。

過酷なマラソンに挑戦することで、高校生にその背中を見せるだけでなく、D×Pの認知度拡大や活動資金につなげているのが印象的でした(マラソン参加のための諸経費は100万円前後ですが、残りは「D×Pへの支援として活用する」と記載されています)。

発信することで支援を集めよう

情報発信は、すぐに効果が出るとは限りません。発信のためには数少ないリソースも割かなければいけません。

しかし、情報を発信することで注目され、支援者とのつながりが生まれます。継続した発信は、寄付の獲得やメディアからの取材依頼、仲間の採用などにつながるでしょう。

活用できるツールは数多く生まれています。ぜひ、NPOとしての情報発信に挑戦してみてください。