カスターマーサポート(以下、CS)に関わっていれば「カスタマー・エクスペリエンス(以下、CX)」という言葉をよく耳にするはずです。

CS業務を担当する方もそうでない方も、きっと商材・サービスを支えるCSの重要な指標の1つにCXの向上があるというのはご存知のはずです。

参考:
成長企業は知っている!CS(カスタマーサポート)はプロダクトを支える生命線|ferret

CXは商品・サービスの選定、購入、利用、サポートまでの経験を通じて顧客が感じる価値であり、極めて主観的なものです。それを数値化し、サービスや企業に対する「愛着度」「信頼度」を定量的に評価するにはどのようにしたら良いでしょうか。

その1つの方法として、NPS(Net Promoter Score|ネット・プロモーター・スコア)というものがあります。

今回は、「個別ヒアリング」とは異なる特性を持つNPSを当社が実際にやってみて、どのようなものだったかをわかりやすくご紹介します。
  

NPSとは

NPSとは、顧客ロイヤルティ(企業やブランドに対する愛着・信頼の度合い)を数値化する指標です。

以下、0〜10点で評価し、批判者と推奨者の割合を元に評価対象となるサービスや企業に対する愛着・信頼度合いを測ります。

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参考:
NPS(ネットプロモータースコア)とは?|Emotion Tech
  

NPSをやることになったきっかけ

当社もユーザーの声をもとにサービス提供を行うため、色々な手段を用いて評価を実践していました。そこで出会ったのが「外部の調査期間を用いた個別ヒアリング」です。利害関係が無いからこそ通常の対話では聞くことのできない本音に触れることができました。

従来、当社では個別ヒアリングを行う際、1社ごとに直接お会いして調査を行っておりました。多くの会社に訪問するとなると、1回の調査が完了するまで数ヵ月かかることも珍しくなく、課題改善を目的としたアクションを起こすまでに時間がかかっていました。そのため、1ヵ月間で20社の調査を限度と考えていました。

また、回数を重ねるごとに見えてきたデメリットもありました。個別ヒアリングはレポート内容が非常に濃い半面、ユーザー全体のサービスに対する平均評価は見えづらいという点です。

ご契約数が多ければ多いほど、サービス全体の計画を立てるには平均評価を推し量るものが必要になります。そこで出会ったのが「NPS」でした。
  

NPSレポーティングまでの流れ

初回の打ち合わせでは大きく以下2点の擦り合わせを行い、その後、実際にアンケート開始・集計となります。
※アンケート結果はサンプルとなります

●擦り合わせ内容

・カスタマージャーニーマップの枠組みと洗い出し、整理
・その他顧客の「行動」や「思考」「感情」を左右する施策の洗い出し、整理

  

(図1)顧客体験におけるカスタマージャーニーマップ例

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アンケート結果は、図1の表のようにレポーティングされます。

青線がもともと顧客が持っていた期待値となり、赤線が現状感じている感情曲線ですので、青線よりも赤線が下回っていると顧客の期待値を下回っていることになります。

青線:各項目における顧客体験重要度(顧客の期待値)
赤線:各項目における顧客体験の現状(顧客の感情)

  

(図2)期待値と現在の状態のギャップを可視化

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上のカスタマージャーニーマップを数字で表した表が図2です。

この図では先ほどの期待値と現状の結果の乖離(ギャップ)を数字として見ることができます。期待値と現在の状態が数字として現れ、ギャップの高い項目は一番右側の「ギャップ」に1と記載されます。そのほか全ての項目にギャップランキングが付与され、どの顧客体験を優先的に改善すべきかを一覧で見ることが可能です。

全ての項目に対し、定量評価で改善順位が可視化されるため、感覚に左右されること無く全顧客の声を総計した結果をもとに改善計画を練ることができます。
  

NPSの特徴

メリット

今まで定量化できなかった「CX」をファクトとして見ることができる

今まで、顧客の現状の声(満足度)を個別ヒアリングで調査していましたが、NPSは現状感じている思いだけではなく、導入当初から現在まで蓄積されてきた感情をもとにサービスに対する愛着度・信頼度を評価することができるためサービスの継続期間(収益性)とも連動します。

NPSは、カスタマージャーニーマップ毎の項目における優先改善事項が見えるとともに、サービス全体の評価を数値として可視化します。そのため単発的な改善行動だけではなく、長期的に見たサービスの在り方や方針転換などのきっかけにもなる重要なデータを手にすることができます。

全体母数に対して10%程度の回答でほぼ正確な全体平均を測ることができる

NPSは、そのサービスを提供する会社にもよりますが、全体母数に対して10%の回答があれば極めて信頼度の高いデータをとることが可能です。当社ユーザーの回答率は、全体に対して16%でした。

独自でアンケートフォームを作成して集計することもできますが、期待値と現状とのギャップは知見が無いと推し量ることはなかなか難しいものです。当社で実施した限りでは、NPSでユーザーが感じているギャップをほぼ正確に集計することができました。
  

デメリット

アンケートフォームでの回答となるため再配信や催促が必要

個別ヒアリングとは異なり、アンケートフォームを一斉配信する形式であるため、メールを見落とされてしまったり、メルマガと誤認されたことによって通常のメールより開封率が低い傾向がありました。これは、メールアドレスやタイトル、内容などで回避ができる部分もありますがアンケートフォームの一斉配信だとなかなか回答が進まないという課題がありました。

当社でも1回目の配信で回答率8.7%、2回目の配信でやっと10%を超える回答率16%を出すことができました。

テキストマイニングまでやらないと本質が見えずらい

今回実施したNPSの回答項目には、最後にフリーコメント欄があります。この欄は任意項目となるため、当社が実施したアンケートのコメント記入率は全体の49%程度でした。

これでもコメント記入率は高い方かと思いますが、記載されているコメント内容だけではなかなか本質的な課題が見えづらい場合もあるため、そういったケースではテキストマイニングを行い、何について言及している人が低い評価を付けているのか統計的手法を活用して分析して課題をより明確にする必要があります。
  

まとめ

個別ヒアリングとNPS調査、両方の調査結果は共通するものが多々ありました。

NPSの全体評価に表れるポイントの詳細(背景や実情)が個別ヒアリングレポートで見えるといった流れです。私たちはNPSから見えた優先順位ごとに改善事項を並べ、それぞれの項目を改善するにあたって個別ヒアリングレポートを参考にしながら改善計画を練りました。

この2つのレポートから見えた課題については、今まさに対応中となるため、どのように変化したかの結果は残念ながらお見せすることができません。しかしながら、事実に基づいた定量評価と顧客の本音から見出した改善行動は、お客様のニーズに沿った動き出しができているのではと実感できています。

● 個別ヒアリングによる改善すべき事項の見える化
● NPSによるサービス自体の価値の見える化

それぞれ単体だと改善点はあるものの、両方を掛け合わせることで見える総合的な改善事項はCSチームだけではなく、サービス全体の方針、課題点を見直す良いきっかけになることはこの経験を通じて断言できます。

CSが顧客に対して価値を創出できているのか、サービスの在り方は今のままで問題が無いのか、課題を洗い出して改めて見つめ直すきっかけとして、ぜひこのNPSを実施してみてはいかがでしょうか。