「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第8回目となる前回記事では広告の「基点」となるタグラインの書き方についてお届けしました。

基礎編・第9回のテーマは「キャッチコピーの書き方」についてです。

毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

前回記事テーマであったタグライン広告メッセージの「オチ」であれば、キャッチコピーとはその前の「掴み」の役割を担う言葉です。

たとえば地下鉄のコンコースを足早に進むとき、通路の左右にはギッシリとポスターが貼られています。ふと気になって足を止め、読んでもらうためにポスターは掲出されるわけですが、人々がその前を通り過ぎるのは0.5秒程度。なかなかの逆境です。

高度情報化社会になって、人間の情報処理能力では99.9%の情報は捌けず無視せざるを得ないという状況。キャッチコピーは、残りの1/1000の狭きココロの門に入るための「興味のフック」となる必要があります。

当然ながら、当たり前のことを当たり前に言っただけでは99.9%サイドの無視される側の情報になってしまいます。

キャッチコピーの「掴み方」

通りすがりの生活者が「ふと」目に留めるきっかけを起こすには、様々なアプローチがあります。それこそ不快な文言でもアテンションは掴めますが、その後のブランドイメージを毀損するので本末転倒。

広告におけるアテンションキャッチの場合は、基本的には知的な気づきを与えるアプローチが採られることがほとんどです。以下、名作といわれるキャッチコピーを見ながらいくつかの「掴み方」をご紹介します。

①矢印を立てる:新しい価値観を鮮烈に指し示す

新しい価値観の訪れをいち早く喝破し、時代の気分に大きな「矢印」を立てるというアプローチです。もちろん矢印の先はブランドへとつながっています。

最も有名なのは「モーレツから ビューティフルへ」(富士ゼロックス)でしょう。70年代、高度成長期の日本人はエコノミックアニマルと諸外国から揶揄されるほど働きづめ。さすがにそろそろ疲れてきて、もう少しスマートな生き方ってできないのか?とみんながなんとなく思い始めた矢先のメッセージでした。モーレツとの対比に「ビューティフル」を持ってくることで、圧倒的な斬新さを生み出しています。

このアプローチは他にも、高級車=黒塗りというイメージを鮮烈に塗り替えたトヨタ自動車の「白いクラウン」や、新発売されるサントリーリザーブ シルキーの「時代なんか パッと変わる」などが有名です。

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出典:トヨタ自動車 「白いクラウン」 | 日本デザインセンター

②代弁する:「今」の時代の人々の気分を絶妙に言い当てる

「モーレツからビューティフルへ」を夢見た70年代が終わり、80年代は西武百貨店の「不思議、大好き。(81年)」、「おいしい生活。(82年)」で幕を開けたのでした。豊かなモノを通してまいにちの暮らしを愉しむという新たな「消費カルチャー」を牽引したのが、百貨店だったのです。
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出典:糸井重里は「堤清二さんのまねをしてきた」| 日経ビジネス

一方でバブル景気にのって「モーレツ企業戦士」もまだまだ健在で、三共リゲインの「24時間戦えますか」がオンエアされたのはバブル絶頂の89年でした。しかし既にモーレツ一辺倒でもなく、栄養ドリンクの支えがないとちょっとしんどいな……。そんな気分が見え隠れします。

③肯定する:人々の気分に寄り添い、背中を押す

ガムシャラに突っ走ってきた高度成長期の夢が終わり、90年は「日本を休もう」(JR東海)というメッセージからスタートしました。全国の学校に週休二日制がようやく定着したのもこの頃です。

翌91年にはバブルが崩壊し、「失われた10年」といわれた90年代。阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件なども立て続けに発生し、人々の空虚な気分を反映するように心理学や癒しブームが起こりました。失われた10年どころか、2000年代に入っても失われっぱなしの日本。この頃からの広告は、受け手が何らかの「弱さ」を抱えているという前提で、それを肯定するコミュニケーションが増えてきます。

そんな時代の気分をあたたかく包み込んだのが、癒し系女優として人気のあった飯島直子さんを起用した95年のジョージアのTVCM。メインコピーは「ああ男のやすらぎ」でした。ちょっと疲れてしまったジャパニーズ・ビジネスパーソンのココロを缶コーヒーのように無条件に暖める、そんなアプローチです。「やすらぎパーカー」のプレゼントキャンペーンも一貫性がありました。

また、長塚京三さんのスキップシーンが印象的な94年のサントリーニューオールドのTVCMは「恋は、遠い日の花火ではない。」というキャッチコピーとともにOLD is NEWというタグラインも秀逸でした。サントリーオールドも新しくなるように、ウイスキーを嗜む40代だってまだまだ変われるよ、と背中を押してくれるメッセージです。

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出典:「恋は、遠い日の花火ではない。」のコピーから読む「恋」と「男」のこと | 宣伝会議デジタルマガジン

この「少し弱気になった人を肯定する」というアプローチは、基本的に不況が続く今日においてもメジャーな手法です。16年オンエアの奥貫薫さん出演の大塚製薬エクエルの「ヒロインは、つづく。」は、サントリーオールドのCMに対する、女性版のアンサーソングのようなCMで、素敵に歳を重ねることを肯定してくれます。

キャッチコピーは社会の写し鏡

今回、70年代~90年代という時代背景の解説とともにキャッチコピーを紹介したのには理由があります。普遍性を帯びたタグラインと違って、消費される言葉であるキャッチコピーは常に「時代の気分」とワンセット。いつの、どんな気分に向けて書かれたキャッチなのかを把握しないと意味が掴みとれないからです。

70-90年代はマスメディア全盛の大衆社会といわれ、ある程度「こういう時代」と大きく掴め、またそれに対応する名作コピーも豊富です。一方でゼロ年代以降はインターネットの普及により大衆は分衆化し、マーケティングはクラスター単位で行われるようになり、それに伴うコピーアプローチも細かくなっていきます。

ゼロ年代以降の言葉についてはまた機会を改めて解説できればと思いますが、今回紹介したキャッチコピーの本質は変わりません。足を止めてほしい人の「気分」を見定めて、知的な気づきを問いかけとして提示すること。そのための人間の理解と、知的問いかけ力を磨いていくことです。

宿題のようなもの ーCopy Drillsー

この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、ぜひチャレンジしてみてください。また読者の皆さんからのコピー案も募集しています。Twitterでハッシュタグ#ferretコピー学習帳】をつけて、投稿してみてください。優れたコピーは、次回解答例と併せてご紹介します。

今週のお題

キャンプチェアやランタンなど、アウトドアグッズを自宅のインテリアに取り入れる「おうちキャンプシリーズ」のキャッチコピーを考えてみましょう。

解答例は次回に!

解答例は、次回の連載(3/24(金)予定)でお伝えします。

前回のお題の解答例

前回のお題だった「長く着られるお気に入りの服を気軽に手入れするためのスチームアイロン」の解答例はこちらです。

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▼コピーを作る前に!ブランドの魅力を整理するためのフォーマットをダウンロードできます

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット(Excel形式)

後書きのようなもの

今回ご紹介した「知的な気づきを与えるアプローチ」以外にも、キャッチコピーの作り方は無限にある。切り方によっては50や100に分類することもできるし、そうした本は多い。しかし、細かく切り刻んで理解したところでそれらを実践し「体得」するのは容易ではない。

「赤ちゃんや動物を使う」「男女関係で喩える」「逆説を使う」など切り口はいくらでもできるが、バラバラに分解すると得てして本質が見えなくなってしまう。よって今回は最も王道的であり、したがって身につけると最も応用可能性の高いと思われるアプローチについて、可能な限りシンプルに整理してみた。

今回紹介した3つのアプローチはいずれも「受け手である生活者のココロの中身を指摘する」ものだが、サントリー山崎「何も足さない。何も引かない。」やサントリークレスト12年の「時は流れない。それは積み重なる。」のような商品自体の本質に鋭く言及するアプローチや、「ボーヤハント」(日本ビクター)や「ハエハエ、カカカ、キンチョール」、「でっかいどお。北海道」(ANA)などコピーライターの面目躍如となる「言葉遊び」のアプロ―チもある。

しかしながらやはりキャッチコピーの基本は、受け手である生活者のココロの中とブランドに共通する「気分」を見つけて指摘することだと思う。そのためには知識だけでなく、日常生活における毎日の洞察の積み重ねが欠かせない。

次回は苦手な人も多いといわれる「ボディコピーの書き方」について。

では、また次回の連載(3/24(金)予定)でお会いしましょう。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー

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