「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第13回目となる前回記事ではブランドが紡ぐ小さな物語についてお届けしました。

第14回となる今回は実践編「アイデアのつくり方 ~インプット編~」です。

毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

毎日の業務は、課題解決の連続です。自社で培ってきたノウハウや、最近ではChatGPTなどの生成AIのチカラ等を借りながら前に進んでいくわけですが、しばしば「壁」が立ち現れます。

既存のアプローチでは突破できない時に必要になるのが、その「打開策」となるアイデア創出です。マーケターや広報・PR担当者に限らず、今やあらゆる領域のビジネスパーソンに求められるアイデアですが、通常業務で追求する「生産性」と違い、こちらは「創造性」が必要になるので苦手な人も多いでしょう。

今回から2回に渡って、アイデア創出の方法をお伝えします。創造性というと特殊な才能が必要だと思われがちですが、実はある程度「型化」されており、そのプロセスを経れば誰でも打開策となるアイデアにたどり着けるものなのです

これまで自分がアイデア創出が苦手だと思っていた人は、この型を実践することで「狙って」アイデアを作れるようになります。

広告コピーを考える際の基本をチェック!

マーケターが知っておくべき、広告コピーを考える際の基本

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コピーを考える際に必要な、10のコンセプトを収録しています。コピーライティングを学ぶ人はもちろん、業務において適切に言葉を扱う必要がある方におすすめです!

アイデア創出の「型」とは

広告クリエイティブの世界で最も有名な本には「フォード車を生産するようにアイデアのつくり方もプロセス化できる」と書かれています。フォード車という喩えからも歴史を感じるとは思いますが、80年以上も読み継がれている名著がジェームス・W・ヤングの「アイデアのつくり方」(CCCメディアハウス刊)。

小手先のテクニックはすぐに廃れますが、この100ページ程度のシンプルな本の中で紹介されているのは本質的な方法論なので歴史の検証に耐えて今に伝わっているわけです。SNSの普及により個人が日常的にネタづくりをしなければならないという事情もあり、発行から80年経つこの名著は今日でも度々ベストセラーに浮上しています。

この本で紹介されているプロセスは大きく「①インプット→②アウトプット」に分けられます。今回はインプットについて、現代のビジネスパーソンの実務ベースに翻訳してご紹介します。

アイデア創出のための情報インプット術

そもそもアイデア創出とは、何も無いところから画期的な発明を生み出す0→1の作業ではなく、その本質は「異質な断片情報の新しい組み合わせ」です。

つまり掛け合わせる母数となるインプットの質・量が鍵となるわけですが、多くの人はインプットもそこそこにいきなりアイデアを考え始めてしまいます。これは料理に喩えれば食材の買い出しをサボってご馳走を作ろうという計画と同じ。うまくいくはずはありません。

ジェームズ・W・ヤングの「アイデアの作り方」によれば、アイデア創出における最初の作業は「情報収集」です。集めるべき情報には二種類あるといいます。

①「特殊情報」を収集する

まずひとつめは「特殊情報」。これは「競合調査」や「ターゲット調査資料」など、企業の内部にある専門知を指します。その案件まわりの詳細な状況分析をするために、企業が少なからぬコストをかけて収集する機密性の高い情報です。

広告代理店などコンサル側ではクライアントが必要な情報を整理してまとめてインプットしてくれますが、一歩先のアイデアを掴むためには与えられた情報以上のインプットを心掛けるべきでしょう。

有効な方法の一つが、ハウスリストやSNSを活用した簡易アンケートです。Amazonギフト券などを使えば手間や送料をかけずに謝礼がつけられるので、抽選で1,000円分のギフトを10名様=10,000円程度の費用で簡易調査が可能。何らかの仮説がある場合、その実態を確認するための簡易調査を実施するとアイデアの精度が上がります。

②「一般情報」を収集する

ふたつめは「一般情報」です。新聞・雑誌などで一般に公開されている情報ですが、誰でも手に入るからといってバカにしてはいけません。米国のCIAや各国の諜報機関も、スパイ活動等からの特殊情報は一部で、9割以上は一般に手に入る膨大なメディア情報などをひたすら分析しているのだそうです。

案件が発生したらそれに向けての一般情報収集をするのはもちろんですが、それだけでは間に合いません。普段から自身のビジネスに役立つ良質な情報源を見定め、一般情報をコツコツ収集・分析していきましょう。筆者はTX系列「ワールドビジネスサテライト」を毎晩録画して翌朝観るようにしていますが、朝のワイドショー的なニュースに比べて1時間とコンパクトな中にビジネストレンド情報が詰まっているのでオススメです。

また、費用をかけずに実施できるのがソーシャルリスニングです。これはSNS上にあがっているコメントを分析して今のユーザーインサイトを探る方法です。案件に関連するキーワード周りのコメントを見ていくという方法以外にも、SNS構文に注目するなどの工夫をすれば気づきの収穫量は倍増します。たとえば最近ですと「という現象に名前をつけたい」などで検索するとSNSユーザーが最近なんとなく気になりはじめたムズムズした状態の「兆候」を捉えることができます。

参考:インターネットミームを企画にする | アドタイ

「使わなかった情報」にこそ価値がある

創造的な仕事の本質とは、大胆な捨象にあります。つまり、特定の案件のために収集した膨大な情報は、99%捨てることになります。しかし企画に反映された1%の情報以外は無駄だったのか?といえば全くそんなことはありません。

まず第一に、使わなかった99%があるからこそ、本当に着目すべき1%の情報の筋が見えてくるのです。全ての論点やトレンドを並べた上でどこを掘り下げるかを見定めないと、確信を持って企画を完成させることはできません。

また今回使わなかった情報は、次の企画のヒントになります。案件の度にコツコツ情報収集を行い、自分のアタマにインプットを重ねていけば企画を作るごとに自分の見識がベースアップしていきます。これを20件、30件と積み重ねていけば、改めて情報収集をしなくても瞬時に企画の方向性が出せるようになり、初回会議の場である程度方向性を議論して絞り込むことが可能になります。

まずは目先のアイデアの精度アップのために、そして同時に将来の全企画の肥やしとして。意識的に「インプット」を積み重ねていきましょう。

宿題のようなもの ーCopy Drillsー

この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、ぜひチャレンジしてみてください。

今週のお題

失敗して固い肉を買ってしまっても、かけるだけで麹菌の働きによって高級肉のようにやわらかくできる「液体塩こうじ」のコピー制作を依頼されたあなたは、どんなコピーを提案しますか?

解答例は次回に!

解答例は、次回の連載(7/21(金)予定)でお伝えします。

前回のお題の解答例

前回のお題だった「イタリアのコンパクトカー」のコピー解答例はこちらです。
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▼コピーを作る前に!ブランドの魅力を整理するためのフォーマットをダウンロードできます

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット(Excel形式)

後書きのようなもの

自身のアウトプットを、最良のインプットとする

ほんとうの準備とは、いついかなる案件がきても即応できる情報スクラップを1年365回積み重ねること。雑誌の目次から旬なワードを拾ったり、付録だけを集めたり。整理しながら手続き記憶で頭に入れる、という作業をイチロー選手のルーティンのように黙々と続けていく。

毎日の情報スクラップをする際、自分なりの解釈もセットにすると記憶に残りやすく、また自分独自の視点も養われていく。これからの「個」の時代、個性を磨かなきゃ!と思っても具体的に何をすべきかわからないという人には是非この方法をオススメしたい。

また単にスクラップするだけではなく毎日ひとつツイートとして発信してみるのも有効だ。自分がどのようなビジネス情報に見識があるのかをアピールできるというPR的な効果はもちろん、都度都度のフォロワーからのいいね!やRTなどの「手ごたえ」も含めて記憶に残せるので、アイデアのエッジに関する肌感を養うのにも有効だ。

イチロー選手はまた「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」という言葉を残している。1日ひとつ、自身の解釈つきのツイートをすれば1週間後には7つ、昨日まで知らなかった知識&洞察を持った自分になれる。これを1年、2年と積み重ねていけば、本当の意味のアイデアマン/アイデアウーマンになれるだろう。

次回は「アイデアの作り方 ~アウトプット編~」について。インプットした情報を、いかに企画に昇華させるか?ブラックボックスになりがちな「創造的変換」のプロセスについて解説します。

では、また次回の連載(7/21(金)予定)でお会いしましょう。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー