ユーザーにとって使いやすいサービスやアプリケーションにするために、やるべきことはたくさんあります。
ボタンの色や大きさを変えたり、ナビゲーションの位置をずらしたり、ヘッダーに書かれているコピーを書き換えてみたりと、数えればきりがありません。

そうした様々な施策の中でも意外と効果的なのが、「情報を整理していくこと」です。
このような情報のまとめ方は、Webマーケティングの世界においては*「情報アーキテクチャー」(Information Architecture, IA)*とも呼ばれ、「情報をわかりやすく伝え」て、なおかつ「受け手が情報を探しやすくする」ための表現技術だと定義されています。

20年前の、Webが一般的ではなく書籍やマスメディアでしか情報を拾えなかったいわゆる「受け身の」時代に比べれば、「積極的に」情報を拾える現代は飛躍的に拾える情報が増え、それに伴い正確な情報を得るのが難しくなっています。

そうした問題を解決するための役割として、*「情報アーキテクト」*と呼ばれる、情報の整理を専門とした職業が注目されているのです。

今回は、ユーザーに分かりやすく情報を伝え、総合的なUXを向上させるためのフレームワーク「LATCH」を解説します。

情報アーキテクチャーの時代

Webが普及してからというもの、それ以前の時代と比べて圧倒的に情報量が増え、SNS普及以降はさらに爆発的に情報が交錯する時代へと突入しました。
こうした中で注目を集めているのが「情報アーキテクト」と呼ばれる役割です。
1996年に既にこの言葉を用いていたリチャード・ワーマン氏は、「情報アーキテクト」を次のように定義しています。

(1) データの持っているパターンを整理し、複雑なものを明快にする人。
(2) 人が知識への経路を見つけるための情報の構造や経路をつくる人。
(3) 時代の要請により21世紀に新しく生まれつつある、明快さ、理解、情報の組織化を専門とした職業。

Information Architecture Association Japanより引用

ユーザーは情報を検索している時点で本当に自分の欲しい情報が何かを分かっていないケースの方が多いでしょう。
その道しるべを作るのも、情報アーキテクトの役割だと言えます。

それでは、情報を整理するためにはどうすればいいのでしょうか。
今、有効だとされている方法の1つに*「LATCH」*(「ラッチ」と発音します)と呼ばれるものがあります。

LATCHはリチャード・ワーマン氏が情報の組織化の方法として紹介したもので、*Location(場所)・Alphabet(文字順)・Time(時間)・Category(カテゴリー)・Hierarchy(ヒエラルキー)*の頭文字を取ったものです。

それでは、具体的にLATCHの中身を見ていきましょう。

UXを向上させる「LATCH」とは?

1. Location(場所)

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情報を場所によって分けていくのは重要なことです。
例えばWebサイトの場合であれば、左上にトップページへ戻るロゴマークがあり、右上にログインボタンがあるのがよくある構造です。
ブログメディアであれば、右側にはサイドバーがあり、左側に記事本文が出てくるようなケースも一般的です。

人間は空間認識能力に優れているので、場所ごとに整理をすることができます。
例えば、初めて訪れる友人の家に訪れたときに、トングやボウルはキッチンの棚に、トイレットペーパーはトイレの棚にあることは大体見当がつくものです。

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画像はイメージ / Source: Pexels.com

この空間認識能力をうまく利用しているのがコンビニエンスストアです。
ほとんどのコンビニエンスストアでは、入り口を入って前方左側にレジカウンター、前方右に目をやると栄養ドリンクと日用雑貨、そしてさらに右に振り返れば書籍や雑誌が置かれているというレイアウトを採用しています。

このように、物理的な場所によってユーザーがその情報を知らなくともある程度「推測」できる状態を作り出せます。

「ポケモンGO」のようなARデバイスも、現実世界の空間構造をデジタルマップで情報の再構築を行なっているという点では非常に参考になります。
UberアプリGoogleマップアプリのように、2次元・3次元空間における情報の体系化も、今後ますます期待されています。
情報の相対位置が意味をなす場合には、ぜひ位置による情報整理を進めていきましょう。

2. Alphabet(文字順)

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Alphabetはその名の示す通りAからZまでのアルファベット順で情報を整理していくやり方です。
古くは電話帳で使われていたやり方で、現在でもコンタクトをまとめているアプリケーションや辞書などがこの方法を使っています。
調べたい項目の名前が分かっているときには、非常に便利な方法です。

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Screenshot on July 23rd on HTMLQ

Web関係者がよく目にするのは、HTMLタグCSSタグのリファレンスサイトでしょう。
こうしたタグを調べるときには、目的別に調べる方法もありますが、タグ名が分かっていてその用法が分からないときには文字順で並んでいると調べやすくなります。

すべての情報をあいうえお順にする必要はありませんが、辞書や百科事典、本の索引のように膨大な項目の中からユーザーが「タイトル名」の手がかりだけでも握っている可能性があれば、文字順での整理は大変有効な手段です。

3. Time(時間)

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時間をキーポイントにして情報を整理していくのは最もポピュラーなやり方の一つだと言えます。
私たちは一般的に時間を直線的なものだと捉えているので、その直線上で出来事を振り返ったりこれから起こることを予測したりするのが得意です。

古くは日記や手帳といった形式でアナログでも利用されていた手法ですが、コンピュータの出現後はメールの受信を時間順で新着から見られるようにしたり、SNSではTwitterやFacebook、インスタグラムなどが「タイムライン」を取り入れています。

iPhoneを持ち運ぶだけで滞在した場所、乗った乗り物、徒歩の3つから行動記録をタイムラインで自動作成するアプリ「SilentLog」も、時間を軸とした情報の整理方法を採用しています。

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Screenshot on July 23rd on SilentLog

また、時間の整理軸を用いると、そのイベントまで「あと何時間後」といったように、現在時刻と予定時刻との距離を示すこともできます。
さらに、インストールウィザードやユーザー登録画面のように、ステップバイステップで作業を行なっていく方法もある種の時間を軸とした情報の整理方法だと言えます。

時間を使ってまとめていく方法は、歴史を時系列に記す「編年体」という手法が由来だと言われています。
出来事の前後関係が重要である場合には、時間を使ったまとめ方を採用してみてはいかがでしょうか。

4. Category(カテゴリー)

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物事を類似性やテーマ、関連性などでまとめていく場合には、カテゴリーを用いるのがいいでしょう。
キッチンにはキッチン用の道具が、クローゼットには洋服や下着などの衣類がまとめてあるのも、その類似性に着目した整理の仕方だということもできます。

Webサイトにおいては、カテゴリーはサイトマップのような形でよく目にします。
Amazonのホームページでは、売り場をカテゴリーごとに一覧で確認することができるページが用意されています。
楽天のようにさまざまなサービスを提供しているコングロマリットなサイトは、「お買い物」「スポーツ・レジャー」「マネー・ファイナンス」のようにまとめられていて、例えば「マネー・ファイナンス」の場所には楽天証券や楽天銀行、楽天カードや楽天Edyなどのサービスがまとめられています。

こうした類似性を逆手に取って情報検索を圧倒的に便利にしたのが、Twitterのハッシュタグ機能です。
ツイート自体にはカテゴリーを設定する機能は付いていませんが、ハッシュタグをつけることによってある種の情報のラベリングが行われ、類似したツイートを検索することが可能になったのです。

情報量が膨大になってきたときには、類似性のあるものをカテゴリーでまとめてみるといいでしょう。
しかし、ブログサイトで5年前に作成したカテゴリーが現在では見当違いになっているケースもあるように、このような類似性による分け方は度々見直していく必要があることや、場合によってはサブカテゴリーを設けたほうが分かりやすいことは、押さえておくとよいでしょう。

5. Hierarchy (ヒエラルキー)

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ヒエラルキーとは、情報の重要なものとそうではないものをピラミッド構造のようにして分ける方法です。
情報に重要度や大きさ、距離などがある場合にはこの方法を使うことができます。

例えば、洋服のS・M・L・XLのような大きさや、世界各国のタイムゾーンのほか、スターレイティング(星を使った評価)もこれに当てはまります。
食べログの全国総合人気ランキングTOP100のように、情報の階層を設けることでユーザーの情報検索の利便性を向上させるやり方もあります。

Webサイトの情報構造も、ヒエラルキーに基づいていることが多いです。
ページトップにはロゴが置かれ、上部には更新情報が置かれていたりなど、重要な情報ほど上に、そうでないものは下に置かれます。
ブログ記事でも、まず初めに結論を述べ、細部に掘っていく記事は、論理的で分かりやすくすっと頭に入ってくるのではないでしょうか。

情報をまとめる際に、重要度や階層がある場合には、この分類方法を使ってみましょう。