「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第11回目となる前回記事ではChatGPTのコピーを添削するについてお届けしました。

第12回となる今回は実践編「広告コピーのトレンド変化」です。

毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

第9回連載「1/1000の狭きココロの門に入る。知的な気づきを与える「キャッチコピー」の作り方」にて、年代別の時代の気分に沿ったコピーアプローチについて紹介しました。

その中で、90年代以降は現代に至るまで基本的に「不安な気分を肯定するアプローチ」が主流であるとお伝えしましたが、アプローチの方向性は変わらずとも言葉の粒度は大きく変わっています。今回は90年代以降のコピートレンドについて解説します。

広告コピーを考える際の基本をチェック!

マーケターが知っておくべき、広告コピーを考える際の基本

マーケターが知っておくべき、広告コピーを考える際の基本

コピーを考える際に必要な、10のコンセプトを収録しています。コピーライティングを学ぶ人はもちろん、業務において適切に言葉を扱う必要がある方におすすめです!

変化する広告コピーの「言葉のサイズ」

広告コピーは2000年代を境として言葉の粒度が大きく変化します。90年代以前、マスメディアを接点に国民の多くが同じ気分を共有していた頃は富士ゼロックス「モーレツからビューティフルへ」や旧国鉄の「Discover JAPAN」など、時代の大きな気分とブランドをブリッジさせる「Lサイズの言葉」が活躍しました。

2000年代に入ってインターネットが急速に普及すると、ネット閲覧に多くの時間が割かれるようになるので視聴率30%を超えるような「誰もが見ている国民的番組」が消滅します。これに伴い、大衆は分衆としてタコつぼ化します。

同時にネットの閲読履歴データやSNSの属性データなどから精度の高いターゲティング広告が生まれ、広告は「個告」へと変化します。広告コピーも、個別のクラスターごとに小声で語りかけて共感をとる言葉づかいが多くみられるようになってきました。

事例①:「ルーツ飲んでゴー!」キャンペーン

その代表例が2007年4月にスタートしたJTの「ルーツ飲んでゴー!」キャンペーンでしょう。タグラインは「ルーツ飲んでゴー!」に固定しながら、1年間で約1,000パターンものマルチコピー展開をした事例です。

コピーの流れとしては
●ピンチがチャンスに変わりません。→ルーツ飲んでゴー!
●悪くなくても、たいてい自分が謝って終わる。→ルーツ飲んでゴー!
●「いいかげんにしないと怒るぞ」と怒られた。→ルーツ飲んでゴー!

というように、閉塞感を抱える30代サラリーマンに対し、叱咤激励するのではなく同じ目線で共感を取りながら少し前向きな後味を残すコミュニケーションです。

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出典:「ルーツ飲んでゴー!」のコピーでシリーズ展開した3段8割広告 | 広告朝日

事例②:オンワード樫山「Walk.23区」キャンペーン

ルーツ飲んでゴー!キャンペーンとだいたい同時期に展開された女性向けのマルチコピーアプローチが、2008年2月にスタートしたオンワード樫山「Walk.23区」キャンペーンです。

30歳前後の女性とともに歩むブランドでありたい、という想いから「Walk.23区」をタグラインとして固定し、ブランドネームに掛けた23パターンのクリエイティブを展開。

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同じ30歳前後の女性といっても、一人ひとりは全く異なるメディア受容をして、違った感性を持っている。当然響くメッセージも一人ひとり異なる。だから一人でも多くの女性に共感されるブランドになるために、多様なバリエーションのメッセージで展開するという考え方です。

前述の「ルーツ飲んでゴー!」と同じく、30歳前後の女性と同じ目線で語りかけるのが2000年代のコピーの特徴です。女性の「リアルクローズ」である23区というブランドだから、リアルな気持ちに寄り添ったコミュニケーションを丁寧に積み重ねていくということでしょう。

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出典:オンワード樫山「23区」プレスリリース

How to Say?は「言葉のサイズ」を意識する

広告コピーの基本はWhat to Say?を決めてからHow to Say?を考えることですが、現代のコピーワークではHow to Say?の検証においては「言葉のサイズ」を探ることが最も大事になってきています。

誰かの相談を聞く時に大声で相槌を打つ人はいないように、メディアコミュニケーションも「コミュニケーション」なのですから、TPOに合わせたボリュームやトーン、語り口が必要になってきます。

宿題のようなもの ーCopy Drillsー

この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、ぜひチャレンジしてみてください。また読者の皆さんからのコピー案も募集しています。Twitterでハッシュタグ#ferretコピー学習帳】をつけて、投稿してみてください。優れたコピーは、次回解答例と併せてご紹介します。

今週のお題

コロナも5類になり、いよいよ旅行需要も回復してきましたね。ということで今回のお題は「クルーズ積立」です。毎月少しずつ積み立てをして、海外のクルーズ旅行に出かけるという旅行代理店の商品のコピー制作を依頼されたあなたは、どんなコピーを提案しますか?

解答例は次回に!

解答例は、次回の連載(5/26(金)予定)でお伝えします。

前回のお題の解答例

前回のお題だったChatGPTのコピー案に対する添削例はこちらです。

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▼コピーを作る前に!ブランドの魅力を整理するためのフォーマットをダウンロードできます

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット(Excel形式)

後書きのようなもの

沼にハマるという「修行」

広告コピーが時代の空気に刺すものから個人の耳元に囁きかけるものに変化すると、クラスター理解が必要になる。寄り添っているつもりで的外れなことを言ってしまうことほど、間抜けなことはない。

そんな時代には、コピーライターも自ら様々な世界に飛び込んで「熱狂」の理由を肌感として体得することが必要になる。なんとなくの思い込みでコピーを書くとそれこそ「机上の空論」というものだ。

とはいえ、世の中にある無限の「世界」を全て体験するのは当然不可能な話だ。ボリュームゾーンと自分の興味属性をいくつか見極め、あえて「沼」に入ってみる。

第4回の連載で、コピーライティングの修行法として「写経」と「リバースエンジニアリング」を紹介した。それらに加えてこれからのコピーライターにはそうした、自分が全く興味のない世界にゼロからハマってみるという「修行」は不可欠だろう。

私の場合は10年代の音楽シーンを席巻した「アイドル沼」を選択した。他人と同じことをすると吐き気を催してしまうという生来の性質もあって一人前のヲタには成長できなかったのだが、それでもこれまで知らなかったようなグッとくる感動ポイントなど新たな視点を得られた。

1つの全く新しい世界認識を得ることは、あらゆる想像力の依り代になる。隣接するジャンルの案件なら応用可能であるし、さらにアイドルだと「推し消費」などの新たな消費マインドも体感としてわかる。

何より、昨日まで知らなかった「好き!」を知るということは幸せなことであり、人生をきっと豊かにしてくれるはずだ。

次回は「ブランドが紡ぐ小さな物語」について。

では、また次回の連載(5/26(金)予定)でお会いしましょう。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー

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