「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第3回目となる前回記事では広告のスタンス=コピーは無視される前提で書くについてお届けしました。

導入編・第4回のテーマは「広告コピーの秘伝の修行法」についてです。
毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

これまで三回に渡り「導入編」として広告コピーを学ぶ前の大前提の考え方についてお伝えしてきましたが、今回が導入編ラスト。広告コピーの修行法についてです。

導入編といいながら「考え方」というよりは実践方法寄りの内容になってしまいますが、「よし、来年から言語化能力を磨いてみよう」と思い立った時に具体的に何から始めればよいかわからなければアクションに結び付きません。また広告コピーを書けるようになることは「脳内に新しい考え方の回路」を拓くことなので、割と時間がかかるものでもあります。

よって、今後の連載でコピーの書き方を順次お届けしていく前に、具体的な修行法をまずはお伝えしておこうということです。

広告コピーの秘伝の修行法とは

広告コピーも、たとえばその他のジャンルのデザインや写真、音楽なんかも同じですが、「感性」が重要になる世界です。世の中の現象をどう捉え、それにどのようなテーゼを打ち返すのか

ではその「感性」とやらは天賦のものなのか?はたまた後天的に身につけることが可能なのか?時代を変えるアーティストになるなら話は別ですが、商業的なニーズに応えるような範囲であれば、後天的にある程度身につけられるといわれています。

というわけで、様々な修行法が提唱されていますが、その中でも業界の中ではメジャーで効果も期待できると思われる2つの方法をご紹介します。

秘伝の修行法その①:写経

いかにも「修行」という感じの響きがいいですね。広告コピーの場合はもちろん仏典を書き写すのではなく、TCCコピー年鑑など過去の名作コピーをひたすら書き写していくトレーニングです。これがいいのは、広告会社に入れなくても、誰でも、どこでも、今からでも始められること。

写経とは先人の「視点」を辿りながら、自分なりの物事の見方・捉え方を確立していく作業です。地道で何も変わらないように感じますが、水面下では着実に回路が形成されているはずです。

聞けば、デザイナーもよいデザインを「写経」するし、プログラマーもよいコードを「写経」するのだそう。見るだけでなく、自分も手を動かすことでつかめる気づきがあるのでしょう。

秘伝の修行法その②:リバースエンジニアリング

こちらも呼び名はハイテクですが、必要な設備は目とアタマだけです。元々は競合他社の工業製品を分解してその開発ノウハウを研究する手法を指す言葉。広告の修行において使う場合は掲載・放映されている広告物の情報内容から、ターゲットや狙いを逆算して推論することを意味します。

広告主からのオリエンテーション(広告プラン作成依頼時に行われる詳細な商品説明)は知見の宝庫。この情報に数多く触れることが広告会社のコンサルサービスとしての優位性になるわけですが、修行者の身でこの場に出席が叶うことはありません。

しかし想像することは自由ですから、誰向けの広告枠に掲載され、どんなメッセージで、タレントは誰なのかといった目にした広告の情報要素からオリエンテーションの内容を推理していく。これは正解である必要はなく、こうしたマーケティングの推論を積み重ねていくことが大事なのです。

大切なのは、見えないものを信じる能力

オカルト的な話ではありません。広告とは「メディアコミュニケーション」という究極の無形商材を扱うビジネス。最初の提案プランも、最終目的である生活者の態度変容も全て具体物ではありません。

今回ご紹介した2つの修行法も「誰でも平等にできて手軽」なのは素晴らしい一方、成果が目に見えて出るわけではないために「意味があるのか不安」という短所もあります。しかしそれもまた、究極の無形商材を扱う広告という仕事の一番大切な素養を身につけるトレーニングであるともいえます。

これらの方法は広告業界にいなくても地方の中小企業でも、ベンチャー企業でも、学生でも誰でも今から始められます。新年で習い事を検討するなら、受講料いらずの言語化トレーニングとしてはじめてみてはいかがでしょうか。

宿題のようなもの ーCopy Drillsー

この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、お正月の空き時間などにぜひチャレンジしてみてください。今回も、年末年始に気軽に楽しんで取り組めるお題です。

今週のお題

年末年始の広告を「写経」してみましょう。コピーと一緒に、そのメッセージに対する自分なりの解釈(リバースエンジニアリング)も考えてみてください。

解答例は次回に!

解答例は、次回の連載(1/6(金)予定)でお伝えします。今回はコピーのお題ではありませんので、私自身も年末年始の広告を見ながら写経をしてみます(一緒に宿題やります)。年始の広告は各社ユニークなメッセージを打ち出して話題にもなりやすいので、楽しみながらやってみてくださいね。

前回のお題の解答例

前回のお題だった「折るとおまもりになる年賀状」の解答例はこちらです。

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解答例は「これが答えだ!」という意味ではなく、あくまで参考までにお出ししています。私が実際にクライアントワークで書き、世に出た言葉を使用しますが、意図としては適当な例題を出して「それっぽい解答」を示すというのはそれこそコピーの本質から外れると考えるからです。

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後書きのようなもの

今回紹介したような修行法を知ったのは、実は私が広告代理店に入って4年が過ぎた頃だ。クリエイティブに強い代理店ではなかったからか、他社のコピーライターと交流する中で知り、のちのち割とメジャーなトレーニング法だと知った。「秘伝の」としたのはそのためだが、既に知っていたらごめんなさい。

写経という方法は知らなかったが、感覚的な分野は「大量インプットが重要」ということは分かっていたので大学時代に『あの広告はすごかった!』『あの広告コピーはすごかった!』という2冊の書籍(安田 輝男著/中経出版)のコピーを2,000本ほどテープに吹き込んで通学時に倍速(タイパなどという高尚(?)な理由ではなく、自分の声を通常速度で聴くのが耐えがたかったからだが)で聴き続けた。

これは効果がなかったわけではないとは思うが、今思えばどんな商品で、時代はいつで、どんな狙いをもっての表現なのかを踏まえずに表現だけを「丸暗記」してしまったのは大いなる反省点(読者の皆さんは僕の屍を越えていってください)。

実際に写経をするとまず迷うのが「やっぱり、手で書いた方がいいの?」ということ。これに対する答えはないし、それこそ自分で考えて答えを出すべき問題だが、ここでは一応私なりの考え方をお示ししたい。

基本的には「その写経を、自分は何のためにやるのか?」によると思う。私の場合は最初は手書きで書き写していたが、途中からパソコン入力に切り替えた。

まず手書き派の場合。その目的は「手続き記憶による身体化」のための写経であるということだ。そのコピーを書いた先人の思考を身体的な臨場感をもって辿っていく。様々な書き手の「物事の考え方」を手の運動を通して記憶していく作業。

一方でパソコン派の場合(おそらく少数派)は「繰り返し読み返すことによる感覚記憶の重層化」という作業になるだろう。手書きの場合(字がヘタクソな私の場合は特に)読み返すのが難しい。写した紙を持ち歩かねばならないし、可読性も悪く、順番も変えられない。

また、最近のTCCコピー年鑑を開くとわかるが、コピー年鑑といっておきながらその収録作品のほとんどがテレビCMのコンテだ(これの是非はここでは議論しない)。そしてその中に「これは!」という表現を発見した場合、一部ではやはり意味が分からないので全ての台詞を書き写すことになる。これを手書きでやると、修行はもはや苦行に変わる。

写経をする際にもうひとつ迷うのは「全部片っぱしから写した方がいいの?」というものだろう。これも写経の目的によって変わるが、私の場合は「いいと思ったものだけ」を書き写すことにしていた。ざっと年鑑を読んだうち書き写すのは1/10にも満たない。

私にとっての写経の目的は「自分の書きたいスタイルを発見し、確立するため」であった。よって、どんなコピーを書ける人間になりたいのか、それを具体的に抽出する作業が写経ということになる。書き写したものはすべて「自分の目指すべきコピースタイル」の方向性を示す道しるべとなる。

新年から始めるとして「いつまで写経は続くのか?」という疑問もあるかもしれない。そもそも写経とは、100本書いても箸にも棒にも掛からない状態から、得意な球ならヒットを打てる状態まで持っていく0→1の作業

スタイルが確立してある程度書けるようになったら、それ以降は自分のコピーやリバースエンジニアリングのメモなどのアウトプットを最大のインプットにするといいと思う。そうすることで書けば書くほど、自分なりのスタイルや世界観を拡げていくことができる。

四回に渡って導入編をお届けしましたが、次回からはいよいよ実践的な書き方をお伝えしていく「基礎編」。テーマは「まず「何を言うべきか」を見つける」について。

では、また次回の連載(1/6(金)予定)でお会いしましょう。

次回の記事はこちら

どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める。広告コピーライティングの最初の作業

どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める。広告コピーライティングの最初の作業

基礎編・第五回のテーマは「どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める。」です。広告コピーを実際に書く上で最初に行うべき表現の「軸」を決める作業について解説します。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー

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