企業とユーザーの接点は多様化しています。ユーザーが企業から情報を受け取る手段は、以前ではテレビや新聞などのマスメディアが中心でした。しかし最近では、企業とユーザーはWebメディアやSNSなどで双方向のコミュニケーションを取っています。

そんな中、企業がユーザーから好ましいイメージを抱いてもらうには、どのような戦略と施策が必要なのでしょうか。

2018年7月10日、株式会社PRTIMES主催の「PR TIMES カレッジ vol.2」が開かれました。

イベントでは、株式会社小学館(CanCam)、株式会社インターブランドジャパン、株式会社メルカリの3社が「ブランドが変えること、変えないこと」をテーマに登壇しました。

雑誌「CanCam」のマルチチャネル戦略(株式会社小学館)

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株式会社小学館からは、「CanCam.jp」編集長の高田浩樹 氏が登壇し、様々なプラットフォームを活用したマルチチャネルでの情報発信への転換について語りました。

「CanCam」は、20代女性の「かわいくなりたい」「知りたい」「楽しみたい」を応援する雑誌として1982年に創刊されました。10年ほど前は、圧倒的な雑誌販売数で一大ブームになったのです。

しかし、近年のメディア・ユーザーの変化に応じて、「CanCam」はコンテンツの方向性を一新する決断を下しました。情報発信のプラットフォームが多様化する中で、「雑誌だけでなく、接点を増やすことで“ユーザーに選んでもらう”メディアづくり」に励んだと高田 氏は語りました。

雑誌は“メインコンテンツ”から“ひとつのコンテンツ”に

インターネットやスマートフォンの普及により、消費者はテレビや新聞、雑誌といったマスメディアから受動的に情報を受け取るだけでなく、インターネットを介して能動的に情報の収集と発信を行うようになっています。

かつて雑誌はファッションなど特定の分野の情報を知るためのメインコンテンツでしたが、ユーザー接点の大半を占めていた雑誌「CanCam」も、大きな転換を迫られました。雑誌だけでなく、ユーザーが活用する様々な接点でのアプローチに挑戦し始めたのです。

「今では雑誌だけでなく、インターネット・InstagramやTwitterなどのSNS・リアルイベントなど、様々なプラットフォームが存在しています。それぞれのプラットフォームとユーザーとの親和性を追及しながら情報を発信しなければ、ユーザーに選んでもらうことはできないでしょう。」(高田 氏)

「CanCam」は雑誌を主軸としつつ、SNS・書籍・Webサイトなど複数のプラットフォームを活用し、コンテンツを配信する体制を整えています。例えば、毎年夏にナイトプールを開き、「インスタ映え」を好む若い女性の注目を集めたことは記憶に新しいのではないでしょうか。

その結果、「CanCam」はブランドとコンテンツの配信方法の方向性を転換してまだ1年も経っていないうちに、前年比92倍の月間UU数を達成しました。

読者の中から流行を汲み取り、常に求められる情報発信を

雑誌というマスメディアから飛び出し、様々なプラットフォームでマルチチャネルに情報発信を始めた「CanCam」。一方で、「“変えなかった”こともある」と高田 氏は続けます。

メディアの在り方やユーザーの行動が変化する中、敢えて「CanCam」が変えなかったことは次の2つです。

・20代女性というメインターゲット
・ユーザーと接する中で流行をいち早く予測し、有益な情報を発信する方針

「ユーザーは正直です。悪気はなくても、虚偽の情報や信頼性の低い情報を発信してしまうと、すぐに離れていってしまいます。『最近流行ってるからとりあえずやってみよう』などと*“手段”に踊らされることなく、ユーザーに求められる、信頼性のある情報発信を継続*していきたいと考えています。

また“情報発信”という視点に立つと、全ての業界業種が競合になりえますよね。そういった意味でも、常に新しいこと、面白いことを探し続ける姿勢も持ち続けていきたいです。」(高田 氏)

マルチチャネル戦略への思い切った転換と、メディアコンセプトの徹底が「CanCam」の成長のポイントだと言えるでしょう。

ブランドが企業を動かす(株式会社インターブランドジャパン)

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株式会社インターブランドジャパンからは、エグゼクティブディレクターを務める中村正道 氏 が登壇しました。同社は、ニューヨークに本社をかまえる日本最大のブランディング専門会社で、企業のブランドとビジネスの成長を促進する事業を行っています。

中村 氏は、ブランディングは事業戦略と一体のものとして捉え、全社で計画的に取り組んでいくべきだと語りました。

「ブランド」とは何か、答えられますか?

「ブランディングに関心のある企業は増えているものの、広報、販促、マーケティングなど、いろいろな施策とごちゃまぜになってしまっているクライアントの声をよく耳にします。」(中村 氏)

「“ブランド”とはなんですか?」と聞かれて、明確に意味を答えられる方は多くないかもしれません。ブランドというと、商標、ネーミング、広告キャッチコピー、ユーザーからの印象…...など、個人や企業によっても様々な定義があるでしょう。

中村 氏によると、同社では「ブランドは常に変化する事業資産である」と定義しているそうです。ブランドは不変のものではなく、市場や顧客の状況に応じて常に変化し得るものだと認識し、常に企業の方針や顧客のニーズに寄り添っているものか検証し続けることが重要です。

「*ブランドは社内(社員)と社外(顧客)の双方に影響を与え、経済的な価値を生みます。*そのため、事業資産としてブランディングに全社で取り組むことが大切だといえるでしょう。」(中村 氏)

ブランディングは、事業戦略と表裏一体

それでは、全社でブランディングに取り組むということはどういうことなのでしょうか。

「企業にありがちなのが、ブランディングを事業戦略の中でもひとつの施策、例えばマーケティング広告の施策の中に位置づけていることです。ただ、ブランドの価値と重要性を考えると、ブランディングは事業戦略の全てに関わっている、つまり事業戦略と表裏一体と考えることがあるべき位置づけです。」(中村 氏)

同社は、「ブランドプロミス(=活動の拠り所となる考え方)」が、活動に具現化できているかを4つに分解して検証しています(クアドラントモデル)。

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・製品とサービス
・人々と行動
・空間・環境とチャネル
・コミュニケーション

「この4つの領域で、『ブランドプロミス(=活動の拠り所となる考え方)』が具現化されている状態が理想的です。そのために、社内・社外の全てのステークホルダーに対し、ブランドの魅力を実現できる活動と、その成功の確率を高める評判づくりの両立が欠かせません。」(中村 氏)

ブランドの重要性を再認識し、目指す姿や世界観を明確にすることで、1部門のひとつの施策に留まらない、ビジネスに直結したブランディングが可能となるでしょう。

「ポッと出の急成長ベンチャー」から「CtoCマーケットのインフラ」へ(株式会社メルカリ)

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株式会社メルカリからは、PRグループマネージャーを務める矢嶋聡 氏が登壇しました。同社では、月間UUが1,054万人、ダウンロード数が7,100万を超えるフリマアプリメルカリ」を運営しています。

2013年に設立してから急成長を遂げてきた同社では、サービスだけでなく企業としても、社会から信頼を得るための広報活動に奔走してきたそうです。矢嶋 氏は、広報活動における社内と社外それぞれの課題と、その課題を解決した方法について語りました。

チームの基盤を強化し「攻めの広報」を実現

矢嶋 氏は、「攻めの広報」ができていなかったことを課題として挙げています。

「当社の広報メンバーは、プレイヤーとして非常に優秀です。ただ属人的な働きが多く、チームとして核となる方針や軸がないことが課題でした。その結果、慢性的な人員不足に陥っており、取材や問い合わせに追われるだけで、こちらから何か仕掛けるということができていませんでした。(矢嶋 氏)」

そこで実施した解決策が、「広報チームの方針の明確化」と「業務効率化」の2つです。

「まずは広報グループの方針を決め、優先順位を明確化しました。メンバーが広報の目的と優先順位を理解した上で業務を進めたことで、受け身ばかりだった対応から、戦略的な「攻めの広報」ができるようになりました。(矢嶋 氏)」

業務においても、ツールを積極的に活用することでルーチンワークを自動化し、優先度の高い業務に注力できる環境を整えました。

サービスへの理解と新しい価値観を広めるために

同社は、サービスが急成長し、上場も視野に入ってくるにつれ、メディアに大きく取り上げられるようになりました。その中で、ネガティブな内容を報道されることもあったといいます。

社外に対して売上増加といった一面的な要素だけでなく、企業の理念や世界観、サービスがつくる新しい価値などポジティブな要素も理解してもらえるよう、矢嶋 氏は次の3つに取り組みました。

・重点メディアとのリレーション構築
・「テックカンパニー」「メルカリ消費」などの文脈でのポジティブな露出の強化
・コーポレートストーリーの発信強化

広報戦略では、まず目指すべき態度変容の在り方を定義することが重要です。理想の状態から逆算して、詰将棋のように課題解決の打ち手や伝えたいメッセージを積み上げていく。一発の大きな打ち上げ花火でパーセプション(認識)が変わることはありません。

大きな方向性を組み立てた上で、世論の動き、自社の動き、競合他社の動きを見ながら四半期ごとに見直すくらいのイメージがちょうどいいかもしれません。」(矢嶋 氏)

まとめ:ブランディングは一朝一夕では完成しない

自社で決めた「こんな風に思われたい」という理想を、そのまま世間に映すことは簡単ではありません。理想を明確にした上で、それに伴う活動を着実に重ねていくことで少しずつ変えていくことが大切です。敢えて変えないという選択も、時には必要かもしれません。

自社が大切にしたい理想とユーザーにとっての価値を再度振り返り、“ブランド”について考えてみてはいかがでしょうか。

前回開催された「PR TIMES カレッジ」の記事もferretに掲載しておりますので、参考にしてみてください。

参考:
「まずは社内の共感を得ること」カルビー広報が語る、消費者の共感を生み出す商品開発とは|ferret
ゆうこす流、共感されるSNSの作り方|ferret