「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第14回目となる前回記事ではアイデアのつくり方 ~インプット編~についてお届けしました。

第15回となる今回は実践編「アイデアのつくり方 ~アウトプット編~」です。

毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

前回のインプット編では、アイデアづくりには「型」があり、それに従って考えれば「狙って」アイデアを創出できるということで、まずは下準備となる情報のインプット方法についてお伝えしました。

しかし当然ながら、情報を詰め込んだからといって自動的にアイデアが生まれるわけではありません。然るべきプロセスを持ってアイデアを抽出していくことが必要です。

というと、よくあるマインドマップやKJ法などをすればいいのかと思われるかもしれませんが、筆者の知る限りそれらを使って画期的なアイデアが生まれるのを見たことがありません。あの手の手法は基本的に「情報を抜け漏れなく(=MECE)書き出して→分類する」という作業ですが、創造性とは本来、概念の分解ではなく融合のベクトルのプロセスです。

最終的に融合させるために書き出すのは問題ありませんが、ロジックツリーなどに分解しているうちは創造とは逆のベクトルのプロセスを進めていることを理解する必要があります。往々にしてこの分解の作業はかなりの労力を使う上に、分解しきったら「満足」してしまって肝心のその先を考えられなくなるので、あまり力を注ぐべきではないと個人的には考えます。

その替わりにオススメしたいのが今回ご紹介するアイデア醸成の方法です。ある程度情報を集めたら、細かい資料分類などに時間を使わずにとにかくアタマの中の仕込み作業に着手してみるというもの。人には合う・合わないもあると思いますので、マインドマップ等の手法も試しつつ自分に合う方法論のセットを見つけてみてください。

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アタマに仕込んだ情報からアイデアを抽出する

さて、小手先のアイデア創出テクニックには頼らないとなると何をすればよいのか?ということになりますが、ここでもやはりジェームス・W・ヤングの名著「アイデアのつくり方」(CCCメディアハウス刊)が出てきます。

ヤングによれば必要な情報を集めた後に行うことは、以下4つのステップになります。
①心の中で資料に手を加える→②アイデアを鵜化させる→③アイデアを生む→④アイデアを整える

上記ヤングの考え方をベースに、自身の経験を踏まえて筆者なりの言葉でアイデア生成のプロセスをご紹介していきます。

STEP①:インプットした情報をアタマの中で転がす

収集した情報はまず「アタマの中に入れる」ことが何より大事です。異質な情報同士が結びついてアイデアが生まれる「現場」はアタマの中だからです。資料上で整理やマーキングをしたりExcelに整理するのは最少限でいいでしょう。

情報が一通りアタマの中に入ったら、しばらくアタマの中を転がします。情報同士をくっつけたりひっくり返したりしながら解決案を模索しますが、通常この時点では「解」は出ませんから気楽な気分で脳内ブレストを行います。デスク上でやるよりも外を歩きながらの方がはかどるかもしれません。

この段階でやっていることは以降のプロセスを迎えるにあたってのいわば下準備の作業。脳内で情報同士の基本的な紐づけを行っていくことで、それ以降の思考の土台を造成する段階です。

STEP②:一旦忘れる

考えるべき要素がアタマの中に定着してきたら、一旦「自分」の仕事は終わりです。あとは「もう一人の自分=潜在意識」にお任せして、企画のことはすっかり忘れてしまいましょう。

企画が浮かぶまではアタマを働かせ続けないといけない、と考えてしまいがちですが、その頑張りは実は脳にはメーワク。仕事でも上司がずっと居残ってアレコレ関与し続けたら現場は気をつかうし、やりにくくてしょうがないもの。方向性が決まれば「考える専門家である脳」に思い切って任せる。何も考えないことが、何よりも深く考えることになるのです。

一生懸命考えている時よりも、リラックスしている時の方が脳は15倍もエネルギーを使うそうです。脳の各パートが活発にやりとりし、思いもよらない解決策を大いに模索する。この「全脳思考」なくして答えを得ることはできません。

STEP③:アイデアを掴む

「解」となるアイデアの訪れは思いがけない時に突然やってきます。シャワーを浴びている瞬間や夜中ふと目覚めた時、また移動中の電車の中。そんな何も考えていない=つまり脳はとても活発に考えている時にふと閃きが走る。そんな経験、誰もがあるのではないでしょうか。これを偶然ではなく、必然的にアイデア創出のプロセスに取り込むのがポイントです。

もちろんアイデアが降りてこない時は忘れっぱなしで放置してはいけません。定期的に資料を読み返して、アタマの中の概念のかき混ぜを行ってからSTEP②に戻る、を繰り返しているうちに「解」が見えてきます。

STEP④:アイデアを整える

せっかく生まれたアイデアも、適切に取り出して他の人にも理解できる状態に整えなければその価値が世に出ることはありません。この段階の取り扱いミスによって埋もれてしまうアイデアはかなり多いと思われます。「アイデアの掴み損ね」には充分注意が必要です。

パッと掴んだアイデアは企画の大黒柱であることもあれば、壁の断片であることもあります。夜中閃いて書き留めたが、翌朝観ると大したことのないアイデアだったという話はよく聞きますが、それは本当は素晴らしいビッグアイデアの断片かもしれません。折角貴重な手がかりを掴んだのに捨ててしまうことがないよう注意深く取り扱いましょう。

企画はまず「柱」となるビッグアイデアを見つけることから始めます。柱の位置が決まると、自ずとその間を埋める壁はできるので、文字を埋めていけばマーヴェラスな企画の完成です。

ひらめき体質はつくれる

今回ご紹介したアイデア創出法は、広告業界を中心に長年受け継がれてきた方法です。いきなり画期的な効果は得られないかもしれませんが、そもそも創造性とは本来「〇〇法」のようなインスタントな方法で得られるものではありません。2回に渡ってお伝えしてきた情報の仕込み~アイデア創出のプロセスを案件ごとに着実に積み重ねていけば、徐々に「体質」としての創造性が身につきます。

筆者の場合は過去7年間でBtoC/BtoB合わせて160案件程度のプロセスをこなしてきているので、だいたいオリエンを受けた翌朝に「解」が出るようになっています。明け方早めに目覚めたと思ったら、企画の断片が断続的にダウンロードされる感覚。それはまるでクリスマスの朝、枕元にプレゼントが置かれているようで毎回なかなか素敵な体験です。

宿題のようなもの ーCopy Drillsー

この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、ぜひチャレンジしてみてください。

今週のお題

インテリアのコーディネートに苦手意識があり、冬の模様替えが近づくと少し憂鬱感を感じる人のために予めデザインの統一感が担保されたお部屋グッズシリーズのコピーを依頼されたあなたはどんなコピーを提案しますか?

解答例は次回に!

解答例は、次回の連載(8/18(金)予定)でお伝えします。

前回のお題の解答例

前回のお題だった「液体塩こうじ」のコピー解答例はこちらです。
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▼コピーを作る前に!ブランドの魅力を整理するためのフォーマットをダウンロードできます

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット(Excel形式)

後書きのようなもの

アタマの中に酒蔵を持つ

昔から大好きな言葉がある。それは、世界で初めてワクチンを開発し、パスツール研究所を設立したルイ・パスツール博士の「Chances favor for Prepared Mind」という言葉。ひらめきは、それを待ち続ける人間のココロにしかやってこない、という意味だ。

広告の企画を考えるという仕事は、ロジックを積み上げていけば解が見つかるものではなく、意図してクリエイティブジャンプを生み出す必要がある。案件が発生したら、その都度ココロにクエリを立てて、目に映るすべてのものをメッセージ(byユーミン)にしながら毎日を過ごしていく。少しずつ柱のようなものがキーワードベースで立っていくこともあれば、夜中突然一気にダウンロードが始まることもある。

お酒を造る杜氏の仕事に近い気もする。案件ごとに樽を準備し、材料(=情報)を仕込んで寝かせる(=文字通り寝る)。たまにかき混ぜて(=少し考えてみる)、また寝かせる。その24時間のプロセス管理が仕事である。

企画書や原稿に落とすのは最後の最後だ。それまではひたすらダウンロードに集中する。柱ができたら、9割がた仕事は終わったようなものだ。後はその行間を埋めていけば、企画は完成する。

「アイデアを絞り出す」のではなく、一日24時間×数日の時間を使って醸造していく。これは広告の仕事をしている人に限らず、人生の大切なことやこれからの大きな目標などを考える時に誰にでも使える方法だ。

何より身に降りかかる全ての出来事や他人との会話、また毎日訪れる睡眠時間が全てアウトプットに結び付くので、無駄な時間がなくなり、人生の肯定感が飛躍的に高まる。

次回は「顧客理解のためのヒアリング」について。広告制作の最初の段階であるオリエンテーション(広告主のヒアリング)や顧客インタビュー(エンドユーザーのヒアリング)のポイントをご紹介します。

では、また次回の連載(8/18(金)予定)でお会いしましょう。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー