「言語化」時代におけるコピーライティングについて考察し、実務に活かせるヒントをお届けする連載「コピー学習帳」。第12回目となる前回記事では広告コピーのトレンド変化についてお届けしました。

第13回となる今回は実践編「ブランドが紡ぐ小さな物語」です。

毎回、宿題(のようなもの)を出していく予定ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

前回の連載記事「広告コピーのトレンド変化」では、インターネットが普及した2000年代以降のクラスターマーケティング時代における「言葉のサイズの小型化」やマルチコピーアプローチについてご紹介しました。

今回はその続編。最近テレビCMでよく見かける「シリーズ広告」について、その時代背景や作り手の狙いについて解説します。

広告コピーを考える際の基本をチェック!

マーケターが知っておくべき、広告コピーを考える際の基本

マーケターが知っておくべき、広告コピーを考える際の基本

コピーを考える際に必要な、10のコンセプトを収録しています。コピーライティングを学ぶ人はもちろん、業務において適切に言葉を扱う必要がある方におすすめです!

情報洪水にのまれない広告アプローチ

前回ご紹介した「ルーツ飲んでゴー!」やオンワード樫山「Walk.23区」キャンペーンなどのマルチコピー展開がスタートした2007年に、もう一つ大きな潮流が生まれます。その発端となるのが「なぜかお父さんが犬になって、しかもやけに立派な声で話す」というソフトバンクの今に続く「白戸家」シリーズです。

同じ時期に今にもつながる大きなトレンドが生まれたのは偶然ではないでしょう。2007年といえば佐藤尚之氏の「明日の広告(アスキー新書)」が刊行され、情報流通センサス調査による「情報洪水時代」の認識が広告の作り手に広く共有されたタイミングです。

これまで主流だった広告による単発キャンペーンの効き目が低下し、仮に話題になったとしても一瞬で忘却されてしまうという事態を前に、新たなアプローチが模索されました。その一つがマルチコピーアプローチであり、もう一つは今回のシリーズ広告です。

ブランドが紡ぐ「小さな物語」

広告における文脈づくりとは、大きな社会文脈を土台としてコピーやグラフィック、タレントなど複数の情報要素を結い合わせて仕上げるもの。たとえばタレントには人々に広く共有された「キャラ」という前提イメージがあるので「誰が・何を」セリフで言うかの前段部分の説明が省略できるため、テレビCMの限られた15秒という尺の中で最短距離でブランドメッセージを語り始めることを可能にしてくれます。

科学技術やモノによる豊かさの限界が徐々に露呈してきた70-90年代は、ポストモダンが進行した時代でもあります。ポストモダンが進行すると社会は「大きな物語」を失うといわれていますが、コミュニケーションの拠り所となる社会の大きな文脈が喪失された埋め合わせとして生まれたのが、現在様々なブランドが紡いでいる「小さな物語」なのかもしれません。

ソフトバンク「白戸家」シリーズ

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出典:ソフトバンクのテレビCMにスパイ登場、 西島秀俊と仲野太賀が白戸家に潜入 | アドタイ

2007年から17年以上に渡り、500本以上のバージョンが制作されている白戸家シリーズ。もとは同社の家族割の「予想外」なメリットを分かりやすくメッセージングするための建て付けで、ホワイトプランという名称を印象付けるための「白い犬」だったということですが、まさに「予想外」なヒットにより記録的なロングランとなっています。

2010年には民主党への政権交代後初の国政選挙でねじれ国会を生んだ参院選や、大島優子が初のセンターポジションを獲得したAKB48の第2回選抜総選挙などの盛り上がりを受けてお父さん犬「白戸次郎」も立候補するなど、その時々の社会の空気と絶妙に呼応しながら丁寧に物語を紡いできました。白戸家のストーリーはもはや、ただの映画やドラマよりも我々の心に「家族の物語」として根付いているといってもいいでしょう。

2015年には競合のauも「三太郎シリーズ」をスタートさせましたが、こちらも人気を博し今日まで続くロングランシリーズとなっています。

サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ 地球調査」シリーズ

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出典:今年で30周年、時代と共に変遷を遂げた『BOSS』CM 「ろくでもないけど、すばらしい」に込めた“救い” | ORICON NEWS

同時期に始まって今まで80作以上のロングランを誇るもう一つのシリーズが「このろくでもない、すばらしき世界。」をスローガンとするBOSSのキャンペーン。トミー・リー・ジョーンズ扮する宇宙人ジョーンズが、工事現場やタクシーの運転手、宅配業者、医師など様々な職場を転々としながら「この惑星の住人は…」と調査報告を上げるというのが基本フレーム。これを繰り返すことで、世の中のあらゆる人々に寄り添っていくブランド構築を進めています。

たとえばシリーズ18作目、トンネル掘削現場を描いた『地上の星篇』のTVCFコピーは

「この惑星の住人は川を見れば橋を架け、
 山を見ればトンネルを掘る。
 一体どこへ向かおうとしているのだろうか。」

(ジョーンズが押した爆破スイッチでトンネルが開通し、工事現場のみんなで万歳三唱する)

「…ただ、この惑星の達成感は癖になる」

仕事や人生の悲哀を「まあそれも悪くない。むしろすばらしいじゃないか」と宇宙人目線で客観的に肯定するアプローチは、まさに「働く人の相棒」というBOSSのブランドコンセプトを体現するコミュニケーションです。

生活者とブランドの間で「共通言語」を育てていく

広く社会に共有された共通感覚である「大きな物語」の喪失と、スマホ・SNSの普及による情報洪水と大衆の分衆化によって、広告メッセージを届けることは至難の業になっています。1つの大きな企画フレームを設定した上で、時代に合わせてその中でメッセージングを積み重ねていくことは、生活者とブランドの間で共有する「世界観」を創造し、その中で「共通言語」を育てていく行為です。

世界観と共通言語を共有することで都度都度のメッセージ伝達力が高まることはもちろん、蓄積されたストーリーが生み出す文脈によってコミュニケーションの正確さとスピードの平均値も徐々に上がっていきます。TVCMに限らず、これからのコミュニケーション戦略を考える上では「大きな世界観と共通言語を共有」し、ブラさず継続して育てていくという視点が必要です。

宿題のようなもの ーCopy Drillsー

この連載では毎回、宿題(のようなもの)を出していますので、ぜひチャレンジしてみてください。また読者の皆さんからのコピー案も募集しています。Twitterでハッシュタグ#ferretコピー学習帳】をつけて、投稿してみてください。優れたコピーは、次回解答例と併せてご紹介します。

今週のお題

アニメの主人公の愛車にもなった「外見はもちろん、内装もいちいちカワイイ」イタリアのコンパクトカーのコピー制作を依頼されたあなたは、どんなコピーを提案しますか?

解答例は次回に!

解答例は、次回の連載(6/23(金)予定)でお伝えします。

前回のお題の解答例

前回のお題だった「クルーズ積立」のコピー解答例はこちらです。
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▼コピーを作る前に!ブランドの魅力を整理するためのフォーマットをダウンロードできます

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット

ブランドの魅力を整理する!広告訴求のためのフォーマット(Excel形式)

後書きのようなもの

乱立するネバーエンディングストーリー

言葉はナマモノなので日々刻々とその認識=意味の含有量は変容している。「満タン」と聞くとコスモ石油を思い出すように広告繰り返し同じフレーズを伝えることはその言葉の意味を少しずつ自社文脈に最適化しているということでもある。一つひとつの言葉の伝達スピードが上がるので、同じ15秒でも余白の大きさが少しずつ増えていく。

今回紹介したシリーズ広告は、大きな「世界観」の中で言葉を育てていくことでよりスピーディに、より解像度高く受け手との共通言語を作る作用がある。これは投資でもあるので、一度始まった世界は簡単には終わらせられない。結果、各企業がそれぞれにネバーエンディングストーリーを紡ぎ続けているのが現代の風景だ。

最近また新たなシリーズ広告「三井のすずちゃん」が始まった。昨年夏から概ね3-4ヶ月に1話ずつ、丁寧に話を展開させている。当初は戸惑っていたすずちゃんも3本目では立派な語り部だ。昨今マーケティングのキーワードになっている「ナラティブ」を誘引するアプローチ。城郭を熱く語れるように商業施設も熱く語れる対象なのだ、という提案にもみえる。

次回は「アイデアのつくり方 ~インプット編~」について。

では、また次回の連載(6/23(金)予定)でお会いしましょう。

連載

第1回 「言語化」時代のコピーライティングとは
第2回 広告の目的は「買ってもらうこと」ではない。生活者のお買い物ポリシーを書き換える広告コピーのアプローチ
第3回 「誰も読んでくれない」という前提から発想する。広告コピーの基本スタンス
第4回 広告コピーの「秘伝の修行法」とは
第5回 どう言うか?の前に「何を言うか?」を決める
第6回 生活者とブランドの接点=ベネフィット(便益)の約束
第7回 広告のメッセージ精度を上げる「言葉のフォーメーション」
第8回 広告の「基点」愛され続けるタグラインの書き方
第9回 1/1000の狭きココロの門に入るキャッチコピーの書き方
第10回 ブランドの「認識」を醸成するボディコピーの書き方
第11回 【特別編】ChatGPTのコピーを添削する
第12回 広告コピーのトレンド変化
第13回 ブランドが紡ぐ小さな物語
第14回 アイデアの作り方 ~インプット編~
第15回 アイデアの作り方 ~アウトプット編~
第16回 顧客理解のためのヒアリング
第17回 広告企画のプレゼンテーション
第18回 X世代の心象風景:80年-95年の広告とカルチャー
第19回 ミレニアル世代(Y世代)の心象風景:95年-09年の広告とカルチャー