2019年9月、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントはYouTubeを活用した新たなオーディションブランド「ONE in a Billion」を発足しました。

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画像引用:
ONE in a Billion | ワン・イン・ア・ビリオン

ONE in a Billionは、オーディションの様子を公式YouTubeチャンネルで配信し、視聴者も審査に加わるオーディション企画です。グランプリは2020年春にソニーミュージックよりメジャーデビューすることが決定しています。

このYouTubeを活用した新たなオーディションにはどのような狙いやポイントがあるのでしょうか。

この狙いやポイントをソニーミュージックの小倉氏と平井氏、そして動画コンテンツの制作を行う株式会社BitStarの泊氏にお聞きしました。

プロフィール

小倉昭彦氏
株式会社 ソニー・ミュージックエンタテインメント  SDグループ オーディション部 部長
93年ソニー・ミュージックエンタテインメント入社。94年から25年間、グループ会社であるソニー・ミュージックアーティスツにて東京スカパラダイスオーケストラなどのアーティストマネジメントに携わり、19年3月より現職。同時に立ち上げられたオーディション部dにて「2020年代における新しいオーディションのあり方」を日々模索する。

平井拓氏
株式会社 ソニー・ミュージックエンタテインメント SDグループ オーディション部 プロデューサー
96年ソニー・ミュージックエンタテインメント入社。98年よりA&Rとして平井堅、Beat Crusaders, Flower、Creepy Nuts、等の制作を担当。19年3月より現職を兼務。

泊 大輔氏
株式会社BitStar Studioユニット管掌 執行役員
関西学院大学卒業後、株式会社毎日放送に入社し、スポーツ番組、報道番組、大手代理店担当営業などに従事。その後、デジタル動画事業に携わりたいと考え、2016年7月にC Channel株式会社に入社。国内メディア統括執行役員として、動画制作、SNS、アプリ、WEB、オフラインイベントなどの事業を担当。2019年5月、BitStarに入社。同年7月、執行役員に就任し、Studioユニットを管掌。

YouTubeとの掛け合わせで新たなオーディンションをつくる

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(写真左:平井氏、写真右:小倉氏)

ferret:
そもそもこのYouTubeを活用したオーディションを立ち上げた経緯はどのようなものだったのでしょう?

小倉氏:
いわゆる従来のオーディションではなく、新しい形のオーディションのスキームを作り、それをビジネスにしようというざっくりしたコンセプトからこのプロジェクトは始まったんです。

これまであったメディアを使ったオーディションというと、テレビ東京の『ASAYAN』やイギリスの『Xファクター』など地上波の番組を主体としたオーディションでした。

そこで、さらに新たな形でと考えたのがYouTubeでの展開だったんです。

平井氏:
YouTubeって音楽との相性が良く、視聴者の母数も大きいためオーディションと非常に親和性があると思いました。ですので、オーディションと掛け合わせることで新たな面白さを見つけられるかなというところでプロジェクトを立ち上げました。

ferret:
具体的にYouTubeをオーディションと掛け合わせることでどのような違いがでてくるのでしょう?

小倉氏:
そうですね。いわゆる通常のオーディションでは数人の審査員が合否を決めてしまうので、勝ち残ってグランプリになったからといってそれがすぐに一般ユーザーの人気にはつながらないことも多いんです。しかし、YouTubeを通して動画視聴者の声や評価をオーディションの結果に反映できれば、デビュー後も人気を得るだろうという確証が高まりますよね。

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平井氏:
オーディションの様子を公開することで、デビュー前からファンを獲得できるというメリットもあります。普通にオーディションをしてデビューすると、当然そのタイミングではまだ少数のファンしかいないんです。YouTube上でファンを先に獲得しておくことで、ファンがすでにいる状態でのデビューが可能になりますね。

小倉氏:
この「One in a Billion」は、アーティストを見つけるオーディションとしての側面と、動画コンテンツとしての側面という2つの要素を持っているので、それらを掛け合わせることでさらなるシナジーを生み出そうとしています。

動画制作のポイント

YouTubeならではの動画の作り方

ferret:
動画を制作する際はどのようなポイントを意識していますか?

泊氏:
YouTubeの動画ってテレビ番組とは異なる点がいくつかあるんです。大きなポイントだと、離脱させないための工夫はしていますね。

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(泊氏)

泊氏:
テレビ番組だと番組の間にあるCMを見てもらうために、面白い部分や興味を引く部分を引き伸ばすように後ろに制作するんです。YouTube番組の「One in a Billion」ではまず見てもらい、そして次の動画を見てもらうことが重要になります。ですので、早いテンポで飽きて離脱させないような動画づくりをしています。

ferret:
指標にしている数値などはありますか?

泊氏:
やはりこの企画で言えばインプレッション数がKPIの1つとなるので常にチェックしています。また、そこに紐づく数値として視聴の継続率やサムネイルのタップ率なども重要ですね。他にもアルゴリズムを鑑みて、検索で上位に来るようにタイトルをつけたり、なるべく他の動画の関連枠に表示されるような工夫は行っています。

平井氏:
私は動画へのコメントも非常に重視しています。動画コンテンツの制作においては、視聴者とのコミュニケーションがカギとなってくるので、ダイレクトな反応が分かるコメントは非常に重要です。YouTubeは地上波やNetflixと比べて、こういった視聴者のリアクションがわかりやすいので、その強みは最大限活かしていきたいですね。

小倉氏:
この企画は動画自体が魅力的なコンテンツになっていかなければいけないので、番組として楽しんでもらえて応援してもらえるように、よりリアリティのあるコンテンツにしたいなと思っています。

コンテンツにはリアリティが必要

泊氏:
このリアリティの要素って、こういった動画コンテンツにおいては非常に重要な要素だなと思っているんです。

例えば『テラスハウス』も台本のないリアルな男女の恋愛をコンテンツとして届けることで非常に人気の番組になりましたよね。このリアリティさや事件性ってそのままコンテンツとして魅力あるものになるんです。ですので、この企画ではさらにライブ性をかけ合わせるため、収録の翌週くらいには動画として公開しているんです。ここはテレビ番組にはないスピード感かなと思いますね。

小倉氏:
このリアリティさは非常に魅力的な反面、我々にも先が読めない不安もありますが、生々しくないと共感や思い入れは生まれてこないと思っているのでそこは大事にしています。

そのプラットフォームのお作法に従う

ferret:
メインMCとして、YouTube上で人気の「ガーリィレコードチャンネル」を起用していますが、ここにはどのような意図があったのでしょう?

小倉氏:
YouTubeという我々が今まで踏み込んでこなかった領域での展開なので、すでにそのプラットフォームで活躍している方が登場したほうがその“場”に馴染み、訴求力もあがるだろうという意図ですね。

平井氏:
YouTubeで活躍している方と地上波で活躍している方の大きな違いは、スポンサーの有無だと思っています。もちろん企業とYouTuberのタイアップ動画などが無いわけではないですが、基本的にはスポンサーに関係なく自分たちが作りたい動画を自由にアップしていますよね。こうしたそもそもの構造が違うのであれば、もちろん持っている価値観も違います。この価値観の違いは動画の投稿者だけでなく視聴者も同じだと思うんですね。ですので、この違う価値観に沿った訴求をするためにも彼らを起用しました。

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泊氏:
ここもリアリティに通じる部分なのですが、ガーリィレコードチャンネルさんがこの企画をすごく自分ごと化して携わってくれているのは本当にありがたいですね。やはりYouTuberの方にとっては、自分のチャンネル方が一番大事だったりするので他のチャンネルではちょっと熱量が低かったりするのですが、ガーリィレコードチャンネルさんは非常にこの企画を楽しみにしてくれているんです。

視聴者って本音の感情を割と重要視しているので、「やらされている感」を感じると見ていてすぐに冷めちゃうんですよね。なのでここは本当にありがたいなと思っています。

今後の展望

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ferret:
今後はこの「One in a Billion」をどのようなコンテンツにしていきたいですか?

小倉氏:
今という結構大きな時代の変わり目のなかで、こういったオーディションを企業が主体となってYouTube上で展開するのって、おそらくこれが初めての試みに近いんじゃないかと。ですので造り手側の不安やプレッシャーもありますが、とにかく人の感情に響くような魅力あるコンテンツになっていけばと思いますね。

平井氏:
そもそもオーディションってこういうものじゃなかったじゃないですか。これまでだと、オーディションの様子が公開されることもあまりなかったですし、視聴者の声がそのまま反映されることもなかった。これをオープンにすることで、音楽ファンの方がどこまでファンになってくれるかは楽しみな部分ではあります。

泊氏:
僕はやはりYouTubeというプラットフォームの面白さに興味がありますね。テレビでは音楽があまり見られないと言われている中で、YouTubeだと音楽ってすごくエンゲージメントが高いカテゴリなんです。これってテレビではやりにくかったコア向けのコンテンツをきちんと届けられるようになったからこそだと思っているんですね。この新たなプラットフォームの特徴をどれだけ活かしきれるかが楽しみです。