2018年5月、株式会社ココラブルが主催するトークセミナー「エウレカ創業者 赤坂氏に学ぶSNS広告活用とPairs事業成功の軌跡」が渋谷で開催されました。

株式会社エウレカの創業者である赤坂優 氏と 株式会社ユニトーン 代表取締役 岡弘 和人 氏が、累計会員数700万人を突破した恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」を成長させるために、サービスリリース直後からM&Aに至るまで、どういったWebマーケティング施策を行ったのか、当時のWebサービスの環境やトレンドを振り返りつつ紹介します。

登壇者プロフィール

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(左から)赤坂 優 氏、岡弘 和人 氏

エウレカ創業者 赤坂 優

2006年、法政大学経営学部を卒業し、イマージュ・ネットに入社
2008年、株式会社エウレカを設立
2012年、恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」をリリース
2014年、カップル向けコミュニケーションアプリ「Couples」をリリース
2015年、M&Aにより、米InterActiveCorp(NASDAQ上場)の一員に
2016年、エウレカの取締役顧問に就任
2017年、同社取締役顧問を退任し、現在はエンジェル投資家として国内外のスタートアップを支援・サポート
2018年2月現在、同社が開発・運営する「Pairs」は、日本・台湾・韓国で累計会員数700万人を突破し、「Pairs」で交際・入籍したカップルは同社に報告があっただけでも13万人にのぼる。

引用:【マーケ担当者向け】エウレカ創業者 赤坂氏に学ぶSNS広告活用とPairs事業成功の軌跡 -SNS広告徹底活用セミナー-【参加無料】【満員御礼】 | Peatix

株式会社ユニトーン 代表取締役 岡弘 和人

2004年、 国際基督教大学教養学部を卒業
株式会社アイ・エム・ジェイにて、広告代理事業立ち上げ
2006年、株式会社IMJモバイルへ転籍後、モバイルアフィリエイト事業の責任者
2011年、株式会社ココラブル取締役に就任、日本初のFacebook広告専門事業の立ち上げ
2016年、株式会社ユニトーン代表取締役に就任

引用:【マーケ担当者向け】エウレカ創業者 赤坂氏に学ぶSNS広告活用とPairs事業成功の軌跡 -SNS広告徹底活用セミナー-【参加無料】【満員御礼】 | Peatix

“受託開発”の企業が自社プロダクトを始めた背景

もともと、スマートフォン用アプリケーションの受託開発やWeb広告の代理業を行っていた株式会社エウレカ。現在は「Pairs」が日本を代表するマッチングサービスとなりましたが、どのようにプロダクトを成功に導いたのでしょうか。

その大きな要因として挙げられるのが、ターゲットと市場を明確に捉えた戦略設計です。

「日本の人口1億2千万人をターゲットとする場合、僕の周りにいるITリテラシーの高い人をターゲットにしてはダメだなと学びました。世間には、ローリテラシーな人のほうが多くいる。そのことを前提に、時代の0.5歩先を行くサービスを作ろうと考えて生まれたのがPairsです」(赤坂 氏)

ITリテラシーがそこまで高くない層をターゲットとし、それに加えて「恋愛」や「結婚」という人間が持つ「根源的な欲求」を掛け合わせることでサービスとして成立します。

そして、当時の海外では既に「Zoosk」や「Are You interested?(現FirstMet)」などのマッチングサービスが、Facebookを起点に爆発的に普及し始めており、日本国内でも「Omiai(運営元:株式会社ネットマーケティング)」といったサービスが提供されていました。すでにある程度の人気を集めるサービスもあったことから、市場はすでに広がりはじめていたのです。

「母数をとにかく増やす」初動のWebマーケティング施策

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会員数獲得に向け「広告」が最重要の施策に

マッチングサービスは、継続利用を促す仕掛けや、男女のマッチングのアルゴリズム設計などが施策において重視されます。そのなかでも、リリース時に最も重視すべきなのが「会員数」です。

そもそも、会員の母数がなければ「マッチング」がスムーズに行われることもなく、メッセージのやりとりができるお相手が限られていれば会員の離脱が増えるのは明白。

「マッチングサービスは、ヒトやモノの母数が多くないと成立しない。これは原則中の原則です。なので、会員数をリリース直後の最重要KPIに設定しました」(赤坂 氏)

Pairsのリリース後、最重要KPIとして設定した「新規会員獲得数」を達成する手段として「広告」の運用を選択しました。

「初月の広告費には約200万円くらい割きましたね。2~3ヶ月目には800万円、4ヶ月目は1,200万円でした。広告運用開始から半年も経たない段階で1,000万円を超える規模での出稿になりました」(赤坂 氏)

当初、Facebook広告はエウレカの社内メンバーのみで運用するつもりだったという赤坂 氏。しかし、岡弘 氏からFacebook広告の複雑さを知るにつれて、ココラブルと併走する形で、内部のメンバーも加わりつつ運用代行を依頼することにしたのです。

運用フェーズでのマーケティング施策

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当時、売上の柱だった受託開発と広告代理業で得た利益から、新規事業であったPairsの広告費を捻出していました。

限られた予算の中で集客の最適化を繰り返し、また、広告だけに頼らずFacebookページ運用などの非広告の集客施策の強化を行ったことで、リリース後7ヶ月目にしてベンチマークしていた競合サービスの会員数に並びます。

Pairsのリリースから1年半ほどが経過した2014年2月、事業への選択と集中のため受諾開発の新規案件の受注を辞める決断をしました。

そして、新規会員数の獲得に注力していたPairsは運用拡大フェーズへと移り、LTV向上を目的とした施策に取り組み始めました。

「新規会員数も引き続き大切な指標ではあるが、その後のPairsにとっては、LTVが最重要指標であると考えていました。エウレカのエンジニアと相談しながら、改善点の洗い出しとCRM強化を重点的に行いました。会員に満足いただきながら、さらに課金してもらえる仕組みや仕掛けを考え、自己紹介入力のチュートリアル改善などにも力を入れましたね」(岡弘 氏)

マッチングサービスにおいて、会員同士が「いいね!」を送り合ってマッチングする際に重視するのが「プロフィール」です。テストを繰り返し、ストレス無くプロフィールを作成できるユーザビリティを実現していきました。

プロフィール情報がしっかりと登録されていることが、会員同士の安心感にもつながり、「マッチングアプリ=怪しい」というイメージの払拭にもなる。それがサービスの上位機能や追加課金などアップセルにもつながり、LTVが向上するのです。

その結果、2014年5月時点で単月の売上が約1億円に達し、受託開発の売上を上回ったのです。

「Pairsの広告出稿やCRM、開発、新たなコンテンツの設置などサービス拡大に向けた運用をを考えた時、受託開発を止めて選択と集中をしたほうがいいと思ったんです。新規の案件のお断りを始め、既存のお客様へは今後受けられないという連絡をし、撤退に向けた意思決定をしました」(赤坂 氏)

日本と海外のマーケターの違い

海外大手マッチングサービス企業へのM&A

国内のマッチングサービス市場でトップに上り詰めたPairsは、次のステージとして台湾にて「派愛族(台湾版 Pairs)」をリリースし、さらに事業規模を拡大していきました。

そして、2015年5月、エウレカは多数の有力インターネットサービスを有する米InterActivCorp(IAC)の傘下にあたるMatch GroupによるM&Aを発表。同社は世界的なマッチングサービス「Tinder」や「Meetic」などを手がけており、そのノウハウを生かしてPairsはさらにグローバル展開を注力することを選択しました。

海外のマーケティングに触れ日本の強みを知る

Pairsの海外展開や、Match GroupによるM&Aを経て岡弘 氏は海外と日本のマーケターの違いについて、以下のように言及しています。

「海外(アメリカの場合)は市場がそもそも大きく、一発を当てるための広告予算も大きい。そのため、レバレッジも大きく掛けてインパクトを出す傾向にある。例えば、CPAを300円から280円に下げることも重要だが、敢えてCPAを上げてでも母数形成を重要視している。」(岡弘 氏)

マーケティングは精緻に施策を練るよりも、多額の予算で広告などを運用し、大きくレバレッジを掛けるというダイナミックな施策を行うというのは、市場の大きさを見れば当然とも言えるでしょう。

一方で日本の市場は、決して小さくはありませんが、海外と比べればサービスの市場は狭く、そして成熟も早い。そのため、「広告予算」だけに頼らず、広告キャンペーン設計を臨機応変に調整し、運用するのが一般的です。

「Match Groupと情報交換をしたとき、Pairsで運用していた広告のCPAについて話したんです。すると、Match Groupよりもかなり安価な運用できていることがわかり、とても驚かれました。海外のマーケターと比べて、細かさでは負けていないと思いましたし、私たちの運用スタイルは世界でも十分に戦えると感じました。」(岡弘 氏)

事実、岡弘 氏は当初依頼されていた、PairsのFacebook広告運用に始まり、アプリのチュートリアルやLPO、クリエイティブ制作、Facebookページなどを活用したオーガニック獲得施策にいたるまで支援範囲を拡大してきたそうです。

この事例から、現場で必要とされている施策が「広告運用」だったとしても、サービスの全体像から最適化すべきポイントはどこかを見極めることが、結果として広告のパフォーマンス改善に繋がるということがわかります。

プラットフォームの変化に気づけるか

Pairsは、上述の事例からもわかるように、Facebookというプラットフォームを最大限に活用して成長したサービスです。このように、トレンド性の高い「プラットフォームに乗る」ことはサービスの成長を目指す上で参考にすべき考え方です。

「Pairsは、Facebookというプラットフォームの急成長とともに非連続的にスケールさせることができたと言えます。なので、いま同じことができるかというと……それはもう明らかですよね。いま、当時の状況と同じことが起きているプラットフォームはなにかと考えて、そこにいるユーザーの視点に寄り添う姿勢があるマーケターが生き残っていくのではないでしょうか。」(赤坂 氏)

当時と現在では、Facebookのあり方が異なるのは明白です。また、現在ではInstagramやPinterestのように新たにビジネスとして注目されているプラットフォームが出現しています。

「Instagramは今まさに旬なプラットフォームですよね。そして今後、Facebookと同じようになっていくのではないかなと考えています。既に、いわゆる“おじさん”と呼ばれるような大人世代のInstagramの使い方と若い世代のそれは違いますよね。その点を理解することが大切です」(赤坂 氏)

赤坂 氏の発言からわかるように、プラットフォームは時代とともに移り変わるものです。また、それを利用する主要なユーザー(Instagramでは若年層)とそれ以外では「使われ方」が異なる場合があります。

優秀なマーケターはユーザーペインに気づける

成長しているプラットフォームを活用する重要性は明らかです。しかし、トレンドに変化が起きても変わらず重視すべきことがあります。それが「ユーザー視点」を持つことです。

「どのサービスにも根底的なニーズやユーザーペインがあって、だからこそ成り立つ。例えば、Instagramをハックしたからといって、良いサービスになるかと言えばそれだけでは難しい。プラットフォームをどのように活用するかはあくまで手段なんです」(赤坂 氏)

Pairsは、Facebookをサービス開発に活用しただけではなく、「長期的な恋愛関係を築くことができる相手との出会い」というユーザーペイン(解決したい悩みや課題)に着目をしました。そのペインポイントを分析し、適切な方法でプラットフォームを活用したことでトップの地位を築けたと言えるでしょう。

ユーザーの視点に立ち、サービスを利用することでWebサービスやアプリがどういった使われ方をしているのかを理解することが大切です。

Instagramを例にすれば、「画像を投稿する」「タイムラインを眺めていいねをする」だけではなく、ハッシュタグから画像を探したり、商品などの検索に使ってみるといった、「今ユーザーに使われている方法」を試すことが、ユーザーペインに気づくヒントとなります。

まとめ:成長段階に応じた検証と改善が重要

もし、いま何らかのプラットフォームを活用した施策を検討しているのであれば、先の赤坂 氏の話を踏まえ、次の4点に注目してみましょう。

  • いま成長しているプラットフォームはなにか
  • 自社サービスとの相性の良いユーザーが集まっているか
  • ユーザーはどういった使い方をしているのか
  • 成長段階に応じて、適切な施策を実施できているか

PairsはFacebookの活用によって大胆な成長を遂げたという印象を持ちやすいサービスですが、実は市場やユーザーの動向を的確に捉え、マーケティングの王道を突き進んできたから成功できたことがわかるはずです。

「とりあえず広告を運用しよう」
「流行っているプラットフォームを使おう」

と、安直に施策を決定していてはサービスの成長は見込めません。まずは、自社が取り組むべきマーケティング施策はなにか、自社の成長段階や市場を見据えて検討してみましょう。