新連載「コピー学習帳」がスタートします。「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けします。毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

執筆は、元ferret編集部の神保が担当いたします。広告代理店の営業からメディア編集部での広告制作を経て、現在は独立して淡路島で広告制作会社を営んでおります。
※紙幅の都合上、経歴などは以前執筆した「ローカルマーケターのリアル」をご参照ください

まずは導入編。今回のテーマは「言語化時代のコピーライティング」について。

デジタルシフトの進行と、それに伴い加速する組織体制の変化。背後に迫るAIの足音も、徐々に大きくなってきています。今に限らずこれまでだって「時代」というのは激変するものでしたが、今回の変化は「働くこと自体」に変化を及ぼす、まさに激変です。

テクノロジーへの理解や、やり遂げる力(GRIT)など、これからの働き手に必要と言われるキーワードは様々ですが、とりわけよく耳にするのが「言語化」という言葉。デジタルマーケター広報PR採用人事経営者。今やあらゆるビジネス領域で「言語化」力が問われています。

「言語化」とは、抽象的整理による問題解決の技術

言語化という言葉は「言語」のニュアンスにつられてコミュニケーション文脈で使われがちですが、その本質は抽象的整理であり、モヤモヤした状態の何かを言葉によってクッキリさせること。だから組織の誰かが絶妙に「言語化」して整理してくれたら、それ以降その組織のメンバーはそのモヤモヤによる迷いや誤解などのロスを全てカットできます。結果、生産性に座布団が敷ける。これが「言語化」の一番の意義です。

これをメディアコミュニケーションにあてはめると、自社製品の魅力がなんとなくモヤモヤとしている時にそれを言語的にスッキリ整理することで伝達力を高め、本来あるべき購買行動を生むということになります。単なる表現手法ではなく、問題解決の技術というのがポイントです。

「言語化力」は全ビジネスパーソンの必須能力に

プロダクトの魅力を適切に、かつ手際よく伝えるデジタルマーケターは言わずもがな。これまでメディアリレーションの構築に主眼を置かれていた広報・PRは、情報の編集力を磨くことで狙った露出を獲得し、企業のパーセプションを積極的に作る役割にシフトしています。同じように採用人事も、変化の激しいビジネス環境に適応できる組織を維持するために、的確な人材をピンポイントで獲得するコミュニケーション力が必要になってきています。

さらに「パーパス経営」や「MVV(ミッション/ビジョン/バリュー)」など、企業経営の根幹にも言葉が活躍するようになってきています。ひと昔前であれば「社長の訓示」など誰も聞いていませんでしたが、今の社員は自分たちのトップがどんな言葉を、どのように語りかけるのかをかつてないほど注視しています。

伝えたいメッセージを、独りよがりではなく「受け手が魅力を感じるアングル」で発信すること。そこに必要なのは「日本語から日本語への翻訳力」であり、主にメディアコミュニケーション領域で磨き抜かれ、長年に渡り縷々綿々と継承されてきたその技術体系が「コピーライティング」です。

今や、コピーライティングの技術はコピーライターだけのものではない

これまでは「コピーライター」と呼ばれる一部の職能集団の中で継承されてきたコピーライティングの技術ですが、言語化時代を迎えた今日においては全員の必修科目といえるかもしれません。

具体的なヒントはおいおい当連載でもお伝えしていきますが「たしかに、コピーライティングスキル身につけないとなあ」と思った方は、書店で何か一冊名作コピー集を手に取ってみてください。資格試験の勉強はしんどいかもしれませんが、コピーの勉強はきっとワクワクするはず。

「仕事にも使えそうだけど、OFFのコミュニケーションも楽しくなるかも」パラパラとめくるうちに、きっとそんな気分になるでしょう。その理由はきっと、コピーの本質=人間同士の言葉を介したコミュニケーションって、本来とっても楽しくワクワクするものだから。

宿題のようなもの ーCopy Drillsー

毎回、本文のあとに後書きと宿題(のようなもの)を出していく予定です。後書きは適当に読み飛ばしてください。宿題は次回の連載時に「解答例」を示します。これが答えだ!という意味ではなく、あくまで参考までに。

解答例は私が実際にクライアントワークで書き、世に出た言葉を使用します。適当な例題を出して「それっぽい解答」を示すというのはそれこそコピーの本質から外れると考えるからです。

では、今週のお題です。

今週のお題

ITベンチャーのホイポイ社の人材育成には以下の特徴がある。
求人広告の原稿制作を相談されたあなたは、どんな言葉(コピー、コンセプトetc...)を提案しますか?

特徴①:定期的に社員を他社へ常駐させ、お手伝いしながら一回り成長して戻ってくる仕組み
特徴②:社員のノウハウ共有のための定期的な勉強会の開催
特徴③:希望するビジネス講座があれば、受講料を会社が補助する制度

解答例は次回に!

お題は毎度、記事テーマの実践編として関連する内容を出していきます。解答例は、次回の連載(11/25(金)予定)でお伝えします。

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後書きのようなもの

兵庫県は淡路島南部の辺境に不思議な施設がある。看板を見ると「ナゾのパラダイス」とある(自分でナゾゆうてるし……)。その上には、小さい文字で「3倍おもしろい」と書いてある(何と比べてやねん……)。

この(〇〇……)の部分、これこそメディアコミュニケーションだ。島民の私は前を通るたびに心の中で無意識にこの看板とやりとりをしてしまう(そしてついに、ferretで書いてしまった)。これが「南淡路のパラダイス」や「最高におもしろい!」なら、ふーんで通り過ぎるだけだ。

まず、ここを通る人は大半がツッコミ機能を搭載した関西人であって、そして施設の外観自体がパッと見ていかにも「あやしい……」。そんなキャラを纏った施設が放つ「3倍おもしろい」だから、3倍おもしろいのだ。

これを真面目なビジネスパーソンが比較対象も示さずに「3倍のパフォーマンス!」とやったら「アンタだいじょうぶか?」となる(たまにみかけるが)。緻密な(かどうかはそれこそナゾだが)コンテクストの計算がそこにはある。知らんけど。

しかし冷静に巷に溢れるメディアの言葉を見渡してみると、多くがこの場合の「南淡路のパラダイス」や「最高におもしろい!」にあたる言葉づかいをしてはいないだろうか。仮に「最高におもしろい!」と言っておもしろさが伝わるのであれば、スーパーに並ぶ食品パッケージには全て「究極の味」か「至高の味」と書いておけば万事オーケーだ(私も明日から転職活動を開始しなければならない)。

バナー原稿を制作・配信するのにもお金がかかるし、もちろん南淡路の看板にペンキを塗るのにもお金がかかる。コミュニケーションの目的があって、会社の費用をかけて言葉を書くのであれば、やはり目的を達する言葉づかいをする必要がある。問題は、これが難しいことだ。

歌を歌うことも、ボールを投げることも、言葉を書くことも誰でもできる。しかしプロと言われる人と普通の人では「全然違う」。この違いをあえて言語化するならば「技術の身体化」の積み重ねの差だろう。

普通の人にとっては歌は下手でもいいしノーコンでも一向に差し支えないが、仕事において言葉づかいが下手なのはちょっと困る。そこで、言葉の技術=コピーライティングのコツをひとつずつ身に着けていけるコンテンツをお届けしていこう。というのが、今回の連載企画の趣旨です。

次回のテーマは「広告の目的=態度変容について」。

では、また次回の連載でお会いしましょう。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー

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