「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第4回目となる前回記事では広告コピーの秘伝の修行法についてお届けしました。

さて、今回から基礎編。いよいよ実際の広告コピーの書き方について解説していきます。

基礎編・第5回のテーマは「まず、『何を言うか』を決める」ことについてです。
毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

広告コピーをはじめとする言語表現を学ぼうとする時に多くの人が張り切ってついやってしまいがちなこととして、まず「語彙力」を伸ばそうとすることがあります。

言葉のプロとは、日常会話では登場しないような文学的でリッチな言葉づかいをサラリとやってのける人という前提意識があるのかもしれませんが、それは詩人や小説家に限った話。

広告コピーとは決して美辞麗句や奇抜な表現で実体以上に見せるものではなく、伝えるべき要素を的確に伝達することで、本当に必要な人に商品・サービスの便益を確実に届けるためのものです。

自分が知らない言葉は、受け手も知らない

冷静に考えれば当たり前の話ですが、さっきまで自分が知らなかった言葉は、受け手も知らない可能性が高いのです。「コピーを学ぼう」と考えるような人なら当然、普通の人よりはこれまでも言葉や表現に興味を持って生きてきたはずですからなおさらです。

コピーライターの横顔

これまで業務を通じて様々なコピーライターと接してきましたが、彼(彼女)らの多くは人並みはずれた読書家というわけでもなく、詩や小説に特段通じているわけでもありません。職業柄、世の中のトレンドには多少敏感なところがある程度。

ただ、コピーライター特有の「口癖」はある程度共通しており、それが持つべき視点のヒントになります。それは「そもそも」という言葉。オリエンテーション(広告主から制作者への相談案件のブリーフィングの会議)後の初回会議の場では「そもそもこの商品って……」「そもそも生活者は……」という会話が頻発します。

「そもそも論」を交わしながら、彼らは何をしているのか?

そもそも論を交わす初回会議は大抵、オリエンシートを見ながら行われます。オリエンテーションの場で相談者である広告主が与件を整理したオリエンシートには、商品の狙いやターゲットの分析が詳細に記述されています。

ただ、大事なのは「オリエンシートには答えはない」ということ。答えが出ていればわざわざ外部に相談することはないのですから当然です。広告主が調査を元に積み上げたロジックを引き継いで、その先の「答え」を見つけるのが広告制作者の仕事です。

しかしもっともらしいデータを並べられると、ついついそちらに引っ張られてしまうのが現代人というもの。「そもそも」という会議の枕詞には「ちょっと待てよ……」と視点をニュートラルに戻す作用があります。

彼ら(彼女ら)はそもそも論を交わしながら、データやロジックと、普段着で買い物をする生活者の間を行ったり来たりしながら「ここしかない」という一点を発見する作業をしているのです。それはどんな言い回しで、どんなタレントで、どんな音楽で表現するかを考える前提となるメッセージの軸を固める作業でもあります。

どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める

広告コピーを考える時にまず最初に行うことは、そもそもこのコミュニケーションにおいて「何を言うべきか?」を決めることです。

それらしいことはオリエンシートにも書いてありますが、それはメーカーなどの作り手側(広告主)からだけの視点。広告主が言いたいことと、受け手が言ってほしいこと。その交点を定めるのが、広告コピーの最初の作業です。

そして同時にこれは、コピーライターとして最初に身につけるべき視点でもあります。無暗に「語彙力」をつけることは、「何を言うか」を固める前に「どう言うか」に気が向いてしまっているということです。

宿題のようなもの ーCopy Drillsー

この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、ぜひチャレンジしてみてください。

今週のお題

子育て用のデジタル一眼カメラのコピーを書いてみましょう。まず「何を言うか」を発見した上で、「どう言うか」を考えてみてください。

解答例は次回に!

解答例は、次回の連載(1/20(金)予定)でお伝えします。

前回のお題の解答例

前回のお題だった「年末年始広告の写経」の解答例はこちらです。

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後書きのようなもの

今回のテーマ「どう言うか(How to Say?)の前に、まず何を言うか(What to Say?)を決める」というのは、広告のコピーライティング講座で叩き込まれる考え方だ。

実際の広告コピーを考える際には詳細なオリエンシートを材料に考えるが、一方で広告のコピーライティング講座で出される課題は極めてシンプルなものが多い。

私が記憶している課題は「山手線」「読書」「日記」はたまた「下駄」というものまであった。ターゲットや時期、目的などの付帯情報も基本的には設定されておらず、テーマだけを与えられる。実際の広告コピーの作業とは全くかけ離れた作業であるために、こうした大喜利的な方法には意味がないのではという意見もよく見かける。

しかし上記の曖昧模糊とした課題テーマには一つの共通点がある。それは「誰もが知っているが、改めてじっくりと考えたことのないもの」だ。今思えば、これらは全て「何を言うか」を見つけるためのトレーニングだったことがわかる。

誰もが同じような淡くおぼろげな前提知識・意識を持っているからこそ、平等に課題に取り組むことができ、そして持ち寄った解答の答え合わせをしながら他者と自身の視点の深め方の差を都度リアルに実感できる。

たとえば「山手線」の課題であれば、よく出がちなのが「東京にグリーンを(車体の色から連想)」とか「東京を、回しています(地下鉄でも自動車でも言える)」とか。はたまた「10周回っても1駅料金(本当は違反行為。ウソはいけません)」などといった解答。これらは全て「どう言うか」起点で発想したアイデアで、講評では「何かを言っているようで、何も言っていない表現」と厳しくダメ出しをされる。

この場合の「何を言うか?」は、たとえば競合である東京メトロには言えない山手線の価値を発見するということ。環状線であることもそうだし、外の景色が見えることもそう。この2つの視点から発想した有名な名解答例は「東京大観覧車」であり、私は後者の視点で「特等席は、つり革です。」と書いた。

これからコピーの講座に通うにしても、独学で身につけるにしても、まず基本は「どう言うか(How to Say?)の前に、まず何を言うか(What to Say?)」を身につけること、と理解して取り組めば上達速度は格段に上がるはずです。

次回は広告の送り手と受け手をつなぐ「接点」となる「ベネフィット(便益)の約束」について。

では、また次回の連載(1/20(金)予定)でお会いしましょう。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー

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