「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第15回目となる前回記事ではアイデアのつくり方 ~アウトプット編~についてお届けしました。

第16回となる今回は実践編「顧客理解のためのヒアリング」です。

毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

コピー学習帳の「実践編」として、ここまでコピーのトレンド変化やアイデア創出法についてご紹介してきました。ここからはいよいよ実務の話に入っていきます。

まずはあらゆる仕事の起点となる「ヒアリング」について。コピーライターにとっての顧客理解には大きく分けて2つ「クライアント理解」と「生活者(=エンドユーザー)理解」があります。今回はそれぞれについて、ヒアリングの要点をお伝えします。

アイデア創出法の回でもお伝えした通り、コピー制作の基本は「良質なインプット」にありますが、このインプットの質を大きく左右するものがこのヒアリングです。問題解決のためのより深い思考に必要な材料となる情報は、ヒアリングによって積極的に掴み取る必要があります。

クライアント(=ブランド)を理解するためのヒアリング

広告制作の仕事は、ほとんどの場合依頼者から制作者への「オリエンテーション(通称オリエン)」から始まります。まず依頼者が相談内容をブリーフィングした「オリエンシート」を作成し、その内容に沿って案件の確認をしていきます。

広告というのは基本的に「他の商品ではなく、その商品を買うための動機となる気づきを起こす」ための表現開発です。よってオリエンの場で最低限確認すべきことは、競合ブランドと比較してそのブランドがどの点で優位であるか、つまり「差別化ポイント」の確認がマストです。

マーケティングに不慣れなチームであればどのような情報を整理すればよいか不安を感じるかもしれません。参考までにferretの記事広告で使用しているオリエンシートのフォーマットがありますので、こちらをダウンロードして適宜加工して使ってみてください。

▼コピーを作る前に!ブランドの魅力を整理するためのフォーマットをダウンロードできます

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット(Excel形式)

また、広告制作で使われる「態度変容」や「ベネフィット」など最低限のマーケティング用語も押さえておいた方がいいでしょう。基本概念を知っておくことでオリエンテーションの内容を正しく理解できることはもちろん、的確な質疑応答が可能になります。

広告コピーを考える際の基本をチェック!

マーケターが知っておくべき、広告コピーを考える際の基本

マーケターが知っておくべき、広告コピーを考える際の基本

コピーを考える際に必要な、10のコンセプトを収録しています。コピーライティングを学ぶ人はもちろん、業務において適切に言葉を扱う必要がある方におすすめです!

生活者(=エンドユーザー)を理解するためのヒアリング

正しいブランド理解とともに欠かせないのが、その商品・サービスを購入する生活者の理解です。多くの場合、広告制作者と商品のターゲットは属性が違うので、制作者の感覚で作ってしまうと全く的外れなメッセージになってしまいます。

まず商品の認知率や好意度などのデータは定量調査によって把握します。これは大体広告主サイドの社内にはあるので、オリエンの場で提示されなければリクエストしてみましょう。もしデータがない場合はWebアンケートを使えば低コスト・スピーディにデータが得られます。

定量調査の結果では生活者の「気分」まではわからないので、併せて行いたいのが定性調査です。ターゲットの属性に近い人やヘビーユーザー/ライトユーザーを集め、グループインタビューしながら深く理解していきます。ここで得られる生活者のホンネが「インサイト」と呼ばれるもので、広告制作はもちろん、商品改善や次の商品開発のヒントになります。

ただ、グループインタビューでは聞き手―話し手の間でバイアスが発生しやすいので、なるべくホンネで語ってもらえるような環境づくりが重要です。最近では1人の生活者を徹底的に深堀りする「N=1分析」と呼ばれる方法も注目されています。

全ての広告は顧客理解から始まる

今回ご紹介した顧客理解のヒアリングで得られる情報は、第14回連載「アイデアのつくり方 ~インプット編~」における「特殊情報」にあたります。優れたマーケター・広告制作者になるにはこの特殊情報にどれだけアクセスできるかが鍵となりますので、案件が発生したら貪欲に情報を取りに行くようにしましょう。

同時に、普段から心掛けるべきは一般情報のチェックです。いついかなる相談がきても即応できるようにトレンド情報や新商品情報は常にアップデートする習慣づくりもお忘れなく。

宿題のようなもの ーCopy Drillsー

この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、ぜひチャレンジしてみてください。

今週のお題

暑い夏を乗り切るために、接触冷感をはじめ吊り下げのフェイクグリーンや風鈴など「気分」も含めて涼しさを演出できるインテリアシリーズのコピーを相談されたあなたは、どんなコピーを提案しますか?

解答例は次回に!

解答例は、次回の連載(9/22(金)予定)でお伝えします。

前回のお題の解答例

前回のお題だった「冬物インテリアシリーズ」のコピー解答例はこちらです。
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後書きのようなもの

最初のN=1は自分自身

顧客理解はマーケターの永遠のテーマのひとつ。いざ案件が発生した時に全力で取り組むのは当然のこととして、普段からの対人関係においても相手の嗜好性やマイブームなどを聞き取る習慣をつけることで基本的な認識レベルを上げておくことができる

自分の好きなモノを聞かれて嫌がる人はほとんどいないので、基本的には喜んで色々と教えてくれるだろう。友人・知人のことを深く知れるのはもちろん、いざ顧客ヒアリングをする際のインタビュースキルの向上にもつながる

また普段からよく接する人、たとえば家族やチームメンバーなどは格好のN=1分析対象者でもある。観ている番組や買ってきたモノなどについて定点観測的に眺めることで大いなるヒントが得られる。

ただ、ヒアリングで得られるのはあくまで「言語化」して表出された情報だけ。実際のアタマの中でどんな感情が湧きおこっているか、いかにワクワクしているかはわからない。

それがわかるのは唯一「自分自身」だけ。マーケターとしての脳と、生活者としてのハートが接続されている自分自身の感覚を通して得られることはヒアリングに劣らず膨大なので、普段から意識的に自分を観察するということも習慣として身につけたいところ。

次回は「広告企画のプレゼンテーション」について。せっかく良い提案を作っても、その魅力を的確に伝えられなければすべては水の泡。企画提案において押さえておくべきポイントをご紹介します。

では、また次回の連載(9/22(金)予定)でお会いしましょう。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー