相手に合わせて文体も変化するべき

飯髙氏
飯髙:
文章のパターンは、届けるターゲットによって使い分けが非常に難しいですよね。例えば、小説で歴史小説が好きな人と恋愛小説が好きな人って、提案してもらいたい文章は全然違います。そういった使い分けなども今後はもっとできるようになっていくということでしょうか。

松尾氏:
そうです。年齢とか性別とかでターゲットを設定すると文賢のチェック、アルゴリズムがちょっと変わるというのを考えています。硬めの文章と緩めの文章まで柔軟に選択できるようにしたいですね。例えば、Twitterに投稿するときは、硬い文章よりもちょっと砕けた文章とか、うれしいと文字で書くよりも顔文字にしたほうがいいんじゃないかとか、そういうのがいいと思っています。

飯髙:
不思議ですよね。同じ人が書く文章に、色々な人格が出てくるような感じです。

松尾氏:
私の好きな考え方に平野啓一郎さんという小説家の「分人主義」があります。分人主義ってすごく面白くて、人は実は基本的に複数の人格を持っているというものです。

例えば、今、飯髙さんに向き合っている松尾は、飯髙さん仕様の松尾なのです。この後、別の人に会うのなら、その人仕様の松尾。恋人と会うのなら、恋人仕様になっている。しかし、それは多重人格かというとそうではなく、全部本当の自分なんです。人は向き合う人に合わせて自分の人格をカスタマイズしている。それが人間の面白さだと思うんです。

僕は文賢を使うことによって「積極的に変化しようよ」ということを社会に提案したいのです。今、自分の信念やポリシーを大切にしすぎて、変化に不器用になっている人たちが増えている。例えば、明らかに自分に非があるとしても謝れない。「自分はこうだから」と。でも、ただ謝れば済むだけのことっていっぱいあると思うのです。そういうのも文賢がアドバイスしようと。「あなたが今変化したら、こんなに素敵な未来が訪れるかもしれませんよ」というシミュレーションを見せられれば、幸せな未来が近づくと思っています。

「そうだ、文賢に聞いてみよう」

松尾氏
松尾氏:
Webの世界では現実では考えられないミスコミュニケーションが起きてしまっています。直接人と向き合って話せば伝わることも、画面ばかり見てしまって伝わらなくなっている。先ほど言ったような変化を許容できない人が増えていることが一つの要因かもしれません。

Webの世界では文章の温度やリズムが伝わりにくく、一方通行になりがちです。これは現実に置き替えたら「普通はやらないよね」ということばかりやっているんですよね。そういうことにもっとWebを使う人たちが気づいて、思いやりやコミュニケーションをきちんと意識したコンテンツが増えればいいのではないか、と考えています。

文賢はまだコミュニケーションのサポートの入り口になったレベルなのですが、最終的には「こういう言葉の使い方をしたほうが、より相手に伝わるよ」というような気づきを与えていきたいですね。

人って誰かに間違いを指摘されると、自分が尊敬している人からでない限り、普通に拒絶してしまいます。人は納得して自分の行動を決めたい生き物なので、尊敬していない人や知らない人からの指摘に対して「なぜ、あなたの言うことを聞く必要があるの?」と感情的に拒絶してしまいやすいんですね。だったら、意見を言う側をロボットすなわちツールにしてしまってはどうか?と考えました。

きっと「ロボット(ツール)が言うのだったら、まあ仕方ないか」と意識になるのではと思いました。

飯髙:
文賢は将来的には文章だけではなくて、画像に対してもアドバイスするようなツールになっていきますか?

松尾氏:
そうです。目指しているのは、例えばメールを送る際のサポートや対人のコミュニケーションのサポートとして使われるようになることです。

テキストだけでなく、画像を含めたサポートメールを送る時に相手を怒らせる内容をわからないで送る人がいるためです。

毎日メールを返信してると、どうしてもどんどん視点が狭くなっていってしまいます。サポートは失敗するとそのブランドの評価を落としたりとか、お客さんからクレームを受けたりしてしまいます。文賢のサポートによって、ちょっとした言葉の選択で失敗を防ぐ、ということをしたいですね。

ですので、正直純粋の誤字脱字確認のツールとしてはあまり期待していません。文賢でもある程度の誤字脱字はもちろんチェックしますが、他社の推敲・校閲ツールでできないチェックやアドバイスを文賢がやっていこうというように変えていっています。

だから、「そうだ、文賢に聞いてみよう」みたいなところまで行くといいですね。

<後編に続く>
Photo by 青木勇太