「言葉のフォーメーション」でメッセージ精度を上げる。広告コピーの基本構造を理解しよう
「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第6回目となる前回記事では広告の接点=ベネフィット(便益)の約束についてお届けしました。
基礎編・第7回のテーマは「広告コピーの基本構造」についてです。
毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。
広告コピー、と聞くと多くの人は「キャッチコピー」のことを思い浮かべるのではないでしょうか。だからコピーを依頼されると、依頼主の言いたいことを無理やり一行のフレーズに詰め込もうとしがちです。
しかし、様々な情報を一行に収斂すると往々にして抽象度が上がり、多くの場合「一般論」になってしまいます。「明日の笑顔のために」とか「地球の未来に貢献する」といったどの企業でも言えて何も言っていない言葉、よく見かけますね。
改めて広告のプロが作ったコピーを見てみると、決して一行で言い切ろうとはしていないはずです。キャッチコピーから始まって、いくつかのパーツで構成されていることがわかります。
広告コピーは「言葉のフォーメーション」でメッセージ精度を担保する
キャッチコピー以外にはどのような言葉のパーツがあるのでしょうか。試しにコピー入門の本をめくってみると、ズラリ20種類くらいに細かく分類して教えているものもあります。しかしコピーの種類をあまり細分化して捉えることにあまり意味があるとは思えませんので、ここでは思い切って3つに整理してみます。
それらは①キャッチコピー②ボディコピー③タグラインの3種類。広告のコピーは、この3つのパーツとビジュアルがフォーメーションを組むことで、精度の高いメッセージ伝達を実現します。
2023年元日に新聞掲載されて話題となった上記エイベックスの広告原稿を例にとると、キャッチコピーが「拝啓 吉田拓郎様」です。その後に続く「帰れ!」から始まる文章がボディコピー、そして「J-POPからの感謝状」がタグラインとなります。
出典:「拝啓 吉田拓郎様」 J-POPが語り出す、エイベックスの正月広告 | AdverTimes.
①キャッチコピーの役割:1/1000の情報フックとなること
キャッチコピーの役割とは、その名の通り「興味を惹く(=キャッチ)」ことです。連載三回目の記事「広告は無視される前提で書く」で紹介した通り、広告とは生活者にとっては邪魔者で、その上情報洪水の現代においては99.9%の情報は処理できず無視される状況です。
この状況の中でキャッチコピーがやるべきことはただ一つ。「1/1000の情報に選ばれる」ための興味のフックとなることです。これは生やさしい仕事ではなく、依頼主の言いたいことを全部詰め込んでいる暇は当然ありません。
尚、必ずしもこの作業はキャッチ一行だけで担う必要はありません。多くの場合は「ビジュアル」とセットでこの役割を果たすことになります。
②ボディコピーの役割:キャッチした興味を腑に落とす
キャッチコピーに比べるとあまりフォーカスが当たりませんが、実は重要なのがボディコピーです。キャッチコピーが動員してくれた生活者のアテンションを引き受けて、さらに具体的なイメージを拡げる役割を果たします。
ボディコピーだからといってスペックや機能の話だけに終始すればせっかく獲得した興味は離れてしまいます。商品のことと、生活者が読みたいことを手際のよい針仕事のように行き来してしっかりと「結い合わせる」のがボディコピーの言葉の仕事です。
読み進めるうちにブランド誕生の背景や活用イメージなどへの理解が進み、商品の価値がすっかり読み手の腑に落ちる場所。そこがボディコピーの締め括りのポイントです。
③タグラインの役割:ブランドと生活者の関係性を改めて定義する
キャッチコピーが動員し、ボディコピーが膨らませた興味や理解を最終的に商品に回収する役割を果たす一行が「タグライン」です。多くの場合キャンペーンごとに設定され、商品パッケージやロゴの近くに置かれます。
タグラインの言葉は基本的に、コピーやビジュアル、TVCMなどの表現を踏まえて「要するにこのブランドは生活者にとって何か=両者の関係性」を端的に定義する一行になります。様々な文脈を一行に回収した言葉となるため抽象度が高く、それ単体で意味を伝えるものではありません。
タグラインの中にはキットカットの「Have a break, have a KitKat.」のように、当初はキャンペーンのタグラインとして設定されていたものがブランドスローガン(あるいはショルダーコピーという場合も)として定着するケースもあります。
前回記事のテーマは「広告とはベネフィットの提供を約束するもの」というものでしたが、タグラインとはこの「約束」を示す一行であるということもできます。
コピーは、タグラインを「基点」として逆算して書く
今回ご紹介した3種類のコピーの言葉のフォーメーションをまとめると下図のようになります。広告原稿はこのような構造で、通りすがりの生活者目線から、ブランドの方に徐々にフォーカスを移していく仕組みになっています。
広告を制作する時は、まず今回のコミュニケーションにおける生活者とブランドの接点=タグラインを定めます。その上で、タグラインの一行が最も腑に落ちる前段の文脈を逆算して設計していくという手順をとることで精度の高いメッセージを生むことができます。
宿題のようなもの ーCopy Drillsー
この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、ぜひチャレンジしてみてください。また読者の皆さんからのコピー案も募集しています。Twitterでハッシュタグ【#ferretコピー学習帳】をつけて、投稿してみてください。優れたコピーは、次回解答例と併せてご紹介します。
今週のお題
肉質は実は最高級なのに、その魅力がイマイチ伝わっていないQビーフ。リブランディングを相談されたあなたはどんなタグラインを設定し、どんなキャッチコピーを提案しますか?
解答例は次回に!
解答例は、次回の連載(2/17(金)予定)でお伝えします。
前回のお題の解答例
前回のお題だった「喉のいがいがを解消してくれる薬のコピー」の解答例はこちらです。
▼コピーを作る前に!ブランドの魅力を整理するためのフォーマットをダウンロードできます
ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット(Excel形式)
後書きのようなもの
言葉にはパーツごとに役割があり、各々がその役割を全力で果たし、お互いに引っ張り合うことでコミュニケーションの力が拡張する。この構造を理解せずにいきなりコピーを書き始めると、何本書いても答えはでない。
初心者がキャッチコピーを考えようとして全部を盛り込んだ一般論的なフレーズになってしまうのは、実はキャッチではなくタグラインを書いてしまっているからなのだ。それがキャッチなのかボディなのかタグラインなのか、それもわからずに闇雲に書くことはメッセージの「設計」とはいえない。
広告会社の社員であっても案外「コピーは言葉のフォーメーションでメッセージ精度を上げる」ということは理解していないと思われる(少なくとも私は新人研修では習わなかった)。
大事なことはコピーのパーツごとの呼び名ではなく、ましてや「ラジオコピー」「雑誌コピー」「Web用のコピー」などとメディアや用途ごとに細分化して理解することでもない。そんなことは書く時に目的意識が明確であれば自然とわかるものだ。言葉はフォーメーションを組むことでメッセージ精度を担保するということへの理解があって、はじめて正しい「言葉づかい」が可能になる。
フォーメーションにおいてもう一つ重要なポイントは、それぞれがお互いの要素を説明し合う関係になってはならないということ。往々にして人はキャッチコピーの内容を説明するだけのボディコピーを書いてしまいがちだが、そうではなくてさらに一歩も二歩も認識を展開させていくのがボディコピーの役割だ。
同様に、コピーとビジュアルもお互いを説明し合う関係ではいけない。近年はビジュアル重視でコピーはパセリのような添え物になってしまっているケースも多いが、本来はビジュアルとコピーは綱引きをして意味を拡げるものだ。美術館の名画も「タイトル」を見た時に意味がパッと拡がるということがよくあるように。
この意味で、コピーライターはいいデザイナーとの出会いが大事だともよくいわれる。言葉のプロ、デザインのプロとしてそれぞれの視点で原稿上で引っ張り合って(もちろん仕事のあとの酒場でも)、お互いの表現力を拡張させていく。これからコピーをがんばりたいという人は是非、よき「相方」を見つけることもがんばってほしい。
次回はいよいよコピーの書き方。まずは基点となる「タグラインの書き方」について。
では、また次回の連載(2/17(金)予定)でお会いしましょう。
連載
第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー
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- 広告とは販売のための告知活動を指します。ただし、広告を掲載するための媒体、メッセージがあること、広告を出している広告主が明示されているなどの3要素を含む場合を指すことが多いようです。
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- キャッチコピー
- キャッチコピーとは、商品などの宣伝の際に使用される文章のことです。 宣伝をする対象のイメージや特徴を簡潔にまとめつつ、見た人の印象に残る必要があります。一言で完結するものから数行になる文章など、実際の長さはバラつきがあります。 キャッチコピーの制作を職業とする人のことを、「コピーライター」と言います。
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- タグとは、原義では「モノを分類するために付ける小さな札」のことです。英語の「tag」を意味するものであり、荷札、付箋といった意味を持っています。特にインターネットに関する用語としてのタグは、本文以外の情報を付与するときに用いられます。
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- キャンペーンとは、インターネット上のサイトにおいて、ファン数を増やし、購買行動を促すためにおこなう懸賞キャンペーンなどのマーケティング活動のことです。キャンペーンにはファン数を増やすだけでなく、ファン獲得以上のリアル店舗の来店者数を増やす、資料請求者を増やす、実際の購買を増やすなどの目的があります。
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- 広告とは販売のための告知活動を指します。ただし、広告を掲載するための媒体、メッセージがあること、広告を出している広告主が明示されているなどの3要素を含む場合を指すことが多いようです。
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- ベネフィットとは、「利益」「恩恵」「便益」などの意味で、マーケティングにおいては、「顧客が商品から得られる良い効果」のことをいいます。 人は、商品やサービスを購入する際、商品そのものではなく「その商品を使用することによってもたらされるもの」を購入しています。例えば、ドリルを購入する人は、ドリル本体ではなく、そのドリルで開けられる穴を購入しているといえます。
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- Twitterとは140文字以内の短文でコミュニケーションを取り合うコミュニティサービスです。そもそもTwitterとは、「小鳥のさえずり」を意味する単語ですが、同時に「ぺちゃくちゃと喋る」、「口数多く早口で話す」などの意味もあります。この意味のように、Twitterは利用者が思いついたことをたくさん話すことのできるサービスです。
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- ホームページのソースに設定するタイトル(title)とは、ユーザーと検索エンジンにホームページの内容を伝えるためのものです。これを検索エンジンが認識し検索結果ページで表示されたり、ユーザーがお気に入りに保存したときに名称として使われたりするため、非常に重要なものだと考えられています。「タイトルタグ」ともいわれます。
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