これしかない「解」を提示する。企画アイデアを世に出すための「伝わるプレゼン術」
「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第16回目となる前回記事では顧客理解のためのヒアリングについてお届けしました。
第17回となる今回は実践編「広告企画のプレゼンテーション」です。
毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。
広告主や依頼主からのオリエンテーションと呼ばれる案件相談会議を受けて、その「解」となる広告プランや表現案などを提案する場がプレゼンテーション(通称プレゼン)です。
社内なら数名の会議の場で企画説明ということになりますし、広告代理店のプレゼンでは提案側のスタッフが10名程度、広告主側の参加者も10名程度という大規模な場となる場合もあります。
広告代理店の場合は3-4社の競合企画コンペとなることも多く、負ければ制作会社への支払いなどで100万円規模の赤字となるのでまさに勝負の場。
しかしそもそも、受け手(視聴者など)はプレゼンを受けてからTVCMなどの広告を観るわけではありません。よい案であれば、実際にオンエアされる15秒のTVCM素材「だけ」を見ればプレゼンなどなくても企画判断できるのではないか、と思いませんか?
まずはそもそも「なぜプレゼンするのか?」から考えていきましょう。
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プレゼンテーションの本来の意義
「なぜプレゼンが必要なのか?」を考えることは、よいプレゼンをするために実は重要です。なぜなら、ここが明確になっていれば「プレゼンで何を話すべきなのか」が決まってくるからです。
まずプレゼンが不要な場合もあると筆者は考えています。それは「依頼者・広告主=メッセージのターゲット」である場合。この場合は企画アイデアだけ送って、端的に「わかる/わからない」「良い/悪い」を判断すれば済みます。
そうでない場合とは「依頼者・広告主≠メッセージのターゲット」のケース。ほぼ全ての広告がこちらにあてはまります。たとえば大手日用品メーカーの20代女性向けのシャンプーの企画プレゼンの場に参加するのは大体30-50代、男性7割・女性3割といったところでしょうか。
この人たちが「自分的にこの企画はグッとくるか」という基準で選んだら、とんでもないことになりますね。プレゼンで話すべきことはココです。
何を尺度に、アイデアを測るのか?を整える
プレゼンで行うべきことは、アイデアを評価する参加者全員の前提意識を整えることです。今回のターゲットは誰で、どのような価値観を持っていて、彼ら彼女らは思春期にどのような社会環境で育ったのか(スマホはあったか?大きな災害はあったか?世の中の景気・ムードはどうだった?)。そして最近の状況や気分はどうなのか?
その上で、改めてオリエンテーションの解釈を整理した上で、具体的な提案に入ります。よく「与件の確認」としてオリエン内容のサマリを話すことがありますが、それよりも与件に対する自分たちの解釈を付加して伝えた方が建設的な姿勢や知的生産性を感じられますし、同時に提案の方向性を全体で共有できます。
プレゼンテーションで語るべきこと
参加者の前提意識を整えたら、あとは具体的なアイデアの説明に入ります。ここまで述べてきた通り、プレゼンとはパフォーマンスによってアイデアを実際以上に良く見せる話術ではないので、これ以降は気負う必要はなく、語るべきことを淡々と話していきます。
男性も女性も、なるべく低めのボイストーンの方が聞きやすく、また提案内容に確信がある印象を与えます。
アイデアそのものではなく、アイデアの背景にある文脈を語る
話すポイントはアイデアそのものではなく、「このアイデアが成立する仕組み」の部分。たとえば受け手のどのような前提意識に対して、どのようなアングルから刺し込むのか?そこにどんな心理作用が働いて、購買行動につながるのか?というようなことです。
プレゼンの場では端的にテンポよく説明していく必要があるため、どの順番で何を話せばスムーズに理解できるかは事前にアタマの中で組み立てておく必要があるでしょう。
プレゼンテーションに失敗はない
ここまで述べてきたように、プレゼンそれ自体によって通らない企画が通るようになるものではありません。よって、気負う必要も緊張する必要もありません。
エレガントなパフォーマンスをする必要はありませんが、「提案慣れ」してない印象を与えるとさすがに聞き手も不安になってしまいます。よって企画書をそのまま「朗読」するなどはNGです。
同様に提案資料も過剰に作り込む必要はありませんが、依頼者は企画のプロに発注をするわけなので「自分よりもパワポ使いがぎこちない人たちの企画を採用して大丈夫なのか」と不安を抱かせないレベルの見栄えは最低限確保しましょう。
宿題のようなもの ーCopy Drillsー
この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、ぜひチャレンジしてみてください。
今週のお題
クルマで20分圏内にコストコやIKEA、ららぽーとなどの商業施設に加えて広大な河川敷や公園もある土地に建つマンション広告のコピーを任されたあなた。この恵まれた立地条件を軸にどんなコピーを提案しますか?
解答例は次回に!
解答例は、次回の連載(10/20(金)予定)でお伝えします。
前回のお題の解答例
前回のお題だった「涼感インテリアシリーズ」のコピー解答例はこちらです。
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ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット(Excel形式)
後書きのようなもの
本当の提案とは、新たな「夢」の提案である
本当の提案とは何か?それは新たな「夢」を提示すること。高校卒業時の大谷翔平選手に、栗山監督はじめ日本ハムファイターズの大人達が提案したように。実は「二刀流」とは大谷自身が元々抱いていた夢ではない。大人達の提案が想定外で面白かったから、まっすぐメジャーに行くつもりだった彼は日本のプロ野球に「寄り道」することにしたのだ。
良いアイデアとは「思わずやってみたくなる」性質を持つ。ブランドが向かうべき新たな方向性を鮮やかに提示し、「これしかない」と思わせるもの。予算の制約や企業の事情もある程度は突破する爆発力を持つ。そしてそれは、「本気の第三者」にしか見いだせないアプローチであることも多い。
この観点でいえば、つまり「これしかない」というアイデアを提案する場合、当然提案は1案になる。優れたアイデアとは絡み合った諸問題の全ての糸が交わる「たったひとつの交点」を見い出す作業であるが、それは大体1つの問題につき1箇所だ。
無邪気にバリエーションを出して依頼者・広告主に選ばせるのは簡単だが、それは相手に選考の負荷を与えているということにも自覚的になるべきだ。私も5年ほど前から基本は1案プレゼンだが、ほぼ一発OKだ。「複数案から選ばないと決められないだろう」というのは提案者の勝手な思い込みだし(先方に確認したのか?)、相手の判断力を軽視しすぎてはいないだろうか。
広告代理店の場合はたしかに、3社以上の競合コンペで負けたら100万円規模の赤字を出す状況ではあらゆる予防線を張らざるを得ないだろう。基本、広告代理店の利益率は15%なので、100万円の損失を穴埋めするには660万円分の仕事をする必要がある。
一方で広告予算が事業部単位になり、またデジタルシフトによって案件当たりの予算規模が億単位から千万単位に縮小する現代、この慣習にはムリが出てきているのではないかとも考えていた。100ページの提案書も負ければただのゴミだ。消耗感や徒労感、何よりコストに比べてあまりにも果実が小さい。
代理店ではない1対1の提案の場合はなおさら、1つの「これしかない解」を磨き上げることに集中すべきだ。そもそも「これしかない」のに、B案もC案も提案するというのは矛盾しており、相手に迷っているという印象を与えかねない。A案しかないと自分では思っているのに、様々な事情で捨て案で出したB案やC案が採用されたらどうするのか。
アイデアを提案する作業自体が思考停止になっていたのでは、本末転倒だ。本当に依頼者・広告主が求めていることは問題解決のためのアイデアであり、提案者の汗の量ではない。シンプルに「これしかない」の一点を突き詰める努力をしましょう。
次回以降は3回に渡って生活者を取り巻く時代の写し鏡としての広告とカルチャーについて考えていきます。初回は「X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー」について。以降は「Y世代=ミレニアル世代」の青春時代である96-10年、続いてZ世代の11年から現在までを特集します。
では、また次回の連載(10/20(金)予定)でお会いしましょう。
連載
第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー
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