「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第18回目となる前回記事ではX世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャーについてお届けしました。

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第19回となる今回は実践編「ミレニアル(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー」です。

現在のマーケティングの主要なターゲットであるX世代/Y世代/Z世代それぞれがティーンであった時代状況にフォーカスしていく全3回のシリーズ。第2回目の今回はミレニアル世代(1980年~1995年頃生まれ)の人たちの思春期、つまり1995年~2009年にフォーカスします。どのような社会情勢の中で、どんなカルチャーが生まれ、その時代の感性に対して広告コピーは何を語りかけてきたのでしょうか。

前回特集したX世代の思春期は日本の「登り坂の時代」で、ミレニアル世代(Y世代)のそれはバブル崩壊や震災後の失われた10年といわれる「下り坂の時代」に対応します。

バブル景気とともに階段を一段ずつ駆け上がるように文化が目まぐるしく成熟していった80年代とは一転して、90年代以降は停滞の時代。一年ずつ辿ると逆に流れが掴みづらいので、今回は大きく3つのタームに分けて解説します。

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マーケターが知っておくべき、広告コピーを考える際の基本

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ミレニアル(Y)世代の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー

▶Term1:95年~99年「失われた10年の顕在化」(日経平均:13,842円~19,868円)

2023年現在、39-43歳の人が10代ど真ん中だった時代(筆者もこの世代です)は、不穏な空気で始まります。95年1月1日読売新聞・朝刊で上九一色村のオウム真理教施設内でサリン残留物が検出されたことが報道され、1月17日には阪神・淡路大震災が発生。さらに3月20日には東京でオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生します。

91年のバブル景気崩壊以降の暗中模索の数年間、人々が持っていた「いつかはなんとかなるだろう」という淡い希望は打ち砕かれます。97年には山一證券が倒産し、酒鬼薔薇聖斗を名乗る少年による神戸連続児童殺傷事件も発生。1999年7の月の「ノストラダムスの大予言」に向けて不穏な事件が雪崩を打つように続発します。

どん底の政治・経済への反動のようにカルチャーは活況。スポーツ界では95年に野茂英雄がメジャーリーグデビューして大活躍し、国内では仰木監督率いるオリックスがイチローを筆頭に「がんばろうKOBE」を合言葉に震災後の神戸を勇気づける優勝を果たします。将棋界では羽生善治が史上初の七冠を達成。新たな時代のヒーローが続々と誕生します。

90年代終盤にかけてもう一つ盛り上がりを見せたのが音楽業界です。小室哲哉やビジュアル系バンドブームによって98年を絶頂とする「CDバブル」が起こります。ダブルミリオン・トリプルミリオンが続出し、安室奈美恵はファッションリーダーとしても時代を牽引します。

「歌詞よりもリズムやノリ」というこの時代の空気感はテレビ番組にも反映され、フジ「めちゃ×2イケてるッ!」を発端とするその場の「ノリ」に合わせるコミュニケーションが若者のモードとなりました。ネクラな「素」を出すことは「テンションを下げる行為」とされ、生きづらさを感じる人も増えていきます。

そんな時代の広告コピーはこの「素」の個人に対して語りかけるものが多くなります。「経済大国=日本」という大きな物語が突如失われ、夢や自信を喪失した弱い個人に対して励ますようなアプローチ。代表的な広告がジョージアの「あ~、男のやすらぎ」(コカ・コーラ)です。癒し系タレントとして人気を博していた飯島直子さんを起用した「弱った男性を暖かく励ます」広告は、景品の「やすらぎパーカー」とともに大ヒット。またローソンの「街のほっとステーション」というスローガンもこの時代に生まれています。

また、95年にオンエアされたアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」はこの時代の「終末的・カルト的・心理学的」な空気を象徴する作品となり、社会現象的なブームを引き起こしました。社会的役割から逃避する碇シンジという主人公のパーソナリティは90年代後半にかけて倍増した「引きこもり中学生」にもシンクロしていました。

こうした気分に対して「家にいたって、思い出はできない。」(九州旅客鉄道)やサントリー烏龍茶「それゆけ私。」、また日産セレナの「モノより思い出」のような、外に出かけていくことを肯定するようなアプローチのコピーも増えていきます。

またこれまでの「大きな物語」に乗っかった生き方・働き方ではいけないのだという機運も高まります。そのきっかけが94年にブレイクしたイチローを起用した95年の日産自動車のキャンペーンスローガン「変わらなきゃ」です。これに伴い、「会社は、若いうちにやめよう。」(伊藤忠テクノサイエンス)や「『あいつはサラリーマンだからさ』そう言うあなたもサラリーマン。」(リクルート人材センター)などリクルートを中心に既存の働き方を問い直すようなコピーアプローチも増えてきます。

本記事を執筆するにあたり、年ごとの社会イベント/カルチャー/広告コピー14年分をまとめた年表を作成しているので、より詳しく知りたい方は資料をダウンロードして併せて読んでみてください。1995年は下記のような内容です。
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▶Term2:00年~05年「9.11以降の世界」(日経平均:8,578円~16,111円)

さて時代はいよいよ2000年代に入り、世紀をまたいで21世紀がはじまります。心配されたコンピュータの2000年問題や終末論も無事何事もなく乗り越えました。国のリーダーも01年初頭に米国でジョージ・W・ブッシュが大統領に就任し、続く4月に日本の内閣総理大臣に小泉純一郎が就任し、新しい時代への期待が高まります。

しかしその矢先、9月11日にニューヨークの世界貿易センタービルツインタワーに2機の旅客機が衝突するアメリカ同時多発テロ事件が勃発。新しい世紀の雲行きは一気に怪しくなります。国内でもライブドア事件や耐震強度偽装事件、JR福知山線脱線事故や相次ぐ大手メーカーの食品偽装事件などが続発し、世の中に不信感が募っていきます。

世紀をまたいでも依然終わりの見えない閉塞感を癒すため、音楽シーンではバラードブームが起こります。300万枚に迫るセールスを記録したサザンオールスターズの「TSUNAMI」をはじめ、福山雅治「桜坂」、MISIA「Everything」、浜崎あゆみ「SEASONS」、小柳ゆき「あなたのキスを数えましょう 〜You were mine〜」、B'z「今夜月の見える丘に」などがヒットを記録。

また坂本九の往年の楽曲をリミックスして吉本興業のタレントが勢ぞろいしたグループ「Re:japan」が唄った「明日があるさ」はコカ・コーラ(ジョージア)のTVCMやドラマ展開もされて大ヒット。80年代にアメリカが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で50年代を懐かしんだように、この頃日本でも回顧主義が起こり、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」や「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」などの作品が生まれました。

この時代の広告はチワワのくぅ~ちゃんを起用した「どうするアイフル」(アイフル/企業広告)やコカ・コーラの飲料キャラクター「Qoo」など『カワイイ癒し』を提供するものや、電通関西制作の洋画吹替TVCM「食べました」(リクルート/ホットペッパー)、大滝秀治が一喝する「つまらん」(大日本除虫菊/水性キンチョール)など『笑いによる癒し』を提供するものが受けいれられました。

またブログやmixiの普及によって徐々に大衆が失われて分衆化が進んだ結果、この後の時代に花が咲くマルチコピー展開の広告も生まれます。代表的なのは様々なコンプレックス小ネタから共通タグライン「牛乳に相談だ」(中央酪農会議/牛乳消費拡大)に落とすキャンペーンや、「700度の火を持って、私は人とすれちがっている。」「たばこを持つ手は、子どもの顔の高さだった。あなたが気づけばマナーは変わる。」などドキっとさせるマルチコピー展開でマナー啓発する日本たばこ産業のシリーズ広告などです。

▶Term3:06年~09年「世界金融危機」(日経平均:8,859円~17,225円)

ミレニアル世代最後の90-94年生まれの人がティーンだった06-09年は、2023年現在29-33歳の人が10代ど真ん中だった時代です。バブル崩壊を機に始まった「失われた10年」は既に20年目がチラつきはじめ、日本国内はすっかり「停滞慣れ」の様相です。

06年は郵政民営化を果たした小泉純一郎から安倍晋三に総理が変わりますが、翌年体調不良により交替。その後福田内閣~麻生内閣と短期で交替が続く中で徐々に自民党の支持が失われていきます。

初代iPhoneが発売された07年、米国では低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付きが多発し、徐々に金融不安が広がります。そして翌08年9月にリーマンブラザーズが経営破綻。日経平均は一時終値ではバブル後最安値となる7,162円まで落ち込みます。

唯一の明るいニュースは「Change!」をスローガンにSNS戦略も駆使したバラク・オバマ大統領の当選くらいでしょうか。そんなオバマの当選には06年にリリースされたTwitter(現X)の影響力も大きいといわれます。そして日本の広告コピーも分衆化した「個」に対して共感をとるつぶやき型のコピーが増えてきます。

代表的な例が連載第12回「広告コピーのトレンド変化」でご紹介したJTの「ルーツ飲んでゴー!」キャンペーンと、オンワード樫山の「Walk.23区キャンペーンでしょう。他にも「日常でたまった疲れは、日常でとれないと思う。」「過去のことは、お湯に流そう。」「サンキュー!」だけで、父は1週間のりきった。」などの小ネタでマルチ展開してくすぐる楽天トラベルの広告アプローチなどがあります。

また連載第13回「第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語」でもご紹介したソフトバンク「白戸家シリーズ」やサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ 地球調査」シリーズなどのロングランTVCMシリーズが生まれるのもこの頃です。国民全員が共有できた高度成長の夢(=大きな物語)が崩壊し、各ブランドが「小さな物語」を紡ぐことで生活者との共通言語を育てていくという今につながる潮流はこの頃を源流とします。

ミレニアル世代(Y世代)の心象風景

今回見てきたように、バブル崩壊後の長期停滞期に思春期を過ごしたミレニアル世代(Y世代)は、バブルの雰囲気を知るX世代とは大きく異なる心象風景を持ちます。

90年代後半の「引きこもり」の時代から一転、2000年代に入るとブッシュ×小泉の新自由主義のバトルロワイヤル社会の中で「自己責任」という言葉を突き付けられながら「勝ち組」になるべく駆り立てられて生きてきた世代です。

バブルが崩壊したと言ってもそこそこに豊かでモノへの欲求は控えめ。基本的に社会やモノへの期待値が高くないため、自分の人生と仕事などの社会的役割には割り切ってバランスをとろうとする傾向があります。またWindows95以降の時代に思春期を過ごしたためにデジタルに対しては慣れ親しんでおり、大学以降は「文房具」としてPCを使いこなしてきています。

他の世代と比べると共通記憶としての「音楽カルチャー」の影響が強いというのも挙げられるでしょう。現在メイン消費者となっている彼ら・彼女らに向けた「今夜はブギーバック」や「情熱の薔薇」などのリミックスTVCMが最近よく見られるのがその証左です。

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後書きのようなもの

語るべき言葉の喪失

今回改めて自分の青春時代である95年-09年を振り返ってみたが、X世代のそれとのコントラストが想像以上であったことに驚いた。唯一のハイライトは90年代後半のJ-POPシーンの異常な盛り上がりくらいだ。

あの頃の時代の空虚さは充実したリズムと対照的な「あの頃」「あの街」「季節は巡り」で構成されたスカスカの歌詞が象徴しているが、誰も語るべき言葉を持たなかった時代ともいえるのかもしれない。あの頃井上陽水が書いた「アジアの純真」の歌詞は意味不明極まるものだが、もしかしたらあれは当時のJ-POPに対する陽水なりの強烈な皮肉だったのだろうか。

小室系・ビジュアル系バンドとバトンタッチするように出てきて「歌姫」となった宇多田ヒカル・浜崎あゆみは一転、作詞を(宇多田は作曲も)手がけ、自らの言葉によって時代の共感を勝ち取っていった。バブル崩壊とともに元気をなくした男性と、その後アイドルブームを盛り上げる女性との対比も時代を感じさせる。

そして現在に至るまで「イクメン」「イケダン」などの女性誌発信の言葉に言い返す術もなくがんじがらめになる男性のために、コピーライターとしてできることはないものかと「じっと手を見る」日々である。

次回は「Z世代の心象風景:10年以降の広告とカルチャー」について。ミレニアル世代の青春時代を特集します。

では、また次回の連載(12/22(金)予定)でお会いしましょう。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー

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